『オルクセン王国史/二次創作』理想の涙   作:わいるどうぃーぜる

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ディネ姉の口調にはとんと自信がない。
ツッコミ歓迎。


「過去回想」

聖堂より提供された応接室はさほど大きくはない、簡素なものだった。

その部屋の中で、シュルツとディネルースは小さなテーブルを挟み、向かい合って座っていた。

 

念の為に窓側にシュルツが座り、扉にはオークの警護が二人ついている。

 

シュルツが見ている中、対面の黒エルフは細巻きを取り出した。

ぱしゅ、と音を立ててマッチが擦られ、その炎で炙るようにして先端に火が付けられた。

紫煙がゆっくりと天井に登っていく。

 

「それで、わたしに何が聞きたいのだ警部補」

 

「エウレア嬢の過去、です」

 

シュルツは、いま起きている事件の状況をかいつまんで説明していく。

 

「彼女にテロリストの疑い、ね。どうにもお門違いも良いところと言えるけれど」

 

説明を聞き、ディネルースは笑みを浮かべた。

しかし、目はまったく笑っていない。

 

「わたしもそう考えざるを得ないのですが、エウレア嬢の人となりはどうしても戦争後の事しか知ることができない。どうか、戦争前の……、彼女の過去を教えていただければ」

 

シュルツの問いを真正面から受け、ディネルースは煙草を咥えてから煙を吸い込む。

先端がゆっくりと灰になっていく。

 

「あの子は……、底抜けの楽天家だった」

 

いくばくかの沈黙の後、彼女は語りだした。

 

「彼女に会ったのは、シルヴァン川を渡河し、同胞をオルクセンに逃がしていった時だ。

平地エルフだったのもあるのだろうな。あんな事が起こる前は、白エルフたちとも交流があったという。

牧場の娘と言ってた。そのせいで馬の扱いも長けていたから、アンファングリア旅団の初期の騎兵教練も担当していたんだ」

 

「しかし、彼女は開戦時にはアンファングリアを転出していました。そんな人材をなぜ」

 

「あの子は楽天家だといっただろう。そう、楽天家過ぎたんだ」

 

とんとん、と灰皿に灰を落とす。煙草の先端がふたたび赤くなる。

 

「彼女はことあるごとに白エルフとの融和を説いた。彼女の育て親をあのときに殺され、心を込めて世話をしていた馬も略奪されたのに、だ。

そんなやつを、故郷を追われ、白銀樹を伐り倒され、家族を失って『普通に』復讐心に燃える部隊においておけるか?

下手すれば夜間、同僚に喉を裂かれる恐れすらあった」

 

「だから、オルクセンの部隊にですか……。しかし、戦いが嫌なら留守部隊にいてもよかったたのでは?」

 

シュルツの言う通りだった。

グスタフ王のはからいもあり、戦いを拒否するエルフは肌の色を問わず、ヴァルターベルクにて生活できていた。

 

「そこが複雑なところなんだ」

 

ディネルースは、遠くを見るように視線をはずす。

 

「彼女は、戦争を忌避していたわけじゃなかった。

単に『話せばわかる』と思い込んでいたわけでもなかった。

外科手術のように、病巣を取り除けば理想を実現できると思っていたのさ。

そして、あの子には才があった。軍略のな。

 

演習で一軍を率いさせると、彼女の部隊は大戦果をあげた。

調べたのだろう? 彼女の戦歴を。

彼女は、特に囮を使うやり方が上手かった。基本は白エルフの狩人に習ったとも聞く。

彼女はそれに加え、わたしに叩き込まれた戦術を完全に我が物とした。

だが、味方の損害を抑えつつ、敵の無力化をなしとげたのは彼女の才だ。

そんなエルフを遊ばせて置くことはできないだろう?」

 

シュルツは無言でうなずいた。そしてベレリアンド戦争前の時勢を思い出す。あの時は黒エルフたちは本当にぎりぎりの立場にいた。

いかに迫害されたとはいえ、ただ保護されるべき対象ではいつかは忘れられる。

彼女たちは、自力でオルクセンという新天地に「居場所」を作らないといけなかったのだ。

 

「しかし、戦争が終わったら彼女はあっさりとその才を捨てた。スープを取ったあとの骨を捨てるように、だ。

あとの経歴は、君もよく知っているだろう」

 

そこでいったん、ディネルースは話を切った。

すでに煙草の火は吸い口のそばまで迫っている。

 

「いまから考えれば、彼女は正しかったのだろう。ただ、あの時代には決定的に合っていなかった。それほど、あの子は楽天的だったのだ」

 

細い褐色の指が、灰皿に煙草の火を押しつけて消す。

 

「わたしが知っているのはここまでだ。シュルツ警部補、お役に立ったかな?」

 

煙草一本分を吸う時間。

ここがタイムリミットか。

かれは立ち上がり、無言で深々と礼をする。

それから、部屋の出口へ歩を進めていく。

 

「警部補」

 

背後から声をかけられた。

 

「可能な限り、死人は出さないでくれ。もう、わたしは戦争はしたくないのだ」

 

シュルツは無言で振り返り背筋を伸ばすと、かくあるべし、と教範に書かれるようなオルクセン警察形式の敬礼を黒衣の貴婦人に返した。

 

聖堂から出ると、かれはポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付けた。

すでに夕暮れとなり、赤く染まる街並みを眺めながらゆっくりと煙草をふかす。

 

最後の瞬間、エウレア嬢は何を見たのか。

戦争という熱狂の中でも信念を曲げなかったあのエルフは、なぜ、最後に悲しそうな顔をしていたのだろうか。

 

そう、思いにふけっていたとき、

 

「先輩!」

 

目の前に、通行人を跳ね飛ばす勢いで車が止まった。驚くまもなく血相を変えたベルガーが叫んだ。

 

「よかった捕まった。面倒な事態が起きました」

 

その言葉に即座に車に跳び乗り、ベルガーにうなずく。そのまま車は発進した。

 

「どうした。例の孤児院からどでかいブツでも出てきたか」

 

「いえ、もっと厄介です。例の容疑者、ギュンター・エッドガルムが装甲服と武装を持って姿を消しました。軍がまだ四課よりマシだとウチの課長に回って来たんですよ」

 

「なんだと」

 

あっち()は大騒ぎですよ。精鋭の装甲擲弾兵が万一テロ集団に加わったら、と右往左往してます」

 

「孤児院からは」 

 

「何も出ません。空振りでした。これだから四課は……」

 

後輩のぼやきを聞きながら、シュルツはひたすら思考を研ぎ澄ませていく。

 

疑うことがない理想肌の院長。

都合のよい寄付。

白エルフが得意な、囮を使った戦術。

パレード予定の大通りのすぐ近くの屋敷。

 

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「ベルガー! 今すぐ例の寄付されるという空き家に向かってくれ!」

 

「は? いったい全体なにがあるんです? 何も関係ないのでは?」

 

「わからん、だが……」

 

シュルツはまっすぐ前を向いて言った。いまはくだくだと説明するべき時ではない。

 

「俺の勘だ」

 

ベルガーはため息をつきつつも、アクセルを踏み込む。

 

「今日び流行らないって言ったでしょう。飛ばしますよ!」




事態はクライマックスに突入していきます。
乞うご期待。
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