原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」 作:ゴーイングマイペース
……しゅ、取材だから! 必要だから!!
△月×日 9歳 トキワシティ トキワジム
『ピッピカチュウ! ……チュ、チュウ?(さあ次は誰だ! ……あれ、もう終わりなの?)』
「優勝は、マサラタウンのレッド君とピカチュウです! おめでとーッ!」
『おめでとーっ!』
と、いうわけでわたくしレッドとピカチュウは『カントー小学生バトルトーナメント』で優勝しました。今は表彰台で優勝カップを授与されているところである。……あれー?
「よくやったのう、レッド、ピカチュウ! やはりワシが見込んだ通りじゃった。本当に大したもんじゃわい!」
「ふん、なーにが“大したもん”だよじーさん。こんなのわかりきってたじゃねーか。……ま、ぼちぼち凄かったんじゃねーの?」
「まーた緑ちゃんが。ホンット素直じゃないんだから、こんなときぐらい素直に『おめでとう! 流石はオレサマのライバルだぜ!』ぐらい言えないの?」
「ブルー! てめえ「……お騒がせしてすみません、連れていきます……」ちょ、リーフ! って力つよっ、おい!」
「あらもう、グリーンったら。あ、レッド君。やったわね、ホントにカッコよかったわよー」
ナナミ姉ちゃんが俺とピカチュウの頭を撫でて労ってくれる。普段の俺なら美人のお姉さんにそんなことをされてデレっと多少だらしない表情でも浮かべていたかもしれないが、正直それどころではなかった。
じゃあいったい何がそんなに気になっているのかと言うと、もちろん今回の『カントー小学生バトルトーナメント』についてである。
正直に言おう。思っていたより大したことがなかった。いやまあ流石に一大イベントだけあって普段小学校でやっているバトルのほとんどよりは遥かに楽しかったのだが、思っていたほどの歯ごたえが無かったのである。
期待はしていたのだ。なんといってもカントー中から精鋭が集う一大イベントだ。
例えその精鋭が小学生だとて各町のトップ達が集結するのだし、「窮屈なルール制限で多少は物足りないだろうけど、それでもそれなりに戦術の粋を凝らしたバトルが楽しめるんだろうな」ぐらいには楽しみにしていた。
ところがいざ終わった後に振り返ってみるとなんともはや。どいつもこいつもほとんど攻撃一辺倒だった。変化技などというものはほっとんど使われなかったのである。
とはいえ、こちらも事前にピカチュウと2人でこの数か月間で頑張って組み上げた戦術は余り使わせてもらえなかった。いや、より正確に言うと「使うまでもなかった」。
まあ戦術などというと大げさな言い方だが、実際はそう大したものでもなかった。
まず基本戦術として“かげぶんしん”+“こうそくいどう”を初手発動。自慢のスピードを更に上昇させ、そのスピードを活かして撹乱。そして相手が本体を補足できず分身に気を取られている間に“わるだくみ”を積んだり、或いは一気に接近して“くすぐる”等のデバフを仕掛けたりという起点作成(1VS1だが)から仕掛けるようピカチュウに仕込んだのである。原作ゲームのようなターン制バトルでは不可能な、アニポケのようなリアルタイムバトルだからこそ可能な「技の複数同時発動」だ。この世界では修行次第でいくらでもこういった戦術が作れる。とても奥が深く楽しいのだ。
しかしまあ、そんなのは相手も同じ条件なので向こうも積んできたり、なんならデバフ技や壁技といった変化技の応酬が楽しめると思っていたのだが……。
「……うーん。流石、マサラと違って予選を勝ち抜いてきただけあって強かったし楽しかった。楽しかったんだけど、ううーん。ピカチュウは楽しかったか?」
「ピカッチュウ!」
元気よく手を挙げて応える我が相棒。なんなら「まだまだ戦り足りねぇぜ!」という獰猛な表情をしていた。だよなぁ、やっぱり物足りないよなぁ。
話を戻そう。まず1回戦目のお相手だが、彼は大量の“かげぶんしん”の中を“こうそくいどう”するピカチュウを見つけ出せなかった。
じゃあすぐに防御を固めたかと言うとそういうわけでもなく、大量の分身の中に紛れる本体を見つけようと人とポケモン揃って慌てている間に高速で背後に回り込んだピカチュウに手痛い“でんこうせっか”の一撃をもらっていた。
しかし、やはり彼もさる者。1つの町の代表の意地と言うべきか瞬時に気持ちを切り替えて指示を飛ばし“リフレクター”を張ったのまでは良かったが、次の瞬間更にそこから死角へ回ったピカチュウに俺が“10まんボルト”を指示して終わってしまった。俺はたった1回技の指示をしただけで勝ってしまったのである。
その後は優勝まで1回戦の焼き直しだった。なんなら更に簡単だったかもしれない。
このトーナメントは出場選手がたった10人と少数である為、バトルの同時進行といったことは行わず一戦一戦順番にこなしていく方式だったので、2回戦以降の相手はみんなピカチュウの強さや戦法を確かめられていたはずだった。だというのに誰も対策を打ってこなかったのである。
まあピカチュウのあのスピードを前に壁技は無意味だとみんな考えたのか(壁技は正面にしか張れないので、瞬間的に背後を取れるような相手には効果が薄い)誰も使ってこなかったのは正解だと思うが、じゃあ積み技等を使って対応してきたかと言うとそれも無かった。ピカチュウの高速ヒットアンドアウェイ戦術を見ていたはずなのに。なのに!
そして結果的に、俺は事前にピカチュウに仕込んだ戦術以外この大一番でやることがほとんど無く、ただトレーナーゾーンからピカチュウが作ってくれたチャンスに対しタイミングよく攻撃技だけを指示するだけのマシーンと化していた。
おかしいなぁ、ホント色々な戦術を考えてきてたのになぁ。展開次第では“みがわり”仕込んで、更にそこからみがわりボードを使った“なみのり”派生みたいなビックリ戦法とか、ピカチュウと一緒に夜中近くまで盛り上がって考えてたのになぁ……なんで?????
「チュ、チュウ?」
「あれぇ。レッド君、どうしてちょっとむつかしい顔しちゃってるのかしら。ほーらレッド君、ぎゅーってしてあげるから。よしよし」
「……レッド、カッコよかった」
「ありゃ、まあアンタにはやっぱこの大会じゃ物足りなかったかー。ま、しょうがないわね。アタシから見ても正直つまんないのばっかだったし。ほらレッド、あっちのレストランで明日ちょっとした祝勝会をやってくれるって。なんならこのアタシ手ずから『あーん』とかやっちゃうわよー。ほらほら、美少女の『あーん』が待ってるわよー。ってレッド聞いてる? レッドー?」
こうして俺とピカチュウの『カントー小学生バトルトーナメント』は周囲の俺達を褒め称える声とは裏腹に、俺達にとってはなんとも微妙な結末でもって終わってしまうのであった。
ああ、早く旅に出たいなぁ。なあピカチュウ。
△月□日 9歳 トキワシティ レストラン 祝勝会 会場
『原点どころかまだ始まってすらいなかったなんてわかるかそんなこと!(byレッド)』
1日経って祝勝会。
なぜかナナミ姉ちゃんが俺の世話を甲斐甲斐しく焼こうとしたり、リーフがずっと傍で心配そうに俺の様子を伺ってきたり、ブルーがやたらと食い物を俺の口に突っ込もうとする以外はしばらく楽しい時間が続いた。
……ブルーやめろ。やめ、やめろって、もういいわ! 1回2回ならともかくそんな何回も「あーん」とか逆に食い辛いわ!
そんな騒がしくも楽しい、昨日の大会で俺の心に生まれたしこりから目を背けられる時間から少し経ってからのこと。じっちゃんやグリーンからの、俺からしたら何気ない質問から俺とピカチュウの今後を決定づける怒涛の展開は始まった。
「そういえばレッド、お前、ピカチュウにどんなトレーニングをさせておるんじゃ? バトル中、ピカチュウが幾つか妙な動きをしておったがありゃいったいなんじゃ」
「そうそう、それだよじーさん! おいレッド、“かげぶんしん”や“こうそくいどう”はわかるけどよ。他にもピカチュウが敵をくすぐってたりしたのはありゃなんだ、何の意味があったんだ?」
2人からその台詞を聞いた俺、「何言ってんだろ」と思わずピカチュウと顔を見合わせてしまった。ピカチュウは一目でわかる間抜け面になっていたが、恐らく俺も大差ない顔をしていたに違いない。
そして改めて周囲を見ると、2人と同じことを知りたがっていたのか、リーフ、ブルー、ナナミ姉ちゃんも俺達を見ていたし、他にも、主賓が俺の様な小学生なので大した規模ではないが、今回の大会の関係者の人達もみんな俺とピカチュウを見ていた。
そこで初めて、その時まで俺と皆の『ポケモンバトルについての知識』のズレを理解していなかった俺は色々とぶっちゃけたのだ。
「スピード上げて回避しつつ同時に“わるだくみ”でC積んで後は“10まんボルト”ぶっぱ」「隙を見て近づいて“くすぐる”でB下げて連続“でんこうせっか”」「それしかやれること無かった、ていうかそれすらやる意味無かったかも」と。他にも色々言ったかもしれない。
後のことを考えればきっとこれは大正解だったのだろうが、その時の俺にとっては、これらはとびきりの失言だった。
「レ、レッド! そ、そ、その知識はいったいどうやって、というかどこで知ったのじゃ!?」
俺の若干投げやりな発言を聞くや否や、俺の両肩を勢いよく掴んできたじっちゃん。
いったい何事だとその顔を伺ってみれば、いつもの好々爺然とした表情はそこにはなく、鬼気迫った、あるいはとびきりの興奮を鼻息で表した顔面が俺の鼻先すぐにあった。
「ちょ、ちょっとオーキドのお爺ちゃん! 近いわよ!」
「お、おお、おおすまんのブルーちゃん。いや、じゃが、しかし……」
何故か俺以上に慌てた様子でブルーが引き離してくれたものの、その顔にはじっちゃんとはまた違う普段見ない表情、困惑が浮かんでいた。
少し落ち着いたので改めて周りを見回せば、大多数はブルーと同じような困惑の表情、他少数派じっちゃんと同じような驚愕・興奮の表情をしていた。
え、なんで? 今の俺の発言のいったいどこにそんな引っかかるトコが……あれ、待てよ。
もしかして、この世界って目に見えて分かりやすい技以外……それこそ積み技みたいな技が知られてない?
いやいやいやそんなバカな、こんなの初歩も初歩の知識じゃん。前世で「廃人ってスゲー」って言ってるだけのエンジョイ勢だった俺ですら知ってるようなことだぞ。そんなのそれこそ、グリーン達みたいな俺と同年代の子供はともかくじっちゃんみたいなポケモン研究の権威が知らないわけないじゃないですかやっだなーもー。
――いやでも、それならこれまでのバトルで、基本ほとんどの相手から歯ごたえを感じなかったことについての説明がつく、ような……。
そこまで高速で脳を回転させた俺は「さっきのは見間違い見間違い」と口の中だけで呟いて改めて周囲を見るも……やっぱり、みんなさっきと同じ顔をしていた。
そこで俺も流石に観念して「……説明、した方が良い?」と言ったが最後、俺は会場中の人間に取り囲まれ、年齢不相応の講師役をやらされる羽目になったのだった。
「ふむ。やはりあのピカチュウ……そして一緒にいるあの小僧……ククク、偶にはリーグのお小言を聞いてやるものだな。――ラムダ」
「へぇ」
「ジムに戻ってバトルコートの準備をしてこい。後は――」
次回に続く!(分割)
たぶん後1、2話ぐらいでレッド君たちを旅立たせます。うん、たぶん。