『オルクセン王国史/二次創作』理想の涙   作:わいるどうぃーぜる

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殺人事件の捜査もいよいよ大詰め。
どうか皆様、最後まで楽しんでください。
なお、タイトル回収。


「騒乱②」

邸宅の中は、酸鼻を極めていた。

 

逃げ出そうとしたのか、空いた窓にもたれかかるようにして背中から撃ち抜かれた死体。

 

通路のそこかしこに散らばるエルフだったもの。

 

軽機関銃に機関短銃(サブマシンガン)が抉ったであろう連続した弾痕。砕かれた内装品。

 

本宅から独立してつくられた邸宅である、離れへ行くための渡り廊下では火災まで起きている。

幸いなことに風向きからいって延焼まではしないだろうが。

 

ネニングのときもこうだったな。

かつて輜重兵として、前線に補給を届けていたときのことを思い出しながら、シュルツは中に踏み込んでいく。

 

邸宅の中ほどまで歩を進めたとき。シュルツの耳に何かが聞こえた。

声が聞こえる。怒鳴り声だ。

難詰しているような激しい声は……。

 

「二階か!」

 

控えめなれど装飾が施された階段を駆け上がろうとしたそのとき、

 

一発の銃声が鳴り響いた。

 

遅かった。全てが遅かった。

 

自分が撃たれたような痛みを感じつつ、一歩一歩踏みしめて、階段を登っていく。

 

光が漏れている部屋は、かつての主の寝室だろうか。

 

シュルツは、そこに歩を進め、ドアを開ける。

 

そこには、朱が広がっていた。

 

拳銃を手にし、心臓を撃ち抜かれたエルフがひとり。

その顔は、わずかながらに見覚えがある。

 

そして、その傍らで拳銃を放りだして腰をおろし、装面をはずしむき出しになった頬から血を流し、煙草を取り出した、装甲服をまとったオークがひとり。

 

かれはのろのろと顔を上げ、言った。

 

「ご足労をおかけします。刑事さん」

 

シュルツは何も言わず、部屋に入り、自分も煙草を取り出した。

 

そのオーク、ギュンター・エッドガルムの煙草に火をつけ、そして自分も一本咥え、火をつける。

 

「院長先生をはじめに発見したのは、あなたですね」

 

紫煙をくゆらせながら、ぽつりと問いかける。

 

「はい。あの時、エウレア隊長と会う予定があり、家に向かうと隊長が倒れていました。犯人を追いましたが取り逃がして」

 

「面会室での、そしていま、あなたが庇わなければならないエルフ、シオン・メルリンドとは誰だったのですか」

 

シュルツの問いに、ぴく、とギュンターの煙草を持つ手が止まる。視線が、朱に染まったエルフの方に向く。

 

「彼女は……、あの戦争のとき。

私たちが攻略した村の生き残りです。私がまだ子供だった彼女たちを撃とうとしたとき、隊長がそれを止めた。そして、戦争が終わったあと、隊長は孤児院を始めたのです。彼女たちを養子にし、他に親を亡くした子どもたちを集めて」

 

「しかし、彼女の恨みは消えてなかった」

 

「全てが終わったあと、あの村は、民族浄化に深く関わっていた、との報告がありました。

それででしょうね。あのとき、村民は村長宅に立てこもり、全滅したのです。

彼女は村長の子供でした。

恨みは……、あったのでしょう」

 

「あなたは他の子どもたちに塁が及ばないように、すべてを自分で解決しようとしたのですね」

 

行為を、肯定も否定もしないシュルツの問いに、ギュンターはただうなずいた。

そして、絞り出すような声で言った。

 

「最初から、あの村のときからこうしておけばよかったのです。今となっては全てが手遅れですが」

 

「……それは違いますね。彼女は彼女自身の選択で、血塗られた道を行ったんだ。あなたと院長先生は選択肢を与えただけに過ぎない」

 

シュルツは確信を持って答えた。

 

差し出された手を取る人間もいれば、拒むものもいる。

それをかれは法の番人として、痛いほど理解していた。

 

「でも、その選択のせいで、隊長は……、彼女は……」

 

鋼鉄に鎧われたように思えた顔から、涙が零れ落ちた。それが彼の本当の素顔なのだろう。

 

なんとも不器用な牡だ。シュルツはそう思った。腹に溜まったなにかを吐き出すように、紫煙を吐き出した。

 

不器用なのは、俺も同じだが。

 

「裁いてください」

 

ぽたぽたと熱い涙を流しながら、ギュンターは言った。

「理想」が砕けてもなお、その欠片を守るために立ち上がった牡の「涙」。

 

彼にとって、現実のすべてを犠牲にしようとも、守らなければならない「筋」だったのだ。

 

自分は法の番人であり、執行者ではない。

しかし、いまここで行わないと彼は自分を裁くだろう。だから。

 

シュルツは懐から手錠を取り出す。

ベルガーから預かって来たものだ。

 

それを見たギュンターはゆっくりと立ち上がり、遺体のそばに寄る。

す、とその開いたまなこを閉じさせたあと、両手を揃えてシュルツに向ける。

 

黙って、彼は手錠をかけた。

 

(……先輩、先輩!)

 

その時になって、ベルガーからの魔導通信が入っていることに気がついた。

 

(すまん、受信が遅れた。何があった)

 

(先輩、すぐそこから離れてください! 四課の連中が群れ成して来やがりました! 課長が押し止めていますがいつ突破されるか)

 

読み取られるのを警戒して、コボルト語で送られる通信にシュルツは眉をひそめた。

 

「わたしが使った通路を使いましょう。ここから離れた倉庫に出ます」

 

シュルツの表情で察したのか、ギュンターが提案をしてくる。

 

「わかりました。案内をお願いします」

 

そして、彼らは現場をあとにする。

 

部屋に、軽機関銃と面頰を残して。

 




シュルツの物語はここで区切りがつきました。
あとはエピローグを残すのみ。
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