アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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グリード•ファイター

 密林は食の宝庫である。特産キノコや密林ゼンマイといった特有の食材、生肉はガーグァから獲れるし、釣り場も豊富ときた。

 この自給自足のサバイバル生活。成り立っているのは、密林の環境のおかげなのは言うまでもない。なにせ、ここに来てから食料には一切困ってないのだ。

 

 何日かに一回かは食料の調達に赴く。クレアはもう手慣れており、ルートまで確保しているという徹底っぷり。いつもは野草やキノコ、虫を採って終わることが多い。時間もかからないし、道具も必要ないしで手軽なのだ

 

 太陽が真上に昇りきらない時間帯だが、すでにカゴの中は食料でいっぱいになっていた。デカいカゴに詰められた食材、これでも取りすぎないように配慮している方。

 だが、この量でも数日しか持たない。理由は至ってシンプルである。

 

「んむ……んっ。ジッと見てどうしたの?欲しくなった?」

「いや、さっき食ったからいい」

「串一本だけで足りるの?」

 

 お前と一緒にするな。

 食材集めもひと段落して小休憩。クレアが間食を始めて、かれこれ数十分経つ。カゴの食材を串に刺しては焼き、耐えることなく食い続ける。

 

 理由というのはこれ。クレアの食事量。

 前も言ったが、俺よりも食う。というか、常人の三倍は食う。

 

「ただの素焼きでよくそんなに食えるな。味付けもないし飽きるだろ?」

「お腹に溜まればそれでいいから」

 

 調味料なんてそりゃないだろうが、無粋な奴。

 これだけ大食いのくせに、クレアの体格は非常に小柄だ。むしろ痩せ型だし、背も俺より頭ひとつ分ぐらい低い。女として見ても小柄じゃねえかな。なんて効率の悪い身体構造してるんだ。

 

「さっきから何してるの?」

「見ての通り釣りだが」

「いいね、釣り。大食いマグロとか、嬉しい」

「誰かさんが喰ってばっかで暇なんだよ」

 

 まだ食う気かコイツ。

 無論、クレアのおやつを調達するためにやってるんじゃない。待ってる間に吸い続けていたタバコもとうとう無くなり、なおこれだったから暇潰しである。ったく、後は帰るだけだってのに。

 まぁ、サシミウオとか釣れたしいっか。多少の足しにはなるだろ。

 

 最後であろう串が焼けたのか、クレアは全部を両手に俺の釣りを眺める。つっても、まだ五本ぐらいあるが。見てて胸焼けがしてきた。

 

「前から聞こうと思ってたんだけど」

「おう」

「キミは、なんでこんな場所で遭難したの?」

 

 ごもっともな疑問かもしれない。だいぶ今さらな気もするが。

 

 特に隠す必要もないので、俺は飛行船での出来事をクレアに話した。

 飛行船で移動してたら別の飛行船がぶつかってきたこと。その飛行船に取り残されたアイルーを助けに行ったこと。そこで、謎の飛来物が衝突してきて落下して今に至ること。

 ……結局なんだったんだろうな、アレ。

 

「……そんな理由?見ず知らずのアイルーを助けに行った挙句、死にかけたの?」

「まぁ、まとめりゃそうだが……やっぱ変か?」

 

 クレアからは『理解できない』とでも言いたそうな視線を向けられた。真っ当な反応かもしれない。

 あの場面、確かに俺の行動は無茶だった。俺がこうして遭難しているのが答え。おそらく俺以外に助けに行く人間などいなかったし、その結果犠牲者が出ても『悲しい事故』で片付けられたはず。

 

 でも、あの時に目が合ってしまったんだ。あのアイルーと。見て見ぬフリはできなかった。

 もっとも、無茶をした結果がこれなんだが。あの行動に後悔はない。だが、我ながら損をする性格だとは思う。

 

「そうだね、変かも。少なくとも私の知る人間という種は利己的で身勝手、腹の底では何を考えてるかも分からない生き物だよ」

 

 やけにボロクソ言うな。

 クレアは口の中を飲み込み、『でも』と言葉を続ける。

 

「私の目に狂いはなかったと思う。キミは出会ってきた人間とは違う色を持ってる。さっきの話、聞く限りだと御伽話のヒーローみたい」

 

 ヒーロー。

 その単語を聞いて、人知れず心臓が跳ねた。みたいって、俺は『なれなかった』側の人間だ。詳細は省くが。

 

 そんな名声を得るようなことはしてないし、そんな存在になれるとも思わん。だが、手を伸ばせるところで助けを求める奴には、手を差し伸べようとしてるだけ。ただそれだけである。

 クレアが、俺に何を見出してるのかは知らん。だが、俺はそんな特殊な人間ではない。

 

 ま、そのおかげで命を助けてもらったから別にいいんだけどな―――と、竿が反応した。何か掛かったか?

 

「て、重っ……!?」

 

 釣り竿が折れそうなぐらいしなる。なんだこれ、ちょっと尋常じゃない重さなんだが。密林にこんなデカブツっているんだっけ!?

 

「ホントに大食いマグロ?いけいけ、頑張れ」

「手伝え!」

 

 ほんっとに重い。向こうも釣られたくない一心で暴れ回るし、腕が持ってかれそうになる。

 だけど、相手も生き物だ。暴れるのを止め、力が抜ける瞬間が必ずある。そこをつけば―――

 

「そこだぁ!!」

 

 釣れた。

 

 もっとも、水中から出てきたのは魚でも魚竜種だ。水竜ガノトトス。れっきとした大型モンスターに分類される。

 そういや密林にもいるわ。まさか、こんな形で出会うとは。

 

「わぁ、大物。焼いたら結構美味しいよね」 

「アレを食う気か!?」

 

 ちょっと食うことから離れろ。

 てか食えるのか?え、あの大きさでも食えるのか?

 

 いや、落ち着け。幸い、ガノトトスのサイズはかなり小さい。通常個体の半分もないくらいだな。そんなガノトトスは、釣り上げられてから地面を跳ね回っている。息が荒いし、なんだか辛そうだ。釣っただけなのに。

 そういえば、どっかの島で釣り上げたガノトトスがショック死したって話があったな。あれも極端な幼個体だったとか。狩猟依頼が出てたら他のハンターが狩りに来るだろうし、コイツも似たもんなんだろう。

 

 少し可哀想だが釣ってしまったもんはしゃーない。見過ごして隠れ家に影響が出ても困るし、ここで討伐するしか―――

 

「シュート」

 

 俺が剣を取り出すよりも早く、クレアはもうガノトトスに対して射撃を行っていた。弱点である電撃弾を容赦なく叩き込む。

 

「おま、早いっての」

「食後の腹ごなしにはちょうどいい」

 

 血気盛んな奴め。無茶はすんなよ。

 ガノトトスは、既にクレアの奇襲で足元がガクンと崩れるぐらいには効いていた。やはり相当脆い。

 

 が、当然油断は禁物。俺も遅れてガノトトスに向かって行く。

 ガノトトスはブレスの構え。狙いはクレアか。

 

「そっち狙われてんぞ!」

「わかってる」

 

 クレアが撃つのを止めてその場から退く。少し遅れて放たれたブレスは、クレアのいた地面を鋭く穿った。

 タマミツネ同様の水流ブレス。図体は小さいくせに威力は一人前だな。喰らったら、防具ごと切り裂かれて真っ二つだ。

 

 ただ、タマミツネより攻撃動作の隙が大きい。回避した先でクレアは再び射撃を、俺もガノトトスの側面から切り掛かる。

 すると、ガノトトスはターゲットを俺に切り替えた。振り払うように尻尾回転する。

 

 ちぃ、これが面倒くさいんだガノトトスは。

 ブレスが脅威と見せかけて、デカい図体活かした肉弾戦もちゃんとこなす。タックルとかタックルとかタックルとか……。

 だがまぁ、俺が狙われるってことはクレアが攻撃し放題ってわけだ。

 

「効いてる。弱ってるよ」

 

 俺がガノトトスから狙われている間、絶えず電撃弾が飛び交う。早いな、もう弱ったのか。小さい個体だし、相応に体力も低いんだろう。

 すると、ガノトトスが体を起こした。こーれ、薙ぎ払ってくるブレスだ。

 

「クレア、頭下げて前に出ろ!」

「っとと」

 

 体を起こして、上から扇状に地上を薙ぎ払うブレス。ガンナー殺しの攻撃だが、それはお見通しだ。

 

「あと少しなのに……!」

「待て、無闇に突っ込むな!」

 

 アイツ、また無茶な動きしやがって。

 クレアの動きが甘いのを見破ったのかは知らないが、タイミング悪く狙いがクレアに移った。

 薙ぎ払いの次、すぐに直線ブレスを放つ。殺意がたけぇ。

 

「……っつ。危ないな、もう」

 

 それでも、なんとか直撃は回避したらしい。ったく、相変わらず心臓に悪い。

 

 そうなったら、今度は俺が攻撃する番。顔の真横を陣取って、王牙剣【折雷】を振り回す。

 踊るように舞い、目の前を刻む。ブレイドダンスとはよく言ったもの。片手剣版乱舞の方が分かりやすいか。まぁ名称はどっちでもいいが、フィニッシュといこう。剣を突き刺し、切り払えば―――

 

「ヴォルグくん、少し離れてて」

「は?」

 

 気づけばクレアがガノトトスの間近にきていた。

 明らかにガンナーの距離じゃないのに何をする気だ。それを聞くよりも早く、クレアは懐からさっきの串を取り出して―――ガノトトスの目に躊躇なく突き刺した。

 

 ……うーわ、えっぐ。

 ガノトトスが文字に書き起こせないような悲鳴を上げながら暴れ回る。俺に離れろと言ったのは、これに巻き込まれないようにするためか。

 

 で、なんでわざわざそんな残酷なことをしたかっていうと。

 

「顔を狙うなんて卑劣さん。お仕置きしてあげる」

 

 らしい。クレアの右頬には、血が流れていた。さっきのブレスが掠めたんだろう。

 無表情でも圧を感じる声色。ガノトトスの顔面にゼロ距離で電撃弾を叩き込むと、程なくして奴は息絶えた。

 

 ……ごめんな。俺が釣り上げたばかりに。合掌。

 

 

 

 

 

 

「終わったね」

「……ああ。お疲れさん」

 

 表情ひとつ変えずにクレアは呟く。弱い個体だったから苦労はしなかったが、まぁうん。なんかまた精神的に疲れた。

 

 俺もクレアも特にダメージはない。怪我も……あるとすれば、クレアの顔の傷か。

 白髪で顔半分が隠れている右側。雪のような肌に真っ赤な血が伝う。クレア本人は特に気にしてなさそうだが……。

 

「……止めて!」

 

 拭いてやるかと手ぬぐいを差し出そうとすると、クレアが拒絶するように俺の手を叩いた。

 

「え」

「……あ、ごめん。大丈夫、自分で拭くから」

 

 触ったらマズかっただろうか。異性の接触を嫌がるのは分からんでもないが、少しショック。

 というか、拒絶の仕方がガチというか殺意すら感じたんだが。なんなら、ボウガンに手が伸びかけていたし。……やめよう。聞くのも怖い。

 

 にしてもコイツは、なんだってあんな無茶をするんだろうか。今日だって、後衛で射撃してれば傷も負わずに済んだというのに。

 やたら好戦的なのも、無闇に攻め込もうとするのもよく分からない。そもそも、なんでわざわざハンターの真似事なんてやってるんだか。

 

「ねぇ、これって食べられるの?」

「不味くはないらしいな。大トロは人気って聞いたことが……」

 

 人の心配など露知らず、クレアはそんなことを口にする。お前さっきまで間食してたよな?剥ぎ取りナイフまで手にして、解体する気満々だ。どこまでも本能で生きている奴。

 

「食える分だけにしろよ?」

「……ケチ」

 

 この女が分からない。

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