『投影』を使える妹が離れなくて困る件について 作:妹とはなに?
お兄ちゃんなのに妹を守れない件について。
うちの双子の妹…様子がおかしい訳ではないんだけど、なんか変なんだよ。
一応そこそこ普通の生活をしていたんだけど、小学校6年生のある日、誘拐犯から助けたときからおかしくなったんだ。殺人とかそういうわけじゃなかったし、適当にぶん殴って示談で済ませたのが悪かったのかもしれないけどさ。その後から大分過保護になっちゃったんだよね、うちの妹。普通俺が過保護になるべきなのになあ。
まず一人で外出させてくれない。これはまだ妹と遊べたりしない時間が多い分甘えん坊になったのかなって位だし。寧ろお兄ちゃんとしては嬉しいことである。
次に一人でいさせてくれない。流石にトイレの時間だけは入ってこないが、それ以外はずっと後ろにいたりする。学校でもお構いなしに隣に歩いているし、クラス違うのに隣の席で一緒に授業を受けている。勉強も教えられてるし兄の面目は丸つぶれである。
私生活の時間はもっと酷い。絵本を読むことをおねだりしてくれるのはいいけど、自作のポエムまで読ませようとするのやめて?お兄ちゃん確かそれ部屋の棚の隠し通路にしまったはずだよ?確かそこには秘蔵の画集が…覗かれたのかぁ…そっか…待って待って同じポーズとろうとするのはやめて?罪悪感でお兄ちゃん死んじゃうよ?
自分の浅ましい欲望が妹を汚したというショックを受けたり、お風呂場で洗いっこをしたくなっていたり幼児退行をしている。でも甘え方は完全に大人のそれなのはちょっとお兄ちゃんが死にかけるのでやめてほしいんだよな。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
考え続けているこちらを覗いてくる青い瞳。キラキラときらめく美しい金髪。そしてとことん少女として完成された見た目。うん、間違いなく可愛い妹だ。手に構えてる武器に目を瞑ればだけれども。
後ろ手に持つ一振りの刀。抜かれない限りはわからないぐらい薄く脆いガラスみたいなのでできた透明な刀は、確か妹曰く
他にも色々とあるけど今はこの一つだけを俺に向けているらしい。
この距離で斬られたらお兄ちゃんは死ぬんだけどな…
「もー、答えてよ!お兄ちゃんってば!」
「ああうん、ごめんな?」
「悪いと思ってるなら撫でて撫でて!」
そんなことは妹の前ではどうでもいい。*1
妹の差し出された頭を手でぐりぐりとなでなでする。妹が喜ぶのは前頭部の辺り。ここさえしっかりなでれば満足してくれる。パリンって割れた音がしたけど気にしない気にしない。そんなの考えてたら妹と一緒にいれない。
「ねぇねぇ!お兄ちゃんはどこの高校に行くつもりなの?」
「どうしようかな…」
実は俺たち兄妹は中学三年生。受験なんだが未だに入る高校を決めかねていた。学力で考えるなら士傑辺りなんだけど…倍率がなぁ…
「ねぇねぇ!私、お兄ちゃんと一緒に雄英高校に行ってヒーローやりたいの!ダメ、かな…?」
そんな考えも妹の上目遣いに吹き飛ばされた。どうであろうと妹のお願いは全てに優先するのだ。
「やってやるよ!」
「えへへ…ありがとうね、お兄ちゃん。終わったらキスしたげるね!」
そんな訳で始まった勉強。正直士傑も雄英も殆ど求められる偏差値が同じくらいなので問題はない。入試倍率300倍も250倍と変わらんし誤差でしょ誤差。
そんなことより問題は実技の試験なんだよな。妹はもう推薦で受かっちゃったからマグロとお肉売ってるしね。家計が支えられなくなっちゃうから妹を使う対人の練習はできなさそうだから自主練。
でもお兄ちゃんなのに個性が妹ありきなのもなんだかなあ。どうしようもない欠点である。
そんなこんなで俺は試験会場までこぎつけた。4種のロボ…ロボならどの刀が一番かな。安定の【針】でもいいし、ちょっと怖いなら
とはいえ、体力が持つかだなぁ…必殺技とか使ったらもう動けなくなりそうだし。
「あ〜…よし、これで戦える」
彼は見た目からひと際異彩であった。異形系の個性ではなく、その着ているものが異常なのだ。鎧を着込むファッションなど、『ヨロイムシャ』などの一部の日本ヒーローだけ。それらと彼の着る甲冑では、実用性が違っていた。
守る為に着る防具ではなく、
手元に持っていたガラス製の刀も相まって、否応なしに注目を集める。
『エブリィバァディ〜!ちゅうも〜く!』
その大きな一声に、彼から多くの試験者は注意をそらす。
事前説明が終わり、一瞬の内に出される開始の合図。刹那、彼の体が一切の比喩なく
最速で入った彼は、手前の獲物を切り捨てずに奥地の3Pのヴィランロボットの密集地帯にたどり着く。
(機械は楽だよな…変な動きをしないから)
そう思った瞬間にも彼の手は止まらない。薄い光が煌めき機械を停止させていく。
またその軽さもこの刀の使い方の難しさに拍車をかけている。他の刀よりも軽いこの刀は斬る時の力も考えなければならない。変に力を入れて振ったとしてもこれまた折れてしまう。普通の刀を使う剣士からしてみれば殆ど芸術性以外の評価を受けることは避けられない武器である。
そう、普通の剣士ならば。
表裏一体。薄いということは見えないということであり、輝くということは相手の目眩ましとして使用できるということである。
軽い刀身は重力には囚われない狂った剣筋を可能にし、受け太刀をくぐり抜けられる。
機械ですら見えない薄さであるその刀身は使い手によれば無類の強さを発揮する。
彼はこの刀の強さを発揮できる数少ない使い手となった─
最も、本来は一刀しかない刀の使い手に「数少ない」と言うことはありえないのだろうが。
彼の自己評価では、自分には体力がない。しかし技術はある。
より正確に表現するなら、技術そのものを再現する体力がない。文字通りの妖刀を使用させられ続ける彼は個性が使用できない。狂った刀そのものを狂った妹に使わされ続けているのが原因で個性を使う方法がわからない。
それでも個性が使えることが前提の試験に参加して機械を壊せるのは、妹への偏愛ゆえ。
愛は人を狂わせる、とはよく言ったものである─最も、彼の攻撃には関係のない事柄なのだが。
彼は近くにいるロボットにのみ刀を振る。一々刀を納めないのは、その程度の動きすらも必要ではなく、ただただ壊すことを効率化するため。
歩く度に機械を的確に、刀身に負担なく斬っている。どれほど難しいことなのかは傍目には理解できないような行動だが、斬れば斬るほど彼の美麗な顔が歪む。限界が近いのは明白であった。
「一人で16体…ちょい限界か…」
もちろん、ポイントとしてはもう充分である。48Pは少なくとも合格の範囲内と言っても差し支えのない成績だ。
とはいえ、それを渦中の彼が知る由もなく。
彼はまた次の獲物を求めに歩き出した。
無論、これが雄英高校の試練であることからなのかお約束であるあの化け物が現れる。
「巨体過ぎだろ…」
もちろん、彼からしてみたら斬る為のロボットにしか見えない訳だが。ただ、どう見たって戦うよりは避けて他のロボットを狩るのが賢明な判断ではある。
彼からしてみたら少し違う訳だが。
(どうせ試験時間いっぱいまで逃げ切るのは不可能なルートで動かれてるし、これなら壊すか無力化したらいいだろうな)
彼はそこまで考えて動いたかどうかは定かではないが、結果としてこれは最適解を引いた。とはいえ、もちろんそこは地獄絵図。
逃げ惑う受験生の波に逆らうことはできた彼だが、やはりリーチと体力だけはどうしようもない。元の肉体の虚弱性も相まって、まともに勝負はできもしない。辛うじて死角の範囲内に入りながら呼吸を整えて斬る程度である。
そんなことでロボが止まることはない。が、標的を変えるには充分な行動である。
どうであろうと一連の行動はその場に留まらせて被害を抑えるのは充分であり、また彼の少ない体力を削りきるのにも充分であった。
瓦礫が舞う。蒸気が噴き出る。鉄の塊が落ちる。
その全てを避ける。逃げる。隠れる。
そこまでしてでも避けてしまえば彼の体力の限界が訪れるのは当然のことだが。
それより先に時間が終りを迎えた。
「は…はは…終わった…」
パリン。
果たしてそれは、単に刀が折れた音か。
それとも、他の受験生の心が折れた音か。
いずれにせよ、終わって始まることは確かだ。
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