ZERO WORLD   作:kaito(カイト

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崩壊の道筋

「………」

 

 俺は今、自分の瞳に映る光景を信じたくなかった。悪夢に囚われているだけなんだと納得させたかった。目を覚ませば、いつも通りの朝が来て、イゼが目覚めた俺に微笑みを向けてくれるんだって。

 そんな考えは、俺の身に染み込み続ける痛みによって、完膚なきまでに否定された。

 

「イゼ…?なぁ……そこにいるのは─」

「イゼに決まっているでしょう?アナタは彼女を傍で見てきたじゃないですか!」

 

 俺の顔を覗き込むように、呪悪は目の前に現れる。暫く俺の顔を見つめた呪悪は、俺が期待通りの反応だったと言いたいかのように微笑んだ。

 俺はその顔を見て、行った行動は一つだった。

 

「…おや、これはこれは。」

 

 杭に固定された両脚や両腕を引き千切ってでも、ゼロは呪悪に向かおうとした。蛆虫のように這いずってでも、呪悪を殺す。己の歯で首を噛み千切ってでも殺してやる。ゼロの中にあるのは、殺意の衝動のみだ。

 少しずつ、腕や脚が裂かれていく痛みが身体に伝わっていく。ゼロにとってこの痛みは、イゼが苦しむことを阻止できなかった自分に対する罰のように感じていた。

 

「ま、必死に頑張ってますので小耳程度に聞いてください!杭は刺す本数で呪いの効果が変わるんですよ!」

 

 殺意の衝動のまま、杭で固定された両腕と両脚を引き千切ろうとするゼロの周りを、呪悪は回るように歩き始める。

 

「一本刺せば身体の細胞一つ一つが活気を失い、二本刺せば魔力量が本来の半分以下まで落ち、三本刺せば精神を絶望が侵食していき生への気力を失い、四本刺せば痛覚が異常なほど敏感になります!そして気になる五本目を刺した場合ですが…」

 

【一週間後に私の呪いが魂を死に至らせる。】

 

「といったものです!ちなみに、私が死ぬことで杭の呪いは解かれますので!理不尽だけ押しつけるモノでは無いのでご安心してくださ…ってあらあら、更に必死になっちゃいましたね?すでに四本刺されているというのに、ここまで必死になれるなんて何とも醜く愚かなお人ですね!」

 

 呪悪はそれと同時に、ゼロに対し疑問を抱いていた。呪いの効果を受けて尚、ここまでの行動力を示すのは元から彼が壊れている故か、それともその身に宿す龍の魂によるものか。

 どちらにせよ呪悪の次の行動は決まっていた。血反吐吐きながら呪いにより敏感になった痛覚を受けて尚、両腕と両脚を引き千切り、自身を殺しに来るゼロをこのままにするという慢心は、呪悪の中にはなかった。むしろ、恐れるべき存在として認識していた。ゼロにはここからでも、確実に殺しに来るポテンシャルがあることを呪悪は感じていた。

 呪悪はゼロの背後で立ち止まり、自身の魔力から五本目の杭を創り出す。

 

「今のアナタに私を殺すなんて不可能だと思いますが、念には念です。ご安心してください!アナタも彼女同様、一週間後には私の呪いで殺してあげますので!」

 

 ようやく左腕が引き千切れそうになる。腕と脚の肉が身体と離れていく音が聞こえる度に、ゼロの痛みは増していく。

 呪悪が5本目を突き刺すのが先か、ゼロが残りの部位を引き千切るのが先か。

 

 お互いの"狂い"が渦巻く中…太陽の光が狂い渦巻くこの空間を照らした。

 

「…は?何です?この剣?」

 

 呪悪の胴体を、太陽のように輝き燃え盛る剣が貫く。ゼロはこの輝きを知っていた。共に太陽国を奪還せし仲間であると同時に、太陽国の国王…サンの輝きであることを。

 

「闘国からの遠征帰り、悪種族の魔力を感じこの洞窟の奥深くへと訪れてみたが…罪深き悪人よ。貴様に彼と彼女を殺めさせはしない。」

「アナタぁ…!一体誰─」

 

 宝剣が裁きを与えるかのように、貫いた呪悪の身を炎で包み込む。

 呪悪は太陽で熱で焼かれているかのような痛みに藻掻き苦しみ、断末魔をあげながらその身の原型を崩していく。

 

「我が国の英雄であり、私の仲間…ゼロとイゼを殺めることは、太陽国の国王サンが赦しはしない。」

 

 呪悪は太陽の炎によって、灰となる。人の形を失い、その身を完全に焼き尽くされたのだ。

 

「太陽の加護が太陽国に恩恵を与える限り、我が国の宝剣は不滅だ。」

 

 サンは宝剣を鞘に収めると、サンと共に遠征に同行していた太陽国の騎士達を呼び集め、ゼロとイゼの救護を指示する。

 

「サン………」

 

 ゼロはサンが来たことに安心したのか、それとも呪いによる尋常では無い痛みによるものか、意識を失うのだった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……っ」

 

 目覚めた時、最初に目に映ったのは太陽の模様が描かれた広々とした天井だった。

 辺りを見渡すと一つ一つが輝いて見える家具の数々、見たこともないような構造をした芸術品のようなモノも置かれている…この場所、いるだけで落ち着かない。

 ゼロは自身の身の丈に合わない豪華すぎるベットの上で横の状態となっており、事の経緯を思い返す。

 

「そうだ…俺はサンに助けられて─」

 

 突然、ゼロの脳裏には杭で壁に固定されたイゼの姿をノイズが走るように思い浮かぶ。

 それと同時に、ゼロはあの場での出来事を全て思い出した。

 

「そうだ…イゼは?イゼはどうなったんだ!?」

「落ち着いてください。君はまだ万全に回復してないのですよ。」

 

 声の聞こえてきた方を向くと、そこにはサンの姿があった。

 ゼロの欠損した身体は、既に回復していた。しかし、身体に染み渡るあの時の痛みや疲労は未だに無くなってはいなかった。

 だが、ゼロは自身の身体のことなんてどうでもよかった。痛みも疲労も空虚な苦しみでしかない。イゼの安否だけが、今の彼を本質的に苦しめている。

 

「俺のことはどうでもいい…イゼに比べれば、俺なんて大したこと無いんだ。だから早くイゼの事を─」

「イゼなら隣の部屋にいます。状態は良いとは言えない状況ですが、我が国を救った英雄は必ず─」

 

 ゼロは突然、ベットから飛び出すように起き上がる。そして錯乱したように王室から出ると、直ぐ様イゼのいる隣の部屋に向かう。

 

「イゼ…!?」

 

 勢い任せに部屋の扉を開けると、直ぐ様ゼロはイゼの名を呼ぶ。目に映るのは、苦悶の表情でベットで眠るイゼの姿だ。ゼロは一瞬安堵するが、苦悶の表情から今もイゼは苦しんでることが強く伝わっていく。

 

「っ…イゼ、俺が弱いせいだ。俺はアルクだけじゃなくて、お前まで守れなかった。死なせるとこだった…こんな弱い俺で…ごめん」

 

 深く謝罪するかのように、イゼの手を両手で握った瞬間、ゼロはあの洞窟の奥深くで嫌というほど感じた呪悪の歪な魔力を感じた。

 

「呪悪の魔力…アイツはあの時、サンの手で─」

 

『私が死ぬことで杭の呪いは解かれますので!』

 

「まさか…アイツ、まだ生きているのか?」

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 薄暗く外の音すら聞こえてこない洞窟の奥深く、ゼロとイゼから引き抜かれた杭と、一匹の蜘蛛だけがそこにはいた。

 暫く経つと、蜘蛛がまた一匹。

 また一匹。

 また一匹また一匹また一匹また一匹また一匹…

 

 増えていく蜘蛛は一つとなり、人の形を形成する。外側から内側まで、人のモノとして見分けがつくように。

 

「……酷い目に遭いましたよ。えぇ、本当に。ですが、これは良い機会です!やはり、悪種族が絶望を与えるならば…大規模の方が相応しいですからね!」




ゼロワル豆知識

太陽国の宝剣は、太陽の加護による恩恵により、太陽の光で創り出された宝剣と言われている。折れようが砕かれようが恩恵がある限り、何度でも新たな刃を再生させる。
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