異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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唐突に夢シーンが入るのは覚醒チャンスって聞いた

 

 SSスキル【トランスブースト】を発動させた俺だが。気が付けば何もない所にたった一人で立っていた。

 

 周りはだだっ広い白い空間で、他に誰も見当たらない。頭がぼぅっとしてあまり深く考える事が出来ない、俺は今何をしていたのだろう。スキルを発動させたのは覚えているんだが。

 

 地面はアスファルトではなく真っ白く綺麗な石か何かで覆われている。辺りを見回してみるが、全部真っ白で何も見えないし何も見当たらない。

 

 暑くも寒くもないし、風も吹いてこないし辺りからは何も聞こえてこない。

 

 何故俺はこんな所に立っているんだろう。

 

 何もできないがとりあえずここに居ても仕方ないし歩いてみる事にした。

 

 相変わらず頭はふらふらしてている。誰か傍に居たような気がするし、誰かの為に気合を入れたのもなんとなく覚えている。

 

 だがそれしか思い出せない。

 

 どんどん先に歩いて行くが、景色は何も変わらない。もしかしたら一生この何もない空間が続いているのだろうか。

 

 もう少し冷静に考える事が出来ればいいのだが、絶えず襲ってくる頭の痛みがそれを許してくれない。俺にできる事は、ただ何処かを目指して歩き続ける事だ。

 

 そういえば、昔もこんな何もない所を歩いていた様な気がする。

 

 あれはいつだったか。思い出そうとすると頭の痛みがさらに激しくなる。今は何も考えずに先に進もう。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 どれだけ歩いただろうか。

 

 周囲の景色は何も変わらない、ただ真っ白い空間がどこまでも続いている。地平線の彼方まですべてが真っ白だ。もしかしたら俺は永遠と同じ所を歩いているだけなのだろうか?

 

 流石に歩き疲れてきた俺は、その場に座り込む。

 

 地面は思ったより柔らかい。石かセラミックか何かに見えたが、どうやら違うらしい。ゆっくりと胡坐をかいて座ると、丁度いい気持ちよさだ。

 

 頭の痛みはまだ続いているが先ほどよりは多少楽になった。

 

 少し休みを取りつつ、改めて俺は今ここで何をしているのか思い出そう。

 

 俺はそう、スキル・・・スキルだ。

 

 SSレアスキルの【トランスブースト】を発動しようとしたんだ。

 

 何の為に?

 

 俺は何の為にそのスキルを発動させようとしたんだ?

 

 考える。

 

 考える程頭の痛みが増してくるが、漸く少しだけ思い出した。

 

 そうだ、俺は悲しませない為にスキルを発動させたんだ。

 

 誰を悲しませない為に??

 

 俺は誰を悲しませたくないからスキルを発動したのだろう。

 

 ぱっと思い出すのはじいちゃんとばあちゃんの二人だ。

 

 厳しくも優しかった二人。俺に残された最後の家族。とても大好きだった、出来ればずっと一緒に居たかった。あれは後悔だ、どこまでも後悔している。

 

 俺の作ったケーキを食べてもらいたかった、一言美味しいよって言ってもらいたかった。喜んでもらいたかった。ほんのわずかにでも孝行が出来ればなんて。

 

 間に合わない。俺はいつも間に合っていない。

 

 完璧を求めすぎてダメになる。完璧な存在なんて居ないだろう? 完璧な物なんてないだろう? 人間なんて完璧になれないんだよ。それが人間なんだ、完璧な人間なんてのは存在しないし、それが居たとすればそれはもう人間なんかじゃあない。

 

 何処かで妥協すればよかった。

 

 そうすれば間に合った。

 

 俺は馬鹿だから完璧を求めすぎて、大切な物が手のひらから零れ落ちた。

 

 今の俺は妥協の産物だ。

 

 全てを諦めた。

 

 あれほど目指していたパティシエの道を。

 

 ケーキ作りも妥協ばかりしている。

 

 妥協しすぎて堕落しているそんなのが今の俺だ。

 

 俺なんかよりずっと凄いケーキ職人は沢山居るだろう。

 

 俺なんかよりずっと頭のいい流川ならきっとみんなを護れるだろう。

 

 俺はもうそこそこでいい。

 

 完璧なんか目指すもんじゃあない。

 

 それはただの愚か者の道だ。

 

 全てを台無しにして、全てを零してしまう絶望の道だ。

 

『それが君の絶望か』 

 

「あ・・・?」

 

 目の前に真っ黒い人型の何かが居た。

 

 たえず揺らめき、その姿は時々ノイズが走ったように歪んでいる。しかしそれでもそれが「人の姿」をした何かだと言う事は理解できた。

 

「お前・・・なんだ?」

 

『僕かい? 僕はそうだな・・・君と同じだ』

 

 掠れて聞こえ辛い小さな声だが、それでもその声が男の物だと言う事は分かる。黒い影は時々揺らめきながら、俺の目の前でとどまり続けている。

 

『零してしまった。後悔してしまった。手を伸ばし過ぎて、間に合わなかった』

 

 俺と同じような事を言う黒い影。掠れた声だがその声色は後悔をしている様に聞こえた。

 

『それでも誰かを護れた。誰かを救えた、それでいいと諦めて妥協した』

 

「お前・・・」

 

『だけど心の中には燻り続けてるんだ』

 

 黒い影がひと際強く揺れる。大きな感情が渦巻いているように見えた。

 

『護れなかった時の事が、ずっとずっと残り続けている。全てを護るなんて神様にすら出来ないって言うのに』

 

「あんたは・・・・なんだ?」

 

 影は揺らめいている。

 

 俺の問いにそれは答えない。

 

 代わりに違う言葉を紡ぎだす。

 

『君の絶望は僕の絶望に似ている。大小の差はあれど、それは同じ後悔と絶望だ』

 

 更に更に、影は続ける。

 

『だからこそ引き寄せた。だからこそ掴み取った』

 

 声色が徐々に大きく聞こえてくる、影は更に黒くなり、少しずつその形を確かなものに変えて行く。

 

『君はもう諦めるかい?』

 

「諦め・・・る?」

 

『全てを諦めて、抜け殻の様に生きて行くかい?』

 

 俺の人生の事だ。

 

 満足とは言えないまでも、親友が出来て、仕事が出来て、未来があって。趣味があって。割と後悔の無い人生だ。こんなクソみたいなデスゲームに巻き込まれさえしなければ、俺はそれで満足したかもしれないと思えるほどには。

 

 だが、それは諦めた未来だ。

 

 俺の大切な物を諦めて、妥協しかせずに、全てをなぁなぁにして生き続ける、腐り果てた人生だ。完璧など求めて零した俺にはふさわしい未来。腐り果てた結末。

 

「俺は・・・もう完璧なんて目指さない」 

 

『だから、妥協だらけで諦めるのかい? 君は僕にそっくりだ』

 

「あんたに、そっくり・・・?」

 

『1か10しかない。僕もよく言われたものだよ、極端から極端にしか行かないのかってね』

 

 影が徐々にその姿を現していく。

 

 それは生身の人間じゃあなかった。いや、言い方が悪いな。俺の目の前には血の色の様などす黒いメタルアーマーを身に着けている何かが立っていた。

 

 騎士と言うには悍ましく、まさに悪魔の騎士と言わんばかりのシルエット。肌が見える部分は一つもなく、関節部分は黒いラバーの様なもので包まれている。鋭利な刃物の様に突起しているショルダーアーマー、胸部は血が炎の様に燃え上がっているような印章が刻まれている。

 

 フルフェイスヘルメットは目の部分はまるで泣いているかのように黒い線が伸び、男の後悔が形になった様な形をしていた。

 

 これは、この姿は―――

 

『【トランスブースト】僕の後悔の形。永遠に刻まれた贖罪の紅い鎧』

 

「トランスブースト・・・そうだ、俺は・・・」

 

 頭の靄が少しずつ晴れていく。

 

 そうだ、俺はクレアを、ショコラを、サイレーン、テルクシノエー、流川達をこれ以上、俺の体たらくのせいで悲しませない様にする為に。

 

『君はこの力をどう使う? 妥協して適当に戦うかい?』

 

「俺は・・・」

 

『1や10ではなく、4や7を目指してみるのも良いと思うよ』

 

 完璧を求めすぎて俺は失敗した。

 

 だから妥協して全てを適当に流す事にした。

 

 そうだな、目の前の鎧マンの言う通りだよ。別に完璧じゃあなくても、8や9の完成度でもいいじゃねぇか。10なんて求めてるのは俺自身しかいなかったんだ。

 

 他人の完璧なんて俺には関係ないし、俺は俺で出来る限りで良かったんだ。

 

 プロになる前のケーキだってきっとばあちゃんとじいちゃんは喜んでくれたはずだ。それを俺が勝手にこれじゃあだめだって、最高を用意しようなんて考えたのが馬鹿だったんだ。

 

 完璧なんてプロだって目指せない遠い果てにあるって言うのによ。

 

 そして失敗したからって、それ以後の人生まで妥協しまくって生きるとか、ふてくされたガキだって話だよな。

 

「そうだな、あんたの言う通りだ」 

 

 いつの間にか頭の痛みは消えていた。

 

 周囲は真っ白いままの空間で、目の前には悪魔みたいな鎧マンが俺を見つめている。見つめてるよな? 目の部分がメタルヒーローみたいなバイザーになってるんでよくわからん。

 

 あれ? よく見ると趣味悪いけど意外と格好良い? 下手すりゃ中二病患者扱いされそうだが、もしかして俺これに変身するの? え? メタルヒーロー御堂君始まるの? あれか? 佐伯少年と一緒にダブルヒーローやるのか? 流川どうするんだよ? 優秀なサポーター枠か?

 

 てか、意識を取り戻して来たら段々この状況が分からなくなってきたんだが。そもそも俺はどうしてここにいて、目の前の鎧マンは何方様だよ? 

 

 もしかして俺の覚醒フラグとかそういうシーンな訳なのか?

 

「所であんた、何もんだ?」

 

『・・・・』

 

「いや、答えろし!? ディザスターの関係者とか言わねぇだろうな!?」

 

 見た目的に悪役だし、ディザスターの関係者って言われても素直に信じられるんだが。いやそうだったら俺がこれに変身できる可能性があったとして、俺って悪役扱いされるんじゃね? おっさんの次は悪役? 勘弁してくれませんかね?

 

 俺はどこにでもいるただの元土木作業員兼おいしいケーキを作るお兄さん(ここ強調)だよ?

 

『ディザスター。君達は生き残り続ける限り、その悪意と対面する事になる』

 

「だからお前は――」

 

『スキル、装備、アイテム、ソウルギア、何れ知る時があるかもしれない。だけどそれを知ってもどうにもならない事をその時に知ると思う』

 

 鎧マンが更に続ける。

 

『僕は残滓、スキルに残った僅かな残滓。だから覚える必要はない、知る必要もない。君はただ僕に似ていたから、少しだけ・・・ほんの少しだけ手助けをしたくなったんだ』

 

 その姿に似合わない、少年の様な少女ともつかないような声。苦笑しているように聞こえるそれは、もしかしなくても真実の言葉なんだろう。

 

『そろそろ時間だね。君は僕みたいにこれ以上零さないように、君の出来る限りを続けていけばいいと思う』 

 

「よくわからんが、このトランスブーストはあんたのスキルで、俺はあんたの力をこれからも借りれるって事でいいんだな?」

 

『そうだね、難しく考える必要ないよ、もう消える僕から君へのほんの少しの手助けだ』

 

 最後に鎧マン。いや紅い鎧騎士は俺にそれを告げた。

 

『【トランスブースト:タイプ:ブラッディティアー】君がもし諦めずに手の伸ばし続けるのなら、それは君に力を貸してくれる』

 

「いや、長い。名前長いから」

 

 それもうトランスブーストでええやんってならないか? それにブラッディティアーとか見た目もそうだが名前も中二病満載過ぎて役満なんだが、もしこれが佐伯少年辺りに聞かれでもしたら、大爆笑間違いなしになるぞ?

 

『そこはまぁ、気にしないで』

 

「あぁ、うん、全力でスルーするわ」

 

『僕も心が痛かったから』

 

「すまんかった」

 

 だよな? ファンタジー世界でもなければ痛いだけだよな。いやファンタジー世界にいたとしても大人になったら痛くて転がる奴だよな。悪かった鎧マン、お前は良い奴だ。

 

『トランスブーストは意志の鎧。君が強い意志を持ち続け戦えばきっとその姿を変える。より強く、より君の望む通りに』

 

「え? ケーキになったりするのか?」

 

『君はケーキになって戦えるかい?』

 

「申し訳なかった」

 

 平身低頭で謝る俺。意外とこいつノリが良いんだな。

 

 でだ、徐々に影に戻って消えかけてるのは良いんだが―

 

「なぁ、俺はここからどうやって戻ればいいんだ?」

 

 多分こういう場所はお約束的に時間が止まってるとかそんなんだろうとは思うが、こういう場所って大体は夢の世界とかそう言うのだろうし、所謂覚醒フラグとか強化フラグが俺に来たって感じなのかもしれんが、まずもってどうやって起きればいいんだ?

 

『がんばれ――』

 

「いや、がんばれじゃなくて!? 待って消えるな!? 消えないでお願い!? せめて元の世界に戻る方法を教え――」

 

 はい消えました。

 

 そしてポツンと残される俺。

 

 え? 待って? 俺本気で目覚めないの? もしかして実はこれ強化フラグとかそう言うのじゃなくて、秒殺されたとかで見てる走馬灯とかそれ系のやつで、実は死にかけてるとかそう言うのなの?

 

 辺りはシーンと静まり返ってる。周辺には扉とかも出てこないしやっぱり何もない。もしかしてと思って自分の頬を張ってみたりつねってみたが、やはり何も変わらない。

 

「おーい!? せめて元の世界に戻る方法を教えてから消えてくれませんかあああああああ!?」

 

 喉が涸れる位に絶叫し続けていたら、叫びすぎて酸欠になったのか意識が遠退いて行った。

 

 あぁ、俺死んだら、来世はレアチーズケーキになるんだ・・・・

 

 

―47話了

 

 

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