王選の最終決戦の場は、ルグニカ王国の王宮に隣接する壮大な競技場だった。広い観覧席には、貴族や市民が集まり、王国の未来を決するこの戦いを見守っている。天空には厚い雲がたなびき、重く張り詰めた空気が場内に漂っていた。
「……ここで、すべてが決まる」
スバルは競技場の中央に立ち、目の前にそびえるプリシラの姿を見据えていた。彼女はいつものように華やかな装いで堂々と立っている。彼女の背後には、少数精鋭の戦士たちが控えていたが、その強運によってすでに彼女の勝利は確実視されているかのようだった。
「スバル、準備はできているのかしら?」
エミリアがスバルの隣に立ち、静かに問いかけた。彼女の瞳には緊張が宿っているが、スバルの言葉と仲間たちの支えによって、揺るぎない決意が生まれていた。
「もちろんだよ、エミリアたん。これで最後だ。プリシラの運命を変える瞬間が来たんだ」
スバルはエミリアに向けて力強く頷き、視線を再びプリシラへと向けた。
競技場の中心では、プリシラが悠然と微笑みながら、まるで全てを掌握しているかのように振る舞っていた。
「エミリアにスバル、そしてその取り巻きたち……あなたたち、私に勝てると思っているの?」
彼女の声は余裕と自信に満ち溢れていた。アルもプリシラのそばに控えていたが、仮面越しに見えない表情の裏側には、スバルとの密会での葛藤が残っている。
「お前の強運なんて当てにならないさ、プリシラ。今回は違う!」
スバルが言い放つと、プリシラは軽く肩をすくめた。
「まあ、見せてもらいましょう。運命に抗う愚か者の末路を」
その瞬間、場内の空気が一気に緊張に包まれた。決戦の幕が切って落とされる。スバル、エミリア、そしてガーフィール、ラム、ベアトリスが一斉に動き出した。
エミリアは、空高く氷の魔法を唱え、巨大な氷柱を次々と競技場に展開した。彼女の魔力で形成された氷の障壁が戦場を囲み、プリシラの動きを封じようとする。しかし、プリシラは悠然と笑みを浮かべていた。
「くだらないわね。運命は私の味方をしているのだから、そんな小細工が通じるはずもないわ」
プリシラが軽く指を鳴らすと、周囲にいる彼女の戦士たちが一斉に突進してきた。ガーフィールがそれに応じ、拳を握りしめて突撃する。
「よし、俺に任せろ! あの野郎どもをぶっ飛ばしてやる!」
ガーフィールは鋭い爪を振りかざし、相手の戦士たちを圧倒的な力で一掃していく。彼の動きは俊敏かつ力強く、次々とプリシラの戦士を地面に叩きつけていくが、プリシラは微動だにせず、まるでこの状況すら彼女の手のひらの上にあるかのように振る舞っていた。
「ふん……無駄よ」
その瞬間、プリシラの側近の一人が何かを呟くと、突如として強烈な爆風がガーフィールを襲った。彼は咄嗟に盾を構えたが、その衝撃に後退せざるを得なかった。
「くそ……何だ、こいつら!」
ガーフィールが苦しそうに唸るが、エミリアがすかさず魔法で援護する。彼女の放つ氷の刃が敵の戦士たちを切り裂き、ガーフィールに再び勢いを与えた。
「大丈夫、ガーフィール! まだ戦える!」
「おう! サンキュー、エミリア様!」
二人の連携が、徐々にプリシラの戦士たちを追い詰めていく。しかし、スバルはそれでも焦りを感じていた。プリシラ本人が未だに余裕の表情を崩さない。彼女の強運が、まだ何も大きなアクションを起こしていないということに気づいていた。
「ベティー、準備はいい?」
スバルがベアトリスに声をかけると、彼女は目を細めて頷いた。
「もちろんかしら、スバル。あの女の運命を変えるなら、今しかないかしらね」
ベアトリスが大きく手を広げると、その体から光が放たれ、周囲の魔力をかき集め始めた。彼女の魔力はその場にいる全員を圧倒し、プリシラもその存在感に気づいた。
「ほう……これは見ものね。お前たちが何を企んでいるか知らないけれど、無駄よ」
プリシラがそう呟いた瞬間、アルが僅かに動いた。彼はプリシラの背後に立ちながら、仮面越しにスバルを見つめる。彼の手がゆっくりと、かすかに震えながら動き出した。
「今だ、アル……お前の出番だ!」
スバルは心の中で叫んだ。アルがプリシラに背を向け、行動を起こす瞬間が近づいていた。そして、その瞬間──
「行くぞ……!」
アルは、仮面越しの視線をスバルに送りながら、一気に動き出した。彼が取った行動は、プリシラ陣営にとって致命的な裏切りだった。プリシラの背後を突こうとしたその瞬間──
「──お前、何をしているの?」
プリシラが振り返り、鋭い声で問いかける。その言葉には、これまで感じたことのない疑念と怒りが混ざっていた。
「……これが、俺の選んだ道だ」
アルの声は低く、だが決意に満ちていた。その瞬間、スバルは確信した。運命が、今たしかに音を立ててて扉を開けた。