異能大戦ソウルギア   作:あさねこ

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だって予想外なのはこっちもだから

 

 リジェクションは心の中で毒づいていた。

 

 今回のミッション、本来ならば彼もレベル5~6の所を受ける予定だったのだ。同時にここに居るプレイヤーにポイントを握らせて、「ジェミニの邪魔」をさせるつもりだったのだ。

 

 直接殺さなければ罰則はない。ならば参加プレイヤーを利用して殺すのではなくミッション攻略の邪魔をしてやる方向にシフトしたのだ。ただの邪魔とは言うが、相手は此方を殺しに来る強大なレイドボス。その行動でジェミニが殺されれば万々歳だろう。

 

 既に数人のプレイヤーのポイントを渡して邪魔をするように命令は出してある。後は戦闘開始時に彼等が勝手にやってくれるだろう。問題はそちらよりも自分の方だ。

 

 彼自身別にジェミニ憎しでここに来た訳ではない。いやでもレベルを下げて攻略する必要があっただけだ。

 

『あいつ・・・本当に来ないつもりっスか・・・!?』

 

 あいつ――彼の人型ソウルギア【リジェクション】が最後に彼の部屋から出ていってから今の今まで一度も帰宅していないのだ。

 

 最初の数日は癇癪でもおこしたんだろうと無視していたのだが、ミッションの連絡が来た日にすら戻ってくることは無く、流石に焦りを感じ召喚を解除したのだが、なんとそれが無効化されたのだ。彼自身自分のソウルギアが召喚解除に応じないなど初めての経験焦って彼女を探したのだが結局見つかる事はなかった。

 

 あいつは物だからとスマホ等の連絡手段も渡していなかったし、スキルの【念話】にすら応じない所か拒否されている。こうなれば直接出会って強制解除するしかないのだが、そもそも居ないのだからどうしようもない。

 

 リジェクションはレベル6だが、個人の戦闘力はそこまで高い訳ではない、大物と戦う場合は基本的にソウルギア任せで後ろで牽制したり、何もしない事ばかりだった。勿論そんな状態でレベル5~6のミッションなどクリアできる所か貢献出来るかも怪しい所だ。故に今の自分でも戦えるだろうレベル3~4のここの場所に来たのだ。

 

 どうせならば自分がジェミニを間接的に殺す為に。

 

 あえて姿を見せたのは、ジェミニ達にボスに集中させないためだった。その分此方を警戒してくれるだろうが、それはそれで助かる。レイドボスには自分を注視してでも動ける可能性はあるだろうが、他のポイントを握らせたプレイヤーまでは対処出来ないだろうと考える。

 

 彼等にも【殺せ】ではなく【それとなく邪魔をしてくれ】と言う指令を出しているので殺気にも気づかれないだろう。相手も殺す気はないのだから、その邪魔のせいでボスに殺されたら御愁傷様という奴だ。

 

『ここで必ずジェミニを殺してやるッス。次のシーズンまでなんて待ってられるか』 

 

 次のシーズンになれば、直接的な殺害も解禁されるが彼の怒りがそれを許さない。ジェミニが自分と同じ空気を吸って同じ地上に立っている事にすら憎悪を覚える。

 

 あんな路傍の石みたいな存在の雑魚が頂点にいた自分を転ばせた。それは決して許される事ではなかった。絶望の中で死ぬ事こそが彼等に許された事だと思っている。

 

【さて・・・そろそろボスが出てくる頃っスね。どうせレベル3~4のボス。俺の敵じゃあないっスよ。だから、お前等分かってるッスよね?】

 

【3000ポイントも貰ったんだ、そいつを邪魔するだけでいいんならどんどんやってやるさ】

 

【高レベルの人に恨まれるって、あいつ何したんだろうな。ま、命令はこなすさ】 

 

 リジェクションの念話に答えるプレイヤー達。

 

 彼等はプレイヤーキラーではない、普通のプレイヤーだ。今回珍しい事にリジェクション以外のプレイヤーキラーは此方に参加していなかった。彼等にとってはもっと美味しい場所があるので、そちらに向かっているのだ。

 

 レベル3~4ともなればプレイヤー達も強敵なので、プレイヤーキラーにとってもそこまで美味しい場所ではない。プレイヤーを殺せたとしても他のプレイヤーにやられる可能性もあるし、レイドボスに殺される事もある。今回のミッションの中では一番プレイヤーキラーの脅威が低いミッションだろう。

 

 彼等はリジェクションから「ジェミニに前に色々邪魔されたので何とか仕返しをしたい」と言う嘘の情報と報酬を流し、依頼を受けてもらったのだ。殺しの依頼ならば全員断っただろうが、リジェクションからどれだけジェミニが悪辣なのか、嘘の情報を教え込まれている。そこに報酬を渡せばそれならばと受ける者が多かった。

 

 実は他にも依頼をしたプレイヤーも居たのだが、断った上にジェミニの事を知っていたので、情報が洩れてはまずいと殺していたりする。

 

【ボスはこっちで何とかするっス。あんたらはジェミニの行動を出来るだけ邪魔して、ボスの攻撃をそいつに向けるように動いてくれればいいから】

 

【わかったよ。そいつは死ぬかもしれないが・・・ま、こういう世界だしな】

 

【物分かりの良い人は助かるっすよ】 

 

 これで準備は万端整った。

 

 後はジェミニが惨めに死ぬのを待つだけだ。帰ってこないソウルギアの事もリジェクションにとっては悩みの種ではあるが、彼女は彼のソウルギアである以上、どれだけ不貞腐れいても、最後には戻ってくると確信している。

 

『もう、あいつはだめっすね。仕事以外の時は召喚解除するっしょ。最近はあれを可愛いとすら思わなくなったからなぁ』

 

 最初の方こそ自分にとって最高の女が出来たと感じていた。命令に忠実で、自分の思うが儘に出来て、それでも笑うそんな都合の良い女が手に入ったと。

 

 それがどんどん命令に背き、今では何処かに家出している始末だ。リジェクションにとって最早自分のソウルギアは大切なパートナーではなく、クソウザイ自分の家族と同等のゴミと同じ存在になっている。戦う時だけ呼び出し、強制的に戦わせ、それ以外は召喚解除し、何もできない地獄を味わわせてやろう、そんな事しか考えていなかった。

 

 自分のソウルギアに対する感謝も何もなく、役に立たないのなら、命令を聞かないのならゴミ扱いする。自分だけがこの世界で一番偉く、それ以外はゴミだと力を得て好き放題してきた男の心は邪悪に振り切れていた。

 

『そろそろ時間っスね? さぁ、どんなボスが・・・・』

 

 開始時間まで30秒を切った。

 

 ミッション会場の中心から強大な気配と共に魔法陣の様なものが浮き上がる。レイドボスは毎回このような感じで『どこからか召喚された』と言う感じで生み出されるのだ。それが本当に呼び出されているのか、そういうパフォーマンスなのかは分からないが、プレイヤー達が恐怖したり、気合をいれたりと、十分以上の効果は出ているだろう。

 

 そして・・・それはついに出現した。

 

「・・・・・・は?」 

 

 同時に、恐らくこの場所に居る全てのプレイヤーが停止した。

 

 そのレイドボスはとても巨大・・・ではなく、ほんの少し大きい感じの姿だった。今まで出て来ていたレイドボスは大体巨大なモンスターや巨人なのだが、今回はどう見ても体長が2メートルあるかどうかと言う小ささだったのだ。

 

 それならばやりやすいと感じるかもしれないが、彼等が止まったのはそれが理由だからではない。

 

 現れたレイドボスはある意味で異質だった。あのリジェクションですら停止してしまうほどの姿をしていたのだ。

 

 そこには祭りで切るような法被を纏い、両手にトングを握り、下半身はジーパンを履いて足は下駄を履いている。頭部には赤い鉢巻を付けた。

 

 【頭部がイルカ】でそれ以外が人間と言うどう表現していいか分からない存在がそこに立っていた。

 

「ううむ、マンダム。しかして君達に言おうではないか。照り焼きはチキンが至高だと。何? お前は魚だろう? いいや違うよく見てほしい、こう見えても私はパンケーキが好きだ。そこはかとない愛情をトッピングしたそのパンケーキの味はまるで海のチキンのように思える。つまり何が言いたいのかと言うと、初めまして諸君。我が今回のミッションのレイドボスを務める、鳥人間次郎太郎三郎。以後宜しく頼む。因みに手加減は出来ぬ故、心して参られよ。撤退は許されないと言いたい所だが、危ないと感じた時は撤退も許可しよう、なぁに上には私が怒られればよい。所でステーキはレアが好きなのだが、君達はどうかな? Sレアなのもいいかもしれないが」

 

 しかもしゃべりだしていた。内容は意味不明だったが。

 

 あんまりにもあんまりなレイドボスが現れた所為で、誰もが動く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―御堂視点

 

 

「マスター。帰っていいかな?」

 

「気持ちはよくわかる、痛いほどわかるがだめです」

 

 サイレーンが真顔で言う。なんと言うかもう全力で帰りたいオーラというか関わりたくないオーラを発生させているのがわかる。安心してほしい俺も出来れば帰りたい。

 

 こちとらリジェクションも出てきたせいでどうやってレイドボスと戦いつつリジェクションをどうにかしようか考えてたのに、何でここでイロモノの様なレイドボスが出てくるんですか? ほら見ろアクセルなんてあまりの衝撃で【orz】状態になってるじゃないか。

 

 クレアとショコラなんてあれを見た瞬間大爆笑してスマホに撮ってるし。いや分かるよ? なんと言うか場末のゆるキャラみたいな奴が出てきたら気になるもんな。

 

 と言うか喋ってるよあいつ。なんか意味不明な事をつらつらと言いながら事細かに話しているよレイドボスが。

 

「流川・・・あれはレイドボスでいいんだよな・・・?」

 

「お、恐らくは・・・あ、あぁ見えて実は脅威的なのかもしれません、皆さん気をつけ――」

 

 流川が言い切る前に、なんか我慢できなかったプレイヤーが目の前の生ものというかイルカ人間を攻撃した。

 

「ぎゃああああああ! やきイルカ2600円!!」

 

 訳の分からない事を叫んだイルカ頭はそのまま倒れて動かなくなった。なんかこう魚の焼ける良い匂いが漂ってくる。どう見てもイルカ頭の人間なのに。

 

「・・・か、勝ったのか??」

 

 俺達の後ろで特徴的な武器を構えていたハルペーが倒れたボスを見て呟いた。

 

 ボスは動かない。

 

「レイドボス・・・で、いいんスよね? 流川さん・・・」

 

 流石に心配になった佐伯少年が流川に問うがやめてあげてください。流川にだってわからない事があるんだよ!? というか死んだの!? もう死んだのかあれ!?

 

 レイドボスなんだろ!?

 

「たけきちーーーー!? なんてひどい! 美味しそうな匂いをしているじゃあないか!!」

 

「あぁ、ジョセフィーヌ。我はもう駄目のようだ・・・死ぬ前に割れた煎餅を死ぬほど食べてみたかった・・・餅アレルギーだが」

 

「任せるのだ! 我がほれ! これを持ってきた!」

 

「なんと、死にかけの我に煎餅を・・・・これはでんぷん煎餅ではないか!?」

 

 ・・・・死んだと思ってたイルカ頭が割と余裕そうな顔で寸劇をしてるというか。それを助け起こしたのは同じイルカ頭の奴だった。なんか増えてる・・・・増えてるんだが!?

 

「流川・・・帰っていいか??」

 

「落ち着いてください御堂君。気持ちは僕も痛いほどわかりますが」

 

 死んだっぽいイルカ頭を抱きしめて泣いているイルカ頭の周りでイルカ頭たちが涙ぐんでいるその姿に誰も動く事ができなかった。だって怖いんだもん。

 

 というかまた増えてるんだもん・・・

 

 どうすればいいんだよこれ? この空気の中あれと戦わなくちゃいけないのかよ??

 

 

―84話了

 

 

 

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