Re ゼロ最終章 最終局面とその始まり   作:蒼野幽太

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スバルの決意と策謀

 スバルは静かにアルの背中を見送りながら、何とも言えない感情に包まれていた。鉄仮面をかぶった彼の表情は一切見えない。それでも、その雰囲気が少しだけ柔らかくなったのをスバルは感じ取っていた。

 

 

 

「アル……あんたも悩んでるんだな」

 

 

 

 スバルは独り言のように呟くと、足を止めた。彼の言葉は決して拒絶ではなかった。確かに、今すぐに答えは出なかったかもしれないが、少なくともアルの心に疑念を植え付けることはできた。あとは、彼がどんな行動を取るか次第だ。

 

 

 

「でも、考える時間か……」

 

 

 

 スバルは手を広げて天井を見上げた。アルが考えた末、プリシラから離れることを選ぶか、それとも彼女に忠誠を尽くし続けるか。それはまだわからない。だが、スバルにとってはそれ以上に問題があった。プリシラは今この瞬間も強運に恵まれ、圧倒的な影響力を持ち続けている。時間は限られているのだ。

 

 

 

「俺には……もう余裕がないんだよな」

 

 

 

 エミリアを支え、プリシラに勝利するために、スバルにはすべてをかける覚悟があった。しかし「死に戻り」の力を使っても、繰り返される運命に打ち勝つことができない自分がいる。どれだけ最善を尽くしても、プリシラの強運はそれ以上の結果を導き出す。そしてスバルは、自分自身の精神が少しずつ消耗しているのを感じていた。

 

 

 

「死に戻り」の力は絶大だが、それは同時に絶望を何度も味わわせる呪いでもある。スバルは自分の死を何度も繰り返し経験し、そのたびに未来を変えようと足掻き続けてきた。だが、今回のプリシラとの戦いは、今までのどんな試練よりも厳しいものだった。

 

 

 

「でも、俺にはやるしかないんだ」

 

 

 

 スバルは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。彼が何度死んでも、失敗しても、エミリアの未来のために、決して諦めることはできない。彼女の笑顔を守るために、どんな絶望も乗り越えると決めている。

 

 

 

 翌朝、スバルは早くから王城の中庭に立っていた。冷たい風が肌を撫で、鳥のさえずりが響く静かな空間で、彼はひとり作戦を練っていた。

 

 

 

「アルがどう動くかはわからないけど、プリシラがこのまま強運で突き進むのをただ見ているわけにはいかない」

 

 

 

 スバルは頭の中で、これまでの王選でのプリシラの行動を思い返す。彼女はあまりにも運が良すぎた。まるで運命そのものが彼女を中心に回っているかのようだ。実力も確かにあるが、彼女が勝利してきた数々の戦いは、偶然の積み重ねでは説明がつかないほどだった。

 

 

 

「普通の方法じゃダメだ……。正攻法で戦っても、プリシラには勝てない」

 

 

 

 スバルは考えを巡らせるが、なかなか答えは見つからない。アルが動いてくれることにかけるのはリスクが高すぎる。スバルが今しなければならないのは、プリシラの強運を覆す具体的な策を見つけ出すことだった。

 

 

 

 その時、不意に背後から声がかかった。

 

 

 

「スバル、考え事?」

 

 

 

 振り返ると、そこにはエミリアが立っていた。いつもながら、その銀髪が朝日に照らされて美しく輝いていた。彼女の顔には微笑みが浮かんでいるが、その奥にはまだ不安が感じられた。

 

 

 

「エミリアたん……どうしたんだ? こんなに早くに」

 

 

 

 スバルは少し驚いた様子で尋ねたが、エミリアはゆっくりと近づいてきてスバルの隣に立った。

 

 

 

「あなたがこんな時間に起きてるなんて、珍しいからね。何かあったのかと思って」

 

 

 

 スバルは苦笑いしながら肩をすくめた。

 

 

 

「まあ、いろいろと考えることがあってさ。プリシラの強運に対抗する方法を見つけないといけないから、あれこれ作戦を練ってるところ」

 

 

 

「ふふ、スバルらしいわね。でも……無理しないで。あなたが無理してるの、私にはわかるんだから」

 

 

 

 エミリアは優しい声でスバルを励ます。その声には深い愛情が込められていた。スバルはその言葉に少しだけ心が軽くなったが、彼の決意は揺るがなかった。

 

 

 

「ありがとう、エミリアたん。でも、俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。絶対にプリシラに勝たなきゃならない。彼女に勝てなきゃ、エミリアたんが王になれないんだ」

 

 

 

 スバルの言葉に、エミリアは少しだけ目を伏せた。しかし、すぐに顔を上げてスバルに真剣な目を向けた。

 

 

 

「スバル……私は、王になれなくてもいいの。もちろん、みんなのために頑張りたい。でも、私にとって一番大事なのは、あなたが無事でいることよ」

 

 

 

 エミリアの言葉に、スバルは一瞬言葉を失った。彼女の優しさと純粋な気持ちが胸に響いた。しかし、その優しさがスバルにとっては一層の覚悟を求めるものでもあった。

 

 

 

「エミリアたん……でも、それじゃダメなんだ。俺が守りたいのは、エミリアたんが望む未来だ。それを実現するために、俺は何でもするって決めたんだよ」

 

 

 

 スバルはエミリアの目をしっかりと見据えながら、力強く言った。彼女を守るためには、自分が何度倒れても構わない。その覚悟がスバルの中にはあった。

 

 

 

 エミリアはしばらくスバルの顔を見つめていたが、やがてその頬に優しい微笑みを浮かべた。

 

 

 

「ありがとう、スバル。あなたがそう言ってくれると、私も頑張らなきゃって思えるわ」

 

 

 

 スバルはエミリアのその笑顔に力をもらい、心を新たにする。彼女のために、どんな困難も乗り越えると決めた。だが、そのためにはアルの協力を得るだけでは足りない。プリシラの運命そのものを覆すための確実な方法が必要だ。

 

 

 

「よし、まずは行動あるのみだな」

 

 

 

 スバルは再び歩き出す決意を固めた。

 

 

 

 数日が過ぎ、スバルはアルとの次の接触を図るため、細心の注意を払いながら彼の動向を追っていた。王城の中では、王選の最終決戦に向けた準備が進められており、各陣営はそれぞれの戦略を練っている。エミリア陣営も例外ではなく、彼女を支持する人々が集まり、最善の戦術を模索していた。

 

 

 

 そんな中、スバルはアルが一人でいる瞬間を狙って再び声をかけることにした。中庭の奥、誰もいない場所で、アルが一人佇んでいるのを見つけたスバルは、ゆっくりと彼に近づいていった。

 

 

 

「アル、また話がしたいんだ」

 

 

 

 スバルの声に、アルは無言で頷き、鉄仮面の向こうで何かを考えているような雰囲気を漂わせた。仮面越しに表情は見えないが、その体からは明らかに以前とは違う、わずかな動揺と戸惑いが感じられた。

 

 

 

「……いいぜ、話くらいならな」

 

 

 

 アルの言葉に、スバルは少しだけほっと息をついた。彼が話を聞く姿勢を見せたのは、前回の接触の成果だろう。だが、まだ油断はできない。アルが本当にプリシラから離れる決断をするには、まだ何かが足りないはずだ。

 

 

 

「まず、俺の考えをもう少し詳しく話させてくれ」

 

 

 

 スバルは慎重に言葉を選びながら話し始めた。今はアルを説得し、彼に行動を起こさせるための最後のチャンスだ。スバルは心の中で何度も確認し、慎重にその一手を繰り出そうとしていた。

 

 

 

「プリシラの強運──あれは確かに異常だよ。俺も認める。でもさ、アル、お前自身はどう感じてるんだ? その運が永遠に続くと思うか? 彼女がこのままずっと、全てを手に入れて勝ち続けると思ってるか?」

 

 

 

 アルはしばらく無言でスバルを見つめていた。仮面の奥からは、まるで考え込んでいるかのような重い雰囲気が漂ってくる。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「……俺はな、スバル。プリシラ様の運命に従うのが俺の役目だと思ってる。あの人が選んだ道を、俺はただ黙って歩くだけでいいんだ。考えたり疑ったりすることが、俺の仕事じゃねぇ」

 

 

 

 その言葉に、スバルは目を細めた。アルの声は冷静で、自らの役割を理解しているように聞こえる。しかし、その底には疑念が隠れている。スバルはそれを逃さなかった。

 

 

 

「本当にそう思ってるのか? アル、お前は自分の意思で生きることを諦めるつもりか? プリシラの運命に従うだけの人生で満足できるのかよ?」

 

 

 

 アルは仮面の向こうで一瞬、呼吸を止めたかのように感じた。その雰囲気は一層重苦しくなり、スバルは彼の迷いがさらに深まっているのを感じ取った。

 

 

 

「お前は強いよ、アル。だからこそ、プリシラの強運に頼らなくても、もっと自分の道を歩めるはずだ。お前自身の選択で、未来を掴むんだよ」

 

 

 

 スバルの言葉が鋭く、アルの心の中に突き刺さったようだった。仮面の向こうで、アルは一体どんな顔をしているのだろうか。スバルにはそれを知る術はなかったが、彼の体の動きや空気の変化で、アルが大きな葛藤の中にいることを確信した。

 

 

 

「……そう簡単には、割り切れねぇよ。プリシラ様は俺にとって特別なんだ。あの人に命を救われた。それに、俺が一度負けた世界で、もう一度戦う機会を与えてくれたのもあの人だ」

 

 

 

 アルは低い声で、かすかに感情がこもった言葉を続けた。彼の過去には深い傷があり、その傷を癒したのがプリシラだったのだ。彼女への忠誠心がただの義務感ではなく、もっと個人的で強いものだということを、スバルは理解した。

 

 

 

「だからこそ、アル。お前には選択肢があるんだ。過去をただ守るために生きるんじゃなく、未来を自分の意思で作るために戦ってくれよ。プリシラに命を救われたなら、今度はお前が自分の命で何かを選ぶ番だ」

 

 

 

 スバルの声は、かつてないほど真剣だった。彼はアルを見つめながら、その言葉に自分の全てを込めて訴えた。エミリアの未来、そして自分自身の信念のために、どうしてもアルに協力してもらう必要があった。

 

 

 

 再び、沈黙が流れた。アルの雰囲気は以前にも増して緊迫感を帯びていた。彼の胸の中で何かが大きく揺れ動いているのが、スバルにも伝わってくる。

 

 

 

 やがて、アルは深くため息をついた。

 

 

 

「……スバル、正直に言うとよ、お前の言葉、全部が全部、否定できねぇ。プリシラ様が絶対だって、確かに俺も思ってた。でも、それが正しいかどうか、俺はまだ迷ってる」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、スバルは心の中で小さくガッツポーズを取った。アルの心に確実に揺らぎが生じている。それは、スバルにとって大きな前進だった。

 

 

 

「じゃあ、アル……お前が信じるべき道を選んでくれ。俺たちに協力してくれれば、プリシラを倒すことができる。彼女が絶対じゃないってことを証明してみせる」

 

 

 

 スバルの言葉に、アルは再び長い沈黙を保った。彼の仮面の向こうで、今どんな思いが巡っているのかはわからない。それでも、スバルは待ち続けた。これが最後の一押しになるかもしれないのだから。

 

 

 

 やがて、アルは静かに首を縦に振った。

 

 

 

「……わかったよ、スバル。俺はお前たちに協力する。プリシラ様に全てを委ねるだけの俺じゃなく、自分の意思で動くってのも……悪くねぇかもな」

 

 

 

 アルの言葉が、スバルの心に安堵をもたらした。ついに、彼を味方に引き込むことができたのだ。

 

 

 

「ありがとう、アル! お前の決断、絶対に後悔させない!」

 

 

 

 スバルは力強くアルに感謝を述べ、その肩に手を置いた。アルは軽く頷くと、再び仮面の奥から低い声で言った。

 

 

 

「ただし……俺が動けば、プリシラ様も気づくだろう。お前らに有利に働く時間はそう長くはねぇはずだ。今のうちにできるだけの準備を整えとけよ」

 

 

 

「わかってる。できるだけ早く動くよ。俺たちは、もう後がないんだからな」

 

 

 

 スバルはその言葉に強く頷き、再び決意を固めた。アルの協力が得られた今、プリシラに対抗するための具体的な行動を起こす時が来たのだ。エミリア陣営が有利に動けるわずかな時間を無駄にしないためにも、彼はすぐに仲間たちと作戦を立て直すつもりだった。

 

 

 

「じゃあ、行動開始だな。エミリアたんやベア子たちにも伝えて、次のステップに進もう」

 

 

 

 スバルはそう言い残して、その場を離れた。彼の心には新たな希望が芽生えていた。アルという重要なピースを手に入れたことで、プリシラの運命に風穴を開ける準備が整いつつあったのだ。

 

 

 

  プリシラ陣営では、スバルたちの動きを察知した者はいなかった。彼女は相変わらず堂々とした態度で、王選の準備を進めていた。

 

 

 

「……ああ、退屈ね。王選なんて、ただ私が勝つことが決まってる茶番よ」

 

 

 

 豪華な椅子に腰掛けたプリシラは、無関心そうにその場の臣下たちを見回していた。彼女の態度は傲慢そのものだが、その絶対的な自信は、誰もが逆らうことのできないものだった。

 

 

 

 そんな中、アルは彼女の側に静かに立っていたが、その雰囲気には微かな変化があった。彼は、今や自分の内心に葛藤を抱え、スバルとの約束を思い返していた。

 

 

 

「……アル、お前も飽き飽きしているでしょう? どうせ、私が王になることは決まっているのだもの」

 

 

 

 プリシラが無造作に言葉を投げかける。アルは一瞬、返事をためらったが、すぐに短く応じた。

 

 

 

「そうだな……プリシラ様。あんたが王になるのは、当然のことだ」

 

 

 

 だが、その声にはわずかながらも違和感があった。プリシラは特に気に留めることなく、再び視線を遠くに向けたが、アルの心は揺れ動いていた。

 

 

 

「スバルの言う通り、俺にはまだ選択肢が残っているのかもしれねぇ……」

 

 

 

 そう思いながら、アルは静かにその場を後にした。彼の中で決断が固まりつつあった。

 

 

 

 

 

 

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