アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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プレイ•ボーイ

 今日の密林は、朝から桶をひっくり返したような土砂降りだった。

 

「あーあ、やっぱ洞窟で休んでりゃ良かった」

 

 確かによく雨が降る場所ではあるが、その中でも特に今日はハズレを引いた。雨は視界も悪くなるし体力を奪う。ずっと晴れてほしいのが本音。

 髪は張り付いて鬱陶しいし、防具が水を吸って重くなる。地面が泥濘んで足場も悪い。良いことなど何もない。

 

 今日のような土砂降りの日でも、支給品ボックスのチェックは毎日欠かさない。最も、最近はルーティン化しているだけで成果はゼロだったが。今日も何も無しで出歩き損だった。

 こんなんじゃ食料も取れやしない。今日は大人しく洞窟でジッとするのが良さそう。

 

「ん。なんだありゃ」

 

 帰ろうとした矢先。何か光るものを見かけて、俺は思わず足を止めた。

 この視界が悪い中で存在感を放っていた異物。地面に突き刺さった……甲殻だろうか。より異質なのは、異物の周囲にクレーターが出来ていること。そんな高所から落ちてきたのか?

 

 いや、こんなもん俺が考察してもわかんねぇか。専門家に任せりゃいい。そのためにも、早くギルドでも調査隊でもなんでも密林に来いっつーの。

 ま、いいや。気を取り直して今度こそ帰り……

 

「なんだ、これも空から降ってきたのか?」

 

 異物が落ちていたすぐそば。防具を着込んだハンターが横たわっていた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「……で、そのまま連れてきたの?」

「しゃーないだろ。放っておけないし」

 

 で、結局放置できずに連れて帰りました。

 大変だったんだぞ。土砂降りの中、防具着込んだ奴を背負って帰ってきたんだから。おかげで身体がバッキバキだ。

 

 俺としては狩場で気絶した人間を放っては置けなかったし、何より貴重な情報源。多少の苦労をしてでも連れて帰る価値はあった。

 だが、人嫌いなクレアはこれを良しとしない。見るからに不快そうな顔をして、今にもボウガンの引き金を引こうとしている。何を撃つ気だ。

 

 見たところ、俺より少し若い男のハンターのようだ。密林に溶け込みそうな若葉色の髪を後ろで縛っており、首や耳に木彫りのアクセサリーを着けている。いかにも若い男って感じでチャラチャラしてる。

 武器は太刀に、アケノシリーズか?まだハンターとしては未熟らしい。

 

「てなわけで、仲良くしましょ。そんな物騒なものは下ろして」

 

 見た目だけじゃなくて中身もチャラついてんなぁコイツ。クレアに銃口突きつけられても平然としている胆力だけは認めるが。

 とりあえず話を聞こう。どこから来たのか、なんで密林で倒れてたのか……。

 

「お近づきの印にお名前教えてくださいよ。あ、名乗る時は自分からっすかね?ボクは――」

 

 男の喋りが乾いた銃声にかき消された。

 

「興味ないし聞いてない。次は当てるよ?」

「止めんか阿呆」

 

 本当にぶっ放す奴があるか。

 不快なのは分かるが、ここまで人間嫌いだとは思わなかった。俺と出会った時も同じことをしてたな。ぶっ放されはしなかったが。

 

「ったくアイツは……。て、お前大丈夫か?」

「ひゃ、ひゃい。らいじょうぶっす……」

 

 腰抜かしてら。

 そらそうだよな。実弾ぶっ放されるとは思わんわな。可哀想に。

 

 男が落ち着いて、そっからようやく話を聞く。

 名前はガルザといい、やはりこの密林には狩り目的で来たらしい。他にも数人の仲間と来たらしいがその仲間と逸れ、挙句の果てには道中で行き倒れて今に至る。

 

 中型モンスターの狩猟で来たらしく、狩猟対象はアオアシラだとか。普通なら、初心者でも苦労しないモンスターなんだが。

 

「で、そのアオアシラを見つけたところまでは良かったが、何か雰囲気がおかしかったから全員で逃げ出したと」

「っす。四人満場一致で。その時に俺だけ逸れて」

 

 ということらしい。所詮アオアシラ、と侮るような奴すらいないとは。それほど危険を感じたということか。

 雰囲気がおかしい個体……。特殊個体というと狂竜化や獰猛化、あと最近は傀異化ってのもいるんだっけか。いずれも戦闘経験はない。この先出会いたくもないけど。

 

 行き倒れてたのは雨に打たれて疲弊したか、緊張感が途切れて脱力したか。いずれにせよ、『普段の密林ではない』ってことだ。

 一つ合点が行ったことがある。支給品の確認を毎日していた俺だが、昨日も今日も確認した時はなかった。取り尽くしたんじゃなくて、そもそも届けに来た形跡すら。

 

 なぜないのか。

 届かなかった?はたして、下位クエストでそんなことがあるのだろうか。

 

 上位クエストなら珍しくない。何故なら狩猟環境が不安定で、ギルドの配達が遅れるから。

 が、下位クエストでそんなことは滅多に起こらない。少なくとも、俺のハンター生活の中では下位クエストで支給品が届かなかったなんてことはない。

 

 それぐらいのトラブル、異常事態ということ。そんな密林にガルザのような初心者ハンターが来てしまったのは、単なるギルドの調査不足か情報の伝達ミスなのか。

 

「心配だし、皆と合流したいんスけど……」

 

 ガルザは頬を掻きながら言葉を詰まらせる。気持ちとしては行きたい。が、体が動かないといった具合。

 無理もない。ハンターとはいえ元は人間だ。何を見たかは知らないが、普通の反応ではある。

 

「こんなところで怠けてないで、すぐ行ったらいいんじゃない?初対面の人に頼らなきゃいけないほど、一人じゃ何もできないの?」

 

 クレアはやけに棘がある。

 行きたくても行くのを拒む心情を理解してないのか、はたまた分かってて言ってるのか。

 

「言い方があるだろ。すぐ行けりゃ苦労しねぇよ」

「……ふぅん。わざわざ気にかける必要もないと思うけど」

 

 クレアはぷいっとそっぽを向く。

 この雨だ。一人で探すのは困難だし、ここで出会ったのも何かの縁か。それに、見知った顔が後々死体で見つかるのは目覚めが悪い……よな。

 

「どこで逸れたんだ?」

「えと、エリア3……湖の辺りっすけど」

「……ちょっと、何考えてるの?」

 

 クレアはこの際無視だ。

 

「仲間探すの手伝ってやる。天気が落ち着いたら外行くぞ」

「えっ……ええ?」

 

 ガルザの目が瞬く。意外、とでも言いたい表情。

 そんな変なことを言ったつもりはないのだが。

 

「初対面相手にお人好しが過ぎるんじゃない?何か見返りでも?」

「あるわけねぇだろ。困ってるから助けるだけだ」

「……理解不能。付き合ってられない」

 

 クレアはボウガンを持って外に出ようとする。

 

「まだ外は雨降ってるぞ?」

「お構いなく」

 

 完全に臍を曲げたのか、クレアはこちらを振り向くことすらせずに隠れ家を出て行った。

 

 あそこまで不機嫌そうな態度は初めて見る。何が気に入らなかったんだか。

 他の奴と話してるから?そんなしょうもないジェラシーを拗らせるような関係ではない。

 

「いいんすか?あの子、出て行ったっすけど」

「ほっとけ。気が済んだら戻ってくるだろ」

 

 負い目を感じたのか、ガルザはシュンと小さくなる。最初の饒舌な様子はどこへ。それとも、こっちが本来の性格なのか。

 ガルザは続けて大きくため息。大きく項垂れる。

 

「気にしてんのか?アイツに言われたこと」

「まぁ……事実なんで。俺は、一人じゃなぁんも出来ねえ弱い人間っす」

 

 皆そんなものだと思うが。口をはさむのは容易だが、黙って聞いていた。

 

「ハンターになったのも、弱っちい自分をカッコ良くしたかったんすけど、まあこんな感じで。そりゃ、女の子からも幻滅されるっすよねぇ……」

「ま、アレは特別だから気にするな」

「良いっすよねぇ、ヴォルグさんは。立派な装備で、自信もあって、人を助ける余裕すらある」

 

 ふぅと、ガルザは息を吐く。

 仲間と逸れ、散々な目に遭ったことへの哀れみ。クレアの容赦ない毒舌。装備と発言を照らし合わせるに、今のハンターとしての腕前にも満足していないと見た。

 

 そんな人間は多い。自分は何者かになれると信じて、偶像を追いかけて、そうしていずれ気づく。ああ、自分はその辺の有象無象でしかないんだと。

 冷静に考えたら当たり前のことなのに、どうしても受け入れられない時期はある。自分は一人じゃ何もできない?そんなものは当たり前だ。

 

 俺だって偶像を追いかけた時期があった。なんでも自分で出来ると思っていた頃が。それ自体は悪いことではない。が、理想ばかりを追いかけて現実を見失ってしまった。俺はガルザが羅列しているような立派な人間ではない。むしろ同じようなもの。

 ただ、目の前のことに必死なだけ。目の前で困っている奴がいたら手を差し伸べる。ただそれだけ。

 

「褒めるならタバコの一本でもくれ。それに、自分で自分を弱いという奴の方が立派だと思うがな」

「ないっすよ、そんなもの」

 

 自分を客観視できる奴は中々いない。強くなれる第一歩は自分を弱いと認めてからだ。

 まぁ、まだ難しい話だろうが。確かに現時点では気弱でちゃらんぽらんな印象はあるが、そういう素質をガルザからは感じた。

 

 ま、俺も説教する気はないので、会話は適当に切り上げられた。特に娯楽もない隠れ家の中、静寂に包まれて時間だけが過ぎていく。

 普段は食材とったり、狩りをしたり、クレアと他愛のない会話をして時間を潰してたから気にならなかった。アイツいねーとすげー暇だわ。

 

「帰ってこないっすねぇ」

「……確かに、散歩にしちゃ長すぎるな」

 

 あまりにも暇でどうしようかと思っていた矢先、ガルザが口を開いた。

 全くだ。どこでどう時間潰してるんだか。何を以てあんなに不機嫌になったのかは知らないし、考えてもわからない。直接聞いた方が良さそうだ。

 

「ちと早いが、お前の仲間探しに行くか。臍曲げてるアイツも気になるし」

「う、うぃっす」

 

 クレアのヤツ、一応武器やら防具は持っていっているようだ。だったら身の安全は大丈夫だろう。

 座りっぱなしで軋んでいた身体をグイッと伸ばす。ちゃちゃっとガルザの仲間探して、クレアとも合流して、無事一件落着とするか。まるでピクニックにでも行くような、そんな軽い足取りで俺は隠れ家を後にするのだった。

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