【ヒックとドラゴン】バーク島のモンスターライダー 作:さざめく葉っぱ
「さ、これを飲んで。あたたかいスープだ」
「……」
あの後、再び彼女を僕の家で休ませた。
少ししたら目を覚ましたんだけど、幸い今度はさっきのように突然出ていったりする様子は無かった。
代わりに、かなり意気消沈してしまっているけど……。
スープを受け取った彼女は、少し匂いを嗅ぐ素振りを見せたあと、恐る恐る口に運んだ。
その表情から察するに口にあったようだ。良かった。
スープを飲む彼女を尻目に、テーブルを挟んだ反対側で僕らはちょっとした作戦会議を開いていた。
「なぁヒック、俺あいつにたんこぶ作らされたんだけど!」
そう主張するのは、僕らの仲間の1人であるスノットだ。
力強く屈強なヴァイキングだけど、お調子者でナルシストな節があるのがたまに傷。
それとちょっと……いやかなり惚れっぽい。
「だが俺は気にしない。スノット様はこれしきの事で女の子を責めるような男じゃないのだ」
ほらね。
スノットは彼女にウインクを飛ばすと、彼女は困惑しながらもおずおずと会釈をした。それに喜ぶスノットの様子を見るに、彼女に吹っ飛ばされた件は既に頭から抜け落ちてしまったらしい。
「ヒック、結局この子何者なんだ? オレはてっきりイノシシの化身かと思ったぜ」
「さっきのスノットは傑作だったね。もう一度やってくんないかなぁ〜」
双子の兄妹ラフとタフは、島でくだらない悪戯を繰り返すトラブルメーカー。悪戯の神ロキへの信仰を自称している。
2人で悪戯してたり口喧嘩してたりと、仲が良いのか悪いのか分からない似た者兄妹だ。
本人たちが聞いたら怒るだろうけどね。
「今からそれを聞くところだよ。とりあえず、名前からだけど。え〜と……」
「……?」
椅子に座った僕はジェスチャーを交えてなんとか会話を試みる。
「僕の、名前は、ヒックだ。ヒックだよ、ヒック」
「……ひっく?」
「そう! ヒックだ。君の名前も教えて欲しい。君の、名前だ」
たどたどしく僕の名前を繰り返す彼女。
僕が自身を指さしながら名前を言ったように、彼女に向けて同じように指を指す。
「──ソフィア……ソフィア」
「ソフィア? それが名前?」
「──!」
コクコクと、表情を緩めて頷く彼女──ソフィア。
頷くという行為が肯定の意味を示すのは、どうやら共通しているらしい。
ようやく第一関門突破ってとこかな。
ふぅ、まったく順調だね。
次は……なんだろう、何から聞けばいいかな。
聞きたいことは山ほどある。どこから来たのか、とか出身は、とかね。
もっとも1番は、あの図鑑や不思議な石のことだけども。
どうやって伝えようかとウンウン悩んでいるところに、紙と筆を携えたフィッシュが助け舟を出してくれた。
そうか、絵だ!
フィッシュがさらさらと簡単にバーク島近辺の地図を描き出す。
いかに嵐と言えども、人ひとりが船も無しに岸に漂着したとなれば、そこそこ近くを航行……またはドラゴンで飛行していたに違いない。
だけどフィッシュが描いたバーク島の絵や、僕らが持ってきた大きい地図を見せても、彼女──ソフィアはピンと来ていないようだった。
「そんなに遠くから流されてきたのかしら」
「ありえないよ。第一そんな長距離からなんて、普通死んじゃうに決まってる」
「じゃあなんだってのよ」
アスティに詰められるフィッシュだが、答えられずに言い淀んでしまう。
しょうがない、こればっかりは今の段階では不明だ。
「フィッシュ、船とドラゴンライダーの絵を描いてくれ」
フィッシュに船の絵と、デフォルメしたドラゴンに乗る人間の絵を描いてもらう。
その両方を見せると、ソフィアはドラゴンの方の絵を指さした。
「やっぱり君は、ドラゴンライダーなんだね」
「……」
するとソフィアは、自ら筆をとってライダーの絵に加筆を加え始めた。
それは、ソフィアも身に付けているあの石だった。
「……──」
その石を指しながら、ソフィアは何か言葉を呟く。
「なんだって? き、きんなすてぃ?」
「それがこの石の名前なの?」
僕らの言葉が伝わっている訳では無いんだろうけど、彼女は真剣な眼差しで頷く。あえて強調したということは、きっとソフィアと彼女のドラゴンとの間の大切な物なんだろうという事が分かる。
……よし、決めたぞ。
僕は、彼女のカバンから取り出した本を広げる。
「ソフィア、これは君の図鑑だよね? 君のドラゴンがどれか教えて欲しい」
「──!」
「ちょ、ちょっとヒック。何で今そんなこと聞くのよ」
「探すんだ」
彼女のドラゴンを。
そう言うと、アスティ達は驚いた顔をする。
そりゃあそうだ、聞くべきことは他に沢山ある。
例えば、彼女がバーク島に危険をもたらす存在じゃないかどうか。それを見極める必要がある。
そんなことは重々承知してるつもり。
だけどそれでも、彼女を放っておくことは出来ない。
「ソフィアがあそこに流れ着いたのなら、近くに彼女のドラゴンも漂着してるかもしれないだろ? もしそうなら、早く探し出してやりたいんだ」
「で、でも彼女が助かったのだって奇跡的だったんだ。こんな事言うのは嫌だけど、正直絶望的だよ……」
「……それでも、たとえ手遅れだったとしても、供養してあげないと。ソフィア、教えてくれ」
彼女の図鑑、そしてライダーの絵を交互に指し示す。これで察してくれるといいんだけど……。
僕らの剣幕と僕の行動に少し戸惑った様子を見ていたソフィアだったけど、差し出された図鑑を手に取ってパラパラとページを捲り始めてくれた。
伝わった、のかな……?
しばらくしてページを捲る手を止めた彼女は、酷く悲しげな表情を浮かべながらも、そのドラゴンを指さした。
「……リオレウス」
「りお、れうす?」
それは、さっき僕らの目に止まった赤いドラゴンだった。
やけにこの種だけ詳しく書かれてるなと思っていたけど、そういう事だったのか。
このドラゴンが、彼女の相棒のドラゴンだったんだ。
「ソフィア、探してあげるよ。君のリオレウスを」
「……──」
だけど彼女は、俯いて左手の石を擦るばかり。少しは元気になってくれたかと思ったけど、辛い思いをさせてしまった。
「やっぱり、その石を通じて分かるんだね。君の相棒の事が……」
瞳に涙を浮かべつつ顔を上げたソフィアだけど、石に触れる手を止めることは無かった。
ライダーとドラゴンの間を繋ぐ石。
絆を結ぶ石、か。
少し羨ましいと思う反面、その相棒を失った時の悲しみは筆舌に尽くし難いだろうと思った。
僕は、彼女の手を取って宣言する。
「絶対に見つけてみせる。約束するよ」
「……!」
ソフィアは悪い人ではない。
これはただの直感なんかじゃない。これまでの行動から、僕は彼女がドラゴンへの愛情に溢れた人だと確信したんだ。
そんな人が、バーク島に害をなすもんか。
たとえ言葉は通じなくても、僕の言いたいことが伝わってくれると信じている。
驚いた表情をしたソフィア。
ソフィアは泣きそうな顔をしながらも、僕の手を握り返してくれた。
「おいヒック! ずりぃぞお前ぇ! ……ソフィアさん、このスノット様に任せてくれ。すぐに君のドラゴンを見つけ出してみせるぜ」
「ハァ、仕方ないわね……」
「ぼくも手伝うよヒック。ミートラグにはなんとか言い聞かせてみるから」
「なぁよく分かんねぇんだけど、このドラゴン探しに行きゃいいのか?」
「話はちゃんと聞きなよタフ。いつもの新種のドラゴン探しに決まってんじゃん?」
「あれ、 そんな話だったっけ? まぁいっか、レッツゴー!」
僕の宣言を聞いた皆が賛同してくれた。
これは決して合理的な判断じゃない、僕の感情を優先したものなのに……
「みんな……ありがとう」
「ほら、探しに行くんでしょ。早く行きましょ」
挑発的に微笑むアスティが、僕に発破をかけてくれる。
まったく本当に、感謝してもしきれないよ。
「……よし、出発だ! ソフィアのリオレウスを見つけよう!」
「「「「「おー!!」」」」」