アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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ブレイヴ・スピリッツ

「……これで良かったんすかね」

「何が?」

 

 ガルザくんの質問の意図はわかっていた。わかっていたけど、私はあえてぼかした。

 

「シアンちゃん、絶対納得してないすよ」

「だろうね。でも、怪我人に無理させるわけにはいかないと思うけど」

 

 それ以上は聞くなと、突き放すように答える。

 単刀直入に言う。シアンちゃんは戦線から離脱した。厳密には、私が()()()()()

 

『私とガルザくんでリオレイアを追う。シアンちゃんは、ベースキャンプまで戻ってて』

 

 今より少し前。ガルザくんが私たちを助けに来た直後、リオレイアは再び飛んで逃げていった。

 シアンちゃんはリオレイアを追いかけようと勇んでいたけど、私はそれを真っ向から却下した。怪我人だから、と。

 

『……なんで?アタシ、留守番?大丈夫だって。さっきはヘマっちゃったけどさ、もう動けるし、上位ハンターのアタシはいた方が安心っしょ?』

『そんな精神状態で?まともに動けるの?』

『でも、センパイがいないんだから。ほら、アタシがみんなを助けないと……!』

 

 あの時のシアンちゃんの様子が、今でも鮮明に思い出せる。怒りよりも哀しみが色濃く出た表情。それでいて、どことなく不安も感じられて。

 正直、一瞬躊躇った。上位ハンター云々のくだりはどうでも良くて、ここで突き放したら彼女の何かが決壊しそうな気がして。

 

『センパイなら、きっと無理を押しても行くっしょ?アタシもそれぐらいやんなきゃ……ね?』

 

 ……でも。私は心を鬼にした。誰も失わないという、シアンちゃん『の』願いを守るため。

 

『ダメ。許可できないし、この先にアナタは必要ない。どうしてもと言うなら、この場で気絶させて置いて行く』

『は、はは……。人に銃口向けて、脅してんの?』

『生憎、育ちが違うの。私は躊躇いなく撃つよ』

 

 ねぇ?とガルザくんに視線を向ける。私はれっきとした前科持ち。実際に身をもって知っている彼は、無言で私から目を逸らした。

 彼女は反論する気力も失ったようで、その場にへたり込んだ。ガルザくんは気に掛けてたけど、それを振り払うように彼の手を引き、私はその場を後にした。

 

「症状はヴォルグくんより軽いし、薬も飲ませて解毒もさせた。最悪、ピラミッドの中で息を潜めてれば大丈夫だよ。彼女なら、それぐらいの判断は出来るはず」

「……自力で帰れると判断したから、あの場に放置したんじゃないっすか」

 

 その通り。自分で歩けなかったヴォルグくんとは違う。なんなら私の見立てなら、戦線復帰出来るくらいには無事だと思った。リオレイアを倒すためなら、彼女がいた方がいいのは間違いない。

 

「なんであんな冷たい言い方を―――!」

「ガルザくんはさ」

 

 彼の言葉を遮る。

 

「自分を犠牲にしてまで、人を助ける度胸って……ある?」

「へ?いや、俺には無理っすよ無理無理。そんな、ヴォルグさんみたいな真似できないっす」

()()()シアンちゃんじゃなくて、キミに来てもらったの」

「そ、それってどういう……」

 

 ずっと密林で独りで暮らしてて、気づいたことがある。生き物が生存するうえで最も重要なのは、臆病であること。言い換えれば、危険に敏感であること。

 きっとハンターにも同じことが言える。モンスターの攻撃を察知できず、引き際を弁えないハンターは簡単に死ぬ。身の危険に対して、少し過敏すぎるぐらいがいいの。

 

 でもハンターは逃げない。村でも人でも、誰かを守るために危険を冒し、モンスターに立ち向かう。武器を手に取り、命を狩る。それはまるで、御伽話のヒーローのよう。

 だからこそその輝きは……美しく、煌びやかで尊い。ずっと観測したくなる色を持つ。

 

 私はその中の一人にはなれない。そこまでの度胸もなければ、正直言ってヴォルグくんがあそこまで勇敢に他人のために体張れる理由も分からない。だからこそ、彼をずっと観測したいのだけれど。

 話が逸れた。時に、勇敢さは無謀に変わる。自分の命を軽んじるまでになれば、そこにもう美しさも尊さもない。生物において、生きることを捨てたらそれはもう愚か者。以前の私がそうだったように。

 

「……怖い?」

「そりゃあ、怖いっすよ。怖いっすけど……残された二人を思えば、勇気出るっす」

 

 その点ガルザくんは、勇敢さと臆病をいい具合に兼ね備えている。

 その場を生き残る素質(臆病さ)と、自分で抱えられる程度の勇敢さを持つ。その勇敢さが溢れなければ、自分の命優先で行動できる。

 

 確信した。彼となら戦える。

 私たちは臆病でいい。みんながヴォルグくんみたいなヒーローにはなれないけど、その背中を追うくらいはできるから。

 

「十分。持てるだけの勇気持って、それだけで大丈夫だよ」

 

 ヴォルグくんとシアンちゃんの決定的な違い。それは、自らヒーローになろうとしているか否か。自らなろうとする人間、追い求める人間はきっとどこかで無茶をする。自分を見失って、押し潰される。

 『センパイなら無理を押しても……』。シアンちゃんはそう言ったけど、ヴォルグくんは私に託したよ。決して無理はしなかった。それは、自分にはこの先の戦いは無理だと理解して、ブレーキ掛けられたから。

 

 だからねシアンちゃん、ヒーローに自分からなろうとしたら―――自分の手から溢れるほどの勇気を無理に持とうとしたら負けだと思うの。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 ガルザくんのリオレイアへの適応は、思いの外スムーズだった。

 

「サマーソルト、来るよ」

「おおっす!」

 

 納刀して待ち構えて、尻尾が過ぎ去る瞬間に勢いよく抜刀。居合しながらのカウンター。サマーソルトで叩きつけた力が、そのまま自分の尻尾に返ってくる。

 私は遠方から射撃。射角を上げ、ひたすらに翼を狙って貫通電撃弾を放つ。

 

 ガルザくんは、設置された毒棘に巻き込まれないように避難。リオレイアはそちらを追う。

 

「ま、またっすか!?」

「構えて!」

 

 通常の宙返りサマーソルトに、同様に居合しながらカウンターをぶつける。その判断には全く躊躇がない。彼の動きに無駄もない。的確に、カウンターだけを続ける。

 リオレイアはふらつきながら着地。確実にダメージは継続して与えられている。あとはこれを、どれだけ維持できるか。

 

「いい感じだね」

「あれは丸太、あれは丸太……」

 

 少々の不安は残るけど。まぁ順調。

 

 攻め方として、ガルザくんにはカウンターを主軸に使ってもらうように頼んだ。あのリオレイア相手に斬って、攻撃も避けて、毒にも気を遣って……は酷だから。シアンちゃんだから全部対応できたんだろうし。

 でも、彼は片手剣や操虫棍よりも効率よく攻撃できる。だからカウンターだけ。できる時にやる。徹底的に臆病に、安全に立ち回ってもらえばいい。

 

 農場の特訓が役立っているのか、カウンターの精度も良い。今みたいに集中しすぎて、指示の声が通らなくならないか不安だけど。

 

「さ。仕切り直し」

 

 リオレイアはブレスを発射。私は鉄蟲糸を飛ばして距離を測ると、側面から貫通電撃弾を放つ。単発ブレスなら何発撃っても無駄だよ。

 ……問題があるとしたら、そろそろ電撃弾が尽きそうなことかな。もう調合素材もない。私がダメージを与える手段を失うと、この戦法は崩壊する。

 

 リオレイアは諦めて突進。しつこく私を狙うも、同様に鉄蟲糸で滑走して攻撃範囲から逃れる。大丈夫、あのリオレイアはこのスピード感についてこれない。

 

「クレアちゃん!」

「私のことは気にしないで。手数は必要最小限でいいから」

 

 ガルザくんが攻撃を緩めれば、私がより手数を出す必要がある。そうなったら、私が狙われるようになるのは分かりきっていた。

 自分に向けた攻撃は全て捌く。幸い、ずっと戦ってたおかげでモーションは分かる。

 

 リオレイアが足を引き、大きく息を吸い込む。これは前方要警戒。きっと拡散ブレス。連発の可能性もあるから、後ろに回避―――

 

「目の前で……!」

 

 拡散ブレスが足元で着弾。直撃はしなかったけど、爆風にあおられて視界が遮られた。

 見えない。次に何が来る……?

 

「突っ込んでるっす!」

 

 突進?動きを止めて確実に仕留めるなんて、ズル賢い真似を。

 横に避ける?爆発のせいで前がよく見えないし、距離感がわからない。逃げ遅れて蹴飛ばされたら堪ったもんじゃないし、多少賭けにはなるけど……。

 

「横がダメなら……」

 

 上に翔蟲を飛ばして空中に回避。それだけじゃ高さが足りないから、リオレイアの胴体を踏んづけて何とか飛び越える。

 さらにリオレイアは切り返して再度突進。マズいね、まだ体勢立て直せてないんだけど。持ってる翔蟲はあと一匹。もう一匹が手元に戻るまでには時間かかるかな……。

 

「クレアちゃん、こっちっす!」

 

 ガルザくんが呼んでいる。思惑は分からないけど、信じるしかないね。

 彼の方へ翔蟲を飛ばして滑走。リオレイアが再び切り返して襲いかかってくるところに、彼が立ち塞がる。

 

 ……まさか、突進に対してもイケるの?私の疑問は、ガルザくんが実演してみせた。

 リオレイアの突進に対して、真っ向から立ち向かって抜刀。すれ違いざま、脚部に居合斬りを叩き込んだ。

 

 凄い。

 ガルザくんは、そのまま脚を斬り続ける。だけどリオレイアがそのまま黙って斬られるわけなくて、すぐに螺旋サマーソルトの構えを取った。攻撃の最中、それでカウンターは間に合う?

 

「……遅いっす!」

 

 ガルザくんは、抜刀したまま身を翻して見切り。後方に下がることでサマーソルトをいなし、すぐに斬り込んだ。

 あれも一種のカウンター。納刀した状態で待つんじゃなくて、攻撃の流れの中に組み込める超高精度なカウンター。

 

 ……凄い。本当に凄いね。

 ここまで多種多様のカウンターを使いこなすなんて。一体、どれだけの鍛錬を積んだんだろう。

 

「負けてらんないね……」

 

 貫通電撃弾を発射。彼が健在なうちに、私もダメージを重ねておかないと。

 リオレイアは低高度で滑空。これは原種にもあるモーションだから、私も彼も問題ない。

 

 着地して、リオレイアはまず近場のガルザくんに爆炎噛みつき。でも彼はその時点で攻撃の手を止めていて、その場を離脱している。

 その間に、私が遠距離から射撃。彼が基本逃げに徹してくれたら、リオレイアの対剣士の動きは丸々私の攻撃チャンスになる。

 でも。

 

「く……。弾切れ……」

 

 カシン、と乾いた音が銃身からした。貫通電撃弾を全部撃ちきったみたい。

 最後の閃光玉を投擲。これで時間を稼ぐ。

 

「弾、もう無いっすか?」

「だね。攻め方変えるよ」

「……俺、さっきの見切り使いながら前に出るっすよ」

 

 攻撃の最中に組み込んだ、あの見切り斬り。その言葉が本当なら、とても心強い……けど。

 

「嘘。しんどいって顔に書いてある」

「……あはぁ。クレアちゃんの前だと、嘘つけないっすねぇ」

 

 ガルザくんの額からは、大粒の汗が滴る。私より呼吸も荒い。リオレイアと長く戦ってる私より、疲労の色が濃い。

 彼がヤワだから?ううん。むしろ、体力は私の方が貧相だと思う。

 

 私がカウンター使うわけじゃないから分からないけど、常にギリギリを狙うカウンターって、恐ろしく体力を消費するんじゃないかな。肉体的にも精神的にも。そんな彼を前衛には立たせられない。

 

「勇気は持てる分だけ。それで十分」

「……っすね。これでも、結構持てるようになった方っす」

「そ。なら良かった。まだ通常弾も拘束弾もあるから、私のことは心配しないで」

 

 さ、そろそろ閃光も解けるよ。

 私がボウガンを構えて、彼も臨戦態勢を取る。

 

 『俺、イジメられやすかったっす』

 ここに来る前の道中、ガルザくんは不意にそんなことを話した。

 

 気弱な自分は、周囲に溶け込めずに故郷でイジメられていたと。そんな弱い自分が情けなくて、強さとカッコ良さの象徴であるハンターを志したと。

 

 『ホント一人じゃ何もできなかったし、密林で仲間をみんな失った。でもヴォルグさんたちに出会って、ユクモ村に来て、少し自信がついたっす』

 そんな風に、少し恥ずかしそうにしながらも話してくれた。

 

 出会った時の彼は、確かにそんな印象が失礼ながらあった。魅力も感じなかったし、色も見えなかった。でも、今の彼は違う。強い輝きを持っている。

 ほら、今もこうして格上のリオレイアに同等に渡り合えてる。一緒に戦ってて本当に頼もしい。心からそう思う。

 

 人は変われる。きっかけと、少しの勇気で。

 

「拡散ブレス!」

 

 私を狙って、リオレイアは拡散ブレスを乱射。炎の包囲網に囲まれないように、私は退避しながら隙を縫って射撃。その間にもガルザくんは距離を詰める。

 間髪入れずに、リオレイアがサマーソルトの構えを取った。

 

「ガルザくん!」

「見えてるっす!」

 

 派手な拡散ブレスを乱射してると思いきや、足元を狙う外敵に対して素早くサマーソルトに繋げる。あんな凶悪なコンビネーションもあったなんて。

 

 でも、ガルザくんは冷静に対処。既に鉄蟲糸を網目状に張って、水月の構えを取っていた。

 カウンター一閃。叩き割るように強力な一撃を加え、リオレイアは空中でフラつく。

 

 リオレイアは高度を上げ、太刀の届かない場所まで。そのまま逃げるつもり?いいや、違う。そう思ったのは、あの子の視線が私を的確に捉えていたから。

 だから、今度は見逃さなかった。リオレイアが超速度で襲撃してくるのを。あれは、シアンちゃんを戦闘不能に追いやった滑空攻撃。狙いは私。

 

「ガルザくん、リオレイアと距離を詰めて!」

 

 あの攻撃は、着地と同時に尻尾で薙ぎ払う。初見のガルザくんが巻き込まれないよう、私はすぐに指示を出した。

 広範囲の攻撃に対して、私が出した結論は後退ではなく前進。翔蟲を前方に飛ばして、鉄蟲糸に力いっぱい引っ張ってもらう。

 

 リオレイアも、私の動きを見て着地場所を微調整している。より手前に着地して、尻尾で全てを終わらせようとしている。

 

 それよりももっと前に。体勢を限界まで低くしながら、地面の上を滑るように鉄蟲糸に引かれる。普通の装備なら、滑走が間に合わなかったかもしれない。これはあくまで偶然の産物。

 ……ミツネ装備で良かった。まるで泡で滑ったみたいに、滑走がスムーズだから。

 

「これは置き土産」

 

 リオレイアの股下を、すんでのところで潜り抜けた。すれ違いざまに尻尾へ射撃。滑走の勢いに耐えきれなくなって、泥の上を転がり回る。

 対して、リオレイアの一閃は虚しく空振った。あと一発、私は振り向きざま再び射撃する。

 

「し、痺れたっす!」

 

 麻痺弾が効いたことで、リオレイアの動きが止まった。口から怒りの炎を漏らしながら、呻き声を上げて抵抗する。

 

 頬や袖に付着した泥を手で払いのける。せっかくのおニューの装備、たった一回で酷い有様。白だから余計に汚れが目立つ。帰ったらすぐに整備に出さなきゃ。

 でもまぁ……、初陣に相応しい相手だったからいっかな。

 

「さようなら、荊姫」

 

 ガルザくんの兜割が炸裂して、リオレイアの巨体が泥水に浸かる。もう起き上がる力はない。

 最後の悪あがきとして設置した毒棘から段々と毒の噴出が弱まる。それを合図するように、リオレイアも生命活動をゆっくりと終えるのだった。




太刀って使っててズルい性能だなぁと思う
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