【ヒックとドラゴン】バーク島のモンスターライダー 作:さざめく葉っぱ
バーク島の森の中を、息遣い荒く少女は走る。
「──ハッ、ハッ、ハッ!」
見知らぬ部屋、見知らぬ人、聞いた事のない言葉。
頭も体も痛い。どうしてこんな場所にいるのかも分からない。
少女は、混乱の極みにいた。
それでも、あの少年が彼女の宝物の1つを渡してくれたくれた事により、少しは落ち着きを取り戻すことが出来た。
しかし、その宝物──絆石を通した彼女の呼び掛けに、あの子は応えなかった。
彼女の相棒、家族と言ってもいいような絆で結ばれたあの子。
思考も覚束無い状態でも、彼女はその子の事だけを考えていた。
考えるよりも先に、体が動いていた。
道を外れ、草をかき分け、深い森の中を走る彼女だが、その先にあの子がいるというような確信があるわけでは無い。
ただ、今はただ、ひたすらに走っていたかった。
信じたくなかったからだ。
あの子との繋がりが途切れてしまった事実を──
その事実が示す、残酷な現実を。
「──くっ、うぅ!!」
必死で走る彼女。およそ常人の速さとは思えない身体能力で、道無き道をを突き進んでいく。
「──! ──!!」
後ろの方から声が聞こえてくる。
先程彼女の絆石を渡してくれた少年の声だ。おそらく制止を呼びかけているのだろう。
それでも、彼女は止まらなかった。止まれなかった。
止まってしまえば二度と、立ち上がれないと思ったから。
だが、そんなものが永遠に続くわけもない。
いつしか木々はまばらになっていき、森を抜けたことがわかった。
森を抜けた先に広がっていたのは、断崖絶壁。
未だ嵐の余波が燻る荒波が、切り立つ崖に打ち付けられている。
強い風が、彼女の長い髪を弄ぶ。
その崖を前に止まらざるを得なかった彼女は、それでもその名を叫んだ。
最愛の家族の名を。
「──レウスーーーーーー!!!!!!!」
少女の叫びが、荒れる海に響き渡る。
だが……
それに応えるものは、ついぞ現れなかった。
「あ、あぁ……」
岩場に力無くへたり込む少女。
その背を、ヒックたちバーク島のドラゴンライダー達が見つめていた。
「彼女、いったい……」
「……失ったんだよ」
フィッシュの疑問に、ヒックは悲痛に顔を顰めて答える。
「君にとっての、ミートラグを。僕にとっての……トゥースを」
「そんな……」
ここに来るまでにある程度の事情を説明したスノット達も含め、ヒックの言葉に皆は心を痛める。
ライダーにとって、ドラゴンとの絆は家族そのものだ。
皆、相棒との別れを想像した。それはヒックら人間たちだけでなく、ドラゴン達もだ。
この場にいる全員が、少女の悲しみを感じ取っていた。
トゥースから降りたは良いものの、しばらくの間少女の慟哭を前に話しかけられずにいたヒック。
しかし……
「あ、ちょ、ちょっと!」
ふら、と力無く立ち上がる少女は、風に煽られて崖下の方に倒れ込んだ。
マズイと思い駆け出し手を伸ばす。
「くっ!」
ギリギリのところで手を掴み損ね、少女の体は荒海へと投げ出された。
しかしヒックは、海に落ちていく彼女を追いかけて単身で崖から飛び降りる。
「「「「「ヒック!!」」」」」
少女と共に崖下に消えていったヒック。
それを見たトゥースも、ヒック無しでは飛べないにも関わらず勢いよく崖から飛び降りる。
突然の事態で皆固まっていたが、各々の相棒と共に崖に向かって同じように崖から飛び降りる寸前、崖からヒックと少女を載せたトゥースが飛翔してきた。
海面に叩きつけられる寸前に、彼らは間一髪で彼女を救ったのだった。
「あ、危なかった……」
しかし彼女は、再び意識を失ってしまっていた。
病み上がりの体であれだけ走り、泣いたのだ。無理もないだろう。
涙で目が腫れている彼女の顔から目を逸らし、ヒックは皆に声を掛ける。
「……帰ろう」
彼女の持つ謎について、聞きたいことは山ほどある。
しかし今は、少しでも彼女を休ませてあげたいと思っていた。