異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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それって、大切なものの為に必要な事?

 

 レヴォリューションとバンカーが滞在したその日夜、深夜。

 

 雪こそは未だ降っていないが、身を切るような寒さがセーフハウスを包んでいる。薄着で外にいようものならあっという間に凍傷、下手すれば凍死の可能性もある中、スマホをポチポチと弄りながらウォーク系アプリを遊んでいる少女の姿あった。

 

 ミューズの片割れ、金髪の髪が特徴的な少女、クレアである。

 

 名前の由来がお菓子のエクレアを少々もじっただけと、安直な感じではあるがそれでも彼女は大いに気に入っている。マスターである友樹から頂いた名前なのだ、余程悪意のある名前でもなければ、彼女は何でも受け入れる。

 

 見た目こそギャルそのもので、行動も同じようなものだが、その内心はサイレーンにすら負けず劣らずの愛情を主人に対して抱いているのだ。

 

 目標の地点まで歩いて、目当てのモンスターと戦う。それなりに育ててきたキャラクターなので、イベント戦闘程度では負ける事などない。あっさりと倒して報酬を期待したが、外れだったようだ。

 

 ならば次の場所にと、この寒さの中を対して厚着もせずにすいすいと歩いて行く。

 

 今回のイベントのアイテムはかなり爆アドだ。これがあるだけでこれからの育成に大きく有利になるので、頑張らないといけない。

 

 マスター。彼女にとっての【ごしゅ】に自慢しなければならないのだから。彼も誘っているので一応一緒にやっている。まだまだお互いに初心者ではあるが、それなりに楽しくやれている。寧ろ彼が一緒にやっているだけで心が満たされていた。

 

 実を言えば別にゲームじゃなくてもいいのだ、一緒にデートなら幸せだし、身の回りの世話とかもしてあげたいし、夜の逢瀬なんてのも望んでいる。

 

 恐らくは半身であるショコラも同じ気持ちだろう。半身ゆえに、彼女が何を考えているかお互いになんとなくわかるのだ。内心の全てを分かる訳ではないのだが。

 

 いや、もしそれを知られたら色々な意味でクレアは困ってしまう。

 

【はぁ、ウォーク系のアプリなんて取らない方が良かったかなぁ。でもこれならご主人様と一緒にアプリデートも出来るって考えたら悪くはないんだよねぇ】

 

 普段の口調のクレアとは思えないような女性的な口調。そこにはいつものギャルの要素は全くない。

 

 そう、ショコラは分からないがクレア自体は「キャラ作り」でギャルを演じているだけだったのだ。理由は何故かと言われれば「少しでも個性を持たせないと埋もれる」という出てきた瞬間に入ってきた記憶から即座にくみ取り、サイレーンやテルクシノエーになかった要素を取り込もうと思った結果である。

 

 候補の中には令嬢系やエセ関西弁、後発のハトメヒトに取られてしまったがカオス系も考えていた。ある一部には刺さるらしいメスガキ系も考えたが、秒も経たずに却下した。自分の見た目でメスガキはただただ痛いだけである。

 

 半身であるショコラはギャル+メスガキっぽいのが似合っているので少々羨ましい。こういう時に限っては自分の放漫な肉体が憎たらしかった。何せどれだけナイスバディだろうがなんだろうが、見た目云々においてはテルクシノエーに勝てる可能性など皆無なのだから。

 

 ならばある程度やりやすく、見た目的にもあっているギャル系で行こうと思い立ち今に至る。出てきた瞬間の数秒に足らない間で決めた事ではあるが、問題なくそれで行けている・・・とは正直言い難い。

 

 ギャル系列という存在そのものが御堂にとっては少しばかり苦手だったのだ。嫌いというよりは対処の方法が分からない感じで、今も少しだけ会話する時に緊張しているのが分かる。

 

 そういう初心な所も愛おしいのだが、今更キャラ作りでした等とは言えず、一度そう設定し演じている間に、デフォルトの性格がそのままギャルになっているのだから、矯正するのも難しい。

 

 だが、これはこれでサイレーン達とは違い、肉体的なアタックをしてもあまり違和感がないので、彼女にとってそこまで悪いものでもない。

 

 色々考えつつも次のイベントモンスターに近づいている。魔力で身体を覆っている為冷気もかなり抑えられているが、それでも冷えるものは冷える。とはいえギャルを自認する以上は見た目にも気を付けなければならないのだ。

 

 普通の人間なら流石に寒くて着込んでモコモコになるかもしれないが、例え誰が見ていなくてもオシャレには気を付けなくてはいけない。

 

「はふ・・あぁ、ねみぃ。明日でもいいんだけどなぁ」

 

 イベント自体は明後日迄あるので、明日朝適当に回るのもいいのだが、明日はスピネルのケーキ指導に御堂達が付く事になっているので、そちらに参加しなくてはならないのだ。そうとなれば遊んでいられない。

 

 例えケーキ作りのケの字も出来なくとも、傍で指導している素敵な主人を間近で見る事が出来るのだから逃す手はない。

 

「お、いたいた。早く終わってあーしを眠らせてよな?」

 

 次のエンカウントモンスターに到着、さっさと終れと思いながらもスマホをタップするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―午前2時

 

 

「お、終わんねぇし・・・どれだけ沼ればいいんだよ、マジうざっ」

 

 結局目的のアイテムは獲得できず沼りに沼ること数時間、いまだに彼女は歩いていた。いっそもうどうでもいいから帰ろうかなとも考えていたが、ここまでやって成果0というのは癪に障る。せめて1個だけでも手に入れなければ今までの時間が無駄になると意固地になって歩いている。最早コンコルド効果そのものだ。

 

「あー、あーし何やってんだろマジ・・・」

 

 ふと正気に戻り、これって本当に必要な事なのか? と思いとどまる。

 

 そう言われればまったくもって必要などない。大切なものの為には意味のないものだ。強いて言えば、主人である御堂の興味を引く事が出来る事か、きっと驚くに違いない。

 

 それを見て驚いて羨ましがる【ごしゅ】を横目でにやりと笑いながら見続ける。その為だけに欲しいだけなのだ。

 

 暫し空を見上げる。

 

 木々に隠されて星空は見えない。強い風が吹き、冬が到来している時期。

 

「必要か、必要じゃないかって言えば・・・必要かな」

 

 人生に必要かと言われれば必要はない。

 

 戦いに必要な訳はない。

 

 だが・・・日常では、こんなに必要なものはない。

 

 そう、今彼女がやっているのは、日常のちょっとした延長なのだ。御堂が求めている日常なのだ。戦いとは関係のない、平穏で賑やかな日常。

 

 たかがゲーム、だが、遊戯ほど日常を彩り映えさせるものはない。余裕があるからこそ遊戯にいそしめる。平穏だからこそ、楽しめるものがある。

 

 ならば自分のやる事はこれなのだ。どんな小さな日常でも、手に入れて彼と家族と共有する。

 

「がんばっかぁ・・・」

 

「頑張るな、寝ろ」

 

「うひゃぁうっ!? ご、ごしゅっ!?」

 

 目を閉じて両手を上げていざ再開と言った瞬間に後ろから声を掛けられて飛び跳ねるクレア、とっさに後ろを見ると分厚いコートでもこもこになっている御堂が白い息を吐きながら立っていた。

 

「喉渇いたから水飲みにいったらショコラが起きててよ。どうしたって聞いたらお前がウォークアプリで外に出たって言うから探しに来たんだぞ? もう2時だ、帰って寝るぞ?」

 

「び、吃驚したぁ・・・気配察知は得意なのに、なんかスキル?」

 

「なんもしてねぇよ? 何か色々考えてたせいだろ? ほれ、そろそろ帰るぞ?」

 

「へーい・・・」

 

 彼女に向かって手招きしながらセーフハウスに戻っていく御堂。それを少しだけぼーっと見つめ、にやりと笑って伸ばしている手を掴んで腕を組む。

 

 突然の事に驚いた御堂だったが、悪戯が成功したような彼女の表情を見てやりたい様にさせる事にしたようで、そのまま歩いて行く。

 

 まだ雪は降っていないので落ち葉や木々を踏みしめた音が暗闇の森に響き渡る。本来なら神秘的というよりは恐怖を煽るような状況ではあるが、既に御堂もその程度ではビクともしないし、下手すれば幽霊やらなにやらよりずっととんでも存在なショコラにはこの時間はただの幸せな時間でしかない。

 

「あんまり夜に出過ぎるなよ?」

 

「ごしゅってば、あーしの事心配してくれてたんだ?」

 

「そりゃそうだっつの。ソウルギアだろうと、シーズン外だろうと心配しない筈ないだろ?」

 

「そっか・・・」

 

 組んでいる腕をもう少しだけ強く組む。御堂が着こんでいるのでそこまで感触は感じられないが、それでも暖かい感じがした。

 

「で? 上手くいったのか?」

 

「それがさぁ? きーてよごしゅ。沼り過ぎにも程があってさ、嫌がらせじゃね? これ――」

 

 予定とは大きく違ったが、これもまたちょっとだけ違うとしても日常の一部だろうか。夜で遊ぶ家族を探しに来る、そんな一幕。

 

「ねぇ、ごしゅ――」 

 

「ん、どうした?」

 

 言いたい事は沢山ある。

 

 色々と本音を吐き出してもらいたいと思う。

 

 弱さをぶつけてほしいと思う。

 

 自分達をとても大事にしてくれる、ちょっとだけ不器用だけど十分以上に優しい主人に、聞きたい事、言いたい事が沢山あって、だから彼女はもう少しだけ腕を強く組み。

 

「なーんでも。ほら、かえろ?」

 

 何も言わずに、今あるがままを大切にしたいと――――

 

 

 

―120話了

 

 

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