アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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Chapter.2 ブレイブ•オレンジスター
ユクモノ•ライフ


 屋根がある家というのは実に最高だ。雨風を凌げるし、ベッドも硬くない。そんな当たり前のことが身に染みるのは、サバイバル生活の弊害だろう。

 身体を休めるには良い睡眠から。地面に直接寝そべっていた頃と比べると、確実に今の方がぐっすり眠れる。と、普通はそうなのだが。

 

「……なんで」

 

 最近は家で寝る方が疲れる。

 なんでって、ひっつき虫を飼い始めたからだ。寝る時限定の。

 

「寒い……。布団取らないで」

「じゃあ自分の布団に帰れよ。毎日毎日潜り込んできやがって」

「一人じゃ落ち着かないし、暖かいし」

 

 ひっつき虫ことクレアは、当然ながらユクモ村に家がない。この村に移住を決めたはいいものの、住む場所という問題があった。宿に泊まる金もないので誰かの家を間借りするしかないのだが、結果として俺の家になったと。

 

 百歩譲ってここまでは分かる。人嫌いなコイツが俺の家を選ぶのは。直近まで一緒に住んでたようなものだったし、抵抗もないんだろう。

 だが、毎度毎度俺の布団に潜り込むのは勘弁してくれないか。色々と堪えるこっちの身にもなってほしい。分かんないんだろうなぁ。

 

 実年齢こそ近いが、クレアは子どもみたいなもんだ。人間社会に対して、あまりに一般常識が欠落している。ずっと独りで生きてきたんだから仕方ないし、色々と教えてあげる他ないのだが。

 というか、そうでもしないと身体が持たない。そうでなくとも、ここ最近寝不足が酷いんだ。

 

「……もう起きるの?狩り?」

「いんや。お前は寝てていいぞ」

 

 まだ日も昇り切らないくらいで外は薄暗い。結局それだけ朝早くに目が覚めて、こうして寝不足な人間ができあがる。

 身支度をサッと済ませて、外に出る。俺には、ハンターとは別の姿があるのだ。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……ありがとございやしたぁ」

 

 ま、ただのアルバイトなんだが。

 最後の客が帰り、店内がガランと空く。閑古鳥が鳴いているわけではない。今から昼休憩だ。

 

 茶屋ふるさと。

 自慢の温泉ほどとまでは行かずとも、ユクモ村憩いの場として住民に愛されてる場所だ。

 

「お疲れ様。ひと休み入れていいよ」

「んー。さんきゅー、レイヴン」

 

 そんな店を一人で経営しているのが、レイヴン•フルーリ。古い友人だ。俺と同い年だというのに、自分の城を持って大したものである。

 この店は小さな茶屋だ。昼間は軽食と甘味がメインだが、夜はガッツリと食事もできる。要するに、店長であるレイヴンの匙加減なのだが。

 

 カウンター席でくつろぐ俺へ、カタンと湯気の立ち上るカップが置かれる。湯呑みの中は熱くて渋いお茶。一口啜ると、苦くも風味のある茶葉の香りが鼻から突き抜けた。ほっこりする。気が抜けてこのまま寝そうなぐらい。

 

「今日も……っていうか、ここ最近眠そうだね?」

「例の奴のせいで寝れてねーんだよ」

 

 無論クレアのことである。

 

「ああ、密林で出会ったっていう女の子……。一緒に住んでるんでしょ?役得じゃないの?」

「なら良かったんだがな」

 

 実際のところ、デカい子どもと住んでるようなものだ。人間社会の仕組みやら一般常識やら、教えることが多すぎるし。

 が、そんな苦労も露知らず。レイヴンはふーんとニヤニヤしながら俺を見る。他人事だと思って面白がりやがって。爽やかな顔してるが、どこか人をからかうのが好きな奴だ。

 

「ま、それなら少し休んでなよ。なんなら、午後は僕一人でもいいから」

 

 そう言うと、レイヴンは拭いていた皿を置き、カウンターからホールに出ようとする。

 卓には、さっきの客分の皿が残っていた。

 

「あー、待て待て。俺がやっから。お前はそっちで大人しくしてろ」

「ちょっ……。じゃあ、お願い」

 

 俺が制して変わり、卓の片付けに取り掛かる。レイヴンは少し驚いた表情をしたが、すぐに了承してまたカウンターに戻った。アイツが歩く度に、コッコッと地面を叩く音が鳴る。

 

「もうこの脚になって何年も経つんだから、過保護も程々にしてほしいんだけど」

「動くのは俺がやるっつってるだろ」

 

 この店はキッチン周りをレイヴンがこなし、俺はホール……言うなれば接客を担当している。店の規模からして一人でもなんとかなるが、それでも俺がこの店を手伝うのには理由がある。

 レイヴンには右脚がない。数年前に負った傷の影響で切断したんだ。コッコッというのは、義足が地を着く音。コイツが足を失った原因は俺にある。せめて店の手伝いぐらいはやらないと、償いにならねぇんだ。

 

 卓を片付け終えて、今度こそカウンター席に座って一息。この後賄いが出て、んで午後も接客するというのが日課だ。もちろんハンター業として狩りに行くこともあるが、どちらも俺の日常である。

 密林生活が続いてイレギュラーにも程がある非日常だったが、普段はこんなもの。親友の店と、自分の住む村を守るのが俺のモチベーションだ。世に知れ渡るヒーローのような活躍など、出来ると思わないし望んでもいない。

 

 で、これ何のお話だっけ。忘れた。

 まぁいいか。んじゃこれから、友人の営む店を手伝い、悠々自適にスローライフを送る男の一人綴りでも淡々と……。

 

「センパイ、ちっす〜!」

 

 どうやらダメらしい。

 軽い挨拶と共に店の戸が勢いよく開き、ゾロゾロと見知った顔どもが入店してくる。

 

「シアン、店の中では静かにっていつも言ってるでしょ」

「えー、いいじゃん。今は休憩中っしょ?それよりお兄ちゃん、お腹空いたー」

 

 シアンは相変わらずこんな感じで騒がしい。遅れてガルザ、クレアも入店してくる。みんなシアンに誘われたか。

 そうそう。今さらな話になるが、シアンはレイヴンの妹だ。

 

「……何してるの?」

「何って、見ての通り店員だが」

「こんな事してたんだ……」

 

 なぜかクレアはガッカリとした表情。そういえばまだ店の手伝いの話をしたことはなかったな。なぜ落胆してるのかは知らん。

 つか、こんな事とはなんだ。こんな事とは。

 

「センパイがさ、ぜーんぜん狩りに付き合ってくれないからつまんないって。クーちゃんずーっと膨れてんの」

「膨れてないし、余計なこと言わないで。あと、その呼び方止めてって前から言ってる」

「えーっ!?いーじゃん、あだ名の方が距離深まるっしょ?ほら、アタシのことはシーちゃんでいいからさ」

「嫌」

 

 ジトーっとクレアはシアンの方を見るが、当の本人は全く気にもせず。誰に対しても距離が近いんだよなコイツは。クレアとは、良くも悪くも対極にいると言っていい。

 にしても、狩りに連れてけか。遅かれ早かれ、そんなことを言い出すだろうなとは思っていた。密林から戻ってから、クレアとは狩りに行ってない。村への依頼はいくつか来ていたが、俺とシアンで消化済みだ。

 別に避けてるわけじゃない。狩りに連れて行かないのではなくて、連れて行けねーんだ。理由は簡単で、クレアが依頼に見合ったハンターランクじゃないから。

 

 この村に来てから、クレアは早々にハンターライセンスを取得。正式にギルドに所属するハンターとなった。だが一口にライセンスといっても、ハンターランクには区分けがある。

 俺とシアンは上位ハンターで、クレアは下位ハンター。行けるクエストに差が出るんだ。折悪く、最近は上位クエストが重なった。当然クレアは連れて行けないので、俺とシアンでこなすことになる。それでとうとう不満が爆発したと、そんな具合か。

 一応、何回かはこの仕組みを一から説明はしたんだが……。まぁ、簡単に分かってもらえりゃ苦労はしていない。

 

「前から言ってるだろ。俺やシアンのとこに来る依頼にはまだ行けないって。時間はいっぱいあんだから、まずはじっくりとハンターランクをだな……」

「じゃあ教えて。どうすればいいのか」

 

 やや食い気味にクレアは身を乗り出す。やる気があるのは結構だが、俺はコーチングをするつもりはない。そもそも俺はガンナーじゃないから、クレアに実技的な指導は無理だし。何をそんなに駆け足なんだか。

 ハンターランクを上げるには、ギルドに実力を示す他ない。対象となるモンスターを狩猟して、緊急依頼をこなして認められれば晴れて上がると簡単に説明すればそんなところ。

 

「ままま。焦らず行けばいいじゃないっスか。同じハンターランクの者同士、一緒にクエスト行きましょうよ」

 

 ガルザは相変わらずノリが軽い。コイツも、ランクはクレアと同じだ。下位ハンターの、それも駆け出しよりひとつ上のステップくらい。同じランクの者同士、切磋琢磨する方が俺も良いと思う。

 

「それなら一人でいい。その方が早い」

「そ、そんなぁ……」

 

 まぁ、この調子なのだが。下心があるような気がしなくもないが、ガルザも良かれと思って声をかけてるだろうに。相変わらず協調性のない奴。

 というか。

 

「お前、いつまでこの村にいるんだ?」

 

 ふと今さらな疑問をガルザに問う。俺やシアンと違って、ガルザはこの村の出身ではない。密林から戻ってきて当たり前のように移住してるが。

 いや、別に悪いわけではないが。ふと気になっただけだ。

 

「そりゃもう、ずっとっスよ。どーせ流れのハンターだったんで帰る場所もないし。何より……人生を変える人に出会ったんで!」

 

 あ、はい。そうっすか。

 キラキラとした瞳で、ガルザは隣のシアンに対してチラチラと視線を送る。なんて分かりやすい奴。

 

「えっ!?誰、誰なのガルザ!?」

「……ははは、内緒っす」

 

 当の本人はこの有様だが。無意識って罪だな。残酷がすぎる。

 

「……どうよ、兄貴としては」

「ま、本人に気付いてもらえるところから頑張れとしか。面白そうだけどね、彼」

 

 妹に向けられた、やや変な好意にもこの反応。レイヴンは達観している。というより、ただ面白がってるだけのようにも見えるが。

 

「ともあれ、俺もハンターランクをさっさと上げたいんス。だから、俺にも何卒コーチングしてくださいよ、ヴォルグさん!」

 

 ここでシアンに直接頼めない辺りヘタレだ。

 

 俺と狩りに行きたいクレアに、シアンと狩りに行きたいガルザ。二人ともハンターランクを上げたいというのは共通している。

 

「分かった分かった。クレアも含めて、多少はトレーニングの面倒見てやる」

「ほんとっスか!?」

「やた」

「たーだーし」

 

 俺が指導するだけなら簡単だ。下位ハンターが上位クエストに行けずとも、上位ハンターが下位クエストに行くことはできる。俺とシアンがクエストに付き添えば、ハンターランクなどあっという間に上がるだろう。

 だが、それじゃあ面白くない。

 

「それは村の中だけの話だ。狩りは原則お前ら二人で行くこと。俺はこっちの手伝いもあるんでな」

「え」

「へ?」

 

 まぁ、たまには他の人間ともコミュニケーション取れってこった。

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