『オルクセン王国史/二次創作』理想の涙 作:わいるどうぃーぜる
この時代の説明回。戦争の恐怖が一段落したため、抑え込んでいるとはいえ治安関係者の気苦労は絶えない時代だと思うの。
特捜はFBIモチーフ。嫌われっぷりも。
「聖白銀樹孤児院」の副院長を務めている、という白エルフの女性は、ひどく動揺しているようだった。
しきりに細い指を組んだり解いたりしている。
無理もない、とシュルツは思う。
急な園長の死、しかも殺人事件であり、さらには地元警察ではなく「特捜」の捜査員が来ているとなれば。
あの戦争から47年。
戦後すぐにオルクセンから派遣され、軍憲兵とはまた別に、主に民間の犯罪の摘発にあたっていた「エルフィンド方面特別派遣捜査局」、通称「特捜」は、いまだにエルフィンドの治安維持にあたっていた。
戦後、エルフィンドの政体はまがりなりにもまとまった中央集権から地方自治制度に移行したが、それは犯罪者の跳梁を許すことにもつながった。
ある地方で犯罪を犯しても、司法の手が回る前に別の地方に逃げてしまえばもはや手出しができない。
エルフたちの排他的な性格もそれに拍車をかけた。よそ者に好き勝手にはされたくない、という身勝手ながら地元民にしてみれば当然の感情はしかし、エルフィンド全土の治安の悪化を招くことになる。
当初、占領軍が引き上げるとともに解散する予定だった「特捜」が、いまだにエルフィンドから離れられないどころが、むしろ権限を強化されたのは当然だった。
地方をまたぐ捜査権。
犯罪者への発砲の許可。
礼状なしでもある程度までは逮捕・勾留ができる権限。
さすがに後者ふたつはやり過ぎだ、という声があがり、ある程度の制限がかけられたが撤廃はされていない。
彼らが活動を始めて年月はそれなりに経ったが、治安維持の努力にもかかわらず地下活動はむしろ活発化している。
特にオルクセン連邦からの武力独立を目指す過激派、「黄金樹の夜明け」団がテロ活動をエスカレートさせていたとなれば、エルフ独自の警察力ではまったく手が足りない、という状況だったのだ。
「まずは落ち着いてください。我々はあなたを疑っているわけではありません」
なだめるようにベルガーが言う。
現在の「特捜」の捜査員には、コボルト族が多数選ばれる。
それは初期にオークの捜査員が「オイコラ」と呼び止め、強引に捜査することが横行し反発を買ったから、という事情がある。
「私たちが知りたいのは、院長先生の交友関係です。何かこう、このような事件を引き起こすような筋と関係していたとか」
穏やかに、シュルツが引き継ぐ。
コボルトは種族的にも温和であり、かつ見た目もさほど角が立たない。
それでいてどこまでも獲物を追跡する執拗さを持ち、魔導通信にも明るいことも追い風になった。
副院長は二回、三回と、大きく息を吸って吐いた。それで動揺も少しは収まって来たようだ。
「そうですね。わたくしが存じ上げている限り、院長先生はそういう筋との付き合いはまったく無かったかと。むしろ、寄付金を募るパーティーなどに出るより、子供たちと遊ぶほうがよほど好き、とも」
ちら、とシュルツは窓の外を見た。運動場では、白エルフの子がオークの子どもと追いかけっこをし、コボルトの子が黒エルフの子どもと砂場で城を作っている。
「院長先生やあなたがたは、子どもたちの教育にご尽力なさっていたようですね」
「はい、ありがとうございます。でも、昨今の子どもの増加でどうしても手狭になってきていて……、そうだ。これが関係あるのかわかりませんが、ひとつ気になることが」
「聞かせていただければ」
シュルツは座り直した。垂れた黒色の耳がふわりと動く。
「そうですね、さっきも言いましたとおり、この園舎も手狭になっております。そういう折、院長先生が大喜びで会合から戻ってきたのです。なんでもとある方から今は使用していないセカンドハウスを、名を出さないことを条件に寄付したい、と」
「いつごろの話でしょうか」
「ほんの二週間ほど前かと」
夏の日差しが照りつける中、駐車場に車を停めた二頭は首都ティリオン、エイルフマレ大通りの石畳を歩いていた。
「あそこはまともな施設だな」
上着を手に持ち、タオルで汗を拭きながらシュルツは言った。いわゆる犬とは違い、コボルトは普通に汗をかく。もっとも、生まれつき毛皮を身にまとっているせいもあって、発汗量はかなりのものだが。
「そうなんですか?」
と、こちらは律儀に上着を着たままのベルガーが返す。シェパード種は短毛ゆえに、上司ほど暑さに弱いわけではないのだろう。さすがにネクタイは緩めてあるが。
「寄付を出したとき、寄付箱に、と言われただろう。腐敗したところはそのまま受け取って自分の懐に入れる」
「だから寄付するなんて言い出したんですね。僕にまでせっついて」
不満顔の後輩に、シュルツは顔をしかめる。
「お前さん独身だろ。妻子持ちの俺より出さんでどうする」
「先輩の奥さんは実家に帰ったんでしょ」
「里帰りだ!」
などと、他愛もないはなしをしながら二頭は角を曲がり、やや奥まったところにある、「寄付される」予定の屋敷に到着した。
「これは……なかなか」
元は貴族のセカンドハウスだったのだろうか。
素人目に見てもややくたびれ、庭も荒れ放題だが敷地も広く、確かに手を入れれば立派な物件になるだろう。
それだからこそ。
「副院長の心配もわかりますね」
ざっと道沿いに屋敷の周辺を一回りしてから、表通りに戻りつつ、ベルガーはかたわらの先輩に話しかけた。
「ああ。立地もいいし家もさほど傷んじゃいない。話がうますぎる。まず詐欺を疑うのが定石だ」
二人は、つい先程の憂いに満ちた副院長の顔を思い出していた。
院長先生は、夢見がちで脇が甘いところがありました。なのでちゃんと調べてください、と釘を刺しておいたのですが。
生まれたときからエルフィンドの首都、ティリオンで暮らしていた、という副院長はそれだからこそ、エルフの手練手管に満ちた陰謀を色々と見知っているのだろう。
「どちらにしろ、調べなきゃならんことがまた増えたわけだ……っと」
二頭の足が、元の大通りに出たところで止まった。
普段は馬車、そして最近急速に普及しだした自動車の行き交う道はいま、車道いっぱいに展開した軍列が歩いている。
先頭は、白エルフ族王女直属たるマルローリエン騎兵たちだ。
それに続く軍楽隊の奏でる「オルクセンの栄光」の、勇壮な調べが辺りを満たしていく。
「パレードの予行か。これほどの規模も最近は珍しいな」
「おそらく、王妃様がご臨席されるからでしょうね」
「ああ」
ほんの少し、シュルツの表情が曇った。
オルクセン国民なら誰もが敬愛するグスタフ王は、このところ病に倒れ、政務もままならない状態である、と報道されていた。
それもあり、今年の「連邦成立40周年記念祭」にはグスタフ王に代わり、妻であるディネルース・ファルケンハイン王妃が出席することになり、すでにエルフィンドの地に到着している。
「我が王も、早く回復していただければいいのだが……、おっ」
地響きが近づいてくる。
比喩ではなく、道路を震わせながら、鋼鉄の軍勢が行進してくる。
沿道の住民からわあっ、と歓声が上がった。
黒一色に塗装され、装甲板と防弾布を身にまとい、軽機関銃を持った兵士が、道路いっぱいに展開し、一糸乱れずに行進してくる。
兜と一体化した、暗視装置付きの防毒面を付けたその顔は、誰もが恐れる巨狼族を思わせる。
装甲擲弾兵。
最近、つくられた兵科である。
はじまれば全てを蹂躙するまで止まらない、とうたわれ、もはや伝説となったオークの突撃だが、砲弾や機関銃、さらには毒ガスなどの無情なる近代兵器によってその魔力を減じつつある、と見なされていた。
それに対しての回答である。
砲弾の破片はおろか、小銃弾の直撃すら耐えられる正面装甲。
化学兵器に対抗する、ガスマスクと一体になった面頬。
連携を確実にするための無線機。
そして、夜間戦闘を強化する赤外線投光器式暗視装置。
最新の科学力を注ぎ込んだ鎧に、現代の槍である軽機関銃、MG14を持ったその姿は、現代に蘇った重装騎士であり、ベレリアンド戦役時に危険をかえりみずに最前線に突撃し、手製の爆弾を投げ込んできた「擲弾兵」の最新の姿だった。
「勇壮ですね」
「ああ」
シュルツは、そのあとに続く言葉を飲み込んだ。
その「勇壮な」部隊が一部隊とはいえ、最大の仮想敵国であるグロワール国境線ではなくエルフィンド地方に駐留しているのは、いまだこの地の内情が芳しくない、ということ。
無邪気にオルクセン国旗を振る群衆を眺めながら、シュルツは治安を維持する一人として、暗然たる気分を味わっていた。
「ところで……」
その雰囲気をぶち壊すように、ベルガーはつぶやいた。
「これじゃ車が出られませんが、どうします?」
作者様すみません。
わたしはコミック版のMG34派なのです。