『オルクセン王国史/二次創作』理想の涙 作:わいるどうぃーぜる
想像していただくと作者は嬉しい。
あと、ようやく原作キャラが出ます。
「やあやあ『特捜』の警部補殿、巡査長殿、お呼び立てしてすまない」
両コボルトが到着して30分ほど経っただろうか。
両開きの扉を、両手で広げるように大仰に開きながら、一人の白エルフが入ってきた。
汗をかくことなどないかのように、一分の隙もないように制服に身を固め、金髪を肩まで垂らし甘い香水をつけたその姿は、いかにも「エルフ」を体現したような姿だった。
もっとも、コボルトの両名の鼻には文字通り「鼻持ちならない」匂いだったが。
「随分と遅かったですな、ノマーノ・スティラフォールト警部」
「おや、お茶はお気に召さなかったですか? 色々と雑事がありましたゆえ、茶葉には気を使うように言いつけてありましたが」
シュルツの皮肉の影を感じさせる言葉に、平然とスティラフォールトは返した。なお、2匹のコボルトの前に出された茶は、手をつけられることもなくすっかり冷めきっている。
国家憲兵隊四課。
戦後再建されたエルフ側の治安維持組織のうち、いわゆる「テロ防止」を目的とする部署である。
その性質上、かつての悪名高い民族浄化に「触れた」エルフも多い、と噂されている。
なお、「関わった」エルフは「全ていなくなった」ことになっている。
「ところで、我々を呼んだ理由とはなんでしょうか?」
「おおそれです」
シュルツの問いに、奇妙なまでにきらきらと輝く瞳をふたりに向けながら、スティラフォールトはかたわらに控える副官に合図をする。
彼女は持っていた革の鞄から、地図や書類を出していく。
地図はティリオンの道路図であり、パレード用の大通りには赤線が引いてあった。
「我々四課は内偵の結果、『黄金樹の夜明け』団の大規模テロ計画を察知しました。対象は『枝の7』。やつらの実働部隊です」
「この時期に、ということは」
ベルガーが顔を上げると、得たりとばかりにスティラフォールトは表情を歪めた。
「目標は王妃閣下です。明後日の連邦成立40周年記念祭のパレードを狙うのでしょう」
スティラフォールトはさらに、鞄の書類から一枚の写真を抜き出した。
最近開発された、間諜用の小型カメラで撮られたらしい。
雑踏の中の後ろ姿を捉えたそれを確認し、シュルツの目がわずかに開いた。
あの子だ。
「シオン・メルリンド。セクト『枝の7』の主要人物にてテロリスト。半年前の軍倉庫襲撃事件にも関わっている、と我々は見ております」
「ちょっと、メルリンドということは」
「巡査長殿は話が早い。『聖白銀樹孤児院』の院長の養子で、あの孤児院の第一期生とのこと」
優雅な手つきで、スティラフォールトは隠しからピルケースを取り出し、蓋を開けると白い錠剤をひとつつまむと口に含む。
「我々は、『聖白銀樹孤児院』こそテロリストのカバー団体に使われていると考えております。そういうわけで、情報共有と、そちらの方で孤児院の捜索をお願いいただければ、と」
またひとつ、彼女は錠剤を口にした。
下手に出ているようで、完全に情報を握って使いっ走りにしようとしているな。
警察にも縄張りがあり、対テロリスト、しかもエルフ内部のそれとなると、どうしても同族同士の「やり方」が大きな武器となる。
所詮、「特捜」と言えども外様に過ぎないのだ。この地では。
シュルツは鼻を鳴らし、目の前の冷え切った茶を一気に飲んだ。不安そうにちらちらと視線をよこすベルガーに構わず、懐を探る。
ごとり。
重い音をたて、紙袋を机に置く。
「これは先程、被害者宅で見つけた拳銃です」
「おお、証拠品があったのですね」
即座に袋を取ろうとしたスティラフォールトの手はしかし、虚空を泳ぐ。
ふたたび懐に紙袋をしまったシュルツは、意外な顔をするエルフの瞳孔の開いた瞳を見つめながら言った。
「この証拠物件はウチで調べて情報を共有する。それでいいですな?」
一瞬、虚を突かれた顔をしたスティラフォールトだが、とたんに大笑いしながら答える。
「いやいやまったく問題ありません。麗しき協力関係というわけですな。さて、そろそろ私は別の用件がありますゆえ」
「こちらも捜査がありますので」
くるりと体を翻したスティラフォールトの口から、「犬め」という言葉が漏れ出たのを、シュルツは聞き逃しはしなかった。
「……かくて、かの者の魂は白銀樹のもとに戻らん。この世にて迷わぬよう、かの者に灯火を授けん」
鎮魂の祈りが響き渡る中、シュルツは聖堂にいた。さすがに着慣れているくたびれたスーツではなく、黒一色の喪服を着ている。
最前列に棺が安置され、ぽつりぽつりと人が会衆席に座っている。
長い間孤児院をやっていたにも関わらず、参列者が少ない。その理由の一人としてシュルツの気持ちは晴れなかった。
今日、聖白銀樹孤児院の一斉捜査が「特捜」の手によって行われている。
その指揮をベルガーにまかせ、彼はエウレア・メルリンドの葬儀に来ている。
子どもたちに院長先生の最後の別れをさせない行為に罪悪感も勿論ある。だがそれよりも、何かが違う、とささやく心の声が、彼をここに導いた。
スティラフォールトの言い分は、これまで拾ってきた院長の人となりとは違う。それが喉に刺さった骨のようにシュルツを苦しめる。それが何か分からぬまま、彼は死者に捧げる祈りを聞いていた。
無意識に煙草を探して体をひねり、ポケットを探る。しかし、教会の、しかも葬儀中にやることではない、と自重し、取り出しかけた紙巻きの箱を押し込んだ。
その時、視界の片隅に最後列の座席に誰かが座っているのが映った。
喪服で固めた姿は細身でエルフとはわかるが、ヴェールをつけたその姿は顔まではわからない。
いつの間に来たのだろう、と思いながら向き直ろうとしたとき。
ふわり、と彼女がつけているのであろう、質の良い煙草の匂い混じりの香水の香りを、彼の鼻が嗅ぎ取った。
その瞬間、シュルツの体が硬直した。
かれはこの香りを知っている。
戦争のあと軍を退役し、次の職として警察学校を卒業し、オルクセンで行われた親任式で嗅いだことのある香り。
そう、我が王の隣の香り。
祈りの声が遠く響く中、シュルツは懊悩した。
だが、結局心を決める。もはや骨身に染み付いた警官としての本能なのだろう。
祈りが終わり、参列者が死者に捧げる蝋燭を灯すべく立ち上がり出したとき、シュルツはあえてその流れに逆らい、黒衣の婦人のもとに行く。
目の前にまるで魔法のように屈強なオークが現れ、彼の前に立ちふさがるが、シュルツはそれを巧みにかわし婦人に近づき、警察手帳を出す。
「失礼します。わたしはエウレア・メルリンド嬢の殺人事件を捜査しているものですが、お話を伺いたいのですが」
彼女はヴェールに覆われた顔をあげ、目の前のコボルトと警察手帳を交互に見た。
さきほどの黒いスーツを着たオークに一言声をかけ、手帳を確かめさせる。オークはシュルツの手の中のそれを取り、入念に調べるとうなずいた。
「なるほど、確かに本物のようだな。
それで、このわたしに何が聞きたい? クリストフ・シュルツ警部補」
ヴェールをめくり、彼女は顔をさらした。
彼女の名はディネルース・ファルケンハイン。
魔族全体を統べる、魔王の妃だった。
ようやく出せました原作キャラ。
長かった……。