乙女ゲー世界に転生したらラスボス系悪役令嬢(ガチ)の付き人になった話   作:ヤナギ

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EP7〈オクスリ〉

 

 

──疲れた。

 

 

 ︎︎その一言に尽きる。体力は既に尽きて、気力だけで必死に歩き、自分の部屋の布団へと転がり込んだ。

 

 ︎︎今日も今日とて佐々木による武術の稽古があった。

 ︎︎やけに絡んでくるクラスメイトの男子たちや話しかけてくる錦戸を上手いことやり過ごし、彩葉の暇つぶしに仕方なく付き合う。そんなつまらない学校が終わったと思いきや、きっちり二時間拘束されてしこたま投げ飛ばされるのである。

 

 ︎︎俺が西ノ宮家にやってきて早くも半年が過ぎた。

 ︎︎年も変わり、冬休みは終わって、学校も既に三学期目が始まっている訳だが、しかして俺の疲労は溜まる一方であった。確かに以前と比べると体力も増えたし、同い歳相手なら容易く勝てるだろう程度には強くなっただろうけど、非科学的なヘンテコ術を使う妖怪相手には焼け石に水だ。

 

 ︎︎であるからこそ俺は強くならなくてはならないのだが、如何せん毎日がハードスケジュールすぎて気持ちどころか身体が追い付きそうもなかった。

 

 ︎︎稽古は週四日あるが、それ以外の日は佐々木が講師となって勉強会が開かれている。

 ︎︎この時は彩葉も一緒に受けていて、それが彼女と同じように小学生レベルのものなら俺も何とも思わないのだが、佐々木が俺の学力の確認のためにやらしたいくつかのテストを次々と解いてしまったのが不味かったようで、今では普通に高校レベルの問題を解かされるようになった。

 

 ︎︎数学や国語は覚えていたので特に問題なかったが、前世から非常に苦手としていた英語もやらされるのがとにかく億劫だった。英単語の暗記はともかく文法とか未だに意味が分からないし、英語だけなら中学生にも負けるレベルだと言うのに。

 ︎︎大学に入った時だってギリギリ何とかなったくらいで、合格した翌日にはすっかり抜けていた。

 

 ︎︎にも関わらず、横にちょこんと座る彩葉が「あいむいろは」とつたないイントネーションで自己紹介の練習をしているのに、俺だけ容赦のない長文スピーキングや文章問題をやらされているのだ。いくらなんでも格差が酷すぎないだろうか。

 

 ︎︎こんなことなら分からないフリをして手を抜けば良かった、と後悔をしても後の祭りである。

 ︎︎とにかく疲れた。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

 

 ︎︎だが悲しいかな、やれと言われたらやるという考えが染み付いてしまっている俺にサボタージュする度胸も根性もなかった。そもそもそんな事をすれば西ノ宮家での立場がなくなる。

 

 ︎︎佐々木という男は若いながらも、西ノ宮に仕える数多くの使用人たちを纏める立ち位置にある。侍従長、という表現が正しいのかは分からないが、ともかく家の中では割と権力がある人物だ。

 

 ︎︎そんな相手に逆らったりでもすれば、今後俺がどうなるかなんて火を見るより明らかだ。勉強会に関しては彼本人から「この学力を中学入るまでキープできるなら」という条件付きで期限が設けられたが、稽古の方はいつまでも続くようだ。

 

 ︎︎この稽古と言うのが俺の体力を日に日に奪っていきながらも、総量でいえばかなり増やしているという中々厄介な日課となっている。柔道なんて興味も関心もなかったのに、今ではそろそろ大会にでも出ますか?なんて話さえ彼の口から出始めていた。

 

 ︎︎それに関しては流石に断固拒否したが、その佐々木が可愛がっている彩葉が俺を見ながら残念そうな顔をしやがったので、何年かしないうちに勝手に出されそうな気もする。

 

 

 ︎︎それにしても眠たい、とても眠たい。

 ︎︎だがまだ風呂にも入らないといけないし、晩飯だって食べていない。汗が気持ち悪いし、そもそも胃になにか入れないと翌日が持たないという事は身を持って知っている。

 ︎︎重たい瞼を必死に開けて起き上がった。今の時刻は八時過ぎ。飯は調理場に用意されているので心配ない。

 ︎︎俺はどちらを先にするか迷ったが、汗臭いままなのは嫌だった。着替えを用意して風呂場に向かおうと、箪笥の取手に手をかける。

 

「将吾くーん」

 

 ︎︎その瞬間、部屋の外から声が聞こえてきた。少し開いた襖の隙間から除く彩葉の顔と目が合う。俺が道場で佐々木にボッコボコにされている間に夕餉も風呂も終えていたらしい彼女は、簡素な寝巻きに身を包んだラフな格好だった。

 

 ︎︎半年前よりも伸びている髪をヘアゴムでまとめてポニーテールにしている。クラスの男子たちが見たら大層喜ぶだろうなと思いつつも、見慣れた光景なので気にしない。

 

「ちょっとええかな?」

「なに」

「暇やからお話ししよー……ってその顔を見るに、今日もいっぱい佐々木に扱かれたみたいやね。お疲れ様」

「代わってくれても良いんだぞ」

「んー……イヤ♪ ていうか、付き人のあんたがうちより弱かったら笑い話にもならんで?」

「そりゃそうか」

 

 ︎︎冗談めかして言っているが、実際問題その通りである。

 ︎︎俺が不満やストレスを抱きながらも佐々木の稽古に行っているのは、自分の身を守るためだ。俺の身を脅かす存在──妖怪や反西ノ宮といった外的要因もそうだが、他ならぬ西ノ宮家もそこに含まれている。

 

 ︎︎公威、あるいは彩葉のどちらかに不要と判断されれば、俺は体のいい駒として扱われてしまうだろう。ヤクザでいえば鉄砲玉だ。そうなった時、もはや俺に逃げる術はどこにも無い。母親とは二度と会えないだろうし、そもそもあの何を考えているか分からない父親に殺されてもおかしくない。

 

 ︎︎だから付き人(候補)という肩書きは割とよかった。公威が可愛がる彩葉の傍に居るという意味では、この家自体に仕える使用人達よりも二人からの扱いは上になる。扱いが上になるということは、少なくとも小学生である現時点では保護すべき対象になる。

 

 ︎︎俺自身にはなんの権威も権力もないが、利用できるものは全て利用すべきだろう。

 ︎︎原作が始まるまでの間、俺は俺自身の命を守る力を付けるのと同時に、錦戸沙耶香に取り入ることを含めた逃亡策を練らなくてはならないのだから。

 

「……つーか、あんまり近寄らないで欲しいんだけど」

「は? なんで?」

「いや、ニオイが」

「うちが臭いって? ほーん、うちにそんな口の利き方するなんていい度胸やん。表出ぇ」

「違ぇよ、俺が臭いって意味だよ。さっき戻ってきたばかりだから汗めっちゃかいてるんだわ。道着のまんまだし」

「今さらそんなの気にする仲やないやん。ひとつ屋根の下で暮らしてるんやし」

「俺が気にするんだ。暇つぶしなら風呂出た後に付き合ってやるから待ってろ」

「しゃーないなぁ……はよ戻ってきてな? うち実は前世うさぎやねん、退屈で死んでまうで?」

「うさぎは退屈程度じゃ死なんわ」

 

 ︎両手を使ってうさぎの真似をする彩葉に、白い目を向ける。この半年間で彼女が結構なかまってちゃんであることは知ったが、放置して風呂に行くことを優先する。

 

 ︎︎箪笥から着替え一式を取り出して、彩葉の横を通り過ぎた。適当なツッコミに不満気な顔をして睨んできたが、見なかったことにしよう。背後から聞こえてくるため息も俺の耳には届かない。

 

 

 ︎︎どうせ日が変わるまで付き合わされるのだ。多少長風呂になっても文句は言わせない。

 ︎︎そんなことを考えながら、この屋敷で唯一気に入っている西ノ宮御用達の五右衛門風呂に向かって歩を進めた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

──同時刻、屋敷にある書斎では西ノ宮家当主の公威が難しい顔をして唸っていた。

 

 ︎︎彼は年季の入った机に肘をついて、手元の書類を鋭い眼光で眺めている。極秘任務のために関東各地を動き回っている将吾の父親からつい先程FAXで送られてきたそれは、公威の機嫌を損ねるには十分な内容だった。

 

「……」

 

 ︎ここ一年ほど、妖怪の間で不審な動きが見られるようになった。それ自体はよくあるのだが、問題は一部の妖怪たちの間に流通しているらしい謎のクスリ──人間でいえば覚醒剤に当たるだろうか──が原因と思われる事件が頻発していること。

 

 

 ︎︎現代の妖怪は大まかに二種に分類される。

 ︎︎古来からの生態を崩さず、人間をエサとしか認識していない動物型妖怪。そして人間社会へ適応し、あまり積極的に人間を襲うことがない擬態型妖怪だ。

 

 ︎︎前者はほぼ野生化しており、文字通りこれといった言語も解さないケモノである。現在の西ノ宮ら妖怪退治組織が倒しているのは基本的にこの自然の中で隠れ住みながら人間を襲う連中だが、問題は後者の妖怪。

 

 ︎︎発達した現代の社会に適応できるだけの擬態術、そしてそれ相応の高度な知能を持っているということは、人間と同じように集団となり、人間と同じような行動をとる事もある。

 ︎︎日本が開国してからその傾向はかなり強まっていて、実際、それから間もなく妖怪たちは自らの安全を守るための独立した組織を有していた。

 

 ︎︎不幸中の幸いというべきか。

 ︎︎人間勢力と妖怪勢力による表立った大規模組織間抗争は未だに起きていないが──公威が手にしているその書類は、火薬庫に火のついたマッチを投げ入れるかのような威力を持っている。

 

「妖怪版のヒロポンかぁ……? 洒落にならんわ、ったく」

 

 ︎︎妖怪たちの間ではこのクスリを”金剛金丹”などと囃し立て、乱用している者が増加しているらしい。全くもって嘆かわしいことに、妖怪が作ったクスリが単なる麻薬の類ならここまで公威の機嫌は悪くならなかった。

 

 ︎︎このクスリ、妖怪が服用するとその者の理性に多大な影響を与えるという。それだけではなく、身体能力の向上や──妖怪の力の源である”妖力”が一時的に増加するという効果を発揮する。

 

 ︎︎ハナから理性などない山間部の低脳な個体ならともかく、人間に紛れるような連中がこれを使うとなれば話は変わってくる。

 ︎︎タカ派筆頭の西ノ宮家が組織の主導権を握る現在において、妖怪が再び大規模なテロなど起こそうものなら彼らとの全面戦争は必至。それを妖怪側も分かっているのか、そのような危険因子は内々で処理されているようだが、彼らが作ったこのクスリのおかげで余計な心配のタネが増えたのだ。

 

 ︎︎故に、妖怪を蛇蝎のごとく嫌う公威の心情は推して知るべし。彼は最近黒く染めたばかりの白髪が再び色を取り戻したような気もしていた。

 ︎

 ︎そもそも実物を手に入れるのにも苦労したのだ。どれだけの金と労力がかかったと思っているのか。

 ︎︎妖怪と協力するなんて西ノ宮の信条的にも絶対に避けたかったが、事が事だ。是々非々は怨敵錦戸の得意とする立ち回りだが、西ノ宮も我慢すればできないことはない。

 

 ︎︎将吾が初めて京都を訪れた日に合わせて、彼の父親が大阪にまで行ったのはこれを妖怪側の協力者から回収するためであった。そして解析にまわし、先日ようやく終了した次第である。

 ︎ただのクスリならこんなにも時間がかかることはなかったが、社会の法則の外側で生きる妖怪が作った薬だ。妖力だの何だのを持ち合わせない人間が、その常識外の知識の一端を垣間見るには、やはり人間らしいアプローチで取り組む他なかった。

 

 ︎︎方法はシンプル。

 ︎︎捕まえた妖怪や法務省に融通してもらった死刑囚に投与して比較観察を繰り返すというもの。かつては旧軍とも妖怪研究で似たようなことをした経験があった西ノ宮にとって、実験のノウハウや資料が僅かにも残っていたことは幸いだった。

 ︎︎時間はかかったが、既に効果や危険性も判明している。公威は今回の功労者たる陸浦の父親に電話越しで労いの言葉をかけた。

 

「あんたのおかげで何とか来週の総会には間に合いそうや、助かったわほんま」

『いえ、当然のことをしたまでです。……ですが、よろしいので?』

「何がや」

『この”金剛金丹”……おそらく錦戸家も同様の調査を進めてはいるでしょうが、総会で報告するとなると間違いなく紛糾しますよ。我々というよりも、西ノ宮派と錦戸派で』

 

 ︎︎任務を終えて名古屋に戻った将吾の父親と通話を繋げていた公威は、彼に感謝の言葉を述べた。親子間どころか他者とのコミニュケーションにすら多大な難がある男だが、仕事はきちんと熟すことから公威の信頼も厚い。

 

 ︎︎しかしそんな彼からの大丈夫なのかという問いかけには、公威は唸るしかなかった。確かに次回の会議はかなり荒れそうだ。

 

 ︎︎やもすると西ノ宮家本体よりも過激な連中が多いかもしれない西ノ宮派が、社会を脅かしかねないこのクスリの存在を見過ごすはずもない。ここ二、三十年は公威の圧倒的なカリスマで何とか抑えているが、今回もどうせ威勢のいい主張を上げるには違いなかった。

 ︎︎それに呼応した”錦戸派”が西ノ宮への攻撃を強める光景も、最早組織では見慣れたものである。派閥の領袖として多方面に配慮しなくてはならない公威としてはたまったものではなかったが。

 

「全く……最近は血の気が多いヤツばかりで困る」

『貴方が言いますか、閣下』

「ふっ」

 

 ︎︎長期政権は腐敗の温床とメディアはよく言うが、仮に彼らの組織が日本の国会に当たるのならば、西ノ宮は強力な政権与党だろう。

 

 ︎︎人ならざるものから人の社会を守る──そんな組織の根源とも言える決意はとうの昔に失われて、今では有り余る金とちっぽけなプライドだけで構成された馬鹿どもの掃き溜めと化した。本質的には将吾と彩葉の通う小学校で行われている子供たちの金自慢とさほど変わらないだろう。

 

 ︎︎西ノ宮派が妖怪を根絶せよと声高々に叫ぶのは、あくまで莫大な資産と政財界との太いパイプを有する西ノ宮家の庇護下にあるからに過ぎない。そのお零れを貰うために派閥内での地位を高めようと、彼らは実際にやる気もない過激な主張を続けている。

 

 ︎︎西ノ宮とて単独で錦戸率いるハト派連合を相手に立ち回れるとは思っていない。故に公威は、自派閥への愛着を失いながらも自派閥の大多数意見に沿った言動をしなくてはならなかった。

 

 ︎︎原作において闇将軍と揶揄された西ノ宮公威ほどの男でさえも、集団の意思には逆らえないのだ。それが曲がりなりにも味方ならば尚のこと。

 ︎︎公威も妖怪への敵意は強いが 、さりとて自派閥の連中ほど過激でもない。しかしパワーバランスを維持するためには錦戸家との対立路線を継続する他ない。

 

 ︎︎もはや本当の意味で妖怪という存在を認識し、その上で妖怪という存在と真剣に向き合っているのはそれこそ西ノ宮と錦戸だけだろう。妖怪に対する主義主張こそ違えど、その点においては公威は錦戸という家を高く評価している。

 

 ︎︎故に彼は、次回の総会が早くも億劫だった。

 

「ったく、派閥っちゅーのは度し難いもんやなぁ……」

『閣下』

「分っとる分かっとる。心配せんでも錦戸に迎合したりはせん。奴らの弱腰っぷりは鼻につく」

『なら良いのですが……』

 

 ︎︎実を言えば、将吾が認識しているよりも西ノ宮公威はマトモな人物である。マトモじゃないのは彼の周りの人間だ。原作主人公の登場を契機に融和へと動き出した一部の妖怪たち──それが受け入れ難かった西ノ宮派に、かくあれかしと望まれたが故の闇将軍(くろまく)の誕生であった。

 

 ︎︎しかし現在においては、まだ西ノ宮公威は派閥の動きに頭を悩ませる苦労人でしかないのである。

 

「そういや話は変わるんやけど──あんたの倅、最近よお頑張っとるで。佐々木にしこたま鍛えられとるらしいわ」

『……』

 

 ︎︎見たくもない書類を机の上に放り、天井を仰いだ公威の脳裏にふと賢そうな子供の顔が浮かんだ。今まさに電話している男の実の息子だ。陸浦将吾──無愛想なあの父親とは似ても似つかない、孫娘の付き人になる予定の少年。

 

 ︎︎歳の割に礼儀正しいし、頭もいいし、我が孫ながら気難しい性格をしている彩葉との仲も悪くない。むしろ良い方だ。加えて佐々木からの報告によれば、文句の一つなく稽古や勉強を続けているというから公威としても好印象だった。

 

 ︎︎そんなことを父親に伝えてみれば、返ってきたのは長い沈黙であった。くっくっく、と公威の口からあくどい笑みがこぼれる。どうしてこうも自分の血を継いだ息子に冷たくなれるのか、公威には未だに理解できなかったが、傍から見ている分には面白い。

 

『……愚息がご迷惑をおかけしております』

「迷惑な訳あるかい。むしろこっちが迷惑かけとるやんか。それに真面目でええ子やで、将吾くん。珍しく彩葉も気に入っとるみたいやし」

『そう、ですか? ……あの彩葉様が』

 

 ︎︎彼の驚き混じりの返答に、内心で公威も同意した。

 ︎︎彩葉は愛すべき孫娘ではあるが、彼女のあの人嫌いな性格には公威も苦にしていた。佐々木の話では学校でも友人が居なかったようなので心配をしていたが、付き人としてやってきた将吾がその穴を埋めてくれたことには素直に感謝している。

 

「パパは褒めたりせんのか?」

『……』

「ははははっ、相変わらず息子には手厳しい──なんでそこまで毛嫌いするん? 今どきの子供にしてはかなり成熟しとるやろ、あの子。嫌う要素がないやんか」

 

 ︎苦虫を噛み潰したような顔をしているのが目に浮かぶ。公威も人の子だ。世間一般的に悪事悪行とされるようなことも沢山してきたが、それでも肉親には大きな愛情を抱いている。

 

 ︎︎しかし電話先の男はそうではない。

 ︎︎彼は息子に対して憎悪に等しい悪感情を向けている。目を合わせば、言葉を交わせば手を出してしまうことが分かっているが故に自らから遠ざけて、極力関わらないようにしているのだ。

 ︎︎実際に手を出さないのは、曲がりなりにも自分が父親であるという自覚があるからだろうか。それにしても親としては落第点だと公威は思っているが。

 

『……閣下、私は大恩ある貴方を心より尊敬致しておりますが、そんな私も秘め事くらいはあります。大変御無礼ながら、あまりあの子との関係について詮索はしないで頂きたい』

「……まぁ、何となく察しはついとるが」

 

 ︎陸浦家、そしてこの男との付き合いもかなり長いのだ。なんだかんだ言いつつも公威とて事情は察していた。

 ︎︎しかし共感は出来なかった。いかなる事情があろうとも家族を愛する公威にとって、友人であるこの父親の態度は納得がいかないし、きっとこれからも良くは思わないだろう。

 

 ︎︎とはいえ他所の家庭にそこまで干渉する気は無いので、今まで陸浦の親子関係には口を出さずに居た。 それが陸浦にとって良い事なのかは分からないが、少なくとも孫娘より優先すべき事柄ではないことは明らかだ。

 

『──いずれにせよ、私は将吾の存在を認めることは今後もありません。では、失礼いたします』

 

 ︎︎通話が切れる。

 ︎︎普段ならば言葉を濁して適当に話を切りあげていただろうに、将吾を認めないと断言したあたり、よほど彼は機嫌が悪くなったのだろう。

 ︎︎しかし他人の不幸は蜜の味というが、他人のそういう様子を面白く感じる性格の悪い公威にとってすれば、クスリに関する自分の苛立ちを解消するだけの態度としてしか受け止められなかったようだ。

 

 ︎︎それにしても、と彼はため息ひとつ。

 

「──あいつら、何を考えてこんなシロモノ作ったんやぁ?」

 

 

 

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