アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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ウェイスト•ランド

 防具を新調した。

 強力なモンスターを相手するにつれて、今の防具では心もとなくなってきたから、ちょうど替え時なんだって。そう言われて加工屋さんに頼んで、今日ようやく完成。運よく素材は足りていたから、苦労はしなかった。

 

「おー、ミツネにしたのか。いいじゃねえの」

 

 一番に見せたヴォルグくんの反応はそんな感じ。彼らしいといえばそれまでだけど、少し味気ないような。別に、何を期待したわけでもないけど。

 

 白を基調に、赤やピンクがところどころ混じってる防具。鎧ってよりは、衣服っていった方が近いのかも。

 見た目は可愛いし、軽くて動きやすいのは魅力的だけど、頭のお面は正直言って邪魔な気がする。必要なのかな、これ。

 

「取るなよ、それ。瘴気や砂嵐が酷い時は、それで顔覆うんだぞ」

「デタラメでしょ」

「バレたか。いーだろ、あった方が映える」

 

 だってこのお面、明らかに私の顔より小さいし。

 まぁ、つけた方がいいならこのままにしておくけど。

 

 こんな見た目でも、鉄鉱石で作った防具よりずっと頑丈らしい。人間の技術、凄い。

 その頑丈性、防具を着た時の馴染み具合。せっかくの新しい装備だけに、気になることはいっぱいある。訓練所での試運転もいいけど、せっかく天気がいい日なら狩り場で試してみたい。

 そんなことをヴォルグくんに伝えると、彼は二つ返事で了承してくれた。

 

 

 

 ヴォルグくんの許可も得られたことで、私たちは早速集会浴場へ。

 

 この場所は、ハンターだけじゃなくて温泉目当ての観光客も訪れるからいつも騒がしい。だけど、今日の雰囲気はいつもとはさらに違った。

 なんて言ったらいいのか分からないけど、ドヨンと空気が重たい感じ。少なくとも、明るいものではないかな。

 

「あっ、センパーイ!クーちゃーん!」

 

 人混みに紛れていたシアンちゃんが、大きく手を振って私たちを呼ぶ。彼女の明るい声と、派手な金髪はよく目立つ。おかげで、すぐにわかった。

 

「なんだなんだ。祭りでもやってんのか?」

「それどころじゃないすよ。変な依頼が届いてて」

 

 ガルザくんが説明する。みんなの注目を集めていたのは、クエストボードに貼られていた、たった一枚の依頼書。

 場所は水没林。狩猟対象はリオレイアとオロミドロと、二頭同時ってこと以外は普通に見える。

 

「これの何が変なんだよ」

「関係してるかは分からないっすけど、水没林の一帯が枯れ果ててるらしいんす。おかげで、みんな気味悪がっちゃって」

 

 あまり聞かない話だった。周りの環境を変えるモンスターは実在する。でもそれは一部の強大なモンスターであって、今の私たちには縁がない。こんなありふれた依頼で、そんなモンスターに出会えるとは思えないけど。

 ヴォルグくんも隣で首を傾げている。彼が分からないなら、なおさら私が分かるはずない。

 

「それ、本当に下位個体なんだろうな?」

「前にこの依頼を受けたハンターが、鱗持ち帰ってるから間違いないってさ。どっちも観測隊が確認済みで、色とか見た目も通常と変わんないって」

 

 それなら疑う余地はないのかな。

 下位と上位の違いは、要するにモンスターの強さなんだけど、その違いは素材にも表れる。強靭な個体は、それだけ鱗や甲殻も強固。同じモンスターでも、下位と上位だと作られる装備も全然違う。

 

 ……あれ。前に受けた人がいるのに、まだ依頼が残ってるってことは……。

 

「誰か失敗したの?」

「三回目らしいよー」

 

 結構多い。二頭同時クエストは確かに難易度が高いけど、そんなに失敗するほどなのかな。

 ヴォルグくんの方をチラッと見る。彼は、顎に手を当てて何か考える表情。悩んでるのかな。どちらにせよ、彼の判断で決まるようなもの。

 

 集会浴場にいたハンター全員の目が、ヴォルグくんに集中する。下位のハンターで三度の失敗となると、上位ハンターが頼りになる。その彼に期待の眼差しが向くのは自然だった。

 

「ま、行くしかないだろ。お前は……断ってもついて来そうだな」

「もちろん」

 

 そして、彼はそれに応える人。この判断も、ごく自然な流れ。タバコを咥えたまま煙を吐き、渋々ながらも了承する。

 もちろん、私もついて行くつもり。せっかくの新防具だし、久々に彼と同じ狩場に行けるし。

 

「……まぁ、ヴォルグさんならそう言うっすよね」

「アタシは気が進まないけどねー」

 

 話が纏まるのは早かった。一応、下位に分類されるから私たちでも問題なく受注できる。

 ガルザくんだけじゃなくて、シアンちゃんがそこまで乗り気じゃないのが、少しだけ気になった。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 ガルザくんが、なんで乗り気じゃなかったのか。それは、水没林に来てすぐわかった。

 

「この耳飾り、穴開けたばっかなんすけど……こう湿気が凄いと膿むんすよねぇ。顔のペイントも落ちるし、いいことないっす」

 

 ということ。

 要するに、水没林の気候自体が嫌いみたい。しかも、その理由が結構くだらない。

 

 彼は派手というか、お洒落が好きというか。ヴォルグくんと比べると結構見た目に気を使ってる。頬にペイントをしたり、耳に穴を空けてまで飾りをつけてるんだから筋金入り。

 申し訳ないけど、私には体に穴を空けようとする神経が分からない。ちなみに、渋っていたシアンちゃんも似たような理由だった。髪型が崩れるとか、そんな感じ。何しに来たのかな。

 

 今、私たちは二人で行動している。水没林についてから、ヴォルグくんたちとは別行動。

 というのも、とりあえず手分けしてモンスターを探そうとそんな経緯。ヴォルグくんは洞窟内、シアンちゃんは水嵩の多く水没したエリア、そして私たちは森のエリア。

 

 振り分けの基準として、オロミドロが出そうな場所はヴォルグくんやシアンちゃんが探索することになった。理由は明快で、リオレイアよりも危険だから。

 彼らは単独、私たちは二人組。悔しいけど、実力に応じた振り分けだから仕方ない。

 

「新しい防具の初陣も、どうせなら晴れた日が良かったっすねぇ。雨が降らないだけマシっすけど」

 

 ガルザくんがさらにぼやく。私と同じタイミングで彼も防具を新調していた。リオレウスの素材を使った防具で、衣服みたいな私のと違ってちゃんと鎧みたいな見た目。

 私も彼も、実力を上げた証拠だと思う。彼の鍛錬は無駄じゃなかった。願わくば、この狩りでヴォルグくん達に見せつけられればいいんだけど。

 

 彼の言う通り、今日の水没林は、珍しく雨が降っていない。雨は視界が悪くなるだけじゃなくて、私たちの防具に水を含ませて動きを重くする。不利にしかならないから、その点は運が良かった。いつもと変わった点といえばそれぐらい。

 

 ……いや、ひとつあるかな。小型モンスターがやたら少ないと思う。それどころか、環境生物すら見ていない。見かけたのはフロギィの群れくらいのもので、他にいないのはあまりに不自然。

 ガルザくんは気付いてないのか、それとも不審に感じてないのか。大型モンスターとの戦闘中に、邪魔をされないのは良いことなんだけど。

 

 そうして歩を進めて、水没林中心のエリア11。滝の上流部にある広場では、ここで起こっている異変が一目でわかった。

 

「なんすかこれぇ……」

「本当に植物が枯れ果ててる……」

 

 ガルザくんが言った通りだった。このエリアの草木が綺麗に枯れている。それも、不自然なぐらいこの周辺だけ。そりゃあ皆が気味悪がるわけだよ。

 モンスターが焼き尽くしたとか、そういう類じゃない。枯れているなら……可能性としては毒?フロギィや親分の毒でこんなことになるかな?

 

 草木も何もない真っ新な台地というのは、水没林だとかなり新鮮。そんな寂しい場所で、寂しく横たわっているのが一匹。

 

「ブルファンゴっすか?」

「……死んでる。なんで傷痕がない?」

 

 外傷がないのに死んでるってことは、やっぱり毒なのかな。他にモンスターがいないのも、この危険を予知したから?それなら辻褄の合う話になる。

 じゃあ犯人は誰なんだろう。少なくとも、オロミドロやリオレイアにこんな力はないはず。確認できてない三匹目がいるのかな。

 

 あれ。

 ブルファンゴの亡骸の近く、地面に棘が突き刺さってる。かなり毒々しい色してるけど、結晶みたいで綺麗にも見える。触るのは……辞めた方がいいかな。なんだろう、これ。

 

「やっぱり、これが突き刺さってたんじゃないっすか?」

「それなら傷は残るはず。このブルファンゴ、丸焼きにして食べられそうな程度には無傷だもん」

 

 流石にしないけどね。そんな引いた顔しないで。

 いくら考えても分からない、ね。少なくとも、今の私たちがすることじゃない。私たちがやるべきは、オロミドロをヴォルグくんたちに任せて、早くリオレイアを探して狩ること―――

 

 と思ってたんだけど、当てが外れたみたい。

 私たちの周囲が揺れる。浅い水面がボコボコと湧いて、数カ所から泥が飛び散り始めた。私たちを囲うようにしていて、何かの意思があるみたい。

 

「ガルザくん、こっち」

 

 何かが来る。というより、もう来ている。

 私はガルザくんの手を引いて、泥の包囲網から脱出。地面からは、私たちを狙っていたであろう巨大な泥の柱が突き上がった。

 

 私たちを追うように、あるいは行く手を阻むように泥の柱が次々と地面から現れる。

 それだけじゃない。泥の柱が隆起すると同時に、多数の泥弾が跳ね上がって私たちに降り注ぐ。なんて厄介で、そして陰湿な攻撃。

 

「に、逃げ場が……」

 

 泥の包囲網はなんとか潜り抜けたけど、崖際まで追い詰められてしまった。退路がない。でも、泥弾はまだこっちまで届いてる。

 ここまで考えたうえで、泥の柱を一斉に起こしたのかな。それで私たちの逃げ道を塞いだ。いや、そんな頭の良いモンスターを相手にするなんて、想像もしたくないね。

 

 そして、そのモンスターが姿を表さない以上、私たちは結局逃げるしかない。下の方が水位が高くて戦いにくいけど……贅沢言ってらんない。

 

「跳ぶよ」

「ちょ……マジっすか!?」

 

 意を決して崖から飛び降りる。翔蟲を使って落下の速度を緩めてもらって、ゆっくりと着地。おかげで怪我はない。翔蟲、一部の狩場にしかいないのは難点だけど凄く便利。

 ガルザくんも、狼狽えていたけどついてきた。これで、なんとか窮地は抜けられたかな。

 

 そして、問題の子も私たちを追ってきた。知る限りだと縄張り外の敵は執拗に追わないって話なんだけど、どうやら違うみたいだね。やたら興奮しているように見えるのは、この異様な環境が影響してるのかもしれないね。

 泥翁竜(でいおうりゅう)オロミドロ。今回の狩猟対象のうちの一匹。ヴォルグくんたちじゃなくて、私たちの方が遭っちゃった。

 

「ど、どうするっすか?ヴォルグさん来るまで待ちます?」

「不要。十分やり切れるレベル」

 

 とはいえ、決して敵わない相手ではないはず。私は問答無用でボウガンを取り出した。

 これぐらいの相手の方が、むしろ新防具の初陣にはちょうどいい。いっそ、彼らが来るより先に討伐してやる。その方が、シアンちゃんも褒めてくれるかもよ?なんてね。

 

「泥玉を人にぶつけようとする悪い子には、キツいお仕置きをしなくちゃ……ね?」

「そ、そーっすよ!起きて髪とか見た目整えるの、結構時間かけてんすから!」

 

 今からどうせ泥水に塗れるんだけどね。

 というのは、あえて伏せた方がいいのかな。




クレアさんの防具見た目は、Xシリーズまでのガンナー用だと思ってください。
今のシステムの方が便利だけど、見た目違うのが好みだったので選べるようにならないかなぁと。
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