異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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難易度の急上昇はクソゲーってはんぺんが言ってた。

 

 サイレーン無双。

 

 支援系故に普段は戦闘で直接的に役に立てない彼女にとって、今回の様に御堂の役に立てている今が最高の状況だった。

 

 彼女が歌う度にモンスター達が次々に倒れポイントになっていく。

 

 もう一つの攻撃サイレーンヴォイドも今の彼女ならばかなりのダメージになってくれるだろうが、やはり即死するスキル程こういう場面に置いて役に立つものはない。

 

 無効化されない限り相手はただ死ぬしかないのだから、これほど便利なスキルは無いだろう。レベル3になって漸く自分にも居場所が出来たと思い始めている。

 

 このスキルの唯一の弱点は【歌】を歌うという事だろうか。

 

 現に絶えず歌い続ける事で喉が涸れ始めて来ている、一拍の間を置いて常備しておいたスポーツドリンクを一飲み。少し回復した傍からまた歌うというループを続けていた。

 

 同時に消耗していくマジック事魔力か精神力。スキルとは言え無限に使っていられる訳ではない。テルクシノエーの魔法然り使い続ければいつかは枯渇する。

 

 お約束の様なポーションの様な回復アイテム等はなく、回復魔法では怪我はともかく喉の渇きや精神力の減退は回復できない。疲労の回復できるスキルは自分しか使えないし使っている時間もない。

 

 だからこそサイレーンは全身全霊で歌い続けるのだ。喉が涸れ血が滲もうとも構うものではない。彼女が歌う事でモンスターは倒れ、ポイントとなり御堂の為になる。御堂が生き残る可能性が増える。

 

 そうすればまた明日からもマスターである彼と日々を過ごすことが出来る。

 

 その為にも与えられた役割は必ず熟さなくてはならない。

 

 サイレーンが覚悟をしている間にも流川が全員に指示を飛ばし、次のウェーブが来るまでの間に準備を整えている姿が見える。御堂も同じく準備を万全にしているようだ。

 

『マスター、私頑張るよ』

 

 更に力強く彼女は死へ誘う歌を歌い続ける。さながら伝説の海の怪物セイレーンの様に―

 

 

 

 

 ※ 

 

 

 

 周囲のモンスターコアは徐々に少なくなってきている。先ほどまでは壊しても復活していたのに20分を過ぎた辺りから再生が極端に遅くなり、今ではモンスターを産み過ぎて自壊するコアが多く、他はほぼ再生していない。

 

 それはつまりこのウェーブの終了を意味していた。

 

 まるで僧侶の様な姿をしているプレイヤーの一人【ソウルギア:金剛羅漢】を持つ50過ぎの男性、バトルネーム【羅漢】もそろそろ次が来ると持っている錫杖型の金剛羅漢を大地に叩きつけ音を鳴らす。

 

「そろそろ本番になりそうか」 

 

 サイレーンの広範囲即死魔法に驚きはしたが、自身の所持しているスキルにも即死を与える力はそれなりにある。彼女を見る限り広範囲に即死を与える能力だが、その効果はそこまで高くないだろう。同等レベルでそれなりにマジックがあれば余裕で抵抗出来るものだ。

 

 レベル1の場合は耐えきる事は不可能だとしてもレベル2のマジックタイプや装着型のソウルギア持ちには耐えられる程度、モンスターには格別に効いているがそれだけだ。

 

 この次のウェーブ。先ほどから嫌な予感が止まらない羅漢。

 

 必ず次は彼女の即死が効かない相手が出てくると睨んでいる。こんな簡単に守れるのなら罰ゲームと呼ばれはしないのだ。単純な防衛ミッションであろうとも徐々に敵が強くなっていき、最後には常にギリギリの戦いを強いられる。

 

 故にこのウェーブの間は力を温存し強化を貰い次に繋げられるのはとても助かっている。

 

「唵《おん》、阿謨伽《あぼきや》、尾盧左曩《べいろしやのう》、摩訶母捺羅《まかぼだら》、麽尼《まに》、鉢曇摩《はんどま》、忸婆羅《じんばら》、波羅波利多耶《はらばりたや》、吽《うん》!!」 

 

 光明真言を唱えセットしているスキルを発動させる。

 

 自身に強力な防御効果と状態異常軽減効果、更に精神防壁を張る事が出来る。レアスキルの一つだ。詠唱する特別な利点等は無いが、精神集中には欠かせないのだろう。

 

 周りを見渡す。レベル1の新人は居ないようだが大半がレベル2の様だ。相手のレベルだけを感知できるSレアスキル【レベルチェッカー】のお陰で他のプレイヤーのレベルを見る事が出来る。

 

 参加者は自身を含めて14人前後。一部レベルが現れない人間は人型のソウルギアなのだろう。あそこで歌っているサイレーンにもレベル表示がなされない。

 

 この中の大半がレベル2ばかりだった。寧ろレベル3は防衛対象を含め半数にも満たない。やはり戦力に不安が残る。

 

 彼はレベル3ではあるが物理的な戦闘力はほぼない。主力は魔法攻撃と防御能力のみ。金剛羅漢は所持者の【信心】によって魔法効果を劇的に上昇させるソウルギアであり戦闘には不向きなのが痛い。

 

 次のウェーブで襲ってくるモンスターが白兵タイプならば苦戦は免れないだろう。追加で言えばそれをこなしてもその次その次とどんどん相手は強力になっていく。

 

 強く金剛羅漢を握る。

 

 50も過ぎ死ぬ事にそこまでの恐怖はないが、何もできぬまま死ぬのはこれまでの人生を僧侶として仏道と人助けの道を歩んできた彼にとって耐えがたい事。

 

 今回のミッションの参戦も罪なき防衛対象を護りたいが為にやってきたのだから。

 

「今の私でどこまで役に立てるか」

 

「あら、もう既に弱気?」

 

「む? 【ガーディアン】さんか」

 

 呟いた言葉を拾ったのはソウルギアの少女。通称【ガーディアン】だった。巨大な斧を担ぎながら羅漢の傍に歩み寄る。

 

「この前は羊羹のお土産ありがとね。マスターが美味しいって喜んでたわ」

 

「ははは。子供には流行りの菓子の方が良いかと思ったがね」

 

「それはそれ、これはこれ。マスターは好き嫌いなんてしないいい子よ?」

 

「そうだったね」

 

 羅漢とガーディアンは彼女が形成されてから直ぐ出会った仲だ。

 

 子供であるマスターがまだ物心つかぬ幼児の時にミッションに巻き込まれ、家族が全て殺されてしまい、たった一人の時にプレイヤーとなり彼女が形成された。

 

 羅漢はその時にミッションに参加しており、今まさに生まれたばかりのソウルギアである彼女を助け、子供を救った過去がある。

 

 それ以来、彼は子供を引き取ったガーディアンと子供を心配しあれこれと現実世界の方でも色々手助けをしてくれていた。 

 

 始めは引き取るか孤児院に入れるかとの相談もしたが、プレイヤーになった以上他の親類縁者は巻き込めず、孤児院なども簡単に見つかるものでもない。それなりにコネを持つ羅漢が色々手を回し、ガーディアンが保護者として子供を預かるという今の状況になっている。

 

「あの子凄いわね~。この前は大ピンチだったのに」

 

「む? あのソウルギアの少女を知っているのか?」

 

「知り合い程度よ。この前の緊急ミッションとその前のミッションで共闘したの。意外といい子よ?」

 

「確かに。彼女の眼は真剣そのもの、マスターの為に命を張っているように見える」

 

 ガーディアンしかりジェミニしかり、人型のソウルギアはマスターをこの世の何よりも大切な者として認識する。どういう理屈でそうなっているかは羅漢も分からないが、恐らくは自身の魂が関係しているのだろう。

 

「守り切れるかしらねぇ」 

 

「君にしては弱気な発言だな。先ほどの君の発言とは真逆じゃあないか」

 

「そりゃそうでしょ。プレイヤー防衛ミッションの成功率知ってる? 10%以下よ」

 

「ふむ、なら10%は助けられるかもしれないと言う事だ。1%とか言わないだけまだまだ優しいさ」

 

「気楽ねぇ?」

 

「まさか。毎回怖がりながら戦っているよ。誰も守れない事に恐怖を覚えながらね」

 

 気安い二人。

 

 長く共に共闘し、リアルの世界ではマスターの世話もしてくれる羅漢に呆れともつかぬ溜息をもらす。

 

「何かあったらあんたは逃げてよね? マスターの未来を考えればあんたは必要なの」

 

「それは君もだろう? 君が死ねばあの子も死んでしまう」

 

「お生憎様。【死からの生還】積んできてまーす」

 

「それは何ともずるいなぁ」

 

「マスターの為には妥協なんて出来ないのよ、沢山稼いで強くなって、このゲームでも現実でもマスターを苦労させる訳にはいかないんだから」

 

 強く斧を握りしめるガーディアン。

 

 まだまだ何も知らないあの子《マスター》が幸福な大人になれるように。幸せな人生を歩めるように、その為ならば彼女は何でもできる。

 

「思い詰め過ぎない様にな? 君は普段の様な気楽な姿が良いのだから」

 

「あら惚れた?」

 

「まさか、仏道に入り仏の教えを説く。それ以外に私の生きる道はないよ」

 

「女の子好きなくせに」

 

「まだまだ私も修行不足と言う事さ。この歳になっても欲は衰えない」

 

「ドスケベお坊様って所・・・おわったか」

 

 しん―と静まり返った。

 

 周りのモンスターは全て消滅し、コアも一つ残らず消えている。

 

 サイレーンの唄は止み、自身に回復能力を発動させ水を飲み次の体制を整えていた。

 

「ここからね」

 

「あぁ、ここからだ。さぁ、守り抜こう」

 

 錫杖を構える羅漢。

 

 その前に立ちふさがるはガーディアン。

 

「あんたは後ろで私の援護宜しくね。さ、始まるわよ――!!」

 

 気炎を吐く彼女に呼応したかのようにひと際巨大な赤いコアが出現した――

 

 

 

 

 

 

 普段のコアより何倍以上も大きな赤黒いコアが浮かんでいる。

 

 現れたと同時にアクセルとバンカー、そして白兵武器持ちのプレイヤーが躍りかかり、全力の攻撃をそれぞれ放つ―!

 

 しかし。

 

「き、効いてない・・・!?」

 

「下がるぞ!!」

 

「わ、わかった!? って、何かが出てくるぞ!?」

 

 彼等の渾身の一撃はコアにかすり傷一つつける事が出来ず全員その場から離脱する。

 

 ドクンドクンと脈動するコアからまるで何かが産まれるかのように巨大な何かが這い出して来た。

 

【がああああああああああああああああああああああああああああああ!!】 

 

 耳を劈くような咆哮が周囲を震わせる。

 

 巨大な前足がコアを突き破り、その姿を露わにした。

 

「ド、ドラゴン・・・!?」

 

 それは正にファンタジーの定番ともいえる巨大な羽の生えたドラゴンだった。全身が赤黒い鱗に覆われており、生半可な攻撃はほとんど通じなさそうに見える。

 

 周辺の地理を無視するかの様な巨体が大きな音を立て地面に降り立つ。

 

 ゆっくりと首を動かしているのは体の調子を確かめているのだろうか。その姿は隙だらけだが、バンカーもプレイヤーもアクセルでさえ、次の一歩を踏み出すのは憚れた。圧倒的な威圧感と恐怖が全身を硬直させている。

 

【グルルルルル】

 

 息吹代わりに炎を吐くドラゴンがジロリとプレイヤー達の方を、正確にはその奥にいるリバティを見つめ、大きく口を開いた。

 

「まずい!? 避けろおおおおおおおお!!」

 

 誰の叫びか、集まっていた全員がその場を離れる。腰が抜けて動けなかったリバティは佐伯が担いでその場を離れ。そこに向かって火炎放射の様な炎のブレスが突き抜けた。

 

 炎のブレスはどこまでも伸び、奥の方から何かにぶつかったのか凄まじい轟音と爆炎を上げて燃え盛っている様子が見える。

 

 攻撃を外した事にイラついたドラゴンが再びゆっくりと顔を動かすと、耳障りの良い唄が多方向から聞こえてきた。

 

 同時にわずかにだが力が抜ける感覚を覚えたが軽く力を入れて前足を大地に叩きつけるとその煩わしさは簡単に消えてしまう。

 

『死へ誘う歌声が効いてない!?』 

 

『まずいわね、発狂の唄もダメみたいだわ。魅了効果も全部通じてないわね』

 

 後列に居た為余裕のあったサイレーンとテルクシノエーが直ぐに【死へ誘う歌声】と【発狂の唄】を発動させたが、容易く無効化されてしまった。

 

 この時点で二人は完全に戦力外になる。一応攻撃能力もあるが他のプレイヤーも要る以上攻撃は他に任せた方が良いだろうと、次の流川の指示を待つ。

 

「ウェーブ2からドラゴンですか。こうして出会うのは5回目位になりますね」

 

「パパどうしよっか?」

 

「コアが残っている以上、あれを倒しても次のドラゴンが出てくるだけ。更に言えばあのコアが生み出せるのは1体限りで、他のコアも生まれてこない所を見る限り、ダメージを与えて動けなくさせて待つのがカギになりますね」

 

 ドラゴンを生み出したコアは次のモンスターを輩出する事なく、その場で胎動し続けている。新たに生まれる様子も見えない以上、このドラゴンを倒すまでは新しいドラゴンは生まれてこないだろうと看破した。

 

 目の前のドラゴンはレベル的には恐らく4~5の間だろう。レベル3では攻撃力も防御力も荷が重い。それはステータスバフをかけまくった御堂であってもだ。

 

『皆さん、このウェーブは回避と援護に徹してください。このドラゴンは僕が引き受けます。後、これを倒そうとはしないで下さい。倒せば恐らく次のドラゴンが無傷で現れます』 

 

 流川からの念話が届いたプレイヤーが急いで距離を取る。言われなくてもこれを相手にしようとは大体のプレイヤーは考えられなかった。

 

 先ほどの三人の攻撃が無傷だった時点で、大半の彼等の攻撃は全て通用しないし、サイレーンの即死効果もあっさりと無効化された以上、ここで唯一のレベル4である彼に任せるしかなかった。

 

 全員この状況に戦慄している。

 

 ―まだ始まったばかりなのにもうこんなのが出てくるのか、と。

 

 プレイヤー防衛ミッションが改めてクリアほぼ不可能と言わしめる理由を生身で体感する事になる。もはやクリア云々ではなく、どうやって生き残るかが彼等の目的になりつつあった。

 

「マスター。倒さなくていいんだね?」

 

「えぇ。もしこれが生き残っていて、尚且つ新しいドラゴンが産まれてくる可能性があるのならば、倒してくれて構いません」

 

 流川の考えが外れている可能性もある。だからこそ臨機応変に動く必要があった。

 

「ドラゴンかぁ~。倒せばいいポイントになりそうね~」

 

 【ジェミニ:ポルクス】は目の前のドラゴンを見てもその余裕の態度は崩さない。

 

 隣では二本の大鎌【ディオスクロイ】を装備した【ジェミニ:カストロ】も気楽な様子を見せていた。

 

「最近模擬戦闘とか、ミッションでも雑魚退治ばっかりだったからね。次のが出てくる兆候がない限り倒せないのは残念だけど、楽しませてもらおうよ」

 

「ん~。銃の良い的になってくれそうで楽しみ♪」

 

 あまりにも嘗めた態度を見せる二人に知能の高いドラゴンは更にいきり立つ。

 

【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!】

 

「ははっ、一丁前に怒ってるよ空飛ぶトカゲ程度がさ」

 

「いいじゃない。自分が強者と勘違いしてるんだから可愛いものよ~♪」

 

「そういう事ばかり言っていると自分に返ってきますからね?」

 

「あぅ、はーいパパ、ごめんなさい」

 

「ごめんマスター。よし! 気を取り直して、いこうか!」

 

 この地区最強のソウルギア達がドラゴンに立ち向かった。

 

―43話了

 

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