原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」 作:ゴーイングマイペース
○月○○日 9歳 マサラタウン北 & オーキド研究所
『ボロボロのピカチュウ』
俺、グリーン、リーフ、ブルーのいつもの幼馴染4人組で遊んでいたら、町の北側、1番道路との境界線あたりでピカチュウを見つけた。それも全身傷だらけ泥だらけというどう見ても尋常でない様子だ。
俺より一拍置いてピカチュウに気づいたグリーンたちは何故か喧嘩を始めてしまった。普段なら子供らしいと微笑ましくなるところだが、どう考えても緊急事態なのにそんなほんわかしているわけにもいかない。
3人を放っておくことを決定した俺は手早く上着を脱いでピカチュウを包むと、全身にマサラの力を滾らせオーキド研究所へ猛ダッシュで向かうことにした。
ピカチュウは自分を抱えて走る俺を見上げて弱々しく威嚇してきたが、敵意は無いということを示す為、労りの気持ちを込めながら出来るだけ優しく撫で続ける。
するとそんな俺の気持ちが伝わったのか、それともただ単純に体力の限界に達したのかはわからなかったが目を閉じて大人しくなった。
素人目だがピカチュウのその様子は余りに痛ましく、最早一刻の猶予すら無いように見える。
こうしちゃいられん、もっとだ、もっと速く足を動かせ俺。今こそ日頃の修行の成果を発揮する時っ! 唸れ俺の両足ぃ! アクセルブーストォ!
程なくしてオーキド研究所に着いた。我ながら上出来な速さである。マサラパワーって凄いよぉ!
早速勝手知ったる我が家と言わんばかりにドアを勢いよく開き、「じっちゃーん!」と大声で叫びながら奥に向かって走っていく。
この研究所で働いている数人の所員達が一体何事だと俺に視線を向けてきているが、通りすがりに「ごめんなさい通してください!」とうるさくしてしまっていることを謝りつつダッシュ。敷地はともかく建物は大して大きくない為あっという間に所長室前に着いた。
さあ目当ての人物を呼び出そう。1秒間1000回を目指す勢いで高速ノックだ。もしもーし!
「そんなにゴンゴンゴンゴン叩きまくらんでも聞こえるわい! まったく……それより何じゃレッド。グリーンとリーフは今日はお主とブルーちゃんと町の北側で遊ぶと言っとったが……って何じゃ、そのボロボロのピカチュウは!? いかん、すぐに治療せねば!」
額に青筋を浮かべながら顔を出したユキナリのじっちゃん――オーキド博士は俺が抱えているピカチュウを見て、事態を把握しきれないながらもすぐさま治療の為動き出すべくピカチュウを受け取って走り始めた。
俺も何か手伝えることがないかとじっちゃんの後を着いて行った。
が、じっちゃんは野生ポケモンを一時的に保護する為に使用するという専用モンスターボールを取り出しピカチュウをその中に入れ、そしてどうやら俺が奥へ走っていったときにピカチュウを見て事態を察してくれた有能所員さんがいたらしく、じっちゃんが指示を出すまでも無く準備万端で待ち構えていた治療マシンへボールをセット。大人たちはそれで一段落、といった様子である。
……え、それで終わり?
「ああ、空腹ゆえの体力の低下なんかはすぐにどうこうできんが、傷はこのマシンでさほど時間をかけずに治療が可能じゃ。まったく便利な時代になったもんじゃわい」
か、かがくの ちからって すげー!
「で、レッド。これは一体何事じゃ。グリーン達と遊びに行ったはずのお前がなんだってボロボロのポケモンを抱えてすっ飛んでくるなどということになった。それも、マサラからどれだけ急いで走っても1日はかかるトキワの森に生息するピカチュウ……これはただことではないぞ」
俺がポケモン世界の科学力に感動していると、後の処置を所員に頼んだじっちゃんは俺に向かって真剣な表情で問いかけてきた。
なるほど、傷だらけという点だけが気にかかり他のことが頭からすっ飛んでいたが、言われてみればその通りだ。
別に傷だらけというだけなら、残酷なことだが野生ポケモンの生存競争の結果ということで理解できなくもない。彼らは俺達人間とは違い常に争いの中で鎬を削る生物だ、そういうことはいくらでもあるだろう。
だが……その結果、生息地から遠く離れた土地までわざわざ1匹だけでやって来るとなると話は変わってくる。
「そうじゃ。脅威から逃げるにしても、己1匹だけでトキワの森からマサラまでやって来るのはいくらなんでもありえん。少なくともワシはそんなピカチュウは見たことがない。トキワの森で余程の目にあったのじゃろう……傷痕を見れば大体想像はつくが」
傷痕? と俺が聞き返すと、じっちゃんは難しい表情で治療マシンを見ながら俺の疑問に答えてくれた。
「ボールに入れる前に全身を確認した。細々とした傷が多かったが、その中でも特に目立ったのは2種類。恐らく“じしん”による衝撃によって受けたと思われる傷。そして“みねうち”によって負っただろう傷跡じゃ……見事に急所を穿っておった」
“みねうち”……ポケモンの体力を瀕死一歩手前以上削らない、という技だ。その仕様から、トレーナーによるポケモン捕獲に多用される。ということは、あのピカチュウを痛めつけたのは……。
「うむ。断言はできんが、恐らくは自分を捕獲しようとしたトレーナーから逃げてきたのじゃろうな。それだけならおかしいことはないのじゃが……まあ、今考えてもどうしようもない。ひとまずは……」
「――やっと着いた! おいじいさん、レッド来てるかっていやがった! レッド、お前何1人だけで先行ってんだよ!」
じっちゃんが何かを言いかけたところで、グリーンが汗だくで研究所に飛び込んできた。その後ろから更にブルー、リーフも同じような様子で飛び込んでくる。
なんだ、ずいぶん遅かったな。
「お前が速すぎんだよッ! あそこから研究所までお前が走った跡、焦げてたぞ!?」
「はーっはーっ、レッドあんた、このアタシにこんなに汗をかかせるなんて……」
「……おじいちゃん、ピカチュウは……?」
グリーンはまだ元気が良いが、ブルーは余程疲れたのか今にも倒れそうになりながら俺を恨みがましい目で睨んできた。と思いきやリーフは気づいたら治療マシンを覗き込んでいる。普段口数が少ないから忘れがちだけど、リーフって俺に次いで体力あるんだよな。
などと子供が4人も集まれば当然騒がしくなるもので、少ししたらじっちゃんに「やかましい、ピカチュウの傷に障るじゃろうが!」とつまみ出されてしまった。
しょうがない、また明日来るとしよう。その時には元気になっているといいけど。
○月××日 9歳 オーキド研究所
『こうして俺たちは友達になった』
次の日の朝、目を覚ました俺は着替えや食事などの支度もそこそこに早速オーキド研究所に出かけた。お土産に農園から朝イチで採ってきた各種きのみも携え準備万端である。
喜んでくれれば良いんだけど、とのんびり研究所へ歩を進めていたのだが……なんと研究所の敷地の目の前までやって来た瞬間、突如目の前で轟音と共に地上から空へと一条の雷が奔った。
「こら、よさんかピカチュウ! 言っとるじゃろう、ワシらは敵では……うぉおう!?」
「ちょ、じいさん危ねえってうわあ、俺にもかよ!?」
「……お姉ちゃん、呼んできたほうが……」
これはただ事じゃないと敷地に入ると、何やら焦った様子のじっちゃんとグリーン、そしてオロオロしているリーフがいた。まだ早朝であるからだろう、研究所の所員の人たちは見当たらない。
そしてそんな彼らの目の前には……全身から激しく雷光を迸らせて3人を威嚇するピカチュウがいた。
「ピッカァアアアアアアア!」
両手両足を突っ張って3人を激しく睨みつけるピカチュウは、見るからに警戒心バリバリのご様子。
どう見ても緊急事態なので、ひとまず挨拶はおいて「何があった?」と声をかけるとすぐに俺に気づいたのか、3人が振り返った。
「おおレッドか。先ほどピカチュウが目を覚ましたので傷の具合を診てやろうとしたんじゃが……見ての通りじゃ。ワシらを警戒してまったく近寄らせてくれんのじゃよ。まだ完治したわけでもないし、ああして電気を操るだけでも辛いはずなのじゃが……」
じっちゃんの言葉に改めてピカチュウに視線を向ける。
傷はマシンの力で消えているし、目にも力が籠り、電撃の勢いも強いのでもうダメージなど無いように見える。
が、よく見ると不自然に汗をかいているし、手足も震えていて辛そうである。じっちゃんの言った通り、まだ完全に治ったわけではないのだろう。それに最低でも昨日から何も食べていないはずだし、相当に空腹であるはずなのだが……なんとも凄い根性を持ったピカチュウというべきなのだろうか。
「おいじいさん、じいさんのポケモン使ってちょちょっと大人しくさせちゃダメなのかよ?」
「それも考えたが……お前さんも見たじゃろうグリーン、あのピカチュウの身のこなしを。計測したところまだレベルはたったの3しか無かったというのに、部屋中を天井も壁もお構いなしに縦横無尽に駆け回り、念のため連れてきていたポケモン達をまるで寄せ付けず外まで逃げ果せたすばしこさ。ピカチュウのレベルに合わせて低レベルのポケモンを連れてきていたとはいえ、そんじょそこらのピカチュウに出来る芸当じゃないわい」
「……じゃあ、ピカチュウより強いポケモンを連れてくれば」
「それこそいかん。捕まえることこそ可能じゃろうが、それをやったが最後、ワシらはあのピカチュウから一切信用されなくなってしまう」
「ならどーすんだよ、あのピカチュウをズタボロのまま逃がして野垂れ死にさせんのかよ?」
「そんなつもりは無い。無いが、ううむ……」
話を聞いた限り、どうもあのピカチュウがレベルに見合わぬ強さを持っているせいで八方塞がりになっているらしい。かといってグリーンの言ってるような目に合わせるわけにもいかないし……。
よし皆、ここは俺に任せてくれ。
そう言って、俺はピカチュウの前に体を晒した。
「は? レッドお前何言って、ってちょっと待ておい、危ねえって!」
グリーンが俺を止めるが、俺は素早くピカチュウの真ん前に陣取った。
ピカチュウはまさか人間が無防備に自分の前にやってくるとは思わなかったのだろう。
一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情を引き結び、電撃を放ってきた。……が無駄無駄ァ! 我が身に宿りしマサラの血によって練り上げられしこの肉体、こんな弱々しい電撃で傷つけようとは片腹痛いわ!
……嘘だよ、実は結構痛いよ!
「ピッ!?」
嘘だろ!? みたいな顔をして硬直するピカチュウ。
俺はその隙にすぐ傍に置いておいたバッグからきのみをいくつか素早く抜き取り、ピカチュウへと差し出した。
ほら、お前、腹減ってるんだろ? 食えよ。と笑顔で語りかけてみる。
「……チュウゥ」
俺の行動に毒気を抜かれてしまったのか、電撃を収めるピカチュウ。
しばらく俺の顔をきのみを交互に見ていたのだが……俺がゆっくりとピカチュウの頭に手を置き撫でてあげると、やっと敵じゃないということを理解してくれたのだろう。猛烈な勢いできのみを食べ始めた。
お、甘いきのみが好きかー。これは素早さ補正+の性格かな?
「……レッド、凄い」
「うふふ、そうね。レッド君カッコ良いわねーリーフ」
「なんじゃ、来とったかナナミ。にしても、なんとまあ……とんでもないのうレッドは。あんなにあっさりと気が立った野生ポケモンの警戒心を解いてしまうとは。こりゃあ将来が楽しみじゃわい。お主らも負けてられんぞ、グリーン、リーフ」
「……んだよ、姉ちゃんもじいさんもレッドばっかり。見てろよ、俺だって」
「あら、ヤキモチ?」
「ばっ、ちげーよバーカ!」
一時はどうなることかと思ったが、何とか無事に収まってよかったよかった。
ピカチュウも場の空気が弛緩したことを感じ取ったのか、一瞬きのみを食べる手を止めると俺の顔を見上げて笑顔を浮かべた。
お、やっと笑ったな。
書いても書いてもなかなか「これなら」というクオリティに仕上がらない。
しかし、書かなければ上達できない。書き続けることでしか解決しないんでしょうが、難しいです。