アイム ア ヒーロー   作:ぜおん

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バイオレンス•クロウ

 アカアシラが真っ先に狙ったのは、近場にいた俺だった。飛びかかりを回避して、奴と一定の距離を保つ。

 剣士とガンナーのコンビなら、剣士である俺が攻撃を惹きつける役目だ。むしろ都合がいい。

 

「作戦とか、何も決めてないけどどうするの!?」

「お前は離れたところから援護射撃だ!近づく必要はねえから、何とか奴の隙を探してくれ!」

「ヴォルグくんは!?」

 

 アカアシラのベアハッグを躱しながら、クレアに指示を送る。モンスターを狩った経験はあれど、他のハンターとのまともな連携は皆無だろう。適当に動いて狩猟できた今までとは訳が違う。

 

 俺がクレアに見込んだのは鋭い洞察力。どの攻撃が効果があり、どう攻めればいいのか。糸口を探してもらうのが役割だ。何も勢いだけでクレアを戦いに参加させる訳じゃない。戦力として期待したからこそ、背中を預けている。

 

「好きに暴れさせてもらうさ」

 

 逃げるのは性に合わない。俺もアカアシラに肉薄して応戦。王牙剣を手に斬り込む。

 初撃の感想。想像以上に堅ェ。原種アオアシラの尻を斬った時とは手応えがまるで違う。上位武器なのに、ろくなダメージになる気がせん。

 

「とは言ったものの、闇雲に突っ込んでもしゃあねえな……」

 

 奴を攻め立てるうえで、弱点情報を見つけ出すのは必要事項。情報というのは、主に部位と属性二つを指し示す。

 属性は原種アオアシラと同じと仮定するなら火か雷。だがクレアが電撃弾をいくら撃ち込んでも効果が見込めなかった以上、違うと判断した方がいいだろう。別属性が弱点だとしても、いま試す手段はない。俺の武器も雷属性だし。

 

 そして部位だが、効果が見込めそうなのはやはり頭だろうか。定石といえばそれまでだが、中々ヘビーな話になる。

 まず、アシラ種の頭は高い。二本足で立ってるのが基本だから当たり前。狙えるとしたら四つ足になるタイミングだが、そんなに多くはない。

 

 それに、顔を狙うには奴の正面に立ち続ける必要がある。当然危険度は増す。普段のアオアシラなら尻斬ってりゃいいから、そんなことする必要なかったんだが。

 俺だけならその危険を冒す必要はあったが、今はクレアもいる。まだ様子見段階だ。俺はとにかく動きを見切るに徹しよう。

 

「分析はクレアに任せるか」

 

 パーティーで戦う時の役割分担の基本。メインアタッカーに、標的となるタンク、その他囮の遊撃や遠隔攻撃のガンナーといった風に分けられる。

 ガンナーは当然クレアがいるから、俺はタンク兼遊撃を担うことになる。ま、簡単に言えばチョロチョロ動いてアカアシラの標的になる役割だ。

 

「無茶はしないでよ!」

「自分のことだけ心配してな」

 

 クレアの心配をよそに、俺はアカアシラに特攻。奴が爪を振りかざした瞬間に、準備していた小タル爆弾を投げつける。

 爆発に怯んだ隙に奴の背後へ。がら空きの尻を斬りつける。やっぱコイツかてぇ……。気を抜くと簡単に弾かれそうだ。

 

 深追い厳禁。背後にいる俺を轢こうと、アカアシラがヒップアタックを仕掛けてくる。これは原種と同じだから下がって回避。

 アカアシラが立ち上がったところで、俺は再度奴の背後から斬る。対するアカアシラは体を捻り、溜める体勢。

 

「頭狙うどころじゃねえなこりゃ」

 

 通常のアオアシラでもよく見た引っ掻き攻撃。やはり頭を狙うのは不可能だ。近づけばあの爪で引き裂こうとしてくる。

 奴が予備動作をしているうちに、疾翔けで急いで安全圏へ。ここでの出し惜しみは不要だ。奴の攻撃が止まったと同時に、もう一度翔蟲を使ってシールドバンプで接近。僅かな回数でも攻撃を重ねる。

 

 クレアも、俺の動きに合わせて射撃してくれてるようだが……。通常弾、貫通弾とあれこれ試しているのは伝わるが、どれも効いてる感じはしない。この硬い肉質だと時間がかかりそうだ。

 

 回転斬りまで加えて一度離脱。だが、すぐにアカアシラが飛び掛かって距離が詰められる。ああ、クソッタレ。翔蟲がまだ戻ってきてないのに。

 閃光玉……はもう手元にない。ならばと、懐に潜めてたこやし玉を投げつける。原種が嫌がるならという薄い根拠のみだったが、意外にも効いた。異臭を嫌がって、アカアシラが離れる。

 

 これで体勢を立て直し―――

 

「ヴォルグくん、すぐ詰めて!」

 

 ……マジぃ?

 雨音よりも響くクレアの声量。少し躊躇った。俺の体力も無限じゃないし、無理して距離詰める場面じゃないと思ったから。

 

「早く!私を信じて!」

 

 クレアが捲し立てる。背後で確認すると、アイツはすでにスコープを覗いていた。何を狙ってるのか知らんが……。

 ……分かった。骨は拾ってくれよ。

 

 言われた通りに詰める。アカアシラの方は、すでにこちらを迎え撃つ準備万端。上体を捻り、俺の首を一撃で刈り取らんと渾身の力を溜める。

 

 いいのか?詰めてどうするんだ?

 意図は分からないが、来る攻撃は外さなきゃいけない。アカアシラ渾身の振り上げが来る。俺は奴の右腕から離れるように横っ飛びに動いた。

 

 攻撃が放たれようとしたその瞬間、クレアの放った銃弾によってアカアシラの動きが止まった。

 これ―――麻痺か。即座に俺自身に弾が撃ち込まれ、身体に力が湧いてくる。鬼人弾の効果だ。

 

「さぁ、行って!」

「やるじゃねぇか!」

 

 痺れた状態なら頭を狙える。ダメージを稼ぐチャンスだ。クレアが距離を詰めろって言ったのは、この時間を少しでも無駄にしないためか。

 ミツネ戦のスタンと同じだ。クレアは、モンスターの様子を洞察する力に長けている。『そろそろ麻痺になるな』ってのが直感で分かるらしい。

 

 奴が四つ足で動きを止めている今なら、頭に剣が届く。多少堅いが、それでも一番マシな手応え。体力の続く限りジャストラッシュを続ける。

 締めの回転斬りを終えたところで、アカアシラが少しずつ動き始めた。麻痺が解けてきたか。分かってはいたが、このラッシュで弱る気配が一切ないのは堪える。片手剣、ライトボウガンだと一撃火力がどうしても乏しい。

 

「ヴォルグくん、少し離れて!」

 

 拘束が解けるより少し早く、またしてもクレアの指示が飛んだ。俺はその言葉に従い、まだ痺れていたアカアシラと距離を取る。

 

 すると、奴の頭部に炸裂した弾が爆発。徹甲榴弾を撃ち込んでいるようだ。

 スタンを狙うというより、これが一番火力が出るという判断か。間違っていない。爆発なら肉質の堅さは関係なくなる。クレアにそのハンター知識はないだろうが、直感で分かるんだろう。

 ……なるほど。期待してた以上に頼もしい。

 

 アカアシラが麻痺から解放され上体を起こす。息が白い。怒り状態になったようだ。

 だが、やはり致命傷とまでは至らない。ここからまた部位の堅いところでダメージを積み重ね―――

 

「っつぁ……!?」

 

 奴が吠えた瞬間、耐え難い爆音が耳を襲った。コイツ、バインドボイス持ちか……!

 原種には欠片もないから油断した。マズい、耳を塞いでしまったから隙だらけだ。あと何秒で体が動く?奴の動きは?

 

 俺が顔を上げると同時に、アカアシラが腕を振りかぶる。慌てて盾を構えるが、奴の腕は銃弾によって弾かれた。

 

「たまには私も見てほしいな」

 

 クレアのところまで咆哮が届いてなかったのは幸いだった。だが、今の銃撃でアカアシラが標的を変えた。原種とは比にならない機敏な動きで、爪をかざしながらクレアの方まで迫る。

 

「マズい……!」

「大丈夫。自分への攻撃は……避ければいい!」

 

 クレアは後方に翔蟲を射出すると、それに引かれるようにして跳躍。軽やかにその場を脱出して、アカアシラと距離をとった。

 

「さぁ、私のことは気にせずに!」

「……助かる」

 

 逆に、俺は前方に翔蟲を飛ばして接近。斬りかかることで、再びアカアシラの標的を自分に向けた。

 アカアシラは、体を回転させながら引っ掻き。俺は前転して背後に回り、隙を見てさらに斬る。

 

 怒り状態は未知だ。ただでさえ通常個体より機敏なのが、輪をかけて動きが速くなってる。攻撃力は言わずもがな。

 だが、攻めなければ体力面でこちらが不利だ。回避を念頭におきつつ、それでも攻撃し続けるという難しい要求をされる。

 

 爪の連撃をいなしながら、アカアシラに張り付いて斬り続ける。俺が前線に居続けるのは、クレアが狙われないためでもある。手を休める暇はない。

 その間も銃撃と徹甲榴弾の爆発が奴を襲っているのだが、意に介さない様子。少しは効いてる素振りのひとつぐらい見せろっつーの……。

 

 気にしたらダメだ。気持ちが揺らぐと疲れは一気に押し寄せてくる。

 だが、そんな一瞬の隙をつこうとアカアシラの攻撃は激しさを増す。体を捻りながら爪を振り回し、どんどんこちらに迫ってくる。

 

「一、二……クソ、間に合わねぇ……!」

 

 奴の回転数が早すぎて回避が間に合わない。やむを得ず翔蟲を使って離脱を図る。前方に飛ばして、引っ張られるように移動。

 

 だが移動先で振り返ると、奴はすでに両腕を横に広げ、ベアハッグの体勢を取っていた。

 そんなコンビネーション知らねぇ。じゃなくて、このままじゃ間に合わねぇ。翔蟲なんて出してる間に引き裂かれるし、こうなりゃ最終手段。心許ないが盾を突き出し、同時に後ろへ引いた。

 

「いっっ……てぇ!?」

 

 ガード。後ろに跳ぶことで衝撃を最大限逃がしたつもりだったが、あまりにも焼石に水だった。

 なんつー馬鹿力。盾を通じて腕に衝撃が行き渡る。痺れが止まらない。二度目はないな。続けりゃ骨が簡単に折れる。

 

 狼狽する俺を見て好機と判断したか、距離を詰めてくるアカアシラ。再度距離を取ろうと図る俺だったが、突然奴が横倒しになって鎮まった。辺り一帯に振り撒いていた殺気が、一瞬にして消え去る。

 

「寝た……?」

 

 考えられるとしたらそれぐらい。

 そして、それが出来るのは―――

 

「やっぱりキミって、自分が割を食う分には構わないタイプ?」

「何が言いた――いててっ!?」

 

 近づいてきたクレアがぎゅうっと俺の足を踏んづける。頬を膨らませて、結構なお怒りの様子で俺を見上げる。

 ……あんま怖くはねえな。

 

「ヘロヘロだったでしょ。あんなモンスター相手に囮役なんかして」

「……気づいてたのか」

「そういうの、分かっちゃうから」

 

 ヘロヘロとまではいかなくても、結構しんどかったのは正直な話だ。アカアシラの攻撃なんか喰らったら終わりだし、ランスみたいなデカい盾もねぇし、最前線で全ての攻撃を避け続けるのはプレッシャーが半端ないんだ。

 もちろん、自分で選んだから弱音を吐くつもりはなかった。経験の浅いクレアが遠距離で動き続けるには、これが最適だと思ったから。

 

 足を離してくれたかと思いきや、クレアは俺の頬をペチンと両手で挟む。なおも不満げな表情で。

 

「今までで一番の色をキミから感じた。力と強さを兼ね備えた、情熱の赤。この戦いにかける気持ちそのもの」

「……それなら別にいいんじゃないか?」

「時にその気持ちは、悪い方にも働く。張り切りすぎてもダメ。現に無茶してた」

 

 クレアの親指が、優しく俺の頬を撫でる。表情からも、本気で心配しているのが伝わってきた。

 ……確かに、気負ってたかもしれない。助けるって決めた以上、俺が先導しなきゃいけないとか変なプレッシャーがあったかも。

 

「人間なんてって思ってたけど、キミには死んでほしくない。感謝もしてるから」

「……悪かった。もっと体力配分考える」

 

 うん、とクレアは頷いて俺の頬から手を離す。

 少し時間があったことで、俺の息も整えられた。クレアが柔らかな表情を切り替えて、戦闘モードになる。

 

「あの子ね、搦め手には弱いかも。麻痺弾数発で痺れたし、睡眠弾もすぐに効いた」

「なるほどね、そこは原種と同じか」

 

 原種アオアシラはあらゆる状態異常に弱い。アカアシラも、そこは共通しているのではと。肉質や属性にばかり囚われていて盲点だった。

 となれば、希望が見えてきた。もう一度麻痺させられれば、攻撃の機会を作り出せる。一撃に欠ける片手剣とライトボウガンだから、睡眠弾のメリットが薄いのは惜しいが……。

 

「何してんだ?」

「これ?こうして地面に弾を突き刺して、爆弾を設置してるの。起爆竜弾って言うんだって」

 

 へぇ。ライトボウガンにそんなものが。自分の武器じゃないと詳しくないから初耳だ。

 

「ハンターでもないのによく知ってるな?」

「昔教わったからね」

 

 誰から、と聞きたいところだがそんな時間はないか。早くしないとアカアシラが起きてしまう。

 地面に設置し終えて準備完了。あとは起爆するだけだ。睡眠時に与えた攻撃はダメージを増大させると聞く。これで戦況が傾くといいが……。

 

「……ん?」

 

 いざ起爆しようかというその時。

 ほんの少し覚えた違和感は、『音』だった。明らかに自然音ではないもの、それが嫌に耳に残って俺たちの意識を移した。どこかで聞いた……そう、あの飛行船の上で。

 

「クレア、伏せろ!」

 

 その音は次第に大きくなる。なんだか嫌な予感がして、俺はクレアの手を引いて飛び退く。

 キィンという耳を貫くような甲高い音が雨音を切り裂いたかと思うと、音に遅れて何かが高速で地上を薙ぎ払った。

 

 それが起こったのは俺たちの目の前。赤い爆発ととんでもない風圧に弾かれ、目を開けていられなくなる。

 隕石が落ちてきたような、とんでもない衝撃。何が起こった、何の仕業だ。恐る恐る目を開けた先に広がっていた光景は―――

 

 堂々と居座る、巨大な銀色のモンスターだった。

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