るなの家に差出人のない手紙が届いた。
捨てようとも思ったが読んでみることにした。
手紙を読み始めて恐怖を覚えるるな。
るなの秘密とその回想を描いた小説です。

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過去の手紙と未来への手紙

~不意打ち~

 

 ある日会社から帰宅したるなは、マンションの鍵を開けてロビーに入ると

 郵便受けから、束になった手紙を取り出した。

 

 るなの住むマンションは、駅から近い静かな住宅街の中に建っていて

 5階建ての外観は白亜の城と言った感じで周りの住宅とも違和感のない建物だった。

 

 3階に住むるなは大体の住民とは挨拶を交わす顔見知りになっている。

 

 エレベーターが開くのももどかしく、自室の玄関に無造作に靴を脱ぎ棄て

 ソファーに座ると疲れが波のように押し寄せてくる。

 

 テーブルの上に持ってきた手紙の束を無造作に置いて

 目元をマッサージしながら疲れを確かめるようにしばらくボーっとする。

 

 今日は金曜日。明日は休みだからゆっくり寝ようと思いながら、

 テレビのリモコンを操作する。

 

 けたたましい笑い声が飛び出し眉を顰める。

 

「癇に障る声だわ。」疲れがぶり返すような気分。

 

 どうして普通に話す事ができないの?芸人が嫌いなるなはチャンネルを変える。

 

 ニュース番組に切り替わり、来月からまた日用品の値上げを報ずるニュースを

 何も考える事無く眺めた。

 

 心の中では「物価が上がっても、給料が上がるわけじゃないのに」と

 テンションの下がる思考になる。

 

 目を瞑りしばらくじっとしていたが、むくりと起き上がり手紙の束を手に取る。

 

 光熱費の通知書を分けておく。あとは大体がダイレクトメールだ。

 

 ひとつづつ見ながらゴミ箱に入れていく。

 

 いくつか見ていく中でふと手が止まる。裏返してみるが差出人の名は無かった。

 

 開けようか?どうしようか?

 

 ごみ箱に捨ててしまおうか?としばらく迷った末、開封することにした。

 

 中にはびっしりと書き込まれた便せんが入っていた。

 

 読み始めてるなは時間が止まったような衝撃を受ける。

 

 そこには、誰にも話したことのない幼少時の事が書かれていた。

 

「誰?どうして知ってるの?」

 

 るなは頭が混乱して正しい判断を下すことは出来なかった。

 

 続きを読むのが怖くなり、テーブルに手紙を置くと

 頭を押さえてうずくまってしまった。

 

「まって、どういうこと?だれが?」次から次へと頭の中で疑問がうずを作る。

 

 目を瞑っているが心臓のドキドキが脳を刺激する。いつもの帰宅後に手を洗う事も

 化粧を落とす事もできないまま、ソファーで固まる、るな。

 

「落ち着くのよ」自分に言い聞かせてみるが、不安が押し寄せるだけで効き目はない。

 思い出したくない場面が頭に浮かんでくる。

 

 

 ~回想~

 

 大勢の人が行きかう場所。るなは小さくて周りのすべてが大きくて

 恐怖以外の何物でも無かった。

 

 声が聞こえる。

 

「るな、ここにいて。動いちゃだめよ。じっとここで待ってて」

 

 お母さんの声。今では誰の声なのか聞き分ける事も出来ない。

 

 ただ、女の人の声。

 

 去っていく後姿を見ながら心細くて泣きそうだったけど、言われた通りに我慢した。

 

 どれくらいの時が流れたのか?見知らぬ女の人がのぞき込んできて何か言っている。

 

 るなはこらえきれずに泣き出してしまった。

 

 そのあと、いろいろな場所につれていかれた。

 

 何を聴かれても聞こえないふりをした。

 

 食べるものを貰えたこと。

 

 寝る場所を与えられたことで、考える事を止めてしまった。

 

 るなは5才で養護施設に収容された。

 

 るなは利発な子で自分の誕生日や名前をひとに伝えることができる子だった。

 

 施設の先生に色々聞かれ、必要な事は話したが家の場所や家族の事は話さなかった。

 

 ただ、あの場所で母とはぐれてしまった事だけを話した。

 

「お母さんを探しているから、それまではここで一緒に暮らしましょうね」と

 先生に言われて、るなはうなずいた。

 

 お母さんは来ない事を知っていたのに言えなかった。

 

 施設では、毎日空を見上げて考える。おなじ部屋の子たちと話す事もなかった。

 

「変な子!」と言われても怖くなかった。

 

 小学校へ上がる前に、初めてみるおじさんがるなを知らない家に連れて行った。

 

 るなは里子に出されたのだ。見知らぬ大きな家の一部屋がるなにあてがわれた。

 

 おじさんの名は、ひがしだいすけ。

 

「お父さんと呼んでもいい。いやならおじさんでいい」

 

 と言われてうなづいただけ。家にはおばさんとおねえさんがいた。

 

 二人ともるなを見ても何も言わず、ちらりと見ただけ。

 

 るなは黙っておじぎだけした。

 

 あてがわれた部屋に入ると、真新しい真っ赤なランドセルと文房具が

 新しい机の上に置かれていた。

 

 心の中では嬉しいのに、ただ、ボーっと見ていた。

 

「私はここでせいかつするんだ。どこにも行くところは無いんだもの」

 

 頭の中でその言葉だけが響いていた。おじさんは優しかった。

 

 毎日返ってくると部屋に来て「今日はなにをしていたの?」と聞いてくれたり、

 これから行く小学校のはなしをたくさん教えてくれた。

 

 おばさんとおねえさんはニコリともしないで、ただ一緒に食事をするだけだった。

 

 入学式にはおじさんが手をひいて一緒に行ってくれた。

 

 にこやかに嬉しそうな顔のおじさんをみて、るなも少し嬉しかった。

 

 一人ぼっちには変わりはないが、平穏な毎日が過ぎていく。

 

 この家で一番好きだった場所は屋根裏部屋。雑多なものが置かれていた。

 

 明るい方へと進んでいくと丸い窓があり大きな木がすぐ近くに見えている。

 

 その窓にもたれかかって大人になった自分自身を想像するのが、

 るなのお気に入りだった。

 

 漠然とした思いではあるけれどるなの横にはお母さんが優しい顔で微笑んでいた。

 

 

 ~未来~

 

 るなはおじさんのお陰で小学校、中学校、高校、大学まで

 何の障害も無く行く事が出来た。

 

 大学入学時は、マンションまで借りて仕送りでバイトせずに済むほど、

 十分にしてくれた。

 

 心から感謝しているし、素直にお父さんと呼ぶように心がけた。

 

 大学1年生の夏休み初めて家に帰った時に

 「お父さん、ただいま」と言った時のおじさんの顔が今でも忘れられない。

 

 目じりが下がり涙が滲んだことを今も鮮明に思い出せる。

 

 「おかえり」と言って頭をぽんぽんとしてくれたおじさんが、

 お父さんになってくれてよかったと心から思えた。

 

 口には出さないが感謝もした。

 

 休みの間に2人で出かけることが多くなった。

 

 ある日、一緒に出掛けて買い物をして楽しく過ごした後、

 ランチを食べるための高級中華料理の個室で料理を待つ間に、

 おじさんからおばさんと離婚することを聞かされた。

 

 仲の良い夫婦だとは思っていなかったから以外でも無かったが、

 理由を聞いてるなは驚いた。

 

 お姉さんはおじさんの実の娘ではない。

 

 お腹に子どもがいることを知らずに仲人をしてくれた人に恩義があって

 結婚したと話してくれた。

 

 子どもが生まれて直感で自分の子ではないと思ったらしい。

 

 おばさんに黙ったまま、親子鑑定をしたところ思った通り

 おじさんの子ではなかったそうだ。

 

 子供に罪は無いのだが、どうしても愛することができず苦しんだおじさんは、

 成人するまでは責任を持つことを決めて、今日まで過ごしてきた。

 

 責任を果たしてホッとした気持ちもあって、おばさんに離婚を持ち出した。

 

 おばさんはおじさんの態度で察していたそうだ。何も反論なく離婚に応じた。

 

 るなは自分を引き取った理由を聞いてみた。

 

「わたしが何も偏見を持たずに愛せる対象が欲しかった」と話してくれた。

 

 愛人を作ったり、他で子どもを作ったりといった不誠実な事は出来なかったと。

 

 るなは、おじさんを信頼していなかった訳ではない。

 

 尊敬もしていたし、自分にとっての家族はおじさんだけだと思ってきた。

 

 もっと早くお父さんと呼ぶべきだったと後悔した。

 

 それをそのまま、おじさんに伝えた。

 

 今は当たり前のように本当のるなのお父さんだと思うから、

 これからは今までの分を取り返せるように仲良く生きていきたいと話した。

 

 お父さんはこらえきれずに涙を見せて

 「誰が何と言おうとるなはたった一人の私の娘だ」と言ってくれた。

 

 心の中の氷が一気に溶けだす音がした。

 

 大学と家は1時間ほどかかる位置にあった。

 

 おじさんは大変だからとマンションを借りてくれた。

 

 るなは「お父さん、私も大学卒業したら就職すると思う。

 結婚もするかもわからない。

 だから、それまでは一緒にいていい?」と申し出た。

 

 本心から、そうしたいと思ったから言葉にした。

 

 おじさんは顔を伏せて「うん、うん」とうなづいていた。

 

 「ありがとう」とるなは笑顔で言った。

 

 夏休みの間に引っ越しを済ませてるなは家に戻った。

 

 家事をするのは大変だからと家政婦さんが来る事になった。

 

 休みにはおじさんと二人でよく出かけた。

 

 春休みや夏休みには旅行にも行って、家政婦さんからも

 「いまどき、珍しいくらい仲の良い親子ですね」と茶化されるくらいだった。

 

 るなの心の扉はおじさんに対して完全に開かれた。

 

 

 ~再会~

 

 リビングに戻りテレビを消して、ワインをグラスに注ぐ。

 

 るなは他人から自分の事を詮索されるのを極端に嫌がった。

 

 だから、学校の友達を家に呼んだりすることはしなかった。

 

 かと言って友達がいなかったわけでもない。

 

 小学校の頃や中学校の頃はかたくなに他人との接触を避けていたし、

 自分から自分の事を話したりはしなかった。

 

 中学校の先生から家の事や家族について聞かれたこともあった。

 

 身上書を見て質問してきたのだろう。

 

 だけど無言で通したし、知っているものは誰もいないはずだ。

 

 高校に入ると地区の友達は一人もいなかった。

 

 初めて会う子ばかりだったのが気持ちを楽にさせた。

 

 3年間で友達と呼べる子もいた。

 

 たとえ表面だけの付き合いであったとしても、るなにとっては嬉しい出来事だった。

 

 家には呼ばず必ずどこかで待ち合わせをして遊びに行ったり、

 常に注意深く過ごした。

 

 大学には隣町に住む仲が良かった子と同じだった。

 

 見知らぬ街で知らない人ばかりで無かったことにるなは安心感をもち

 その子とは学部は違うが仲良くしていた。

 

 その子の家も裕福だったので、お互いに独り暮らしだねと

 行ったり来たりする仲だった。

 

 るなが家から通うことになったと知らせると

 「遠くて大丈夫?どうして帰っちゃうの?」と聞かれた。

 

 「お父さんが一人だと寂しいから、通学は1時間くらい大丈夫よ」と答えていた。

 

 お父さんとは将来の事についても建設的に話し合う事が出来ていた。

 

 「できれば、るなに会社を継いでほしいんだけどな」とお父さんは言った。

 

「そうなるとしても、全く違うところからスタートを切りたいの」と

 伝えて有りお父さんも了解してくれていた。

 

 るなには養父に秘密にしている事があった。母の消息を密かに調べていたのだ。

 

 隣り町にいる事は分かったが、住所などは聞く事を拒んだ。

 

 元気でいてくれるならそれでいいと思っていた。

 

 幸せだとか苦労しているとかどうでもよかったのだ。

 

 生きているならそれでいい程度の関心しかなかった。

 

 会うつもりなど到底なくてただ知りたかっただけ。

 

 探したとしても養父が咎めることはないだろうが、

 哀しむことは間違いないと思い黙っている。

 

 ハッとしてるなはソファーで姿勢を正して座りなおすと、

 手紙を手に取って読み始める。

 

 手紙にはるなが養父に引き取られたところで過去の掘り起こしは終わっていた。

 

 勤務先も書かれており、るなは気味が悪くて身震いをする。

 

 つけられていたのだろうか?気が付かなかった。

 

 いつから?読み進むと「一度会ってお話させてほしい」と

 書かれていて携帯番号が記載されていた。

 

 誰だかわからない人と連絡を取るつもりはない。

 

 まして尾行するような真似をされて気分が悪い。

 

 手紙はそこで終わっていて最後に1枚白紙の便せんが付いていた。

 

 そこに書かれた、母よりの文字でるなは凍り付いた。

 

 今ごろ?何のために会いたいと言ってきたのだろう?

 良い事は思いつかない。普通に考えても厄介事を背負うことになる。

 

 思わず手紙を丸めてクシャと潰しゴミ箱に投げ入れようとした。

 

 でも、できなかった。これが血なのだろうか?それとも興味?

 冷静な判断のできる状態でないことは確かな事。

 

 手紙をたたみ、封筒に戻してテーブルに置いたまま、るなはバスルームに向かった。

 

 

 ~迷い~

 

 シャワーで汚れてしまった心を洗うように長い間打たれ続ける。

 

 ノロノロと化粧を落とし、体を洗いシャンプーをする。

 

 バスタオルを巻いたまま冷蔵庫を開けてグレープジュースを一気に飲んだ。

 

 ガウンを羽織り髪のしずくをふき取りながら、ドライヤーをかける。

 

 テーブルの上に目を落とし手紙を一瞥して、

 ベッドルームに入りパジャマに着替えた。

 

 ベッドに転がり天井を見つめたまま、頭の中をいろんな思いが

 通り過ぎるのを感じた。

 

 考えたくない!と思いベッドルームのテレビをつける。

 

 ドラマをやっているようだが、セリフも映像さえも頭には入ってこない。

 

 

 ベッドルームでワインを飲みながら、頭の中を整理していた。

 

 嫌悪感と興味が争っている。目を閉じていると養父の笑顔が浮かんでくる。

 

 「明日は家に帰ろうか」と独り言をつぶやきながら、

 真っ黒な闇の中に落ちていった。

 

 翌日の朝、家に帰るつもりでるなは直接仕事に出かけられるようにセットした。

 

 家に着くと父は出かけているという。どこにいったの?

 

 と聞くと朝の散歩に出かけたらしい。

 

 思わず笑みが出る。

 

 何を期待していたのだろうと思った。

 

 食事をせずにマンションを出てきたので、軽く食事を準備して貰って食べていると

 養父が帰って来た。

 

「帰ってたのか?」と笑顔で言う父に「恋しくなってね」と冗談交じりに言うと

 養父は声を上げて笑った。

 

 「なにか?あったんだろう?」と小声で問いかける養父。

 

 隠し事はできないな、とるなは微笑んだ。

 

 「実はね」とるなは正直に手紙の事を話して、手紙をみせた。

 

 黙って読む父。読み終わると「どうするんだ?会ってもいいんだよ」と言った。

 

 「どうするべきか?悩んでしまって、お父さんならどうするかな?って思ったの」

 

 「なにか、事情があったんじゃないか?会ってみてもいいと思うが」と養父は言う。

 

 だけど、施設のことからすべて知っているように手紙には書かれている。

 

 事情があったとしても会いに来ることは出来たはずだとるなは思う。

 

 どうして今ごろ?それこそ、良くない事情がある気がしてならない。

 

 今すぐ結論は出せないと思ったから、考えるのは後回しにしようと決めた。

 

 いつも通り養父と出かけたり楽しく過ごす事が大切だと思ったのだ。

 

 養父も聞かれない事には口を出さずに見守ってくれた。

 

 買物に出かけたり食事をしたりと平和な休日を養父と二人で堪能した。

 

 「やっぱり、家がいいわ」と伸びをしながら言うるなに養父は

 笑いながら嬉しそうに目を細める。

 

 そんな養父を見ながらるなは「本当にお父さんの子どもなら良かったのに」と思う。

 

 養女だという事実はどんなに願っても変える事はできない。

 

 実父の顔さえ知らないのに。

 

 

 ~決断~

 

 太陽がまぶしいくらいの気持ちの良い月曜日の朝、

 るなはいつもより早い時間に家を出た。

 

 通勤時間を考慮したのだ。

 

 電車に揺られながら、どうするべきか?決めかねている事を

 決断しなければいつまでも終わることは無い。

 

 思い切って会ってみようかと気持ちは傾いている。

 

 一度だけの事だから何も起こらないだろう。

 

 その日の会社帰りに、るなは書かれていた番号に電話を掛けた。

 

 しばらく呼び出し音の後に、「もしもし?だれ?」と女性の声が聞こえる。

 

 思っていたより若い声だった。

 

 「手紙を貰ったから、電話しました」とるなは伝えた。

 

 「……るな?るな?」少し詰まった感じで聞いてきた。

 

 「そうだけど、会いたいって書いてあったので電話しました」

 

 暫く無言でるなは思わず電話を切りたくなった。

 

 「金曜の夜なら、時間とれますけれど18時から1時間くらいなら」と事務的に伝える。

 

 「金曜の夜ね?18時ね?わかったわ、会えるならどこにでも行くわ」

 

 会えるならどこにでも行くわ?わざとらしいとるなは無性に腹が立った。

 

 「じゃ、金曜日18時にカフェテラス・リンクに来てください。知ってるでしょ?」

 

 「ええ、わかるわ。必ず行くから。会って話しましょ」るなは電話を切った。

 

 番号非通知でかけたから、かけなおす事はできないはずだ。

 

 常にこちらが主導権を握るつもりだから、大丈夫だ。

 

 時間は待ってくれず、刻々と金曜日が近づいてくる。

 

 金曜日の服装には気を使ったるな。

 

 できるだけスキの無いようにビジネススーツを選ぶ。

 

 鏡を見て「よしっ」と声に出してみる。

 

 勤務時間も少し緊張気味で落ち着かなかった。

 

 退社時間が近づくと心はいつもより落ち着いていると自分で感じる。

 

 時計を確認して目的地に向かう。始めから店に入って待つつもりは無い。

 

 相手が来るのを隠れてでも確認してから遅れて入るつもりと計画している。

 

 表情を変えずに話を聞こう。どんな言葉が出るのか予想もつかない。

 

 スキを与えないように心を落ち着かせる。それでも、ドキドキと鼓動が耳に響く。

 

 1時間では話は終わらない事も予想して、手紙を書いてきた。

 

 「あなたがしたことを、追及したりするつもりは無いです。

 

 責めるつもりもない。

 

 あなたが私の手を離した時が縁の切れる瞬間だったのです。

 

 私はあなたのしたことを許します。ですが、

 もう二度とお会いすることはありません。

 

 お互いにすれ違ってしまったのですから、

 それぞれの生き方で他人として終わりたいのです。どうぞお元気で」

 

 言葉を少なく交わすだけで終わらせるつもりでいた。

 

 そして、本当に私の中で過去は切り捨てよう。

 

 明日は、不動産屋に行って引っ越しの準備をするつもりだ。

 

 二度と会わない為に、お互いの過去を捨てるために。

 

 わたしは養父との縁を、偽物だとしても守りたい。ただ、そうしたいと思う。

 

 車窓には夕焼け空のオレンジ色が色濃く差し込んでいる。

 

 あの時、あの丸窓の横にいた母は幻であり、

 私は、二度と後ろは振り向かないとるなの心は軽くなっていく。

 

     手紙という物語は幕を閉じた。


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