テルクシノエーの言葉に御堂が耳を傾けた。
「あのモンスターが、見た目通りなら精神的な耐性はそこまで高くないと思います。それならば私のスキルが役に立つかもしれません」
「あ、そうか【狂乱の唄】だね。でもここからでも届くの?」
「それよりも抵抗される可能性があるのが問題ね。声は届くから大丈夫」
彼女の歌は魔力―【マジック】を載せて歌う事で広範囲に響かせる事が出来る。サイレーンも同じ事は出来るが、こちらはダメージを与えた上でデバフをかけるタイプなので、ヘイトがサイレーンに向く可能性がある。
その点で言えば完全に阻害効果だけのテルクシノエーの唄はこの場合うってつけだった。
更に唄とは言うが、一度発動させれば後はマジックで維持させておくだけで別に歌い続けなくてもいいというデタラメと言うか適当な所も便利な所だろう。
「成程な。上手く行けばかなり楽に戦えるって訳か。早速任せても良いか? デバフが入ったら直ぐにあいつに向かうんで、二人はここで支援とあの坊主を見ててやってくれ」
「了解しました、御武運を」
「こっちはこっちで頑張るね」
テルクシノエーが一歩前に足を踏み出す。
普段の様子からは想像もできないほどの妖艶さが立ち上る魔力で更に強化されている。
「―――乱れて狂え!!」
高らかに叫ぶように魅惑するように彼女が歌う、唄う。謡う。
聞いた対象の精神を破壊する蠱惑的な歌が指向性を持ちイレギュラーナンバーに直撃した。
二本足で走り回っていたイレギュラーナンバーが突如たたらを踏み動きを止める。
その間約数秒、それは周りから見れば急に叫び声を上げその場で頭を激しくシャウトし始めた。踊っているというか、何か苦しんでいる姿だ。
今イレギュラーナンバーはその脳内に狂乱の唄のデバフ効果が永遠に叩き込まれている。抵抗を試みるが、攻撃力全振りのイレギュラーナンバーではその全てを抵抗することが出来ない。
自我崩壊は免れたが、狂乱、発狂、精神錯乱状態になり自分が何をしているかわからずその場で暴れる事しか出来なくなっていた。
「へ? 動きがとまった?? てかなにあの不気味な動き頭地面に叩きつけてる!?」
急に意味不明な行動を始めたイレギュラーナンバーを見て流石のフェアリーズも今の様子をマジマジと見つめている。
同時にその様子を好機と見た男が御堂より先に飛び出した。
テンプレのように絡んできたチンピラだ。
「なんでも良いだろ! 隙だらけだああぁぁぁぁぁ!!」
一番先に飛び出し狂ったように暴れているイレギュラーナンバーに駆け寄っていく。
「待って!? 危ないですよ!? 皆で――」
「うるせぇえええ! ポイントは俺が一番貰うんだよ! 行くぜ俺のソウルギアあああ!」
話も聞かずに男はソウルギアを展開させた。
現れたのは巨大な両手ハンマー【粉骨砕身】破壊力と粉砕力に特化し、自身にパワーを【20】も追加した上で、叩きつけた対象を確実に破壊し粉砕するという攻撃力特化のソウルギアだ。
男にとっては羽よりも軽いソウルギアを構えながら隙だらけに見えるイレギュラーナンバーにあと一歩まで近づいた。
「ドタマかち割ったらあああああああああ!」
衝撃と爆音。【粉骨砕身】は見事イレギュラーナンバーの腕を粉砕する。
絶叫を上げながら暴れまわり始めたそれに流石に次の一撃を入れる事は出来ず直ぐにその場から一歩離れ、次の隙を探し始める。
「破壊力だけは確かだな! 俺も続くぞ!!」
「僕も行きます!!」
遅れてリアリティアクセルとマキシマムバンカーが飛び出した。
二人がそのまま合流し、それぞれが攻撃を加えていく。腕を砕かれたイレギュラーナンバーは、混乱している事もありまともに戦う事が出来ていない。完全に3人に翻弄されていた。
だがその様子を訝しむレヴォリューションが居る。
「急に錯乱した? そういえばあそこの兄さんが何かやってたな、阻害効果か?」
「す、すごい。これ直ぐに倒せちゃうんじゃ??」
優勢になったのを確認したフェアリーズが余裕を取り戻していた。
「姉ちゃん? あの程度で倒せるなら緊急ミッションなんて言わないぜ? 多分まだ何か隠し持ってる筈だ。にしてもあのソウルギアの姉ちゃんたち強いな、精神に干渉するタイプって所か」
イレギュラーナンバーがおかしくなっているの理由がサイレーンかテルクシノエーにある事を一瞬で見抜く。
同時に警戒度を一段階上げた。PKではないかもしれないが万が一がある、仲間と言えど過度に信用するのは自殺行為。この世界はそういうものだと彼は知っている。
「うわぁ、ドカンドカンやってる。み、皆がんばれー」
一方的なタコ殴りに加え、破壊力に特化した二人が全力で攻撃しているので轟音が立て続けに鳴り響いている。
特殊型のフェアリーズではあの様な攻撃は出来ない以上、ここで応援するしか出来る事はなかった。
そして御堂と言えば――
「で、出遅れた・・・」
完全に出遅れていた。
チンピラ・・・【粉骨砕身】が飛び出していった姿を見て動きが止まっていたようだ。
一度出遅れた手前、今から合流するのも邪魔になりそうだと足を止めた。
一応テルクシノエーのデバフで貢献はしているので、何かあれば手助けに入る事にしたようだ。
更に追加すれば流石にあの恐竜の様なバケモノに近寄るのは勇気が必要だった。
「うわ、あのぴょんぴょん飛び跳ねてる人凄い勢いで切り付けてる」
「アクセルだな」
「そうそうそれそれ。あっちの人は殴るたびに爆音なってるし勝てそうかな?」
「バンカーとチンピラな?」
「そうそうそれそれ」
完全に押している三人を見て余裕なのではないかと考えるサイレーン。
御堂も同じ事を考えていたが、テルクシノエーだけは渋い表情をしている。
「攻撃は届いてますが・・・だめですね。攻撃力が足りてないようです」
「あ、あれで・・・!?」
「見なさい? 最初に破壊された腕もう回復してるわ。おそらく攻撃力と回復力に特化したタイプって所ね」
「となるとやっぱり鍵はあのレベル4の一撃か」
「そうなりそうです。逆にそれが通じなかったら逃げるしかありませんね」
御堂の攻撃力もレベル2に上がった事でかなり上昇したが、それでも粉骨砕身やマキシマムバンカーには遠く及ばない。リアリティアクセルには攻撃力では勝てそうだが手数では余裕で負けている以上、ここで彼が戦いに貢献する方法は前衛で囮になるか、テルクシノエーの阻害やサイレーンの回復しかないだろう。
「何かしら弱点が見つかれば勝てる可能性はあるかもしれないけど、それを探すのも一苦労ね。今は―――まずい!?」
テルクシノエーが叫ぶ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それと同時にイレギュラーナンバーが動いた。
脳内をグチャグチャにされている感覚に加え、周りを攻撃され続けた事に苛立ちを覚えたそれはただ怒り任せに体を振わせた。
凄まじい速さでイレギュラーナンバーの尻尾が薙ぎ払われる。
マキシマムバンカーはチャージの為離れていたが、その一撃はリアリティアクセルと粉骨砕身を確実に捉えていた。
「う、うぉおおおおおおおお!?」
緊急回避を発動させギリギリで回避に成功したリアリティアクセルだが、もう一人は逃げる事も出来ずそのまま尻尾で打ち付けられ吹き飛ばされた。
「なんて威力だっ!? くっ! すみません救出に行ってきます! アクセルさんもあまり近づかないで!!」
「わかった!!」
吹き飛ばされた場所の煙が張れると、そこは血だらけになっていた。
マキシマムバンカーがそこに向かうが小さく首を振る。
粉骨砕身が即死していた、全身が砕かれタコのようになっている。頭部は割れて脳が溢れていた。この状態を回復させるのはサイレーンの回復能力では到底足りない。
「っ・・・・!」
「バンカー一度戻るぞ。あの一瞬見えたものを全員に伝えないとならない」
「わ、分かりました」
知り合いという訳でもなかったが、それでも誰かが死ねば重いものが走る。
それは表面上普段通りのリアリティアクセルにとってもそうだった。
「また、護れなかった」
その呟きはマキシマムバンカーには届いていなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひぃぇええええ!?」
余裕かもと安心してみていたフェアリーズが顔面蒼白になって固まる。
レヴォリューションに走り寄った御堂が彼に告げた。
「俺が救出に向かう! こっちにはテルクシノエーを置いてくからチャージは続けてくれ!!」
「やめときな兄さん」
「な、何を!?」
「もう死んでる」
チャージを続けたまま淡々と告げる。
「っ・・・! 俺が出遅れなければ」
「いや、兄さんが行ってたら死体が2体に増えてたかもしれん。それにあれ兄さんのソウルギアのお陰で止まってるんだろう? 兄さんにとっちゃミスでも、全員にとっては成功の行動だよ」
レベル2でどう見ても初心者に見える御堂では、先ほどの一撃はおそらく避けられないだろうと彼は認識する。実際あの場面にいれば御堂も巻き込まれる可能性が高いだろう。バフの効果で生き残れる可能性は粉骨砕身よりは高いが、希望的観測でしかない。
「それに普通に攻撃したら倒せない事も分かった。あいつ多分体の何処かにコア、弱点があるタイプだ、あっちに兄さん達が戻ってきてるのはそれを伝えに来てくれたんだろうよ。だろう?」
マキシマムバンカーを抱えながら一瞬で戻ってきたリアリティアクセルに彼が言う。
「あぁ。奴の身体はどれだけ攻撃しても再生する。それにあいつが攻撃した瞬間、体の何処かが急激に力を上げたのがわかった。あれは俺も前に見たことがある、あのタイプはコアを破壊しない限り無限に再生する奴だ」
「えぇぇぇぇ、あんなに強い上に弱点攻撃しないと倒せないって。わ、私じゃあやっぱり役に立てないよ」
「寧ろ姉ちゃんは何が出来るんだよ??」
「あぅ。わ、私のソウルギアは特殊で、名前のように妖精さんを沢山召喚できるんだけど」
そう言って彼女は説明を始めた―
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【ソウルギア】フェアリーズ
小型の人型生命体を複数体呼び出す事が出来る
彼等に「お願い」することで何かしらの支援効果を受ける事が出来る。
ただし彼等は気まぐれなためどんな支援をしてくれるかはその時次第である。
報酬などを渡す事で支援する可能性が大きく高まる。
その支援能力はどれも途轍もなく高いが、戦闘力は低く戦闘には向かない。
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「こんなので、コアを探してってお願いすれば運が良かったら見つけてくれる、かも」
「ふわっとしてるな。こんなタイプのソウルギアもあるのか」
「だが、上手く行けば弱点を探せるか。なら俺達はまた戻って攪乱に専念するしかないな」
「そうですね。僕達では倒すのは難しいというか、無理ですし」
それぞれが生き残る為に相談している中、御堂は精神的に沈んでいた。
たった今人が一人死んだ。それも惨たらしく一瞬で殺されたのだ。
それなのに誰もが少しの動揺しかしていない、その現実に改めてここが死と隣り合わせの世界なのだと認識しなおす。
何とも言えない表情で彼等を見ているとテルクシノエーがいつの間にか震えていた手を握る。暖かい感触が御堂の精神を少しだけ回復させた。
「お気持ちはわかります。ですがそうしなければ次に死ぬのは自分達ですから、そうせざるを得ないのです、ご主人様」
とても重い言葉だった。
勢い込んでここに来た御堂に現実を突きつける重い言葉だ。だが、彼の目を覚まさせる優しさも込められていた。
すぐ隣ではサイレーンももう片方の手をぎゅっと握りしめている。
御堂は大きく息を吸いゆっくりと吐き出した。
「二人とも悪い。動揺し過ぎていた。んで浅はか過ぎたって今更後悔してる」
「良いんだよマスター。だって完璧な存在なんてきっといないんだから。そんなマスターを助けられるのはとても嬉しい」
「頼りにしてるよ二人とも。さぁ、俺もやる事やらないとな。よぅお前さん達! 俺はどうすればいい? まだ初心者なんでその辺教えてくれ!」
気合を入れなおし御堂が彼等の話し合いに混ざっていく。
それを見送ったテルクシノエーがサイレーンに告げた。
「ご主人様のフォローはサイレーン貴方に任せるわ。私はスキルを維持しつつ周囲に気を付けないとだから」
一番PKの可能性があった男は先ほど脱落した。他にPKが居るとは思わないがそれでも万が一がある。
もしかしたらあの中の誰かがPKかもしれないし、何処かに隠れている可能性も捨てきれない以上、御堂を護るためにテルクシノエーはいつでも狂乱の唄を発動できる態勢でいなくてはならない。
「安牌は前回参加してた二人かな。あの女性と少年は可能性有り?」
「どうかしらね。こんな所に出張ってくるPKもそうそう居ないと思うけど」
御堂達に見せる表情とは全く違う、能面の様な無表情で彼女は言う。
「何かあれば、PKの精神をぐちゃぐちゃに壊してあげるまでよ。ソウルギアがあろうと何であろうと、精神を破壊すればそれで終わりなのだから」
酷薄な笑みを浮かべ、テルクシノエーは周囲の警戒に移る。
戦いはまだ始まったばかりだ
―21話了
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【プレイヤー:バンカー】※HNの様なもの
【LEVEL:2】
【ステータス:パワー:2 マジック:1 ガード:1 レジスト:1】
【スキル:ソウルギア:装備型:マキシマムバンカーLv2】
―パワー:15 マジック:10 ガード:5 レジスト:0
―腕に装着する杭打機の様な形のソウルギア
―貫通力と破壊力に特化し、それ自身がかなりの防御力を持つ。
―マジックをチャージすることで起動させ放つ一撃は強力無比
―この衝撃は自身には当たらないが周辺にいる存在は巻き込むので注意が必要
―レアスキル【衝撃耐性】と同等の効果が常に発動
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