原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」 作:ゴーイングマイペース
え? そもそもプレイしてないから? それはそう(開き直り)
その日、男はほんの気まぐれで部下を引き連れ故郷であるトキワの森を散策していた。
特に目的があったわけではない。当然何か成果を期待していたわけではなかったのだが……男は、目の前で己のニドキングと戦うポケモンの様子を見て、他者がみれば思わず一歩後退るような笑みを浮かべていた。
「ビッガァアアアアア!」
「威勢が良いな。そんなに私と来るのがイヤか?」
森の木は悉くがなぎ倒され、辺り一面の地面は隆起し、その空間の至る所に焦げ跡が奔る。
男とポケモン達の周辺は中々凄惨な模様となっており、ニドキングと彼の戦いの激しさを言葉を用いずとも雄弁に語っていた。
トキワの森という低レベルのポケモンの生息地を住処としながら、己が直々に鍛え上げた、“じめんタイプ”としては現ポケモン界で最強と言っても決して過言では無い実力を持つニドキングを相手に、攻撃が一切通じないながらも一歩も引かない戦いを繰り広げるポケモンを――ピカチュウを見て、改めてその信じ難い実力に男は感嘆した。
たまには気まぐれも悪く無いものだ。このような嬉しい予想外と遭遇できたのだから。
「トキワの森で見られる通常のピカチュウより頭1つ抜けている。……いや2つ3つ分は強いな。面白い」
繰り返しになるが、男たちが今戦いを繰り広げているトキワの森は、近所の虫取り少年達が頻繁に虫ポケモンを捕まえに来られる程度には低レベル帯のポケモンしか生息していないことで有名なダンジョンである。
そのような環境ではポケモンが己を高める為に必要とする“経験値”を多く得ることが出来ない為、他所から高レベルのポケモンが流入し環境が激変する事態でも発生しない限りは低レベルダンジョンは低レベル帯のままである。……筈なのだが、現実の光景として目の前のピカチュウは男のニドキングと渡り合ってみせていた。
「(このトキワの森で手に入る経験値などたかが知れている。当然このピカチュウがニドキングと真正面から渡り合えるようになる程の経験値など得られる筈がない。にも拘わらずニドキングが攻めきれない。
つまり、このピカチュウは――ニドキングとは比較にならない程の低レベルでありながら、曲がりなりにも勝負を成立させることを可能にする程の天賦の才を持っているということか)」
ニドキングがお遊びでピカチュウの群れを虐め始めたのを許可しただけで、なんとも思いがけぬ拾い物をしたものだと男は益々その笑みを深くする。
そんな男の態度が気にくわないのか、ピカチュウはその愛くるしい容姿からは信じられないような怒号を上げながら突貫するのだが当然ニドキングがそれを許さないとばかりにピカチュウに対して拳を――『メガトンパンチ』を放つ。
ニドキングは自身に予想外の苦戦をさせる目の前の弱者に対して相当苛立っているのか、ピカチュウに劣らぬ怒声と共にその拳を振り下ろしたのだが……なんとピカチュウは最小限の動きでその拳に絶妙なタイミングで飛び移り、少しのダメージも負うことなく躱して見せた。
そのまま、ニドキングが腕を引き戻せない一瞬のタイミングを突いて『でんこうせっか』を放つが、そこは低レベル故の弱ステータスの悲しさ、まるでダメージを負わせることが出来ないまま、両者再び距離を取る結果になった。
「クク、先ほどからまったく同じような場面の繰り返しだなピカチュウ。お前はニドキングの攻撃を悉く寸前で躱す。もしくは当たっても凄まじい体捌きでダメージを最小限に殺し反撃を繰り出すも、これまたまったく通じずに距離を取る。この森で生活していて強者と戦った経験など皆無だろうに、よくぞここまで喰らいついてくるものだ」
己のことを褒めているようでその実、嘲りをまるで隠す気の無い男に対しピカチュウが鋭い視線を向ける。
男はそんなピカチュウの視線を受けてもまったく動じず、嘲りを引っ込めることもない。
何故なら……最初からこの勝負は決着が決まっているからだ。
「だがなピカチュウ。私やニドキングが気づいていないとでも思っていたか? お前……もう限界が近いだろう?」
その言葉に、ピカチュウは一瞬の怯みを見せ、ニドキングがそれを見て口角をいやらしく釣り上げる。
そう、確かにこのピカチュウは強かった。推測されるレベルを考えれば信じられないような戦果を見せつけてみせた。
だが、やはり低レベルは低レベルと言うべきか……ニドキングに通用しないのは攻撃力だけに限らなかったのだ。ピカチュウには他にも足りないものがあった――スタミナという、あらゆる勝負ごとにおいて決して欠けていてはいけない要素が。
ピカチュウの動きは戦闘開始直後と比べハッキリと精彩を欠き始めていた。気合で誤魔化していたものの、歴戦の雄である男に対しそのような隠蔽はまるで意味を成さなかったのである。
そして、男はピカチュウのそんな隙を見逃してやるほど甘くはなかった。
「“じしん”!」
男の命令にニドキングが即座に応え、“でんきタイプ”のポケモンに対し絶大な威力を誇る衝撃が周囲一帯に放たれる。
ハッとしたピカチュウは即座に回避行動に移るが、一瞬の隙を狙って放たれた技は完全な回避をピカチュウに許さず、今度こそピカチュウにダメージを与え、地面に這いつくばらせた。
ニドキングは己を散々手古摺らせた小物の無様な姿を見て、嘲笑とともに雄叫びを上げるが……すぐに止める。
なんとピカチュウは、自身より遥かに高レベルのニドキングの“じしん”を喰らったのにも拘わらず、鈍い動きながらも立ち上がって見せた。
「ビッガヂュウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!」
ピカチュウは弱弱しくも凄みのある笑みを見せ、ニドキングに負けじと渾身の雄叫びを響かせる。そして眼前の敵を強く強く睨みつけた。
「ほう? ギリギリで“じしん”の威力が最大限に発揮される間合いを見極め、あのタイミングから最大打点より僅かに逃れダメージを軽減したか。まったく、そのレベル、更にその疲労具合からよくやってみせたものだ。やはり普通のピカチュウではないな。
……が、甘い。お前と私たちは正々堂々の勝負をしていたわけではないのだぞ。――スピアー!」
俺はまだ負けてない、まだまだ勝負はこれからだ、という意思を込めて全身の毛を逆立たせるピカチュウに対し、男は感心を示しながらもやはり嘲りの態を崩さず――最初から付近に潜ませていた己の相棒であるスピアーをピカチュウに嗾けた。
ピカチュウも、その瞬間耳に届いた羽音に慌ててそちらを振り向くも、その時には既に決着がついていた。
「“みねうち”!」
スピアーが両腕に備える巨大な槍が風切り音と共に上空からピカチュウに迫る。
だがピカチュウもさるもの、咄嗟の事態にも体を強張らせることなく回避行動に移るが、流石に時既に遅く……今度こそ、その小さな体にクリーンヒットを貰ってしまった。
スピアーがピカチュウを地面に縫い留めた槍腕をゆっくりと引き上げれば、そこには今度こそ立ち上がることなく這いつくばるピカチュウの姿だけが残った。
「油断したなピカチュウ。まったく、いくら普通ではないとはいえたかだかピカチュウが随分と手古摺らせてくれたものだ。だがこれで……む?」
決着を見届けた男が、背後に控えていた部下の男からモンスターボールを受け取り、ピカチュウを捕らえるため投げようとしたところ……男は怪訝な表情を浮かべてみせた。
部下は今更何事かと男が視線を向けている方向に同じように視線を向けたところ……なんと、ピカチュウが弱弱しいながらも首だけを男の方に向け、男を睨みつけているではないか。
「ふん、粘るな。そこまで戯れで群れを襲った私達が許せないか。それともそうまでして自由の身でいたいのか? だがどちらにしろ無駄な足掻きだ。
――良いか、教えてやろう。この世に弱きものが守れるものなど何一つ無い。弱きものが成せることなど何も無い。弱き者には何の価値も無いのだ」
男のその言葉を聞き、ピカチュウの目に込められた力がさらに強くなる。
「悔しいか。だが安心しろ、今この瞬間から俺がお前に価値をくれてやる。さあ、私の……ロケット団のモノになるがいい!」
その言葉が終わるや否や、男が今度こそピカチュウを捕獲するべく投球体勢を取った次の瞬間。
「ピィィカァァ……ヂュウウウウウウウウウウウウッ!!!!!」
ピカチュウの渾身の雄叫びと共に、その全身が眩く発光し――迸った電撃が、男を身を焼き尽くさんと解き放たれた。
まさかまだ抵抗する力が残っているとは流石に思っていなかった男は、迫る白光に目を灼かれ思わず体を固めてしまった。が、傍に控えていたスピアーが咄嗟に男を庇い、電撃を受け止める盾となった。
そしてこの白光は男だけでなく、その場の誰もが予想していなかった故に全員の視界を潰してしまい……全員の目が正常な感覚を取り戻す頃にはピカチュウの姿は消えていた。
「くっ……いくら住処に釣り合わない強さを持っているとはいえ、まさかトキワの森のピカチュウが“10まんボルト”とは……油断していたのは私もだったか。ああ、よくやったスピアー。怪我はしていない。ピカチュウは……今の閃光に紛れて身を眩ましたか」
信じがたいことだが、“みねうち”でほぼ瀕死の状態だったにも拘わらず、最後の力を振り絞ってこの場から逃走したらしい。
男は自身の油断を素直に認め、服に付いた埃を払うとニドキングとスピアーをモンスターボールに戻した。
「まあいい。元々ただの散歩だ、何か成果を求めてこの森に来たわけではないからな。……帰るぞラムダ」
「追わなくて良いんですかサカキ様。あのピカチュウ、どう見てもレベルに見合わない強さを持ってたじゃねぇですか。もったいないですよ。それにアイツが逃がした群れにも期待が持てるかもしれませんし」
あっという間に興味を無くしたかのように帰り支度を支持する自身のボスたる男に対し、ラムダと呼ばれた部下は惜しいものを感じたのか進言する。
が、男は一瞬視線を先ほどまでピカチュウが這い蹲っていた地点に向けるも、やはりすぐさま背を向けた。
「良い。どれだけ強かろうと所詮はピカチュウだ。群れを追おうにも遊びに時間をかけ過ぎたことで、その分森の奥深くまで逃げている筈。追うのは手間だ。どちらもそこまでして手に入れる価値などない」
「あっ、ちょ、サカキ様! 待ってくだせぇよぉ!」
部下の返事を待たずに歩き出す男――サカキ。そして慌てて追いかけるどこか軽薄さを感じさせる部下の男。
そうして誰もいなくなった戦場には、弱き者が強き者に必死に抗った痕跡のみが残り。
数日も経たない内に、妙なピカチュウとの遭遇はサカキの記憶の彼方に追いやられていた。
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そして、幾許か時が過ぎ……トキワの地からほど近い田舎町、マサラタウンにて。
「あれ、なんだか妙な気配が……うわっ!? 大丈夫かお前、しっかりしろ!」
「あん? なーにやってんだよレッド、俺様との勝負はまだついて……うわきったねえ! なんだよそれ、って……ポケモンか?」
「え、この子ピカチュウじゃない! しかもこんなボロボロになって……ちょっとグリーン、アンタ、キズぐすりかなんか持ってるでしょ。よこしなさいよ」
「は? 俺に命令すんじゃねえっつってんだろブルー! だいたいいっつもお前は……ってちょ、リーフ!」
「……グリーン、ちょうだい……」
「あーわかったわかった! わかったから裾引っ張んな!」
「やってる場合かお前ら! 俺、ユキナリのじっちゃんトコ行って診てもらってくる!」
「あ、レッド待ちなさ……って足はやっ! もう見えないんだけど!」
1人の少年と1匹のポケモンが、己の運命と出会った。
さっさと旅立たせるつもりだったのに、色々設定を漁って弄ってた結果気づいたらこんなのが出来てた。
おかしい。基本は日記形式でサクサク進めて、お気楽エンジョイたまーにシリアスもどきぐらいのつもりで書こうとしてたのに……。
まあいいや、ゲームの続きやってこよ。