異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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流されていく現状をただ見知らぬ顔で。

 

 cogito, ergo sum

 

 サイレーンは改めて自分自身について考える。

 

 今日も一日賑やかで楽しかった、ミューズ達が騒いで、リバティがマスターである御堂にまとわりついて、テルクシノエーがそれを窘め、流川達が苦笑している。そんな平穏な一日。

 

 次のミッションが来るまでの短い平穏ではあるが、それは確かに心と体を癒す大切な時間。

 

 サイレーンもそんな時間が好きだ。一番は御堂と二人で一緒に居られる時間ではあるが、仲間達と一緒に騒ぐ時間もとても好ましい。

 

 だが彼女はふと思う。

 

 【私はどうしてここに居るのだろう】そんな想い。

 

 別にここに居たくない訳ではない、寧ろ御堂と一瞬たりとでも離れるのは心を引き裂かれるほどに辛い。彼女にとって御堂は何よりも大切な人で、自分の命のなんかよりも大切な存在。

 

 だが、ソウルギアとして発現した彼女は思うのだ。

 

 ―どうして、私が生まれたのだろう、と。

 

 ソウルギアは魂の力、どうして御堂の魂から、自分が生まれたのだろうか? 自分は自分であり、サイレーンであって、御堂ではない。その逆も然り。

 

 生まれた瞬間に、まるで植え付けられた様に世界の常識をある程度学び、御堂を見た瞬間に心が満たされていた。それがどうしてなのか、改めて考えると分からないのだ。

 

 刷り込みなのか、一目ぼれなのか、魂の片割れだからなのか、これがディザスターによる強制的な物であってほしくないと彼女は願う。

 

 それでは「そうするようにディザスターに作られた存在」になってしまうのだから。マスターを苦しめている存在にわずかにでも関わっているかもしれないと考えること自体が恐ろしいが、それでも考えてしまう。

 

 眠れずにベッドの中に居たサイレーンがゆっくりと起き上がる。

 

 周りを見れば、全員が静かに寝息を立てている。時計はまだ午前2時を指していた。皆を起こさない様に部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーフハウスの外はほとんど森の中だ。空を見上げても星が見えないレベルの木々が立ち並んでいる。森林浴するにはもってこいの場所だろうか。今は夜中なので神秘的と言うよりは恐怖を感じるような場所になっているが。

 

 近くに丁度良く腰掛けられる岩があったのでそこに座り、ただぼーっと前を見る。

 

 木々の音と時々聞こえる動物の声だけが、この静寂の中で唯一聞こえてくる音だ。

 

 サイレーンは考える。

 

 今の自分の様な事を、テルクシノエーは、クレアは、ショコラは考えているのだろうか? もしそうならどんな答えを出すのだろうか。

 

「マスター・・・」 

 

 マスターが愛おしい。

 

 マスターに触れたい。

 

 マスターに好かれたい。

 

 マスターに愛されたい。

 

 マスターに

 

 マスターに

 

 マスターに

 

 マスターに

 

 考えれば考える程、自分の中の空白を御堂が占めていく。

 

 普段の笑顔や、困らせた時の笑顔、苦笑している時の表情に、困っている時の顔。戦闘時の真剣な表情に、激戦の時の怒りに満ちた表情。

 

 そのどれもがサイレーンの心を震わせていく。

 

 彼が居るだけで満たされていく。

 

 彼の役に立つのが嬉しくて。

 

 彼に褒めてもらったら幸せて。

 

 彼を困らせたりもちょっとだけ好きで。

 

 単純にマスターが大好きでいい筈なのに、心の何処かでそれが作り物何じゃあないかという恐怖がじくじくと心を締め付ける。

 

 もし自分がソウルギアではなかったら―

 

 リバティの様な普通の人間だったら―

 

 こんな事考えずに、純粋にマスターを愛せるのだろうか?

 

 仮定の話、だがそれは直ぐに考えを頭から打ち消す。

 

 恐怖だった。

 

 マスターのソウルギアである事こそが、サイレーンのアイデンティティ。

 

 それが無くなってしまったら、自分は何者にもなれない気がする。

 

 もしかしたら御堂と出会わないかもしれない、

 

 いやそれよりも、テルクシノエーやミューズ達にマスターを奪われてしまうかもしれない。自分が人間で、彼女達がソウルギアなら、きっとマスターはソウルギアを大切な家族を選んでしまうだろうから。

 

 それはいやだ、それは恐ろしい。

 

 一瞬でもマスターが自分より誰かを優先してしまう事が恐ろしい。

 

 背筋が寒くなり、両腕で自らの身体を抱きしめた。

 

 ソウルギアだからこそ、今のサイレーンがある。

 

 ソウルギアとして生まれたからこそ、マスターである御堂に出会え、彼を愛する事が出来たのだ。だからこそ、自分のこの想いが自分自身の物であるようにと心の底から願うのだ。

 

 私自身が、マスターを愛しているのだと―

 

 サイレーンが、御堂を愛しているのだと―

 

 そこにはディザスターは関わってないと、願望に似た決めつけを行いながら。

 

「・・・・・ちょっと、寒いな・・・」 

 

「そりゃこんな時間に起きてたら寒いだろ」

 

「にゃ!? ま、マスター・・・!?」

 

「おう、マスターさんだ。どうしたサイレーン? 眠れないのか?」

 

 ぽつりとつぶやいた言葉に答えが返ってきたことに驚いて振り返ればそこには何よりも愛しいマスターが居た。パジャマの上にパイロットジャンパーと言ういで立ちで先ほど出てきた所だった。

 

 丁度良くトイレ帰りだった彼が夜中にパジャマ姿で外に出ていったサイレーンを見つけ、心配して急いで羽織ってやってきたのだ。

 

「ほれ、寒いだろ。俺の奴だから臭いかもしれんが我慢しろ」

 

「ん・・・マスターのジャンパー、暖かくて良い匂い」

 

 もう一着の一応は洗濯済みのパイロットジャンパーをサイレーンに着せてやると彼女は嬉しそうにジャンパーの暖かさを堪能する。

 

 そして先ほどまで感じていた空虚な感覚と悲しさなどはあっという間に失せ、隣にマスターが居るこの状況がとても幸せに感じていた。

 

「で、なんかあったのか?」

 

「ちょっとセンチメンタル。乙女は時々そうなる」

 

「よくわからんが、まぁ・・・何かあるなら俺に言えよ?」

 

「うん。マスターはいつも優しい、大好き」

 

 普段は近くに居るテルクシノエーもミューズ達も居ない今、サイレーンだけが御堂を独り占め出来ている。ここに一人で来てよかったなんて考えてしまうほどには今の状況がとても嬉しかった。

 

 御堂はサイレーンと同じ場所に寄りかかる。

 

 相変わらず辺りは真っ暗で、恐怖を感じる位に静かだ。一人で長居したい場所ではないと思いつつ、サイレーンが口を開くのをただ待っている。

 

「・・・・・・ね、マスター」

 

「なんだ?」

 

「私・・・ソウルギアだよね」

 

「そうだなぁ」

 

「マスターは、私を、皆を、信用してくれる?」

 

「今更何言ってんだ」

 

「ゎぷっ!?」

 

 サイレーンの言葉にぐしゃぐしゃと少しだけ乱暴に彼女の頭を撫でる御堂。

 

 見当違いの様な彼女に言葉に、彼女が望んでいる答えを告げた。

 

「信用信頼なんて、とうにしてる。俺がこうして今生きてるのは、お前達のお陰だ。お前達を信じないで俺は誰を信じればいいんだよ」

 

 自らの魂から生まれてきたソウルギアである彼女達。

 

 それを信用しないのは、自分自身を信じていないのと同じだ。

 

 自分を信じれない時はあるかもしれないが、御堂は何があっても彼女達を信頼し、共にあろうと決めている。自分が守り、皆に守られ、これからを生き抜くと覚悟を決めているのだ。

 

「何か悩んでたのか分からねぇが、これだけは言っておくぞ?」

 

「マスター・・・」

 

「俺は、お前達を裏切らない。お前達と一緒に生きる。お前達は今の俺の家族なんだからな? 忘れないでくれよ?」

 

 そこにソウルギアや人間等は関係なく、御堂は二度失ってしまった家族を再び手に入れられたのだ。それを手放すなどありえない。ある訳が無い。

 

 彼女達を護る為ならば、命を懸けられる。

 

 それで死んでしまったら彼女達も死んでしまうので、命を懸けて、自分も死なないという割と矛盾した事を考えているがそこは誤差である。

 

「・・・マスター」

 

「さいれー、うぉっ!?」

 

「うん、マスター。私のマスター。一緒に生きる。約束する」

 

 全力で御堂に抱きつくサイレーン。

 

 お互い分厚いパイロットジャンパーのせいで感触はそこまで感じれないが、それでも御堂の鼓動が聞こえている気がした。

 

 闇が全て晴れた訳ではない。

 

 だがそれでも、御堂のその言葉だけでサイレーンは全てを飲み込める。

 

 例えどんな存在に作られたのだとしても、この想いだけは変わらずに絶対に自分の物だと確信を持って言えるのだから。

 

「マスター、愛してる・・・マスターを裏切らない、マスターと一緒に生きる。私はマスターの家族だから。マスターの魂の片割れだから」

 

「そか、そうだな。頼りにしてるよサイレーン」

 

「ん、頼りにして? 私は頼られるほどきっと強くなる、ここ豆知識」

 

 自分はサイレーン。

 

 マスターの一番目のソウルギアにして、マスターを護る存在。

 

 彼女にとってそれだけが自分を構築する全てで良い。彼女はそう決めた。

 

 それが、彼女の存在意義なのだから。

 

 cogito, ergo sum―我思う故に我あり―

 

 サイレーンがそう自分を認識したのなら、それはきっとサイレーン自身なのだ。

 

「・・・すーはー、すーはー」 

 

「サイレーン??」

 

「ふごふごふごふご・・・・」

 

「サイレーンさん??」

 

「~~~~~~~~マスターのスメルが濃い・・・! もう辛抱貯まらん、ここに布団を敷こう!!」

 

 いつの間にか普段のサイレーンに戻ったのか、心行くまで御堂の匂いを楽しみつつ我慢できなくなったのか全力で押し倒してきた。

 

「落ち着け!? ここ外だから!?」

 

「初めてが外・・・そういうのもありだって、みおちゃんが言ってた」

 

「誰だよみおちゃん!? うおおおおお!? 離せえええええ!?」

 

「マスターの力なら振りほどける筈、くくく、嫌よ嫌よも好きの内っていうよね。大丈夫、天井のシミを数えてる間におわるから」

 

「外に天井なんてあるかあああああ!? だれかあああああああ!?」

 

「ふへへへへへ、テルクシノエー、ショコラ、クレア、ごめんね? 先に私がマスターと大人の階段を登ります・・・!!」

 

 家の外で大騒ぎを始める二人、そんな大声家の中に聞こえてこない訳もなく、テルクシノエーがハリセンを持ってサイレーンを張り倒すまであと20秒―――

 

 御堂君、ぎりぎり理性は保てました、おめでとう。

 

 

 

―68話了

 

 

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