アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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マッド•ドウタード

「詰めて!」

 

 雨は降ってなくても、水没林の湿度は高い。体を動かしていればなおさらで、肌にじっとりと汗が滲む。集中力が削がれそうだけど、それは防がなきゃいけない。狩猟中だから。

 私からも言わせてもらう。水没林は嫌い。

 

 ガルザくんが前衛で狙われている間に、私は電撃弾を撃ち込む。水辺のモンスターだから効果は見込めるはず。

 ……って思ってたんだけど、あまり効いてないかもしれない。気にしてる様子がないもの。そうなったら、私はサポートに徹しよう。ライトボウガンは器用で、やれることは意外と多い。

 

 それに。

 

「おっしゃあっす!」

 

 彼が斬ってる方が良さそう。切先から出てくる冷気。私の電撃よりも、オロミドロはあっちの方を嫌そうにしている。

 凍刃って言ったかな。ガルザくんは氷属性の武器に変えていた。

 

 でも、オロミドロも嫌がる。尻尾を叩きつけてガルザくんを振り払おうとして、さらに泥波を発生させることで遠ざける。

 私はあまり気にならないけど、剣士はやりにくそう。彼らからは嫌われてるって聞いた。ガルザくんもやりにくそうで、すぐに私のいるところまで距離を離してきた。

 

 でも、まぁ……動き自体は大きい。

 私の距離なら、あの子の動きはよく見える。

 

「ガルザくん、極端に離れなくて良いよ。私が指示出すから、声聞き逃さないで」

「え?あ、はい……。でも、あいつクネクネしてすぐ引っ叩かれるっすよ?」

「近づきすぎる必要はない。後隙狙って攻撃するだけでいいから。翔蟲は残しといてね」

 

 それで充分。

 

 泥波を避けながら、ガルザくんが突っ込む。オロミドロはそれを嫌がって、その場で回転。長い身体を活かして追い払おうとする。

 だけど彼もそれを予測していたのか、攻撃範囲から免れて回避。剣の届かない距離にいる。そして、オロミドロはさらに距離を取った。

 

「横に動いて!その後すぐに攻撃!」

「はいっす!」

 

 距離を取ったのは、長大な尻尾で叩きつけようとしていたから。あの質量に潰されたらひとたまりもないだろうけど、その分外した後の隙は大きい。

 叩きつけた尻尾に、ガルザくんが斬り込んで私も銃弾を撃ち込む。あそこは柔らかいね。あの長い体だと貫通弾は効果ありそう。今回は使わないけど。

 

 オロミドロは身を翻して体勢を整える。尻尾を自分の横に持ってくると、先っぽで器用に泥をこねて、そのまま前方に飛ばしてきた。

 これは私を狙ってるかな。撃つのをやめて、すぐに横方向に回避。立て続けに、体を起こして引っ掻き攻撃を仕掛けてくる。

 

「クレアちゃん、狙われてるっす!」

 

 分かってる。

 引っ掻き……というか、ほぼ叩きつけな気がするけど一応引っ掻き。これを掻い潜ってオロミドロの後ろに回ると、そのまま尻尾を振ろうとする。

 

 なるほど。後ろを取ったと油断した外敵を尻尾で振り払うと。理に適ってるし、賢いし、何よりいやらしい攻撃だね。

 でも。

 

「甘い」

 

 尻尾が当たるギリギリのところ、竜弾を飛ばしながら後退。弾丸は尻尾に当たると同時に爆発し、その爆風の反動もあって私は緊急離脱できた。

 爆風にあおられた私の体は、飛ばした翔蟲にぶら下がることで空中停止。事なきを得る。

 

 反撃竜弾。これも、ある種のカウンターかな。リスクが伴うからあまり使いたくないけど、それでやり過ごせるほど甘い相手じゃない。自分が狙われている攻撃くらい、自分で避けないとね。

 

「つ……」

「だ、大丈夫っすか?当たりましたか?」

 

 大丈夫。当たってないよ。竜弾の破片が顔に飛んできただけ。

 右側からの尻尾攻撃だから、反応が遅れて距離感を間違えたんだ。竜弾を当てる距離が近すぎた。

 

 私は右目が見えない。その影響は狩りの最中にも現れる。単純に右側の視野が狭い。だから、右側からの攻撃が見にくい。今まで、特に不便に感じたことはなかったけど……。

 広範囲、速度の増すこれからの狩りだと、一筋縄ではいかなさそうだね。いいね、面白い。

 

 課題もみえたことで、ここからは慎重に。

 徹甲榴弾に切り替えて頭へ。もちろん狙うのは眩暈。ガルザくんにまとまった攻撃時間をあげたい。

 

「私のことは気にしないで、相手に集中して」

 

 少し狼狽えるガルザくんを制止して、私はスコープを覗く。

 オロミドロは、タマミツネと同じ海竜種。縦に細長い体型だから弾がとにかく当てにくい。頭を狙おうとすると、尻尾が被さっちゃうとか。

 

 それでも狙うのは頭。徹甲榴弾は頭に当てないと意味がないから、それ以外の選択肢はない。大事なのは撃つタイミング。ガルザくんに意識が向いた一瞬を狙う。

 そうすれば爆発でこちらに気を引けるから、ガルザくんばかりが狙われることもない。

 

「シュート」

 

 ガルザくんがオロミドロを引き付けているところに射撃。でも弾は当たらなくて、遠く彼方へ行ってしまった。

 少し外れたかな。タイミング合わせたつもりだったけど、思ったよりもオロミドロがガルザくんの方に引き寄せられてた。誘導をお願いしたわけではないんだけど。

 

 彼らの距離は近い。それを引き剥がすように威嚇射撃すると、オロミドロの標的が私へと変わった。

 顔をこちらに向けたところを狙撃。遅れて、徹甲榴弾の爆発が襲う。

 

 オロミドロはそれに怯まず、私の方へ突進。私をそのままスルーしたかと思うと、尻尾を振りかぶって泥波を飛ばしてきた。尻尾を狙おうとした輩にあわよくばカウンターを喰らわせる……ってハラ?まどろっこしい。

 結構範囲が広い。翔蟲を上に飛ばして泥波を回避した先、オロミドロが尻尾を叩きつけようと構えている。その隙を狙って、ガルザくんが再びオロミドロの懐に斬り込んだ。

 

「レディーをしつこく狙う男は嫌われるっすよ!」

 

 おお、勇ましい。

 彼がオロミドロの後ろ足を突いたことで、バランスを崩して尻尾攻撃が外れた。その隙にさらに徹甲榴弾を当てる。

 

 そこから、またガルザくんが引きつける。過剰なくらいに攻撃を加えて、オロミドロにしつこく付き纏っている。

 また彼らの距離が近くなる。とても太刀で戦う距離じゃない。オロミドロはフラフラしてて頭を狙いにくいし、ガルザくんが接近しすぎて不安だしで、全然狙撃が安定しない。困ったな。

 

「ガルザくん、寄せすぎなくていいから!」

「は、はいっす!」

 

 分かってるかなぁ。

 そうは言っても、やっぱりガルザくんはオロミドロの頭周辺に居座って狙われ続ける。彼が狙われてる間に私も狙いを定めるけど、やっぱり上手くいかない。私の射撃は、いつもオロミドロの右側を通過していく。

 

 なんで彼は、あんなにモンスターを引き寄せるんだろう。

 カウンターを狙って意固地になってる?いや、気弱な彼が、そんな無謀な勝負に出るとは思えないけど――って。

 

「ガルザくん、離れて!」

 

 オロミドロが体を捻らせて、力を溜めてる。私が彼を離そうとしたのは直感だった。

 ガルザくんが私の声に反応した直後。オロミドロが体を回転させ、全方位に泥波を発生させる。逃げ場のない厄介な攻撃。ガルザくんはまだ泥波の範囲内にいる。

 

 間に合って。翔蟲を彼の方に飛ばしてダッシュ。

 彼の手を掴み、そのまま二匹目の翔蟲を後方に飛ばして勢いよく引いてもらって緊急回避。汚い水面に顔をつける形にはなったけど、なんとか無事だった。

 

「……最悪。泥まみれ」

「ご、ごめんなさいっす」

 

 気にしないで。悪いのは、尻尾癖の悪いあの子だから。

 でも、これじゃキリがないね。やっぱりどうも息が合わない。あの厄介なモンスター相手に、不安材料が多すぎる。

 

 オロミドロの形態が少し変わった。あの回転攻撃がトリガーだったのか、尻尾に巨大な泥団子を抱えている。固まったら立派な鈍器になりそうな、そんな凶悪な見た目。

 

「さっきも言ったけど、あの子に近づきすぎなくていいから。時間はかけてもいい」

「う、うぃっす」

 

 頼りない返事。不安だけど、それでも彼を信じるしかない。

 

 私たちを引き裂くように、オロミドロの尻尾が突き出される。二人で回避して散開。ガルザくんが尻尾に斬り込む。

 ……なるほど。鈍重な見た目はあながち間違ってなくて、泥団子を持つ前よりも攻撃からの戻りが遅い。それなら、この後隙に頭を狙えるということ。

 

 さらに徹甲榴弾。だけど当てるのは一発が限界で、オロミドロはさらに尻尾を振り回して近づけまいとする。

 これだけ戦うと、パターンは分かってきた。縦振りなら攻撃をずらせば良くて、横振りなら範囲外に離れるか翔蟲を上に飛ばすことで回避できる。

 大丈夫。視野の問題なんて気にならない。

 

 さらにもう一発。それをオロミドロが嫌がって、バックステップで距離を取る。

 

「追うっす!」

 

 距離を離された分、ガルザくんが追うのは自然な流れ。でも、不用心すぎる。

 

「ガルザくん、一回止まって!」

 

 ただ離れたのとは違う。オロミドロは、下半身を地面に埋めて泥波を発生させた。それは、獲物の足を泥で捉えて、動きを鈍らせるため。

 距離を取ったのは、自分の尻尾が届く範囲に移動するため。オロミドロは、埋めた下半身から、尻尾だけを地面から突き出してまっすぐ振り下ろす。

 

 ダメ、間に合わない。

 尻尾が叩きつけられた場所から、濁った水飛沫が上がって様子が見えない。ガルザくんは……立ってる。直撃は避けたみたいだけど。

 

「次が来る!」

 

 オロミドロが泥団子を抱えた尻尾を突き出す。ちょうど彼の頭の高さ。あんな巨大な泥団子が頭に当たったら、防具なんて関係ない。

 ガルザくんは盾なんて持たないし、私もあの距離じゃ間に合わない。せめて硬化弾を撃つぐらいのことしか……。

 

 弾薬を切り替えて彼に撃とうとした瞬間。彼の体は何者かに攫われていた。

 

「はー、間に合って良かったぁ」

 

 ガルザくんを助けたのはシアンちゃんだった。翔蟲を使って、彼の体を引っ張って攻撃範囲から逃がしたんだ。

 

「どう?白馬の王子様みたいだったっしょ?」

「あ、あは……サンキューっす」

 

 相変わらず、シアンちゃんはイェーイとノリが軽い。そしてそこ、見惚れない。

 まだオロミドロは健在。一旦距離を取った方がいいのかな。シアンちゃんが加わるとなると、動きも多少変わってくるけど……。

 

「クーちゃん、こっち来て!ガルザも!」

 

 私が考えてる間に、シアンちゃんが誘導してくれた。彼女の後に続いて、それをオロミドロが追ってくる。

 私たちしかいないからか、真っ直ぐに……言い方を変えれば単調に地を這って追いかけてきた。

 

 そこに横から割り込んで、オロミドロの頭に強烈な一撃を喰らわせたのが一人。唐突に現れたヴォルグくんの盾攻撃で、オロミドロは横倒しになる。

 

「クレア、今のうちに!」

「わかった!」

 

 すぐさま徹甲榴弾をオロミドロの頭部へ。二発、三発が限界。

 でも、それで十分。ようやく立ち上がったオロミドロだけど、頭部で起こった爆発によって眩暈を起こして、再び横倒しになった。ちょっと可哀想。

 

 大チャンス。それを見たシアンちゃんとガルザくんは尻尾を狙って、力いっぱい武器を振るう。

 彼らに鬼人弾を放った後、私は彼らに弾を当てないように頭部へ貫通弾を撃ち込む。ようやく訪れた攻撃チャンス。少しも無駄にしたくない。

 

 それでも倒すには至らず、オロミドロは立ち上がる。起き上がってすぐにガルザくんとシアンちゃんを尻尾で振り払い、続けて私に向けて尻尾を叩きつけようとする。

 

「クレアちゃん!」

「いいから、お前は自分のことだけ見てろ」

 

 ガルザくんから心配の声が上がるけど、それは全くの杞憂。ヴォルグくんが制止する。

 反撃竜弾を使って尻尾攻撃を躱して、おまけに貫通弾を撃ち込んでやる。今度は竜弾の破片も当たらない完璧な避け方。

 

 さっきも言ったけど、オロミドロの尻尾に泥団子がある時は攻撃が大振りになる。叩きつけの後は特にそれが顕著。

 

「ガルザ、今のうちに大振りかませ!」

「は、はいっす!」

 

 ヴォルグくんの掛け声と同時に、ガルザくんはオロミドロに向かって翔蟲を飛ばす。それに引っ張られながら宙を舞い、オロミドロの泥団子を踏んづけてさらに跳躍。尻尾に強烈な兜割を叩き込んだ。

 凄まじい威力。これを見ると、片手剣は一撃に乏しいとヴォルグくんが嘆くのも分かる。太刀のそれは見た目の派手さだけじゃなくて威力も相当で、オロミドロの尻尾についていた泥団子を跡形もなく粉砕した。

 

 オロミドロは苦し紛れに泥だけ飛ばすと、そのまま反転。私たちに背を向けてその場を離れていった。最後まで悪質な子。

 ひとまず、なんとか退けられた。討伐まではもう一息かな。リオレイアの所在が分からないのが不気味だけど……。

 

 防具や顔についた泥を落とす。別にオシャレは好きじゃないけど、ここまで汚れると流石に気になるね。用がなければ二度と戦いたくない相手。

 

「どうっすか、今の!カッコよかったっすか?カッコよかったっすよね!?」

「いいじゃんガルザ。顔に泥のペイントがついてなかったら、もうちょっと締まったけどね〜」

「ふぇ!?ついてるっすか?どこどこ?」

 

 元気だね。私は結構疲れたけど。

 確かに、ガルザくんのさっきの気刃兜割はよかった。あれでだいぶ弱らせられたし。

 

 でも、その過程での課題はある。ヴォルグくんの指示があったから息を合わせられたけど、それまではやっぱり息が合わなかった。

 いったいどうすれば……。

 

「しけた顔だな、相変わらず」

「ヴォルグくん」

「気になることがあるなら、直接話してくりゃいいだろ」

 

 誰と、というのは聞かずともわかる。私、そんなにバレバレなのかな。感情は隠してるつもりなんだけど。

 ヴォルグくんから携帯食料を受け取り、一口で食べ切る。美味しくはないけど、お腹に溜まればそれでいいかな。

 

「お前たちが戦ってんの、こっそり見てたんだよ」

「へぇ……」

 

 ―――え?

 見てた?

 

「……なんで黙ってたの」

「こええ顔すんなよ。見てみたかったんだよ。あんまりにもヤバそうだったから助けにいったけど」

 

 彼はこういうとこ、ある。回りくどい。嫌い。

 それだと、シアンちゃんもグルってことになるのかな。二人とも、嫌い。

 

「で見てた感想なんだが……ガルザ」

 

 そこで言い止めて、シアンちゃんに装備を見せつけてたガルザくんを呼びつける。

 

「コイツの目、もう気にしなくていいぞ。そのせいでお前の反応が遅れてちゃ、本末転倒だろ」

 

 ヴォルグくんは、私を親指でクイっと指すとそう言った。

 目っていうのは聞くまでもなく私の右目のことで、でもそれは誰にも話してないんだけど……。ガルザくんの顔から、血の気がサーッと引く。それは言葉で表すよりも分かりやすい答えだった。

 

 つまり、ガルザくんは私の右目が見えないのを知ってて、私が狙われないように引き付けてたってこと?

 息が合わないはずだよ。私が彼に合わせていたはずが、向こうも私の動きに合わせていたんだから。

 

「……どうして?」

「す、すみません。偶然右目の傷見ちゃって、多分見えてないだろうなってのはわかったんすけど、聞きにくかったし……」

 

 長い誤解だった。

 なんで言ってくれなかったの。

 

 ……と憤ってはみたものの、直接聞かれたら私はいい顔しなかったと思う。だから、彼に何かを言う資格は私にはない……かな。

 

「はいはい、暗い顔は終わり終わり。原因は分かったんだし、もう大丈夫っしょ?仲間なんだから、ちゃぁんと話し合わないと」

 

 シアンちゃんが割って入る。彼女の明るい雰囲気のおかげで、だいぶ場が和やかになった。

 

 直接話す……か。確かに、相談のひとつもしたことなかった。

 この件だけじゃない。狩りの最中だって、私は頭の中にある自分のプランを遂行してるだけで、それを伝えたことはない。ヴォルグくんは合わせてくれたけど、みんながみんなそうとは限らないし。

 

 もう、隠す必要はないよね。私は髪を掻き上げて傷痕を見せる。大嫌いで醜い傷痕だから、こうして自分から人に見せるのは初めて。でも、もう見られてどうこうは思わない。

 

「ガルザくん、ありがとう。そして、心配かけてごめん。私の目の方は大丈夫だから。もう心配いらない」

「ふぇへへ。俺の方こそ、何も言わなくてごめんっす。これからはもう、フルスロットルっすね」

 

 あんな泥遊びが好きなだけの尻尾癖悪いモンスターなんて、もう怖くない。

 それはヴォルグくんやシアンちゃんという仲間が増えたからってだけじゃない。それよりも大きなものが、私の中に芽生えたからだった。




mad(マッド)⇨泥
dotard(ドウタード)⇨老いぼれ、耄碌した人
今回のタイトルは要するに、泥のクソジジイってこと

はい、RISE産モンスターで一番嫌いです。
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