ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの奪還   作:ミハイル・シュパーギン

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無限軌道杯

鏡像世界。

 

「会長、本当に勝てるの?」

「味方は増えたのか?」

 

大洗女子学園生徒会長の西住まほはそう聞き返しながら、副会長を兼任する園みどり子が差し出したタブレット端末にサインを書き込んだ。

 

「だったらそんな事聞かないわよ。継続高校以外、みんな尻込みしてるわ?」

「マジノもダメなのか?」

 

園は肩をすくめた。

 

「ええ。BCを吸収したからって調子に乗ってるわ」

「・・・連中、状況を全く分かっていないな」

「そうね。一応交渉は続けるけど、多分厳しいわよ」

「聖グロの連中、戦力拡充したからって無茶苦茶なルール改定しやがる・・・」

 

タブレット端末を園に返すと、まほはリクライニングチェアに背を預けて溜息を吐いた。「無限軌道杯か・・・」

 

その時、机上のパソコンモニターに通信が入った事を示す表示が音を立てながら点滅する。

 

「島田流家元だ」

 

まほは身を起こすと、エンターキーで応答コマンドを打ち込んだ。

 

画面が島田流家元の島田千代に切り替わる。

幾多の修羅場を無傷で切り抜けて来た彼女だが、その表情は美しくも血生臭い歴史を物語っている。

更に島田愛里寿という愛娘をもうけた事で、西住しほとは違う心情の変化があったようだ。

 

それこそが、現在の戦車道の在り方に疑問を抱き、変革しようと志すきっかけになっている。

 

「まほさん」

「島田流家元、お久しぶりです。あの時は命拾いしました。本当に有難うございます」

「いえいえ。ダージリンの馬鹿がチャレンジャーⅡから指揮していたおかげで、私も助かりましたわ」

 

あれはこちら側のあんこうチームと入れ替わるようにして平行世界から迷い込んできた別のあんこうチームを元の世界に帰した直後の事だった。

 

まほは正直、最後はセントグロリアーナ戦車隊に押し潰されて死ぬ事を覚悟していた。

西住流家元であり、自分の母親でもある西住しほの乗る10式戦車で自分が乗るポルシェティーガーが攻撃され、重傷を負っていたので逃げようにも逃げられなかったのである。

 

最後の通信として、大洗戦車隊に撤退と艦内への潜伏を命じようとしたが、被弾の影響で無線が壊れていた。

 

なんとか連絡を付けようと、脱出用ハッチを開いてポルシェティーガーから這い出ようとしたが、不意に砲撃戦が止まっている事に気付いた。

 

島田千代が戦闘中止を命令しにシェリダン空挺戦車部隊で駆け付けたのである。

 

その時、島田流家元はセントグロリアーナ隊長のダージリンがチャレンジャーⅡから指揮を執っている事に気付くと、それを盾に強制的にこの『試合』を無効にしたのだった。

 

他にも様々なやり取りはあったが、おかげでセントグロリアーナ戦車道チームを強制的に大洗女子学園の学園艦から撤退させる事に成功し、西住流家元もルール違反の現行犯で拘束され、ひとまず事件は収束を見せた。

 

因みに、鏡像世界に帰還した鏡像あんこうチームはそのどさくさに紛れて逃走しており、艦内に潜伏していると思われたが、実際に事実である事が確認されたのは、無限軌道杯が数年ぶりに開催される事が決定した後の事である。

 

先程のまほと園の会話からも分かる通り、ダージリンは無限軌道杯の再開催に際して、一度に出場させられる戦車の台数を青天井、即ち無制限にした上、殲滅戦ルールを適用したのである。

 

さて、ここでまほと島田流家元の会話に戻そう。

 

「千代さん。他の高校はどうしても聖グロを恐れて参加しません」

「そうね・・・サンダースと黒森峰を吸収して属校化して一気に勢力を拡大したものね・・・」

 

撤退後、セントグロリアーナは壊滅状態となったサンダースを吸収して属校化し、続いて黒森峰女学園を吸収していた。

プラウダ高校はカチューシャの後釜としてクラーラが隊長を務めていた為、グロリアーナによる併合は免れた。

隊長不在はこのような理不尽な運命に呑み込まれるのが、鏡像世界の暗黙のルールである。

 

「それに加えて、出場可能台数は無制限」

「地上をグロリアーナと配下の高校の戦車が埋め付くのは間違いないわ」

「だからこそ、全校で結束しなければ、あの帝国には勝てません。なのにマジノ女学園はなぜか自信満々で応じないのです」

 

千代は呆れたように扇子を口に当てて笑った。

 

「オッホッホ。マジノはそんなたわけた事を?」

「ええ。ARL44重戦車を4、5台とその乗員を手に入れたところで、今のグロリアーナ相手には焼け石に水ですよ」

「水ほどの役にも立たないんじゃないかしら?」

「しかし弱りました。プラウダは我々西住流を恨んでいますし、隊員の離脱も相次いでいて衰退に歯止めがかからないようです。とても味方としては・・・」

「でもこの際、贅沢は言ってられないかもしれませんわね。私からも働きかけてみますわ」

「お願いします」

「このままでは明日の試合が一方的な殺戮になりますわ」

「千代さん。今の試合の形態に疑問をお持ちなのに、どうして・・・」

「目的は殺し合いではありません。でも、訴えるだけでは何も動きませんわ・・・あなただって、妹さんと一時同盟を組んだのでしょう?」

 

そう、無限軌道杯の開催が決定し、グロリアーナによるルール改定が行われてから、まほは(もし艦内にみほが潜んでいるならば)という前提で艦内放送で自分の妹に協力を呼び掛け、対セントグロリアーナの一時同盟を結んだのである。

 

「はい。必要な事でした」

「それと同じよ。まあそれで、世の中が動くかどうかは別ですけど」

「分かりました。我々も最善を尽くします」

「よろしく」

 

通信が終了し、画面が大洗の校章に戻った。

 

まほは二度目の溜息を吐いた。

 

 

続く

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