アルがついに動いた。その決断はプリシラにとって予想外だったのか、彼女の顔は初めて、僅かに驚きを感じさせた。今まで常に自分に運命が味方していると信じて疑わなかったプリシラが、ここで初めて動揺の兆しを見せたのだ。
「お前、私に背を向けるつもりなのか……?」
プリシラの声には、静かだが確かな怒りが混じっていた。彼女はこれまで自分に逆らう者はいないと確信していた。それが今、最も近くにいたアルに裏切られたことで、その強固な自信に初めて揺らぎが生じている。
アルは仮面の下で決意を固め、短く頷いた。
「悪いな、プリシラ様。だが、俺はスバルたちと共に、自分の意思で道を選ぶことにした。もう、あんたの運命に引きずられるのはごめんだ」
その言葉がプリシラに向けられると、スバルはアルの決意に心の中で喝采を上げた。今まで強運に守られてきたプリシラが、最も信頼していた存在に裏切られる──それこそが、彼女の運命を崩壊させる最初の一撃だ。
「ふん……いいわ。ならば、お前も運命に逆らう愚か者として消えなさい」
プリシラは冷たい笑みを浮かべ、指先で軽く空を撫でるように動かした。すると、彼女の戦士たちが一斉にアルに襲いかかろうとした。
「行くぞ……!」
アルはすかさず手にした剣を構え、一歩も引かずに戦士たちを迎え撃った。鋭い斬撃が繰り出され、次々と敵の攻撃を捌いていく。プリシラの側近たちは彼女の強運に依存していたため、個々の戦闘能力はアルほどではなかった。だが、数で勝る彼らは、次々と攻撃を仕掛けてくる。
「やれやれ……こんなもんかよ!」
アルは剣を振るい、目の前の敵を一掃する。鋭い一撃が相手の鎧を砕き、戦士たちが次々と倒れていく。スバルもその様子を見守りながら、内心で焦りを感じていた。アルは強いが、圧倒的な数に押し潰されるリスクが高い。
「ベティー、頼む!」
スバルが叫ぶと、ベアトリスがすかさず魔法を発動した。彼女の手から放たれた光が競技場全体を包み込み、アルに加勢するように敵の動きを封じる。
「……ベティーが助けるかしら! アル、早くスバルの方に戻るのよ!」
ベアトリスの援護によって戦士たちの動きが鈍り、アルはスムーズに距離を取ることができた。彼は素早く戦士たちを振り切り、スバルたちの方へと駆け寄った。
「助かった、ベアトリス」
アルが軽く息をつきながら言った。
スバルはアルに短く頷くと、再びプリシラを見据えた。彼女の強運は未だ健在だったが、アルの裏切りによってその完璧な支配力に揺らぎが生じている。
「よし、次は俺たちの番だ!」
スバルはエミリアに目をやった。エミリアも準備を終え、今や全力でプリシラに立ち向かう覚悟を決めている。
「エミリアたん、行こう!」
「ええ、スバル! 私たちの力でプリシラを倒す!」
エミリアは、手を高く掲げると同時に、競技場全体に吹雪を巻き起こした。氷の嵐がプリシラを包み込み、その動きを封じようとする。
「こんなもの……!」
プリシラは冷笑し、手を軽く振り払う。その瞬間、周囲にいた氷が一瞬で粉々に砕け散った。彼女の圧倒的な強運と魔力が、エミリアの攻撃を無効化したのだ。
「お前の魔法など、私には通じないわ。運命に愛されているのは私よ!」
エミリアは一瞬、ためらいを見せた。しかし、スバルがその背中を支えるように声をかける。
「エミリアたん、負けるな! 俺たちにはまだ希望がある!」
スバルの言葉に奮い立ち、エミリアは再び魔法を唱え始めた。氷の刃が無数に出現し、今度は一気にプリシラに向かって襲いかかる。
「ふん……何度でも同じことよ」
プリシラは再び軽く指を鳴らし、氷の刃を次々と弾き返していく。しかし、スバルとエミリアはその間に距離を詰め、ついにプリシラの至近距離にまで迫った。
「今だ、エミリアたん!」
スバルが叫び、エミリアが最後の魔力を込めた氷柱を一気に繰り出す。プリシラはその瞬間、初めて軽く動揺した表情を見せた。彼女は間一髪でそれを避けるが、その動きは明らかに遅れていた。
「運命に……抗うというの……?」
プリシラはわずかに焦燥感を滲ませた声で言った。スバルたちの連携が、彼女の完璧な支配に亀裂を入れ始めている。
プリシラは、ついに追い詰められていた。彼女の強運は揺らぎ、アルの裏切りによって彼女の側近たちも次々と倒されていく。周囲の観衆もまた、その状況に息を飲んでいた。
「ふん……これで終わりだとでも思っているの?」
プリシラは最後の力を振り絞り、再び立ち上がった。だが、エミリアは冷静にその様子を見つめていた。
「いいえ、プリシラ。あなたの運命はここで終わるの」
エミリアの手から、氷の魔法が再び放たれる。その瞬間、プリシラは反撃しようとしたが、今度はアルが動いた。彼はプリシラの足元に向かって一撃を放ち、その動きを封じた。
「悪いな、プリシラ様。これが、俺の選んだ未来だ」
プリシラは驚愕の表情でアルを見つめる。そして、その瞬間、エミリアの魔法が彼女を包み込み、プリシラはついに地面に倒れた。
「……私の運命が……こんなところで……?」
プリシラはその場に崩れ落ち、王選はエミリアの勝利に終わった。観衆が静かに見守る中、スバルはエミリアの隣に立ち、彼女を支えるように微笑んだ。
「やったな、エミリアたん。これで君が……」
「ありがとう、スバル。みんなのおかげで……私はここまで来られたわ」
エミリアの瞳には、これまでの試練と苦難を乗り越えた達成感が滲んでいた。