アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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フェイス•トゥ•フェイス

 パチパチと火の粉が爆ぜる音だけが聞こえる。ちょっと焼きすぎたかもしれない。串に刺したサシミウオを焚き火から離す。ボーッとしていたから、皮目が黒くなってしまった。

 

「あつ……」

 

 焼きたてだから当然熱い。焦げた部分は苦味を感じて決して美味しくはないけど、私は食事に味を求めない。お腹に溜まれば十分。

 

 渓流は魅力的な場所。緑が豊かで、暖かくて過ごしやすい。密林みたいに土砂降りの雨が降るなんてこともない。食材も簡単に採ることができる。今食べてるサシミウオだって、目の前の湖で釣った。森にはキノコやハチミツも採れる。虫もたくさん。ここなら前よりもっと快適に暮らせそう。

 ……なんて冗談。今の私には帰る場所がある。こんなことを言ったら怒られちゃう。

 

 でも、顔を合わせにくい時ってあるよね。私はいつもそんな感じだったけど、今日は特に。だから、狩りが終わったのにこうして渓流に残っている。

 

「こんなところで一人でおやつか?」

「ヴォルグくん」

 

 遅かれ早かれ来る気がしていた。根拠は全くないけど、なんとなく。

 ヴォルグくんは、なぜかユラユラな足取りで私のところまでやってきた。狩りをして体を動かしたようには見えない。なのに、なんで足元が覚束ないんだろう。そう思っていると、ツンツンした匂いが彼の方から漂ってきた。私は思わず鼻を抑える。

 

「……なんか臭い。変な匂いする」

「あ?……え、もしかして酒の匂い分かるのか?」

 

 ガルクみたいだなお前、とヴォルグくん。

 よく分からないけど、私は普通の人より鼻が効くらしい。なんでだろう。自然の中で暮らしてたからかな。

 

 我慢してくれと言いながら、彼はタバコを咥えて火をつける。あの美味しくないやつ。でも、これまた臭い。

 

「ほぉ、ドボルベルク仕留めたのか。感心感心」

 

 ヴォルグくんは、私の足元に転がっているモンスターに目を向ける。大きな二つ瘤が特徴。これが今回ガルザくんと狩った子だった。

 あまり苦戦はしなかった。私からしたら大きな的で、適当に弾を撃ってたら倒れた感じで。これでも危険度の高いモンスターらしいね。でも、刺激が足りないなってのが正直な感想。

 

「格上のモンスターを無傷で仕留めて、それなのになんで塞ぎ込んでんだ?狩りが終わったら、直ちに帰投すんのがルールだぞ?」

 

 口から煙を吐きながらヴォルグくんは問う。そんなルール、初めて知った。人間社会は決まり事が多くて面倒くさい。

 事情はガルザくんから聞いてるくせに。だから、わざわざここまで来たんでしょ。散歩に来るような場所じゃない。

 

「……彼、なんて言ってたの」

「お前といたら、いつか殺されるってさ。大袈裟なやつめ」

 

 ごもっともだと思う。

 私はガルザくんを撃った。直撃したわけじゃないけど、私の放った弾丸が彼を掠めたの。それも、狩りの最中に。

 

 わざとじゃない。射線上にガルザくんが被さっちゃったんだ。なんでそんなことになったんだろう。ヴォルグくんと密林で狩りをした時は、一度も気にしたことがなかったのに。

 息が合わないといえばそれまでだけど……。私にはその原因が分からない。そもそも、私が人と狩りをするなんて向いてないんだ。ヴォルグくんも、それぐらい察してくれたっていいのに。

 

「やっぱり、私が他人と協力するなんて……」

「俺と出来るんだから、他の奴とでも出来る。俺が急に死んだら、また密林に帰る気か?」

 

 縁起でもないことを言うね。

 でも、ヴォルグくんが言いたいのはそういうことで。彼以外の人とも協力できるようになれと。だって、人は一人じゃ生きていけないもの。それは、この前嫌というほど思い知った。

 

 でも、私は人との協力の仕方を知らない。

 

「……ま、いきなりコンビ組ませて放り投げたのは荒療治すぎたか。悪いな、変な負担かけて。ガルザには俺から謝っとく」

「そんな。そこまでしなくても」

 

 撃ったのは私なのに。参ったな、このままヴォルグくんに甘えきりは嫌なんだけど。

 何も考えずにヴォルグくんと狩りができるなら、きっと楽だと思う。本音はずっとそれでいいんだけど、ヴォルグくんは良しとしなくて。

 

「で、何がそんなに上手くいかねんだ?」

 

 ほら、こんな風に。

 とてもじゃないけど、嫌だなんて言える空気じゃない。それが分かったら苦労しないよ。

 

 私が黙っていると、ヴォルグくんはぷかぁと煙を吐く。言うまで待ってくれてるのか、言うまで帰さないのか……。分からないんだってば。

 

「ヴォルグくん以外の人と組んだことないし……」

「でも、俺の時は上手くいったろ?」

 

 それは、そうだけど……。

 あの時は必死だっただけで、何も考えてなかったんだけどな。

 

 違いがあるとすれば、信頼しているか否か。ガルザくんを信じて前衛を任せられるかと聞かれたら、正直そんな自信はない。付き合いの期間が短すぎるんだから、私が悪いんじゃない……はず。

 

「確認がてら、久々に試してみるか」

 

 確認?

 ヴォルグくんが妙なことを言った矢先、水辺から黄色いモンスターが飛び出してきた。四つ足の、モサモサしたタテガミをした子。あまり強そうには見えない、確か名前は……ロアルドロス。

 

 私がボウガンを構えるより先に、ヴォルグくんはもう突っ込んでいた。剣を振り上げ、タテガミを縦方向に切り裂く。

 彼一人でも問題なさそうだけど、ボーッと見ているわけにはいかない。すぐに電撃弾を込めて、遠方から狙撃する。

 

「さすが、効いてるね」

 

 モンスターには、一体一体に弱点属性というのがあるらしい。ロアルドロスには雷属性が効く。

 ハンターになってまず驚いたのは、覚えることが多いということ。今までは弾を撃つだけだったけど、アイテムやら肉質やら知らないことだらけでまどろっこしくて、つくづく人間は大変。

 

 でも、覚えるだけの価値はある。ヴォルグくんの剣と私の銃撃。いずれも雷属性の攻撃は、ロアルドロスをみるみる弱らせた。

 私の目から見ても、あのモンスターが倒れるのは時間の問題。弱点を突いている上、ヴォルグくんの武器は強力だから当然かな。

 結局これじゃあ試すも何も、普通に狩猟して終わるのでは。そう思った矢先、背後に気配を感じた。

 

「背後を狙うなんて卑劣」

 

 ルドロスだった。

 気付くと同時に振り返り、射撃して撃退。二匹いたけど、どちらも問題なく沈める。

 

 危ない。そういえば、小型と群れるモンスターもいるんだったね。この前の密林ではそんなモンスターいなかったから、頭から抜けてた。

 そういえばと、ヴォルグくんの方を見る。彼は変わらず、ロアルドロスに肉薄していた。彼は周りを見ていない?ルドロスがあちらにも何匹か寄っているのに、気付く素振りがない。

 

 あのままだと襲われる。私は、標的をロアルドロスからルドロスに変えて射撃。ヴォルグくんの周りのルドロスを掃討する。

 

「おおう、サンキュー」

「ヴォルグくん、そこから離れて!」

 

 すかさず、ヴォルグくんがいた場所を射撃。彼の体に隠れていたルドロスの顔面を撃ち抜く。後ろから襲おうとしてたみたい。

 本当に気づいてなかったのかな。それは一旦さておき、これでルドロスは全部片付いた。

 

「もう少しで当たるとこだったぞ」

「でも避けてくれたでしょ?」

 

 これで元通り、と思いきや少しの変化。飛び交う弾丸が注目を集めたのか、ヴォルグくんばかりを追っていたロアルドロスがこちらに向かってくる。

 地を這うようにせかせかと四つ足を動かしながら、勢いをつけてジャンプ。私を押し潰そうとしてくる。

 

 何とか掻い潜って避けるけど、距離を詰められちゃった。ロアルドロスはすぐに振り向いて、小さく唸る。力を溜めながら、体を横に向ける。

 

「マズい……!」

 

 嫌な予感。その一瞬の勘を信じた私は、すぐに飛び退いた。

 細長い体をいっぱいに使ったタックル。空振ったロアルドロスは、勢い余って派手に地面を転がる。

 

 巻き込まれたら悲惨だった。でも危険な分、それだけ隙も大きい。おかげで、私にも猶予ができた。

 

 弾を撃つ選択。距離を取る選択。

 どちらも自由に選べる。

 

 ガンナーはモンスターから離れて戦うべき。これは教科書の教え。だから本来なら後者を取る。だけど私は、あえてその逆を行く。

 

「シュート」

 

 電撃弾をロアルドロスの胴体に向けて発射。ロアルドロスの意識を、こちらに釘付ける。

 私とあの子は、ヴォルグくんたち剣士が戦うぐらいの距離感。通常弾はどころか、散弾を使うぐらいの距離を保っている。

 

 本来なら安全を確保するために離れるべき。ハンターの基本からは逸れた行動だけど、何も教科書が絶対じゃない。

 私が囮になって、ロアルドロスを惹きつけることに意味があったから。

 

「隙ありだスポンジ野郎!」

 

 ヴォルグくんが背後から、ロアルドロスの体を踏みつけて跳躍。完全に不意をついた形になった。

 そのまま彼はロアルドロスの頭にまで到達し、剣を頭部に深々と突き刺す。それが致命傷になったのか、ロアルドロスはそのまま横倒しになった。

 

 ……私、必要だったのかな。

 

 

 

 

 

「ちゃんと周り見えてんじゃねえか」

 

 ロアルドロスの討伐後。ユクモ村への帰り道でヴォルグくんはそんな事を口にした。確認、って本当にあの狩りの中で何かしてたんだ。

 

「……もしかして、さっきルドロスに囲まれてたのはわざと?」

 

 ピンポーンと、ヴォルグくんは人を小馬鹿にしたような回答をする。ちょっとムカっとした。

 気づいてたなら助け損じゃん。噛みつかれてしまえば良かったのに。

 

 にしても、無茶するね。私が助けなかったらピンチになってたのに。彼なら、あれくらいのルドロスに囲まれても一人で抜け出せたんだろうけど。

 

 そんな危険を冒してまで、私の何を確認したかったんだろう。

 ヴォルグくんとガルザくん。組んだ相手が違うだけで、私は立ち回りを変えてない。私は普段通り動いただけ。そんな器用なことはできないし、分からないし。

 

 ヴォルグくんとのタッグは上手くいった。

 ガルザくんとは上手くいかなかった。

 それだけ。

 

 ……だから例の一件は私に非がないとか、そういう主張をする気はないけど。

 

「お前は周りをよく見てる。見えすぎて、人に指図する余裕すらある。アカアシラと対峙した時も俺に指示できたんだから大したもんだ」

 

 それはそう。

 私は離れて戦う分、それだけ周りがよく見えるし自慢じゃないけど目も耳もいい。人より感覚が鋭い自信がある。

 

 ガルザくんと組んだ時も、狩りは私が主導で行った。それは自然な流れだったし、大きな問題もなかった。そんな矢先に、あの出来事が起きた。

 

「お前の指示は的確だし早い。が、早すぎる。俺やシアンは合わせられるが、ガルザには無理だ」

「早……すぎる?」

 

 指示が早い?

 ヴォルグくんは分かったように言うけど、私はまだピンときてない。指示なんて、早ければ早いほどいいでしょ?

 

「指示が早すぎて、思考の遥か上を行くんだよ。例えばルドロスを追っ払った時の銃撃、俺が避けるだろうと完全に決め打って撃ち込んだろ」

「それは……ヴォルグくんなら避けてくれると思ってたし」

 

 確かに私は、『ヴォルグくんならこう動く』と予測して撃ち込んだ。一応声で指示は出したけど、タイミングはギリギリかも。

 ヴォルグくんとガルザくん。さっきも言ったけど、私は立ち回りを変えていない。私の射線上にガルザくんが入ってきたのは、不慮の事故じゃない気がしてきた。

 

「ある意味、理想のコンビネーションだ。言葉少なくて意思疎通できるんだから」

 

 理想のコンビ……。その響きに、少し胸が踊る。

 浮かれる私に釘を刺すように、『だが』と彼は切り返す。

 

「誰とでもってのは無理だ。次からは、お前がガルザに合わせて指示を出せ」

 

 私が……合わせる?

 指示を出された方じゃなくて、出す方が合わせるってどういうこと?

 

 ていうかヴォルグくん、次からって言った?

 

「待って。また彼と組むの?」

「嫌いか?」

「いや、そんなことはないけど……」

 

 もう二度と組んでくれない気がするけど。それに、自分を撃った人の指示なんて聞いてくれるのかな。私だったら絶対に嫌だけど。

 

「心配すんな。アイツはアレで根性がある。あとはお前が奴を信頼するかどうかだ。出来る、出来ないじゃない」

「簡単に言うね。そもそも、なんで指示を出す私が合わせる側なの?普通、逆でしょ?」

「お前なら、それぐらい余裕持てそうだからな。自分のことで精一杯な奴が合わせるより、余裕のある奴が合わせた方がいいだろ?」

 

 つまりは私自身のやる気の問題だと。ヴォルグくんはそう言いたいみたい。

 

 ……本当に簡単に言うよね。ヴォルグくんの理屈はわかる。きっと彼も私に合わせてくれたから。

 でもそのためには、ガルザくんという人間を私が理解しなきゃいけない。知らないことには、息を合わせた狩りなんて出来るわけないだろうし。

 

「……やるだけやってみる」

「おう、それで良い」

 

 そういえば私は、ヴォルグくん以外の人の『色』を知らない。正確には、感じることは感じるけど気にしたこともない、かな。興味もなかったし。

 ヴォルグくんの色は、燃えるような赤。少し燻んでいるけど、周りを照らすぐらいに力強い色。彼の色に興味を持ったのは、大好きだった兄さんにそっくりだったから。

 

 ガルザくんの色はどんな色だろう。シアンちゃんの色は?

 それが分かった時、何かが掴めるのかな。確証はないけれど、そう信じてやるしかないみたい。こんなところで諦めちゃ、密林から出てヴォルグくんに着いてきた意味がなくなるし……ね。

 

 ……ひとまず、今日のことはガルザくんに謝っておこうかな。

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