全知VS全恥 作:釘パンチ
「うーん。どうすっかなぁ」
ちゃぶ台の上の一枚の便箋とにらめっこをする。
中身は端的に言えばラブレターで送り主の名前に覚えはあった。
一回だけ発明の実験に付き合ったくらいで、カズマからしたら特に何かあったわけではないこともあって何とも言えない気持ちになっていた。
「あら、カズマが悩ましそうに唸っているなんて珍しいですね」
所要で離席していたヒマリが部室に戻ってくると、年に一度見るか見ないかくらい珍しいカズマが難しそうにしている様と同時にちゃぶ台の上の手紙が目に入る。
「後輩からラブレター貰った」
「は……?」
シンプルに困惑の声が漏れ出た。
確かに頼みごとは初対面でもホイホイ安請け合いするし、ちょっと困ってそうな人を見たら考えなしに首を突っ込みに行ってしまう彼ではあるものの、頭の残念さでそういう話が出てくることは、ヒマリの記憶が間違いなければ無に等しかった。
「あんまりそういうのわっかんないしなぁ。断るとは思うけど」
「思うけど? なんです?」
カズマとしては断る前提ではあるらしく、その答えにヒマリは少しホッとした。
「……いや、自分で考える」
一人になりたくなったカズマは部室を出ていって散歩を始める。
能天気だとか、バカだとか、散々なことを言われることもあるが、別に考えない訳ではない。たまには一人になりたい時だってある。
告白するということは、勇気がいることだとは思う。
それを断るだけの理由をカズマは考えていた。
別に送り主が嫌でもないが、告白を受け入れた場合のことを想像すると、嫌な感じがした。
ヒマリとの関係は人生の何処かで、いつの間にか出会っていて、それが始まりで腐れ縁のように関係が続いている。
足が不自由な彼女の補助をしたり、身体を動かすことしか取り柄のない自分の能力を貸すくらいは当たり前にするが、別に彼女自身が助けてと言ったわけでも、困ってそうな表情を見せたことはない。
むしろ、どちらかと言えば常に自信満々で自画自賛を毎日しているようなヒマリに、そんな憂いがあるとは表面上ではあまり思えない。
「なんで、ここでヒマリのこと考えてんだか……」
思わず、ヒマリのことを考えてしまったのは一番付き合いの長い異性だからであって、そういう対象として見れそうにはなかった。
本人の自画自賛通りに美少女よりの存在だと認知はしているが、それでカズマ本人が好きかどうかはまた別の話である。
「あー、モヤモヤする……」
付き合ってしまった場合。特異現象捜査部としての活動は変わる筈もない。
変わったとしても自由時間の時に部室にいない位で、大きく変わることはきっとない。
「って、時間じゃん」
ふと、時計を見ると、送り主が指定した時間に差し迫っていた。
答えがどっちにしても、行かないという選択肢はなく、その足で目的地へ向かう。
一方その頃。
(え、私の名前出てくる理由ありました?)
ヒマリはカズマの端末をハッキングして盗聴していた。
立派な犯罪行為なのだが、彼の取る選択は気になってしまったあまり、ついつい手が動いてしまったのだから仕方ない。
それはそれとして、一人で考えると言って出ていった彼の口から独り言とは言え自分の名前が出てきたことに驚きを隠せない。
(いえ、出てきた以上は理由はあるのでしょうが……普段私のことなんてどうでも良さそうにするくせになんです? ツンデレというやつですか?)
その理由を口にしていないので、彼の心までは読めないが、確実にヒマリの脳は破壊されていた。
『あの……手紙読んでくれましたか?』
程なくして盗聴音声が風の音を拾うようになったため、屋上にでも移動したのだろう。
手紙の送り主らしき人物の声が聞こえてヒマリは固唾を飲む。
『ごめんだけど、君のことは好きでも嫌いでもない。ないんだけど、ほっとけない子が居るから、想いには答えられない』
「おや……?」
雲行きが変わってきた。
断るとは発言していたため、適当な理由でもつけるのかと思いきやかなり真剣なカズマの声がヘッドホン越しに聞こえてくる。
『その子は多分、俺が知らないだけで怖いことも不安なこともあったんだと思う。でも、それでも周りにそう思わせないようにするのって大変なんだとも思う』
恋する乙女というのは盲目なもので、明言されてもいないのに、カズマの言うその子が自分のことだと思い込むようになってしまっていた。
『だから、俺はその子のことが好きかはわからないけど、側には居てあげたいと思ってるから、ごめん』
「!?!?!?」
ヒマリの脳内がバグり始めた。
それって私のことが好き……ってコト!? と脳内に良くない物質がドバドバと溢れだしたヒマリはエイミがこの場に居なくて良かったと思うくらい声にならない声を出していた。
その後の盗聴内容が覚えられないほどに悶えること数分。
何とかクールダウンしたヒマリの元に、カズマが戻ってくる。
彼は何もありませんでした。という顔をしているが、ヒマリは何を話したいたかは途中までは冷静に聞けていたため、鎌をかけてみる。
「私達が初めて出会った時にカズマが言ったことを覚えていますか?」
「なんか言ったっけ?」
出会い自体に特筆するエピソードはない。
だけど、そこが二人の始点であるならば、どうでも良い思い出でもない。
「私を見て、綺麗だと言ったんですよ。カズマは」
「そんなこと言ったっけな」
ニヤニヤと当時を思い出すヒマリに対して、畳の上で寝そべったカズマは彼女の方に顔を向けなかった。
勝敗
-
ヒマリの勝ち
-
カズマの勝ち