異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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簡単なお仕事だって言ってたじゃないですかヤダー

 

 簡単に稼げる仕事だった筈だ。

 

 雑魚を甚振ってポイントを貰えるだけの仕事だった筈だ。

 

 実際周りは雑魚しかいないのに、どうして今自分はここまで苦戦しているのか。

 

 目の前には連携を組んで襲い掛かってくるレベル3の雑魚とレベル5に上がった先ほどまで雑魚だった奴。一人一人はまだ自分には及ばない、レベル3はステータスだけでごり押ししてくるだけの雑魚だが、それを上手くレベル5が援護するせいで回避専念するしかない。

 

 いざ叩き潰そうと思えば、レベル5・・・流川が巧みに攻撃を捌き、出来た隙を全力で御堂が付いてくる。回避した先にはテルクシノエーの闇魔法が飛んでくるというふざけた連携攻撃だ。

 

 まずこの中で一番やばいのは、流川だろう。

 

 レベル5で、自分と同じ人型ソウルギアがメインと言う事で個人の戦闘力は低いと思っていた。自分自身基本はソウルギア任せの為、個人戦闘力は同レベルには及ばない。だが、それでも同じタイプのレベル5相手ならば戦えると思っていたのに、この男、意外に思える程戦闘力が高い。

 

 そこに攻撃力だけなら自分達に追いつく御堂と、当たればダメージは免れない闇魔法を放ってくるテルクシノエーが居るのがきつい。一人サイレーンは後ろに下がってダメージを受けた仲間の回復に努めている。

 

「何、いつまで遊んでるんスか!? 早くこっち手伝えって!!」

 

 このままでは負ける――

 

 そんなことは許されない。低レベルの雑魚狩りに来た自分が何故雑魚に負けなくてはならないのか。苛立ちを通り過ぎ激怒した男が自分のソウルギアを呼び戻すが、彼方は彼方でジェミニと戦っているので、手が回らない。

 

「・・・好き勝手、言わないで――」

 

「余裕見せてると死ぬよ、オネーサン♪」

 

「っ!!」

 

 このまま転進すれば隙を晒すことになり、そこを突かれればカストロの次元断で殺される。援護は出来そうになかった。寧ろこちらの援護に来いと彼女も苛立っている。

 

「はぁ!? お前俺のソウルギアっしょ!? 命令を――」

 

「おおおおおおおおおおお!」

 

「ぅお!? あぶねぇ!?」

 

 命令を聞かない自分にソウルギアに対して絶叫した所に御堂が手甲剣で斬りかかった。すんでの所で回避したが、今のは危なかったと背筋に寒いものが走る。

 

 だが、攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 まるで暗殺者の様に音もなく流川が忍び寄りナイフを首に叩きつけようとしてきたのだ。その鋭い一撃をギリギリでかわし、押し出すように蹴り飛ばす。

 

 吹き飛びはしなかったがかなりのダメージを与えたようでその場に頽れるが、男が何かする前にそこに闇の槍が突き進んできた。

 

「死ね――ちくしょうが!!」

 

 あのまま流川にとどめをさそうとして居たら、魔法の槍は男の顔面に命中していただろう。必死に躱したおかげで利き腕に掠っただけで済んだ。運悪く魔法防御を無視した一撃だったようで、突き抜けるような痛みが走る。

 

 悶絶する程の痛みが襲うが、曲がりなりにもレベル6のプレイヤー、痛みを堪え再び距離を取ったが、そこにやはり御堂が突撃してくる。

 

「畜生・・! 雑魚の癖に粋がってんじゃ――」

 

「やかましい!!」

 

 男の言葉を無視して斬りかかる。その斬撃は簡単に避けられたが、強化された肉体は技術が無かろうとも力任せに凄まじい速さで攻撃する位は余裕で出来る。

 

 簡単に避けられる一撃ばかりだが、その合間を縫って流川が攻撃に混ざってくるのだ、油断すればダメージは免れない。

 

 いったん離れて仕切り直しする事も考えたが、残り時間が後5分という所まで来ていた。このままでは防衛対象を殺す事すら覚束ない。寧ろ気を抜けばこいつらに殺される可能性まである。

 

 いつも通りの弱い者いじめだった筈なのに、どうして今、自分はここまで追い詰められているのか。冷静に考える事も出来ず、ただただ御堂達の猛攻を捌くのが精いっぱいだ。

 

 周りには残ったプレイヤーが手薬煉引いて待っている。御堂が倒されたら次は自分だとばかりに――あいつらはレベル2や3の雑魚でしかないのに、今追い詰められているのは自分だった。

 

『おかしいだろ!? おかしいっしょ!? なんで俺がこんな目に!?』

 

 負ける筈がない、殺される筈がない、自分は上位者で目の前のプレイヤーは全て自分の獲物だった筈なのだ。自分がこんな状況になる訳が無い、現実逃避に近い思考が頭をよぎる。

 

『こいつ、こいつの所為っス・・・! この・・・ジェミニが!!』 

 

 たった一人に全てを狂わされた。

 

 最初はある程度小賢しいだけのレベル4だと思っていた男、流川。この男が事ある毎に何かをしてウェーブをクリアしていく。だが所詮そこまでだと思っていたのだ。その気になれば軽く殺して終わり、後は防衛対象を殺す前にプレイヤー全員を皆殺しにしてポイントを荒稼ぎし、防衛対象を殺して終わり、それで終わるはずの簡単なゲームが崩されている。

 

「てめぇの・・・! てめぇが! てめえええええええ!」

 

 スキルを発動した全力の一撃が流川を捉え――

 

 その一撃を御堂が同じく全力の一撃で弾き飛ばす。大きく態勢を崩しながら御堂を睨みつけ叫ぶ。

 

「邪魔すんじゃねぇよ! このクソザコがぁ!!」

 

「邪魔するに決まってんだろうが! このクソガキがぁ!?」

 

 叫ぶ男に御堂が同じく叫んで返す。

 

 男の攻撃をはじき、そのまま攻撃を続けながらどうやって男を倒すか考え、何も思い浮かばないのでとりあえず全力で叩き潰す事にする。

 

 そうしている間にも時間は刻一刻と迫っていく。

 

 残り時間は後4分を切った。残り時間があとわずかと知り男は焦る。ミッションが成功されたとしても特段重いペナルティ等はない。強いて言えば命の保険等はないので、死ぬ事がペナルティと言えるだろうか。

 

 だが、防衛ミッションの敵対者としてディザスターに呼ばれて、防衛対象を殺せないまま時間制限まで粘られて負けましたとなれば、ディザスターも良い顔はしないだろう。下手すればこれが響いて、次から呼ばれなくなる可能性もある。

 

 それだけは是が非でも避けたかった。ここまで美味しい稼ぎイベントが次から出来なくなるのは男にとっては勘弁してもらいたい事だ。何があろうとも防衛対象を殺しに行かなくてはならない。

 

 しかしこのままではこの美味しいイベントに参加できなくなる。後4分でこいつらを片付けるか逃げたとして、何処かに隠れているだろう防衛対象を探す事が出来るかだ。周りでいつでも動けるように待機しているプレイヤー達の中に勿論、防衛対象リバティの姿は見えない。

 

 更にそれを護っている筈の二人の姿も見えない以上、制限時間まで隠れきるつもりなのだろう。もし万が一見つかっても佐伯とスピネルが残り数分を耐えきってくるかもしれない。そしてこいつらを殺したなら兎も角、無視して追った場合、その数秒で追いつかれる可能性がある。そうなれば今度は流石に――

 

 死ぬかもしれない―――

 

 プレイヤーになる前、絶えず虐められてきた男が感じていた恐怖が一瞬だけ蘇り、頭を振ってその考えを飛ばす。

 

『俺はもう昔の俺じゃねぇんすよ!? 俺が虐げる側で、あいつらが虐げられる側なんだよ! 俺を虐めてきた奴等は全員殺したし、クソうぜぇ親も家族も全員殺したんだ! 俺が、俺が死ぬ訳・・・!』

 

「おおおらぁああああああ!!」

 

「・・・ヒッ!?」

 

 一度蘇った恐怖はそう簡単に消えはしない。

 

 ほんのわずかにでも死ぬかもしれないと、これは殺し合いだと言う事を思い出してしまった。今までは圧倒的に自分が有利な条件で相手を殺すだけというゲームでしかなかったが、今のこれは正に殺し合い、負ければ命を奪われるやり取りだ。

 

 背筋が寒くなり、弱かった自分が逃げろと喚いている。

 

 逆に怒り狂っている自分もそこにいた。雑魚にいつまでいいようにやられてるんだ、こいつらをさっさと殺して残り数分、すぐに防衛対象を殺していつも通りに好き勝手やって生きるんだと叫んでいる。

 

『ふざけんな、ふざけんな、ふっざけんなぁ! 俺は楽しむ側でこいつらは虐げられる側だった筈なのに――!!』 

 

「考え事が過ぎますね――」

 

「あぐっ!? いっ・・・てぇえええ!?」

 

 茹った頭では冷静な行動もとれず、一瞬隙を見せた所に流川のナイフの一撃がクリーンヒットする。刺された部分は腕だったが、ナイフの刀身が半分まで突き刺さっていた。

 

 直ぐに体をねじり、体を動かすが何かがおかしい。

 

 目の前が霞んでいるのが分かる。毒か何かではない。自分はスキルで毒や麻痺、混乱などの状態異常は大体無効化出来る。貫通スキルも無いことは無いが、流川が持っているとは考えられない。

 

 となれば持っていたナイフ自体に何かがあると考えていたが、流川が自分を見てこう告げた。

 

「これで僕達の勝利です――」

 

「は――――――」

 

 意識が一瞬暗転した―――

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

「マスター、生きてるでしょ? 起きてよ」

 

「はっ!? は?? え? 俺は――」

 

「負け、私達の完敗。なめてかかり過ぎたのが敗因。他に聞きたい事は?」

 

 一瞬意識を失っていたが、すぐに立ち直ると自分のソウルギアが疲れた表情で隣に座っていた。周りを見ればここはミッションが始まるまで待機してた場所だった。

 

「ど、どういう事っスか・・・? 俺が、負けた?」

 

「負けたっていうか、場外負けって感じ。私も気づいたらここに居た。多分マスターが攻撃された時に連動で飛ばされた?」

 

「どういう事だよ!? 分かるように言えよクソソウルギアが!!」

 

「・・・マスターが戦ってた男、多分【デウス・エクス・マキーナ】装備してたよ」

 

 彼女の言葉にハッとする男。その武器の名前は彼も知っている。

 

 ―機械剣【デウス・エクス・マキーナ】機械の神の力が宿っているというレア武器の一つ。絡繰り仕掛けの短剣で、柄部分にゼンマイ仕掛けの時計が付いている脆い短剣である。その効果は【突き刺した相手を数秒先に送る】というよくわからない効果だ。

 

 命中すれば相手を数秒先に飛ばす効果。戦闘では意味があるかはよく分からない所だが、相手の戦略を崩したりする分には使える武器かもしれない。弱点としては武器としては攻撃力もほとんどなく、小さい短剣なので扱い辛い。機械仕掛けの武器なので脆く壊れやすいという致命的な弱点だらけの武器である。

 

「じゃ、じゃあ俺は・・・」

 

「マスター、今回の防衛対象の事調べてないのね・・・今回のターゲットは【マシン・ザ・リバティ】・・・機械を強化するソウルギア持ち」

 

「・・・ま、まさか・・・」

 

「考えてる通り。多分強化されたデウス・エクス・マキーナで刺されたマスターは数秒ではなく、数分先に飛ばされた。そして残り時間は4分を切っていた」

 

 つまり彼等は防衛成功でのプレイヤー側の勝利による、敵対者の強制排除を受けたのだ。

 

 愕然とした表情で自分の腕を見る。刺された傷はもう回復していた。

 

 あの攻撃自体はそこまでの攻撃力は無かったのだろう。だが、流川としては一撃でも当てる事が出来れば勝利だったのだ。殺す必要もなく、ただ強制的な排除によるプレイヤー達の勝利を狙っていたのだろう。

 

「は・・・ははははは・・・・・・・・」 

 

 渇いた笑いを漏らす男。

 

 負けたのだ。

 

 自分が雑魚に。

 

 雑魚と侮っていた奴らに。

 

「畜生があああああああああああああああああああああああ!!!」 

 

 そして彼は最後まで幻惑で騙されていた事に気付く事もなく、翻弄され続け戦いに負けたのだった。絶叫し喚き散らすそんな男の様子を彼のソウルギアである彼女が慰める事もせず、ただ白い目で見ていた事にも男は気付くことは無かった。

 

 

 

―55話了

 

 

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