乙女ゲー世界に転生したらラスボス系悪役令嬢(ガチ)の付き人になった話   作:ヤナギ

4 / 29
EP4〈Vision〉

 

 

 

 ︎︎季節は夏。

 ︎︎年々地獄みたいに暑さを増していた前世よりも幾分か涼しい気がするが、9月に入ったとて未だ暑いことには変わりない。

 

 ︎︎世間的にも夏休みは完全に終わり、ようやく始まった二学期。

 ︎︎ぶっ倒れて入院する前まで通っていたらしい元々の学校にはついぞ行くことはなく、俺は当初の予定通り京都某所の私立小学校に転入することになった。

 

 ︎書類手続きの殆どは母がやらされていたものの、彼女は自分の仕事もあるので名古屋に居たままだ。なので京都に来てからは父親が制服の購入やら何やら色々な準備をしてくれた。いかに俺の生活費や学費を西ノ宮が全面負担するといえど、彼らに完全に任せるのは流石に気が引けたらしい。

 

 ︎︎ほんの少しだけ父親の評価が上がったが、やっぱり彼はやる事だけ済ませると西ノ宮の屋敷には姿を見せなかった。俺のお目付け役らしい使用人の佐々木に聞いてみたところ、父も父で公威に任された仕事があるようだ。

 ︎︎あの公威のことだしどうせ悪どいことに違いないが、母が困るので捕まるような真似は避けて欲しい。

 

 

 ︎︎兎にも角にも着慣れない真新しい制服に袖を通した俺は、佐々木の運転する車に久方ぶりにあった彩葉と共に乗って登校した。西ノ宮の屋敷には前日に到着していたが、稽古や勉強で余暇のなかった彩葉とは翌朝の登校直前に顔を合わせることになった。

 

 ︎︎実に数週間ぶりの再会ではあったが、彩葉は「元気にしとったー?」と変わらぬ様子で声をかけてきた。こちらも普通に挨拶を返し、車内では世間話に花を咲かせる。そんな俺たちの様子をバックミラー越しに佐々木が微笑んでいた。

 

 ︎︎なんといつも彼女は車で通学しているらしい。さすが旧家のお嬢様である。

 

 ︎しばらくして学校の駐車場に停車すると、登校してきた児童たちから次々に驚いたような目を向けられた。

 ︎︎ヒソヒソとこちらを見ながら小声で話している彼らの姿に、妙な嫌悪感を覚える。悪意ではないだろうが、それに類するような感情の色濃い視線だった。その居心地の悪さに眉をひそめていると、佐々木がコッソリと話しかけてきた。

 

「彩葉様が私以外の誰かと登校しているのが珍しいのでしょう。そのうち慣れますよ、彼らも将吾くんも」

 

 ︎︎学校では孤立していると以前聞いたので、そんなもんか、と納得する。彩葉はさっさとランドセルを背負って昇降口に向かったようで、いつの間にか姿を消していた。

 

 ︎︎俺はというと今から職員室に向かって担任の先生と話さなくてはならないので、保護者代理という扱いの佐々木と一緒に、来客用の玄関から校舎に入った。本来なら父親が来て然るべきだが、あの男が俺の為にわざわざ来るはずもない。前世の俺より少し歳上程度だろう佐々木には既に頭が上がらない気持ちだった。

 

 ︎︎職員室に向かい、担任に挨拶をする。

 ︎︎転入に際して本来は試験と面接があるらしい。しかし西ノ宮家が学校に働きかけたのかは知らないが、俺の面接は免除されて試験は郵送するというカタチになっていた。

 

 ︎︎たかが小学生レベルの試験が分からないほど馬鹿では無いので普通に自力で解いたのだが、きっと裏口入学と思われているんだろうなー、と担任の周囲にいた教師の反応から察する。

 

「……では、私はこれで失礼しますね。帰りはお迎えに上がりますので、彩葉様と駐車場でお待ちください」

「ありがとうございます、佐々木さん」

「学校頑張ってくださいね、将吾くん」

 

 ︎︎担任との話を終えた佐々木を見送る。それと同時に予鈴のチャイムが校内に鳴り響いたので、担任と一緒に教室に向かった。

 

 ︎︎これから俺は再び小学生としての生活が始まる訳だが、憂鬱しかなかった。精神的に遥かに歳下の子供たちと上手くやっていける自信などない。育った世界が違うのだから、話が合う合わないどころのレベルではないだろう。

 

 ︎︎そもそもこの世界の小学生の流行りなど俺は知らない。話しが合いそうになかったら早いところ彩葉の傍に居るのが、立場的にも精神衛生的にも良さそうな気がする。

 

 

──ああ、嫌だな、帰りたい。

 

 ︎︎そんな俺の気持ち虚しく歩は進み、教室の前にたどり着く。先に担任が入って、転入生が来るという紹介のあと俺も入ることになっている。

 

 ︎︎今この瞬間だけは、スムーズに会話が出来る彩葉のところに早く行きたかった。

 

「入ってきてー」

「……はぁ」

 

 ︎︎小さくため息をついてから、教室の扉を開ける。

 ︎︎好奇、興味、関心、そんな小学生たちの視線が一斉に突き刺さる。必死に表情を保ちながら教壇の上で担任の隣に立ち、教室を見渡した。

 

 ︎︎窓際最後方の位置に彩葉が座っているのが見えた。視線をちらりと移すと目が合う。他の生徒には見えないよう、彼女はこちらに小さくサムズアップしていた。

 

 ︎︎がんばれ、ということらしい。

 ︎︎頑張りたくないとは言えず、俺は至極自然な振る舞いでクラスメイトに会釈した。

 

「名古屋から来ました。陸浦将吾です、よろしくお願いします」

 ︎︎

 ︎︎そんな挨拶をした俺の目は、口元を無理やり浮かべた笑みとは対照的にきっと酷く淀んでいただろう。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 ︎︎彼とはじめて会ったとき、特に興味はなかった。

 ︎︎数百年前から西ノ宮に仕えているという家々のひとつだという、陸浦家。その現在の当主だという無精髭の男とは何回か会ったことはあったが、彼に対する印象は「求婚してこないだけほかよりマシ」程度。故にその息子については何の情報もなかった。

 

 ︎︎付き人云々もどうでも良かった。

 ︎︎見るからに何の武芸の心得もなさそうな立ち方や歩き方を見て、さらに興味は失せた。こんな何も知らなさそうなガキが一体誰を守るというのか。毎日のように稽古を付けてもらっている自分の方が、遥かに強そうだった。

 

 

 ︎︎だから祖父と彼らの会話は耳に届かなかった。ただ時間が過ぎるのを待ち続け、置物に徹する。

 ︎︎祖父に言われて別室で待機することになっても、こちらからは話しかけなかった。

 

 ︎︎今まで会ってきた外の連中は、私が話す度に下卑た顔を浮かべて汚らしい視線を向けてきた。学校でも男子たちは馬鹿みたいに下手くそな口説き文句をかけてくるし、そのせいで女子からはお高くとまってるなんて陰口を叩かれる。

 

 ︎︎金持ちだからなんだ。歴史も伝統もない成金の子供に口説かれても、鬱陶しい以上の感想は抱かない。西ノ宮の名を知っての愚行ならば逆に感心する。彼らのように虎の威を借る狐のような真似はしたくなかったので、そういうのは無視していたけれども、学校に心休まる場所は無い。

 

 

 ︎︎平凡。

 ︎︎その一言に尽きる彼も、私はそういう連中と同じだと思っていた。襖の前で佐々木が立っていることにも気付いていなさそうだったが、わざわざ教えるはずもない。

 

 ︎︎二人きりという状況に置かれた彼がするのは、きっと下心を発露させることに違いない。仮に手を出されても捻り潰せるだけの力は持っていたし、いざとなれば学生時代に柔道の国体選手にも選ばれた佐々木が居る。

 

 ︎︎私は祖父と佐々木を除けば、昔から男という人種を信じていない。そういう目を向けられ、言葉をかけられて育ってきたからこそ、男はそういうものであると私は知っている。

 

 ︎︎きっと彼も、私と歳が変わらなくても、学校の男子と同じように気持ち悪い態度で媚びを売ろうとするのだろう。そう信じて疑わなかったのだが──。

 

『婚約者になったわけでもないので……』

 

 ︎︎彼は、私にそういう目を向けることも言葉をかけることもなかった。気になって思わずこちらから声をかけたが、帰ってきたのは当たり前ともいえる返答。

 

 ︎︎むしろ、あくまで私を護衛するだけの”付き人”としてはパーフェクトな回答だった。面接的な意味合いのある今回の会合で、彼は祖父のお眼鏡にかなったからこそ別室に通されたのだろう。今更ながらにその事に気付いて、私は彼への警戒を解いた。

 

 ︎︎きっと苦手なのだろう下手くそな敬語もやめさせて、普通に接するよう言った。それからは自分でも驚く程に、彼への興味が湧いてきた。

 

 ︎︎途中から挙動不審になったのは気になったが、ただ単にトイレを我慢しているだけだったことを知った時には、久方ぶりに笑ってしまった。

 

 ︎︎あのあと名古屋に帰ったらしいかったが、私の脳裏には彼のことが浮かんでいた。別に恋愛的な意味ではなく、「この生き物はなんだろう」というような知的好奇心の方である。

 

 ︎︎求婚をされることも、口説かれることも、一切なかったのは初めてだ。だから今日、数週間ぶりに会っても自然と会話が出来た。

 

 ︎︎まだ二回しか会っていないので親しい間柄になったわけではないはずなのだが、不思議なことに彼と顔を合わせたら旧来の友人のような、そんな風に気さくに話しかけることが出来た。

 

 

 ︎︎見たことがないらしく、妖怪共の危険性を理解してないのが唯一気になる所ではあるが──こちらの警告を素直に受け取ったあたり、間違っても妖怪に友好的に接することはないだろう。

 

 ︎︎そんな彼──陸浦将吾と別れて、私は先に教室へ入った。彼と佐々木は担任と少し話をするそうだ。つまり私は今日もひとりであの嫌な空間に居なくてはならない。少なくとも彼が教室に来るまでは、だが。

 

 ︎︎途端に湧き上がる憂鬱さに、頭痛さえしてくる。扉を開けると、さっそくクラスメイトが寄ってきた。

 

「西ノ宮さん、おはよう! 今日も可愛いね」

「……どうも」

 

 ︎︎気持ち悪い。鬱陶しい。近付くな。

 ︎︎そんな思いを込めた睨みに意を介すこともなく、その男子はひたすらに私に話しかけてくる。

 

 ︎︎彼の父親は京都市内で大きなホテルを経営しているらしく、かなり贅沢な暮らしをしているようだ。だからなんだと言う話だが、この男子はよくその事を自慢げに話していた。

 ︎︎父親は立派に働いているのだろうが、その子供でしかないあんたは何も凄くない。成金のボンボンが一番嫌いなのだ、私は。

 

 ︎︎そう言いたくとも、クラスの女子達にはこの男子がイケメンに見えて仕方ないようだし、この男子に厳しいことを言えばこちらに返ってくるのは身を持って知っている。

 

 ︎︎だからいつも私は適当にやり過ごす。女子たちの刺すような視線も今や慣れて、気にもならない。それを知ってか知らずか、この男は私が黙っているのを良いことに馴れ馴れしい態度で接してくるのだ。

 

 ︎︎将吾を見習って欲しかった。子供らしくないというか、あの私という存在に対して全く興味がなさそうな態度や雰囲気は逆に心地が良い。こちらも自然体で話せるからだ。

 

 ︎︎この居心地の悪い教室の馬鹿なクラスメイトたちとは比較にならないだろう。他人に興味が無い私とどこか近しい性格をしている彼はきっと、この教室に馴染むことはない。

 

「──それでさ、お父さんが俺に最新の腕時計を買ってくれたんだぜ。何十万もするんだ、すげぇだろ!」

「……」

 

 ︎︎たったその程度の額がなんの自慢になるというのだろうか。本気で目の前の男子の金銭感覚に疑問を呈し始める。私が普段、屋敷で着ている着物以下の値段ではないか。

 

 ︎︎私はそう思ったのだが、しかし周りのクラスメイトたちは「凄い凄い」と興奮気味に囃し立てる。そんな反応を見て男子は更に機嫌を良くして鼻をこすっていた。

 

「……(はよ将吾くん来んかなぁ)」

 

 ︎︎こんな気持ち悪い連中など至極どうでも良かったので、私は新しく出来た友人のような存在を窓の外を眺めながら待ちわびる。

 

 ︎︎ずっと続くはずだった代わり映えのない退屈な生活に突如として舞い込んできた、陸浦将吾というひとりの人間。彼はその他大勢の連中より遥かに面白いと私は思う。

 

 ︎︎親自慢もしないし、親の年収や学歴でマウントを取るようなこともしない。

 ︎︎そのような空虚な飾りっけがない、ありのままの自分で生きる人間の方が私は好みだった。

 

 

 ︎︎退屈な時間が続き、一通り自慢して満足したらしいあの男子は自分の席に戻っていた。それと同時に担任の先生が教室に入ってきて、ようやく朝礼が始まる。

 

「さて今日だが、転入生がひとりこのクラスに来ることになった。皆仲良くしてやれよー」

「転入生……?」

「せんせー! その子って男ですか、女ですかー!」

 

 ︎︎ザワつくクラスメイトたち。

 ︎︎その転入生本人を知っているどころか、おそらく今後の長い付き合いになるであろう立場にある私としては、転入生の存在を知らなかった彼らの反応になんとなく優越感を覚える。

 

「男の子だよ」

「……ちぇっ、なんだよ」

「先生先生! その子カッコイイ!?」

「んー? まあ……うん、カッコイイんじゃないかな」

 

 ︎︎きっと将吾が女子だったら私のように声をかけていたに違いない。そのあからさまなモテたい願望には軽く引いたが、生憎と将吾は紛うことなき男である。

 ︎︎期待が外れたかのように文句を垂れるあの男子はとても不愉快だったので、いつの日か私がシバいてやろう。

 

 ︎︎対照的に女子たちは僅かに色めき立っていた。明らかに担任は面倒くさがって適当に答えていただろうに、素直に受け取るあたり脳内にお花畑が広がっているに違いない。

 

「……」

 

 ︎︎将吾の顔を思い返す。

 ︎︎私はどちらかというと彼の性格の方が気に入って話しかけたので、特に顔立ちとかは気にしていなかったが、改めて思い返すと顔の造形は悪くなかったような気もしなくない。

 

 ︎︎しかし祖父の命令──付き人としての役割があるので、クラスメイトからどう評価されようが、彼は私の傍に来る。

 ︎︎そもそも、あの何もかもを俯瞰しているかのように見ている節のある彼が、クラスメイトがどうこうとか気にするはずもないだろう。私に対してですら、いや……改めて思い返せば初対面の祖父相手に、あれほど丁寧な口調で応対出来る子供なんて、私は見たことがない。少なくとも同級生の、”あの家”の子供以外は。

 

 ︎︎確信を持って私は断言出来る。

 ︎︎あの子はおかしい。佐々木に聞けば、彼は何の特殊な教育を受けていない。西ノ宮に仕えている家系という出自を除けば、ごく普通の環境で育ったという。

 

 ︎︎彼と会ったのは今日でたったの二度目だけれど、今朝登校中に会話をし、改めて私はこう思った。妙な男の子だな、と。

 

 ︎︎目は合う。言葉も交わせる。態度も普通だ。けれど西ノ宮彩葉(わたし)陸浦将吾(かれ)との間には、確かに不可視の壁があるのだ。彼の父親も、私の祖父も、佐々木も。きっとおそらく気付いていないであろう、奇妙で形容し難いこの感覚。

 

「ふふ」

 

──だからこそ、興味深い。

 ︎︎あんな異質な感情を孕んだ視線を、他人に向ける人間は生まれて初めて見た。

 

 ︎︎日本の各界に太いパイプを持つ西ノ宮家の令嬢として、政財界の要人や他家のお歴々。

 ︎︎物心ついた時から今まで多くの人と会ってきたが、将吾はそんな私でも初めて見るタイプの人間だった。しかもそれが私と同い歳の少年だというのだから、更なる驚愕に値する。

 

「名古屋から来ました。陸浦将吾です、よろしくお願いします」

 

 ︎︎転入初日の顔合わせ。

 ︎︎私くらいの年齢の子供なら緊張して然るべき場面だろうに、彼の目にあるのは怠さだけ。しかし背はピンと伸びていたし、その表情に悪い印象を与えるような怠さは浮かんでいなかった。

 

 ︎︎教壇に立った将吾と目が合ったので、さりげなくサムズアップを送った。

 ︎︎私以外、誰も気づかないだろう。ほんの一瞬だけ彼は顔を顰めたが、すぐにちゃんとハキハキとした挨拶をするあたり、やはりしっかりしている。

 

 

 ︎︎主に女子たちが醸し出す歓迎ムードに釣られ、男子たちも笑顔でパチパチと拍手をし始める。

 

 ︎︎その後、担任は私の隣にある空いた席に座るよう彼を促した。そこは元から空席だったわけではない。元々在籍人数の関係上、私だけ窓際の最後方の位置になっていたのだが、朝来たらもう机が置いてあった。転入してきた将吾のために追加したのだろう。

 

 ︎︎もう二学期だし、クラス替え当初の名簿順座席はとっくに何度も入れ替わっているから、担任はとりあえず空いている後方に座らせることにしたようだ。あるいは西ノ宮家が色々学校側に話を通したのかもしれないが。

 

 

 ︎︎将吾が無言でこちらに歩いてくる途中、私にいつもちょっかいをかけてくるあの成金男子が、ジロ、と警告するように彼を睨みつけた。それはまるで「人の女に手を出すなよ」と言わんばかりの態度だ。相変わらず気持ち悪くて仕方がない。

 

 ︎︎しかしそんな目を向けられた当の本人はと言うと──、

 

「……」

 

──あれは本気でどうでもいいと思っている顔だ。

 ︎︎道端に落ちている石ころや、街路樹の根元に生えてる雑草としか思っていない。あれば無関心そのものだ。

 

 ︎︎つまり、ついさっきまでの私と同じ顔をしていた。

 ︎︎歯牙にもかけないとはまさにこの事だ。いいぞその調子だ、と私は内心で喜ぶ。やはり予想通り、将吾がこのクラスに馴染むことはなさそうだ。

 

 ︎︎そもそも、彼は無関係なクラスメイトにどう思われようが気にしなさそうなタイプだ。それでいて、己の立場に応じて彼は私の傍に仕えるだろう。私からすれば従順な姿勢は悪い気はしないが、しかし無下に扱われた彼らがどうなるかは想像に容易い。しかもこの教室の中心人物であるあの成金に対して、あの態度だ。クラスの輪からは早々に外されることになるだろう。

 

 ︎︎そもそも彼が私に友好的なのは、あくまで私の付き人になるのが確定しているからだ。私はそう思っている。佐々木に聞いた彼の家庭環境、そして実際に会って何となく分かった為人。そんな素振りは一切見せなかったが、私には分かる。

 

 ︎︎彼にとって西ノ宮家は、なし崩しに仕えることになっただけの、赤の他人。自らの父と、私の祖父がそう決めただけで、彼からしてみれば、いきなり親元を離されて京都に来ている。彼本人ではどうしようもないから、私に友好的であるのだ。

 

「……朝から言おうと思っとったんやけど、あんた結構うちの学校の制服似合ってはるなあ。背が高いからやろか」

「皮肉か? 京都人の褒め言葉ほど信用ならんものはないぞ」

「馬子にも衣装ってやつやね」

「それ褒め言葉じゃねーから」

「なんや、少しくらい付き合ってくれてもいいのに。いけず」

「いや先生がまだ話しとるじゃん」

 

 ︎︎周りには聞こえない小さな声量でやり取り。担任からチラっと見られたが特に注意されることはなかった。やはり西ノ宮が私たちの関係についてそれとなく上に伝えているのだろうか。うちの担任は結構こういう無駄話には厳しいはずだが、何も言わないあたり多少の事情は知ってそうだ。

 

 ︎︎担任の話などよりも将吾と軽口を叩く方が面白いのだが、当の将吾はつっけんどんだった。頬杖をつきながらも担任の話をしっかり聞いているようで、こちらには顔も向けない。

 

 ︎︎せっかくこの退屈な連中から解放された私としては面白くなかったが、話に付き合う気がないなら仕方がない。諦めて私も口を閉じると、視界の端にあの成金男子が不機嫌な表情で私たちの方をチラチラ見ていたことに気づく。

 

「(なるほど)」

 

 ︎︎おおかた私と話しているのが気に食わないのだろう。将吾が私の隣に座るっていうだけで睨みつけてきたようなやつだ。

 ︎︎”幼稚な奴やなー”と半ば呆れていると、ふと私の脳裏に妙案が浮かんだ。

 

 ︎︎あの成金は私に好意を抱いている。

 ︎︎私が将吾と仲良く話しているのをあえて見せつけたら、あの男子は一体どんな顔をするのだろうか?

 

 ︎︎その光景を想像した途端、成金への無関心が興味へと変わった。もちろん将吾へのそれとは真逆だ。単に私のストレス発散のオモチャになりそうかどうかという興味である。

 

 ︎︎あの伸びきった鼻を叩き折って、空虚な自信に満ち溢れた表情が歪むのが見てみたい。もしその顔を私に見せてくれたら今までの鬱陶しい声かけは水に流してやってもいい。

 

「ふふん」

「……はあ」

 

 ︎︎その光景に想像して思わず口角を上げる私を見て、隣の将吾はえらく気味悪そうな顔でため息をついていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。