アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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アイアン•スナイパー

 防具はジンオウS一式。武器はジンオウガ素材の片手剣、王牙剣【折雷】。

 これが俺の一張羅。自慢じゃないが、決して悪くないと思う。密林に来てからはモンスターに出会わず役に立つ機会がなかったのだが、今日は出番がありそう。

 

「凄い。いつ見てもカッコいい鎧」

 

 その原因は、言うまでもなく隣にいるコイツ。

 俺の防具を見るクレアの視線が眩しい。褒められるのは結構だが、今日も今日とて距離が近い。

 

「頭は何も着けないの?」

「まぁな。その方が視界が広いし」

「その腰のナイフは?盾もあるのに剣が二本?」

「こっちはお守りみたいなもんだ。普段は使わん」

 

 質問責めだ。クレアの興味は尽きることがない。

 密林で遭難してからさらに数日。今日は、二人で狩りに出る。

 

 

 

 

 

「俺と狩りに行きたいだぁ?」

 

 クレアが唐突にそんなことを言い出したのが、今朝の話。

 あ?支給品ボックス?今日も今日とて空だったから、こんなことになってるんだよ。

 

 ……話を戻そう。

 今までそんな話を一切してこなかったクレアが、急に狩りを教えろと言い出した。確かにコイツはボウガンを持ってるが、ハンターではない。護身用で持ってんのかと思ってたが、狩りそのものにも興味あったのか。

 

「なんで急に?」

「だってヴォルグくん帰る気配ないし。暇なら付き合ってほしい」

「帰れねぇんだよ、帰りたくても」

 

 人を暇人みたいな言い方しやがって。好きでここで暮らしてるわけでもないのに。

 にしても運が悪い。ハンターが来ないどころか、気球が一度も空飛んでないなんて。これじゃあ見つけてもらえん。いつまで経っても帰れない。

 

 また話が逸れた。悲しいことに暇なのは事実だ。

 

「相手は?住処襲ったりはできねぇぞ」

 

 生態系への影響を加味して、狩猟できるモンスターはギルドが徹底的に管理している。ギルドを介さずの狩猟はなるべく避けたい。密猟になる。

 クレアの存在自体がグレーだし、そもそもハンターライセンスを持ってないから、それ以前の話と言われたらそれまでだが。

 

「ここから近くの広場に、泡を使う四つ足のモンスターが出るようになった。このままだと、ここも襲われるかも」

「タマミツネか……」

 

 密林にいて、その条件に合うモンスターといえばだ。が、こんなところに出るような奴か?出るとしたらジャングルの中じゃなくて、エリア3のような水辺が多いはずなんだが。

 ……いいや。それなら正当防衛だろ。タマミツネという相手を考慮しないのであれば、俺も首肯したかもしれない。

 

「軽い気持ちで挑む奴じゃないんだが」

「その時はその時だよ。野良の女がジャングルの中で死んだだけだし、キミに迷惑はかけない」

「まるで他人事だな……」

 

 タマミツネは強敵だ。駆け出しのハンターが狩るような相手ではない。ましてや、こんなど素人が相手するなど以ての外なんだが。

 

 クレアはどことなく軽い。自分の命がかかってる話なのに、まるで気にもしてないような。

 密猟云々はもはやどうでも良くて、そっちの方が気になった。クレアは薄い笑みを浮かべる。どういうつもりなんだか。

 

「……そのボウガンを使ったことは?」

「小型ならしょっちゅう。大きい熊や蟹を仕留めたこともある」

 

 ほう、アシラやザザミを相手した経験があるのか。実力はそこそこあるらしい。

 

「断れば?」

「後ろから撃ち抜くかも」

 

 こえーんだよ、この女。

 しかも躊躇なくやりかねないのが余計怖い。

 

「……わかった。ただし、危険だと判断したら蹴り飛ばしてでも中断させるからな」

「別に私はぽっくり逝っても……」

「い•い•な?」

「冗談。怒らないでよ」

 

 縁起でもないことを言うんじゃねえよ、ったく。

 俺に迷惑はかけないって、こっちは人が死んでいくのを見たくねぇっつの。

 

 強めの語気で言い返したが効果は薄く、クレアはいそいそと道具の準備を始める。どうやら、密林のベースキャンプやらサブキャンプやらで勝手にかき集めたらしい。

 そんな自由でやりたい放題のクレアを見て、俺は頭痛を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……意外と大きい」

 

 タマミツネはあっさり見つかった。隠れ家とそう離れていないジャングル奥地の広場。モンスターと戦うには充分な広さだが、そんな場所でも奴は大きく見える。クレアもその大きさに驚いていた。

 艶やかで素早い印象のタマミツネだが、イメージに反して中々にデカい図体をしている。これでナルガクルガみたいに動き回るんだから困ったものだ。

 

 クレアの顔をチラッと見る。驚きこそしていたが、怯えや気負いは見えない。

 意外と肝が据わってるな?初見のモンスターを目の前にしながら、表情ひとつ変えない。

 

「弾の判別はつくのか?」

「うん。撃てる弾は分かる」

 

 フルフルのライトボウガン、銘はフルットシリンジだっけか。通常弾はもちろん、麻痺弾に睡眠弾、徹甲榴弾と幅広い弾が撃てる万能武器。極め付けはタマミツネの弱点である電撃弾を撃てること。それも速射で。

 

「わかった。じゃあ、後衛から麻痺弾を頼む。あとは通常弾で十分だ。徹甲榴弾は隙がデカいし、睡眠弾は……爆弾ないしいらねぇか」

「これは?」

「速射は隙が大きいから、電撃弾を撃つのはラッシュの時だけでいい。火力は俺が出す」

 

 タマミツネとの戦闘経験がないクレアに攻撃は任せられない。わざわざコイツが攻撃せずとも、奴の動きを止めれば俺が攻撃する時間が増える。さすれば、狩りはスムーズに終わるって寸法だ。

 

 念のため、そこらにいたランポスで試し撃ちさせて、動きは見た。それを見る限りは大型モンスターとやり合っても大丈夫だと思う。

 ……が、万が一の時は俺が助けないと。幸い、タマミツネ一匹なら俺一人でどうとでもなる。

 

「……うし、行くぞ」

「任せて」

 

 それならお手並み拝見といこう。

 まずは足元を崩すところから、そんでもって隙見て頭狙う方向で。

 

 

 

 

 

 

「多分次あたりで麻痺になる」

「おけ。頼んだぞ」

 

 密林は、緑の穏やかな風景をぶち壊すように地面は泡にまみれていた。タマミツネが分泌する体液のせいだ。それだけ、戦闘が激しい証拠でもある。

 にも関わらず、クレアは無傷だった。結論から言おう。優秀なガンナーだ。ハンターライセンスがないとは思えない実力を持っている。

 

 まず、恐ろしいほど落ち着いている。狩りを失敗する原因の大半はモンスターへの恐れや焦り、それに伴う判断ミス。それらが起きる気配がない。

 そんでもって、モンスターの動きを見透かしているように射撃が正確だ。どの程度で怯むのか、麻痺毒はどのくらいで効くのか。それが感覚でなんとなく分かるらしい。

 機械のように正確な動きは、頼もしさよりも不気味さが勝るほど。だが、狩場で頼りになることは間違いない。

 

 クレアの声を受け、俺はタマミツネを誘導する。

 広場に樹木が立ち並ぶおかげで、ガンナーが身を隠すには最適。そこからタマミツネを狙えるように、俺が囮になる。

 

「……シュート」

 

 放った麻痺弾が炸裂し、タマミツネが動きを止めた。麻痺毒が効いて痺れた証拠だ。

 

 今こそ攻撃に転じる絶好機。俺は抜刀してタマミツネの顔付近を陣取り、剣を振るう。

 片手剣の一撃は、数ある武器でも最弱クラスにしょぼい。リーチもないからモンスターに近づかなきゃいけないし、盾はおまけクラス。はっきり言って、お手軽火力が出せる武器ではない。

 

 しかし、その魅力は取り回しの万能性と強力な属性攻撃。攻撃が軽いなら手数で補え。奴が苦手とする雷属性をとことん叩き込め。

 

 剣から奔る電撃が、タマミツネの鮮やかな鱗を焦がす。頭部に弱点属性はさぞ効くだろう。上機嫌で剣を振っていると、タマミツネの頭部で爆発が起こった。

 ……徹甲榴弾、だよな?クレアが撃ったんだろうが、なぜ電撃弾より優先したんだ。

 まぁいいか。その意図があるなら俺も応えよう。

 

「ヴォルグくん、そろそろ」

 

 麻痺が切れる合図だ。締めといこう。

 バックステップからの溜め斬り。斬りながらタマミツネの頭を駆け上がり、降下しながら盾を叩きつける。フォールバッシュを喰らわせたと同時に、奴の麻痺も解けた。

 

 結局倒せず仕舞いか。威力は手数で補えとは言ったが、やっぱりこういう場面だと大剣やハンマーが羨ましい。ま、あんな重たい物持てねーから使えないけど。

 せっかくフォールバッシュしたのにスタンにもならないし、ラッシュを損した気分だ。ここからも盾で殴るか?動き回るタマミツネ相手に、流石に無謀な気もする。

 

「来てるよ、ヴォルグくん」

 

 射撃しながらクレアが警告。タマミツネがスライディングしながら尻尾を叩きつけてくる。

 危ねえ、なんとか避けられた。狩りの最中に考え事は禁物だ。しゃーなし、地道に斬ろう。

 

 避けざますぐに尻尾に斬りかかる。タマミツネが嫌がって身を翻すが、そこからさらに距離を詰めて振り下ろし。そのまま斬っていると、また奴の顔が爆発に包まれた。

 ……ん?爆発?

 

「もう一発」

「おい、無理に狙うな!」

 

 嫌な予感は的中。クレアが徹甲榴弾をタマミツネに撃ち込んでいた。

 普通に撃つだけならいいが、あの弾は強力な分反動がデカい。麻痺してる時ならまだしも、素早いタマミツネ相手に撃つのはリスクがありすぎる。だから、敢えて使わなくていいって言ったのに。

 

 ほら見ろ、跳んで避けられた。

 って、あのモーションは……

 

「クレア、距離を取れ!!ブレスが来る!」

 

 跳躍後、横に滑走しながらのブレス。広範囲を薙ぎ払える凶悪な攻撃だ。初見じゃまず対応するのは不可能。クソっ、閃光玉投げて間に合うか?

 

 と思っていたら、クレアは距離を取るどころか、むしろ前に出た。タマミツネが撒き散らした泡に突っ込み、それに乗って滑りながら高圧水流の下を通り、それだけで終わらずなんとタマミツネの顎先に弾を撃ち込む。

 

「上手くいった。ぶい」

「ぶい……ってお前!」

 

 クレアは、ピースしながら呑気に指をぴこぴこと開閉させている。流石に突っ込まざるを得ない。

 

「どうかした?」

「二度とあんな無茶すんな!見てるこっちの寿命が縮むわ!」

 

 何のために後衛に徹しさせたと思ってるんだ。人の苦労も知らないで。

 怒りすら覚えるが、クレアはなぜ自分が怒られたのか分かってなさそうだ。目をパチパチさせてきょとんとしている。コイツ、恐怖心というものがないのか。

 

 ……今は言うだけ無駄だ。狩場でこんな言い合いしている時間もないし。

 

「ったく、もういい。徹甲榴弾はもう使うな」

「あ、うん。それは大丈夫」

 

 だって……とクレアが言いかけた直後。悲鳴をあげながらタマミツネが倒れ、目を回していた。

 

「もう必要ないから」

 

 奴が起き上がれずにもがいている。どうやらスタンを起こしたらしい。決め手は、さっき撃った徹甲榴弾か。

 計算済みと言わんばかりに、クレアはすでに電撃弾をリロードしている。ここまで来るともはや凄いんじゃなくて怖い。

 

 クレアが速射を始め、俺も遅れて再度ラッシュをかける。

 そう時間はかからなかった。さっきの麻痺終了の時点でほとんど体力が残ってなかったんだろう。弱点属性で徹底されてはひとたまりもなく、タマミツネは起き上がれないまま息絶えた。

 

「あ、終わったんだ。意外とあっさり?」

 

 二回も拘束して、二人がかりで弱点属性でタコ殴りにしたらそりゃな。

 

 思った以上に早く終わった。成果としては上々といっていい。久々の狩りだったが体が鈍っている感覚はなかったし、クレア含めてケガもなし。

 それ以上に精神的に疲れた気もするが。理由は言うまでもない。

 

「普段からあんな戦い方してんのか?」

「あんなって?」

「モンスターの攻撃に面と向かっていく奴なんて見たことねぇよ。怖くねぇのか」

 

 上位のハンターともなれば、モンスターの攻撃を正面からいなす奴もいるだろう。が、基本的に狩りはヒット&アウェイが鉄則。それを見誤り、攻撃ばかりして死んでいった連中は数知れない。

 コイツの場合、それらとは若干違う気もするが。なんというかモンスターに対する怖さを感じられないというか。いずれにせよ、隣でこんな戦い方されたら心配で仕方ない。

 

「そうでもない。それに、あのモンスターはあと一発で気絶するって思ったから」

「なんで分かるんだ?それも、あの共感覚って奴の力なのか?」

 

 思えば、麻痺させた時もそうだった。次の弾で麻痺することが分かるような発言、実際その通りにタマミツネは麻痺になった。

 まるで心を読んでいるような。

 

「そんな万能じゃない。モンスターの苦しむ感情がなんとなく分かるから、そう考えるだけ。他の人より感じる力が鋭いんだよ。ただそれだけの話」

 

 クレアはどこか遠くを見つめる。

 なーんか含みがありそうで気になるが……聞くのは流石に野暮か。

 

「……まぁいい。とにかく、もうあんな行動は無しだ。あんな無茶して死なれたら後味悪い」

「気をつける、多分」

 

 多分、ねぇ。本当に分かったのか空返事なのか微妙な返答だ。

 他人のはずなのに、気になってつい口出ししてしまうのは俺の悪い癖。一緒に狩りをして感じたのは、クレアという人間の意外な危うさだった。

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