『オルクセン王国史/二次創作』理想の涙   作:わいるどうぃーぜる

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書いていると長くなってきたので分割します。
いえ決してダスクモーンのプレリに行ってきたら書く暇がなくなったとは。


「騒乱①」

その少し前。

 

「急げ! まだまだ武器の搬入は終わってないぞ!」

 

暗い地下通路に甲高い声が響き渡った。

何人もの白エルフが重そうな木箱を、木そりに乗せて石床の通路を引きずっている。

 

「しかし、随分と運びこんだわね。」

 

「ああ、なんせ未だ女王を貶め、王妃なる僭称をもって我らが地を占領し続けている裏切り者の『(デック)』に鉄槌を下すんだ。これくらいは用意しないと」

 

先にダークエルフを民族浄化まで行って迫害したのは自分たちである、ということを綺麗さっぱりなかったことにした発言をしながら、彼女たちは通路を進んでいく。

 

がちん、がちん。

 

そのエルフたちの一人の、長い耳がひくん、と動いた。

 

「何か、音が聞こえる」

 

がちん、がちん、がちん。

 

彼女たちは視線を集中し、いま通り過ぎたばかりの通路に目を凝らす。

魔力が瞳に集まり、赤い光が灯った。

夜の闇を貫き視界を確保し、夜戦で絶対的な優位をもたらす、かつて敵対する者たちを恐れさせたエルフの「赤い瞳」だ。

 

目を凝らし、闇の奥を見つめていた一人のエルフの瞳が、不意に見開かれた。

 

「そんな……まさか」

 

黒一色の装甲服をまとった巨躯が、通路を圧する闇に溶け込むように「在った」。

 

恐怖に固まった彼女たちが見つめる中、その手に持つ軽機関銃、MG14の銃口がゆっくりと持ち上がり、ぴたり、と彼女たちの方向を向く。

 

「装甲擲弾兵だ!」

 

悲鳴のような声が響いたそのとき、エルフたちの赤い瞳を圧する光が、装甲面頬に宿った。

 

赤い、眼鏡。

 

そう思考したのが、彼女たちの今生の最後の思考だった。

 

 

連続した射撃音が、全速で走る車の風切り音も貫いて聞こえてきた。さらに、爆発音まで。

 

「何ですあれ。まるで……、戦場じゃないですか」

 

進路方向から聞こえてくる剣呑な戦場音楽に、ベルガーは思わず声を漏らす。辺りの住人も音の正体に気づき、血相を変えて離れようと走り出している。

 

間に合わなかったか。

 

後手を踏んだことを悔やみつつ、シュルツは館の方向を見続けていた。

 

 

耳を聾する射撃音が通路に響き渡る。

そのたびに古式エルフィンドの様式に仕立て上げられた内装が抉られ、装飾品が弾けるように壊れ、破片となっていき、赤いものがべっとりと彩る。

 

黒衣の死神は決して急がない。

 

熟練の掃除人が箒を使って掃き清めるように、ひとつひとつ、部屋を探りながら歩いていく。

 

「いいか、ここで食い止める」

 

離れで起きている鋼鉄と鉛の嵐を食い止めるべく、三人のエルフたちが、離れから本宅につながる渡り廊下の角で待ち構えていた。

彼女たちが持つのは、複数の火炎瓶と、まるで物干し竿のような銃身を持つ銃が一丁。

 

王妃の車を装甲ごと撃ち抜かんために、持ち込んだ対装甲車用ライフルだ。

 

「あの豚が通路の中程まで進んだら一斉に火炎瓶を投げる。炎でやつがパニックに陥ったら銃で撃ち抜け。いかに装甲があっても、特製のそいつには無力だ」

 

隊長格のエルフがライフルを持った部下に指示し、部下はうなずいた。

 

がこん、がこん、がこん。

 

硬い足音が近づいてくる。

その隠しようのない音の響きで、火炎瓶を持つ隊長は距離を読み取っていった。

 

「いまだ!」

 

号令とともに火炎瓶が投擲された。軽機関銃を警戒し、身を晒すことなく投げられたそれは目標に当たることはなかった。

が、床に当たるのと同時にあっという間に燃え広がり、彼女たちと装甲擲弾兵との間を炎の壁で遮る。

機を逃さず、対装甲ライフルを持った射手が通路に転がるように飛び出し、伏せ撃ちの構えをとる。

 

さあ来い、火に巻かれて飛び出してくる獣のように。

 

確実に仕留めるために頭部の位置に照準を合わせ、そう射手がつぶやいた刹那、

 

ごっ!

 

床を蹴る異音とともに、黒い塊が炎を貫いた。

 

低い!

 

極端な前傾姿勢をとったその姿に、照準を狂わされたことを悟った射手はとっさに銃口を下げて撃つ。が、弾丸は虚しく兜をかすめるだけに終わる。

 

オークの津波(オルクス・ラヴィーネ

)とうたわれる、オークの突撃。その最小版が彼女たちに迫り。

 

射手が蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。首がありえない方向に曲がっている。

 

MG14がうなり、一人のエルフが襤褸布のように切り裂かれる。

 

「ま、待て! 降伏する! だから命だけは」

 

とっさに隊長のエルフは両手を上げ、訴える。かつて彼女はベレリアンド戦争のとき、このようにオークに降伏して生き延びたのだ。

 

だが。

 

黒い虚無を宿した銃口が自分に向くのを見て、彼女は自分の愚かさを悟る。

 

無慈悲な発射音が、通路に響いた。

 

 

急ブレーキをかける悲鳴のような音が門の外に響く。

 

ブレーキだけでは足りず横滑りまでして、ヴィルトシュヴァインはようやく止まった。

 

「ベルガー、ここは任せた。もし可能なら課長と連絡を取ってくれ」

 

「先輩はどうするんですか!」

 

「現場に行く」

 

「正気ですか!? 装甲擲弾兵とテロリストがドンパチしているところに突っ込むなんて!」

 

「いいか悪いかじゃない。これが刑事というものだ。俺たちが民間人に無茶を押し通せる理由だ」

 

ベルガーは鼻面(マズル)に手を当てて天を仰ぐ。こう言い出したシュルツはテコでも動かぬ、と長年の付き合いでかれは思い知っている。

 

「……無事に帰ってきてくださいよ」

 

「死にに行くつもりはない」

 

そのまま、シュルツは走り出した。

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