目を点の様にしながらレヴォリューションが俺を見ている。まさか本気で俺が主体でケーキ作って指導してるとは思わなかったようだ。「え? 冗談じゃなかったの?」と言わんばかりの表情をしていた。
「え? 冗談じゃなかったのか?」
「寧ろ言ったぞこの坊主。流石に毎日鍛錬だと身体が厳しいんでな。後今日はケーキの指導もあったんでのんびりしててくれ。あ、食うか?」
「あぁ、俺はそれで構わねぇよ? 勿論食う、味の方は保障してくれるのかい?」
「・・・ケーキ屋先生を疑うなんて、一度死んだ方がいい」
スピネル君の俺の信頼度が大きく上がっておられる模様。そして相変わらず流川と俺以外には口調が辛口なんだよなぁ。いい子ではあるんだが。
という訳でもう少しでクリスマスを迎える今、エキストラミッションも大事だがケーキ作りに妥協は出来ぬって事で、今回はほぼ全員参戦している。
意外にもバンカーが作ってみたいと息巻いていたのが嬉しかったな。今日はいつものメンバーが勢ぞろいしてるので、調理場も賑やかだ。
ちなみに流川は食べる専門でいつもの笑顔でのんびりしている。その両隣にはジェミニ達がわちゃわちゃしている姿もあるぞ。スピネルがそれを少し羨ましそうに見ているが、美味しいケーキを作ってやれるのはスピネルだけだからな、そこを上手く攻めるといい。
「むむむ・・・えーと、これはこれ位だから・・・」
計量カップと戦っているバンカーが微笑ましい。最近の子供ってのはわがままが酷いってよく聞くが、その点バンカーは今時素直な少年で、お兄さん的に信頼度はうなぎ上りだ。レヴォリューションも同い年らしいが、あっちは何と言うか学生って感じには見えないんで、あの佇まいも似合っているから何とも言えん。
寧ろバンカーみたいな感じで話し掛けてきたら慄く自信があるぞ俺は。
今日の参加者は指導者の俺、スピネル、バンカーの3人。サイレーンとテルクシノエーは今回は二人のサポートをしてくれてる。
山崎達は山田などを連れて次のミッションの為に鍛錬中だ。終われば疲労も激しいだろうしその為に糖分になるケーキを作っておいてやらんとな。
片桐?? あいつは寝てるよ。
「本当にケーキ作ってるんだなぁ・・・」
「冗談だと思ってたのかよ?」
「ははは、悪いな兄さん」
両の手のひらをまぁまぁと俺の方に向けて笑うレヴォリューション。やはり似合わないんだろうか。本格的に次のシーズンまでに髪の毛伸ばしておくかなぁ。最近は剃るのを辞めてきたから徐々に生えて来てるんだよな。なんというかいがぐり頭っぽくなってて恥ずかしいんで、基本は頭にバンダナか帽子を被るようにしてる。
何せポルクスが俺の頭を見て腹を抱えて暫く笑い転げてたからな。カストロに至っては俺の頭を撫でで「わ、この感触ざりざりして気持ちいい」とかやり始める始末だ。
それを見ていたポルクスと片桐がまたツボにはまって大爆笑、笑い過ぎて酸欠になりかけてたのでそのまま逝ってくれても構わんぞと放置しておいたわ。
「でもまぁ・・・そういう普通の趣味を持つのは、悪い事じゃないぜ?」
少しばかり真剣な表情でレヴォリューションは続ける。
「こういう切った張ったな生活を送ってりゃあ「普通」ってのを時々忘れちまいそうになる。人間ってのは慣れる生き物だからな、やり続けてたらそれに慣れちまう」
「・・・・そうか、そうだな」
「そうしていつの間にか、それが当たり前になり、普通ってのを忘れちまうのさ。人死にに慣れたり、殺す事に慣れたり、誰かが死ぬ事にもいつか慣れる」
耳が痛いな。
俺も最近は確かに少し慣れて来ていた。前回のミッションでもその前のミッションでも、プレイヤーが沢山死んだのに俺の心はそこまでかき乱される事はなかった。
緊急ミッションの時、あのおっさんが死んだだけで動揺していた俺とは大違いだ。あぁ、確かに慣れ過ぎたら殺しにも、殺されにも慣れていっちまうんだろうな。
そうしていつかはずるずるとリジェクションの野郎みたいになる可能性もあるって事だ。俺はそんなつもりはないし、なるつもりもないが、似たように誰かが死んでも気にしなくなるかもしれない。
「だからこそ、日常ってのは俺等は大事にしないとなのさ。兄さんの場合はそのケーキ作りがそれに当たるんだろ、忘れない様にするんだな」
「お前は、そういう日常の大事な物、ちゃんとあるのか?」
「・・・・どうだろうね。俺はまだ子供さ、色々小賢しくてもまだ20にもなってないガキだ。それまでに俺の大事な日常ってのを見つけたいとは思ってる」
山崎は親友と彼女を失って日常をなくした。その結果全てを捨てて復讐だけに生きるようになった。いつか復讐が終わったらそのまま日常に戻る事無く自分の命も終わらせてしまいそうだと思うほどに。
だが今は親友が生き返っている、あいつにとっての日常が、たとえソウルギアとしての復活だとしても戻ってきた。だからすべてが終わっても自分の命を終わらせる事はしないと思うし、なにかあれば彼等が止めてくれる筈だ。
本当に、日常ってのは大事なんだな・・・あぁ、だから流川は俺をプレイヤーにしたくなかったのかもしれん。
あいつにとって、俺の家に遊びに来たり、ケーキを食いに来ることが日常だったのだから。
「見つかるといいな、お前さんにとって大事な日常がよ」
「見つけるさ、ゲームとか普通にやりたいしな」
「そりゃあいい。なら片桐あたりに教えてもらえよ、あいつはゲーマーだからな引きこもりの」
「それは・・・いいのかい?」
「・・・金は持ってるし、まぁ、迷惑かけないんならいいんじゃねぇの?」
「・・・リバティは少し外に出るべき、いずれまたニートに戻る。ごみニートになったらもう助けない」
スピネルにすら辛辣な事を言われる片桐・・・哀れな。
「スピネル、ほらこっちの作業遅れてるよ?」
「・・・ん、ありがとサイレーン、がんばる」
「だね、喜んでもらえるといいね」
「・・・ん」
基本無表情のスピネルだが、こと流川の事になるとその表情が緩む。流川に作ったケーキを振舞って喜んでもらえた光景を想像しているのか、少しだけはにかんだ表情をしていた。
そんなスピネルをレヴォリューションが少しだけ見ていたが、それも直ぐに終わり開いている椅子に座ってスマホを弄りだしている。
「凄いなぁスピネルさん・・・お菓子作りって、大変なんですね」
「・・・慣れ。私もケーキ屋先生に教えてもらうまでは貴方と同レベル。きっと直ぐに上手くなる」
「おっと、これは頑張らないといかんなぁ」
「・・・がんばれ先生」
さぁて、残りの作業も頑張っていくかね。
※
―片桐視点
寝過ごした。
寝過ごしました。
寝過ごした。
つい今の状況を俳句にしてしまった私。
うぼぁー・・・今日は友樹がケーキの指導するって話だったから出来たてを食べようと思ってたのに、ついついゲームにはまりすぎて寝落ちしちゃったよ。
でも、仕方ないんだよ、FPSはゲームじゃあないからな、殺し合い、戦争だから仕方ない。あの粘着野郎、とりあえず連続30キルしてやったぜ、なんか途中でダイレクトメールが山の様に飛んできたけど全部無視してやったぜ、ざまーみろ。
私を敵に回したお前の敗因だ、マシン・ザ・リバティの演算能力とかを使わなくても、この程度のFPSなら私の技量と動体視力、把握範囲があれば余裕も余裕なんだよ。だから最初に数回キルされたのはノーカウント、そう、ノーカウントだ。
にしても、やっぱり色々掲示板やらなにやら調べてたけど、今回の1回目のエキストラミッション、報酬が豪華すぎるから何かあるんだろうなって騒いでる。
多くて1000ポイントも貰えれば十分なエキストラミッションなのに一番ハズレでも3000相当の10連チケットだ、参加人数が多いのも仕方ないよな。別に蹴落とし合いじゃあないし、MVP云々はまだ掲載されてないから荒れてないけど、多分これ始まるか、始まる直前にデータ出てくるんだろうなぁ。
6人パーティを組むという条件、この辺がちょっと怪しいんだよな。普通にボス退治のミッションになんでわざわざパーティ作る必要があるんだ?
まさか、どこかのバトルアニメみたいに、その6人パーティ同時で大会とかして勝ち残った奴がボスと戦うとかぬかさんよな? そんな疲弊した状態でボス倒せとか不可能だぞ馬鹿野郎。
出来うる限りの可能性を考えて、あらゆる情報を探していかないとな。
ゲームもしてるけど、私のメインはこっちの情報取集なんだから、一切手は抜いてない。私はまだ死にたくないし、もしヤバイようなら私と友樹は参加見送りさせる。アクセルは死んでも参加するかもしれないけど、その時は知らん。
私は私と私の友達が元気に生きてればそれいいからな。それ以外は仲間でも自ら危険に飛び込むならがんばれよって言うだけだ。
出来る限りのフォローとかはしてあげるけど、死にたくないしなぁ。どう考えても楽なミッションじゃあないってわかり切ってるし。報酬は勿論美味いけど、命と報酬なら命を取るぞ私は。
一応掲示板の方でも、今回のミッションについては色々おかしいって言われてるな。報酬のでかさと固定パーティ、シーズン外での開幕1回目ともあって情報が錯綜してる。似たようなミッションも現在探してるけど、情報スレにもまだ載ってないな。
私も過去数年分のミッションで、記録に残ってるのは総ざらいしたけど似たようなミッションはねぇし・・・完璧に新しいミッションって可能性もあるな。
そうなれば難易度がデタラメな可能性もあるんだよな・・・色々調べて分かってきたのは、ディザスターって意外と難易度デタラメなんだよ。難しい難易度と見せかけて滅茶苦茶簡単にクリア出来たミッションとかもあれば、
逆に簡単なミッションと思われつつ、プレイヤーが9割以上全滅して撤退で失敗になったミッションとかもあるっぽい。大体において難易度がおかしいのは外国で発生してるミッションだな。日本でのミッションも割と理不尽だけど、外国で開かれてるミッションに比べるとだいぶマイルドだ。
つまり・・・ミッション自体は同時期にいろんな場所で開催されてるけど、ミッションの内容は、各地域で対応、計画しているディザスター側の存在が居るって可能性がある。その傾向が分かれば、行ってもいいミッションと、避けるべきミッションが分かるんだけどなぁ、流石にそこまでは今の私じゃ調べきれねぇ。
「・・・ぅあ~、考えてきたら甘いもの食べたくなってきた・・・友樹、ケーキ作り終わったかなぁ。今から行ってもケーキくれるかな??」
美味しいケーキ食べたい。
まってろ親友、今私がいくぞ!!
―121話了