『投影』を使える妹が離れなくて困る件について 作:妹とはなに?
戦闘訓練として、双子には既に実戦経験があった。油断や無意識で実戦を生きぬいたとしても、そのことは決して無視できないアドバンテージである。少なくともオールマイトら教師陣はそう思っていたし─ヒーローの一家で育ってきた飯田天哉も同様にそう考えていた。
ヴィランチームである彼は、残りの2人を遊撃にさせ足の速さで爆弾を持って逃げ回る方法をとった。
二人のように個性が広範囲に渡って被害をだす個性ならこちらの方がいいだろう。
ただ、それでも不安を拭いきれなかったし、もちろんその不安が当たらないと断言はできなかった。
双子の攻撃手段は
対してこちらは見た目で個性がわかる者ばかり。爆発や凍結なんてものはすぐに理解するだろうし、飯田の個性に至っては個性把握テストで見られている。
その状況で自らの隙を突かれたならどうすればいいか─
そんな問いかけをしても答えはまだわからなかった。しかし、すぐにそれを飯田は知ることになる。
自身の敗北を持って。
爆豪はかつてないほどに苛ついていた。自身よりも強くない女の癖に、自らを見下してきたあの少女に対してもそうだし、なんら自分のことを敵とすらも判断されていないと思わせる水色の瞳の少女に対してもだった。
そしてその苛つきを更に加速させるあの一言。
(「そう!頑張って5分守ってね?」だと!?なんで俺が他の有象無象と一緒くたにされてんだよ!)
あの瞳、他を見下したようなあの表情が。
どんなことであろうと自分たちなら問題ないと思うあいつが!
(どうしようもなくムカつく!)
爆豪の逆鱗に触れた少女への殺意。それは嫉妬か。
なんにせよ、白雪の挑発は確かに成功していたようだった。
轟は爆豪とは対照的に、どこまでも冷静であった。今までの開始直後の凍結を防がれていないから当然の慢心なのだろう。
(とはいっても、黒金には避けられるだろうな)
個性把握テストと推薦受験での黒金の動きは、見てから避けれると判断するに値した。しかしその彼の判断は違う。
推薦受験にいたのは白雪である。判断に従うのなら、白雪も黒金のように避けられるだろう。とはいえ、これは双子の容姿が似すぎているため致し方のないことである。
たかだか1週間を過ごしただけの仲間。それだけで殆ど同じ行動を同じ容姿でやる双子を見分けられるはずもなく。
また氷だけで倒せる相手ではないということを見抜けるほど轟は成長をしていなかった。
そして開始の合図。同時に来る冷気と爆撃。
(甘いな)
しかし、それを防ぐのは彼にとっては難しくないことだった。冷気は所詮冷気。来た瞬間に妹と共に爆撃の範囲へと飛び込む。本来なら凍った体を粉々に砕く筈の爆発は冷気によって遅くなり、双子は無傷で初撃を防いだ。
(このことについて轟の知る機会は遅い)
冷気の届き方で相手の力量不足に気づいた黒金は目の前の敵に集中する。妹を狙う不届き者へと天誅を下すために。
「殺す!お前らは、ぶっ殺す!」
たかだか犬の遠吠えに対し、何一つとして動く必要のない狼のように。
あるいは愚かな罪人に呆れ返る裁判官のように。
動かないまま桜を構えた彼は、爆豪の足を斬り落としにかかる。
「こなくそっ!!」
慌てて爆発で迎撃する爆豪だが、その袴にすら土煙はつかない。爆破そのものは扇にて防がれ、投げ槍をしてそのままベタ足を落としにかかる。
「っち…」
流石に分が悪いと判断したのか、回避を優先する。
(つまんねえな…さて、どうしたもんか)
一方の黒金は妹の安全を確保しつつどう攻めるかを考えていただけに拍子抜けだった。たかだか攻撃を防がれたごときで激昂することなど妹を守るには要らないものだったから。
寧ろ悪態をつく暇があれば攻撃するものだろう。片手の扇から軽く様子見の突きで死にかける爆豪を制するために、緩い剣筋から鋭く腹を貫く突きへ。
右の大ぶりで威力を殺した爆豪だが、それを躱せる程の強さではない。
軽く爆発で逸らされたところで、右肩からは血が噴き出る。自らを犠牲に進む爆豪は、ついに彼の腕を掴む。
「殺してやるぜ…クソアマ…!」
白く細い手が掴まれ、瞬間的に爆発で見えなくなる。刀ごと壊した感覚はあったし、その手応えを得たことで爆豪は通用していると考えてしまった。
その勢いのまま殺しにかかる彼は、しかしそこから先には行けなくなる。
「個性開始・
果たして聞こえた声は黒金の声か。そう白雪すらもが思うほどに冷え冷えとした声であり、これが個性開始であることに安堵した。
黒金の個性は彼女も彼も把握してはいない。
どんな攻撃すらも防ぐ個性であり、
どんなことであろうと紡ぐ個性であり、
どんな状況であろうと妹を守る為の個性。
それ以上のことは彼も把握しておらず、個性の名前も決めていない。
単なる無記名個性であるが、それ故に相手からしてみれば恐怖でしかない。調べたところでわかることもなく、ただ知らないことの方が多い個性。アメリカのトップがヒーローの情報を機密にするのとはまた違う。調べることはできるし秘匿もされない。ただわからないだけ。
そしてこの個性は、どうであろうと妹を守る為に黒金の体を使う。爆豪が気がついた時には先程折れた桜からは泥が滴り落ち、刀を修復した。彼はもはや、何をしているかもわからない。やるのはただただ、妹を守ることに終始した行動。
「【
手に落ちた泥が片手の扇を侵食し、桜とそっくりの刀である【黒桜】へと変化する。そして両刀を振るって相手の体の急所のみを裂きにいく。
妹が近くにいたからそこまで広範囲を巻き込む技ではなかったが、目を奪うには充分だった。
もともと黒金が個性を使わずに戦闘して爆豪は勝てなかった。本来なら天性のセンスで戦えるはずだったが、それすらも
いずれにせよ、刀を構えた黒金には関係なく有象無象であったということである。
彼が気絶せずに鬱陶しい絶叫をあげているのを無視しつつ、黒金は妹を負ぶさる。
(お兄ちゃん、なんでこんなにおかしい位強いんだろう…?)
そう白雪は思っていても、体は止まらない。ぽむと音を立て、最愛の兄に体を預ける。満面の笑みのその姿は、彼の心を温めるのに充分だった。
轟の攻撃は全てにおいて速かった。氷は体を凍らせるのには充分であり、黒金が怒りを感じるに値するに充分であった。冷気とて斬れる対象であるなら、自らの刀を抜くのに躊躇はない。
「
あくまで桜のように儚く動き。
あくまで武器として防ぎ切る。
氷も相まって煌びやかな反射は、さらに加速し、一種の儀式に見えた。それはどちらも拮抗している証拠。無論妹を背負うことをやめれば更に強くなるのは明白だが、そんなことをしないのも明白である。
美しさにみとれればそこは奈落。かたや進む彼にはいくらでも見とれてもらっても構わない事情。
とはいえ、この勝負は黒金にこそ有利がある。轟が炎を使うのなら話は別だが、そうでなければいずれ勝てるのは黒金であると断言できる。
鈍れば終わる。
極限まで戦い続ければ自然と個性は強くなる。
どうしようもない彼我の実力差ではない。
「っ…!?」
それでも止まったのは、この場にいた第三者。白雪だ。
もとも白雪の個性は殺傷能力が高い投影。作れる範囲も決まっているが、その中ならば自由自在に作れる。故に体がそこにあろうと上書きして作られる。血塗れになった轟から刀を抜いたのはせめてもの温情か。
なんにせよ、彼は最後の敵である飯田のもとへと向かった。
「ハッハッハッ!ここの場所で逃げきれれば構わないのさ!」
「奥義改変─
音すら聞こえぬ神速。一閃すら見えない不可視の剣速。
言葉どおりの豪華さはない。
しかしそれでも目的にそった行動をし、爆弾に触れた。
残り時間、1秒。
ヒーロー陣営の、勝利だった。
ストックがなくなってはや六日…
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