原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」   作:ゴーイングマイペース

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 色々なサイト使って勉強してたら遅くなりました。決してイワヤマトンネルでいじっぱりワンリキーくん厳選を粘っていたから遅くなったわけではありません。本当です、信じてください。



 バトル描写を足した分、結局分割してもいつもより長くなってしまった。反省。(次回以降活かせるとは言ってない)



※誤字報告してくださった方、ありがとうございます。とても助かりました。
 「最も」→「尤も」。
 「依然」→「以前」……恥ずかしッ。


008 トキワシティ 9歳 02 VSサカキ シングル 1×1

△月□日 2ページ目 9歳 トキワシティ レストラン 祝勝会 会場 → トキワジム

 

『因縁の対決! ピカチュウ VS ニドキング! ~これが伝説の始まり~』

 

 つ、疲れた……バトルトーナメントより疲れた。まさか僅かな時間とはいえ、大勢の大人を相手に講釈をぶつことになるなんて……。

 

「……レッド、お疲れさま」

 

 リーフが持ってきてくれたドリンクを一気に喉へと流し込む。行儀が悪いかもしれないがしょうがない、こちとら喉がカラカラなのだ。年少であることに免じてここは見逃してほしい。

 俺へとドリンクを渡し終えたリーフは、続いて俺の足元にいたピカチュウへもきのみのジュースを手渡す。そしてピカチュウも俺と一緒に大勢の人間に取り囲まれて疲れたのか、俺と同じようにジュースを一気飲みしていた。お前もお疲れさん。

 

 

 あの後、変化技やそれらを活かす戦法について大人たちから根掘り葉掘り聞かれることになった俺とピカチュウは疲れ切っていた。体の疲労は大したことないが、精神的な疲労が強い。

 なお、かかった時間については先ほど述べたようにわずかな時間で済んだ。何故かと言うと、知識の出所を聞かれた際に咄嗟で「この数ヶ月間でピカチュウから聞いた、あるいは編み出した(ということにした)」と返した為、現在ピカチュウが覚えている中で大人たちが知っていない技について幾つか教えるだけで済んだからだ。

 

 尤も、ユキナリのじっちゃんを始めとした大人たちはそれだけで満足することなどなく更に俺に詰め寄ろうとしてきたのだが、その時点で辟易としていた俺を案じてくれたナナミ姉ちゃんがじっちゃんを一喝してくれたことで場を収めることができた。本当に助かった。あのままでは三値についてとか珍しいポケモンについてとか、まだこの世界で知られていない他の事柄についてもそうとは知らずにぽろっと零していたに違いない。

 ナナミ姉ちゃんマジ女神。結婚して。(唐突)

 

「お疲れレッド。ま、あんだけピカチュウのことについて色々知ってちゃ、そりゃあの程度の大会じゃ物足りなかったわよねぇ」

 

 一息ついていたタイミングで不意にかけられたブルーからのその言葉に、俺は咄嗟に何も返すことができなかった。「見抜かれていた」と思ってしまったからだ。

 そしてブルーには無言の肯定と捉えられてしまったらしく「そんな顔しちゃって、しょうがないヤツね」と呆れられてしまう。

 まあ、実際その通りなのだ。というか昨日の大会で自分の本当の気持ちを思い知らされた、と言った方がより正確だろうか。

 いつもの授業でのグリーン達とのバトルは結構楽しかった為に気づいていなかったが、いつの間にか俺は同年代の精鋭達が相手だとしても「物足りない」と考えてしまうようなイヤなヤツになってしまっていたらしい。

 

「んな顔してんじゃねえよアホレッド。無駄な感傷に浸ってるような暇があるなら、その腕をもっともっと磨き上げろよな。でないと俺がお前をぶちのめす甲斐がねえじゃねーか」

 

「よく言うわよ、一度もレッドに勝ったことなんてない癖に」

 

「なんだとこのヤロー!」

 

 落ち込む俺の様子を見て、珍しく俺に優しい言葉をかけてくれたグリーンだがいつも通りブルーが混ぜっ返してしまい、追いかけっこが始まった。

 普段なら2人のそんな様子にリーフと一緒になって呆れつつも気持ちが和むのだが、自分の中にいつの間にかあった驕りを突きつけられた俺はどうにもそんな気分にはなれなかった。

 

 すると、そんな俺の様子を見かねたというわけではないだろうが――先ほどまで相手にしていた中からは聞こえなかった声が、俺にかかった。

 

 

「――ほう、あの大会では物足りなかったか。ならばどうだろう、マサラタウンのレッド君。私の相手をしてみないかな?」

 

 

 聞き慣れぬ声が聞こえた方に視線を向けてみると、そこにいたのは全身がほぼ黒ずくめの男。

 胸ポケットには赤い「R」の文字があり、さらにそこから視線を上げて顔を見れば中々お目にかからない悪人面が。そしてその顔からは、漲る自信、そして自然と人を惹きつけるようなカリスマを感じさせる。

 そんな男が、まるで面白いものでも見るような無遠慮な目を俺に向けてきていた。

 

 

 いや、ていうか、あれ――――サ、サカキだとぉおおおおおおおッ!?

 

 

 な、なんでこんなとこに、ってそりゃいるか。「最強のジムリーダー」とか自称して弱いトレーナーを相手にしないからサボり気味とはいえ、一応このトキワシティのジムリーダーだもんな! そりゃいる時はいるよな!

 

「おお、サカキ君。普段忙しくしていてジムリーダー業務にも手が回っていない君がこのような場に来るとは、意外じゃのう」

 

「これはオーキド博士。いえ、僅かながら時間が取れまして。それに最近リーグからお小言を頂戴することも増えてきて、偶にはジムリーダーらしく頑張った少年に激励の言葉でも――なんていうのは、建前でしてね」

 

 余りに突然現れた悪の組織のボスの姿に動揺してしまった俺が返事を返せずにいる間に、じっちゃんが先にサカキの相手をしてくれた。どうやら先程の暴走を恥じているらしく、こちらをちょっと振り向いてウインクしてきた。

 大してサカキは何やら真っ当なジムリーダーのようなことをじっちゃんに言ったかと思えば、改めてじっちゃん越しに俺へと視線を向けてくる。

 

「君に興味が湧いてね、レッド君。より正確に言うなら、君と、君の相棒のそのピカチュウにだが」

 

 その言葉の意味が分からず、俺は首を傾げた。先の大会の結果を知っているならそりゃ俺とピカチュウに興味が湧くかもしれないが、そこでわざわざピカチュウを強調するのはいったいどういう訳だろうか。

 

「……ヂュウウウウウウウウウッ!」

 

 と、そこで先程から妙に静かだったピカチュウから、これまたどうしたことか怒りがこれ以上ない程込められた低い唸り声がサカキに向けられた。

 見ると、そこにはまるで親の仇でも見るかのような形相でサカキを睨み付ける我が相棒の姿が。

 

「ほう、その反応。そうかそうか、やはりお前はあの時のピカチュウだったか。なんとまあ、あの時あそこまでして私の手から逃れたというのに、結局は人間に、それも子供に飼い慣らされているとはなぁ。レッド君には悪いが、少々期待外れといったところだな。あの後無理に追いかけなくて正解だった」

 

「なに? ピカチュウが君の手から逃れた、じゃと? サカキ君、それはいったいどういうことかね?」

 

「ああ、それはですね――」

 

 その後サカキから聞かされたのは、なんとサカキが異様に強いピカチュウをトキワの森で捕まえようとしたという話だった。しかもその時期が、ピカチュウがボロボロの姿でマサラタウンにやって来た時期と見事に合致していると来た。

 そう、トキワの森に住むピカチュウの住処を荒らし、ピカチュウをあそこまで痛めつけたのはなんとこの男、サカキだったのである。

 じっちゃんもそれに気づいたのだろう、厳しい顔でサカキに対しトキワの森のピカチュウの状況について苦言を呈すが、サカキは素知らぬ顔で「ピカチュウを捕まえようとバトルを仕掛けた後に群れを巻き込んでしまった」などと返していた。

 しかし、それは嘘だ。ピカチュウは俺が当時の状況について尋ねた時にハッキリと「突然群れに強大なポケモンが襲い掛かってきた」と答えたのだから。つまり、サカキは先に俺のピカチュウにバトルを仕掛けたのではない。群れを先に襲ったのだ。

 そしてじっちゃんもそのことは伝えているので知っている筈だが、何も言い返せない様子だった。

 悔しいが、それもその筈。ピカチュウの証言は俺が翻訳した言葉だからだ。他人からすれば信用も何もあったものじゃない。

 

「ピッカアアアアアアアッ!」

 

 とうとうそのタイミングでピカチュウが、いけしゃあしゃあと嘘を並び立てるサカキに対し我慢の限界に達したのか怒声を発して“アイアンテール”を振りかぶった。

 が、その瞬間、サカキの腰に並ぶモンスターボールの1つが勝手に開き、中から出てきたポケモンがピカチュウの“アイアンテール”を軽い調子で受け止めてしまった。

 

「グワァオ。グギャギャギャギャギャ!」

 

「! ピッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

 そのポケモンの姿を認めたピカチュウが、サカキに対してより更に凄まじい怒りの形相を浮かべて怒声を浴びせる。

 が、そいつはまるで意に介さないどころか、逆に怒髪天を衝くピカチュウの様子が面白くてたまらない、とバカにするかのような笑い声で返した後、受け止めたピカチュウの尻尾を掴み俺の方に軽く放ってきた。

 その扱いがまた腹立たしいのか、俺の胸の中に収まったピカチュウがバトルや修行以外ではなかなか見せない激情を宿した瞳ででそいつを強く睨み付けた。

 

「なんだニドキング、お前がやる気なのか? しょうがないやつだな、相手は幼気な少年とか弱い小動物だというのに。まったく、お前の悪癖には困ったものだ」

 

 そう、ニドキングである。そして恐らくコイツがピカチュウの話に出てきたニドキング、トキワの森で暮らすピカチュウの群れを一度壊滅させかけた張本人だろう。

 このイヤらしい笑い声や、ピカチュウから聞いた当時の状況、そして今のニドキングに対するサカキの発言からしてどうにも悪い方向にやんちゃな性格であるらしい。半グレの不良(ヤンキー)かよ。

 

「どうだねレッド君。ジムリーダーである私から将来有望な若者への激励とでも言おうか、そのピカチュウとこのニドキングでバトルしてみないかね?」

 

「な、ば、バカを言うでないサカキ君! いくら何でも限度というものがあるじゃろう! そんなもの最早バトルですらない、ただの弱い者苛めではないか!」

 

 サカキからの提案が余程信じ難いものだったのだろう。先ほどからのやり取りも合わせてか、普段穏やかなじっちゃんがとうとうサカキを怒鳴りつけた。当のサカキはまるで堪えた様子は無いが。

 

 

 しかし俺は、その提案に対し「いいっすよ」と横柄な返事をした。

 ああするとも、上等だよこのオッサン。悪の組織のボスだからじゃない、俺の大事な相棒とその家族を悪戯半分に傷つけたらしいコイツ等だけは吠え面をかかせてやらなきゃ気が済まねぇ。

 どうせ「偶々現れた以前逃した獲物で適当に遊んでやろう」とかそんなに舐め腐ったことを考えているのだろうが、その油断、遠慮なく突かせてもらおうじゃないか!

 

 

 俺は腕の中のピカチュウへ短く「やれるな」と聞く。相棒も俺がどう答えるかわかってくれていたのだろう。サカキとニドキングを鋭く睨み付けながら「ピッカ!」と頼もしい返事をしてきた。

 

「落ち着くんじゃ、レッド! 気持ちは痛い程わかる。わかるが、いくら何でも余りに無謀じゃ。ピカチュウを無意味に傷つけるだけの勝負など認めんぞ!」

 

「そうだぜレッド、じいさんの言ってる通り無謀ってヤツだ。悔しいんなら、来年からじっくり実力を身に着けて挑むしかねーよ。落ち着けって」

 

 俺達を止めようとするじっちゃんとグリーン。そして同じ意見なのだろう、傍で状況を見ていたブルー、リーフ、ナナミ姉ちゃん、そしてレストラン内にいるパーティーの出席者達も2人と同じ、俺達を諫める目を向けてきていた。

 しかし俺はそれらに取り合わず、「別に無謀なんてこと無いよ。作戦だって色々思いつく。任せとけって」とだけ返した。

 

「作戦、作戦ときたか。クックック、良いだろう。楽しみにしておこう。しかし、それでもこの場の皆の懸念通り、依然君の圧倒的な不利は覆るまい。ふむ……よし、オーキド博士の先ほどの言葉もあるからな。ハンデだ。このバトルで私はニドキングに一切指示を与えないことにしよう」

 

 サカキの口から、通常のバトルなら信じられない条件が飛び出す。じっちゃんはその言葉を聞いて、更に厳しい視線をサカキへと向けた。

 そして周囲の人達がサカキのその言葉を聞いて騒めき始める。まあ、それはそうだろう。サカキの提案はそれ程に滅茶苦茶だ。普通ならどう考えても真面な勝負が成立する筈がない。

 

 何故成立する筈が無いのか。それはもちろん、トレーナーに指示を出して貰えるポケモンの方が、指示を出して貰えないポケモンより強いからである。

 ポケモンバトル、特にこの世界のそれは言うまでも無くゲームより遥かに自由度が高いうえ、更にポケモンが自己判断で技を使う分にはPPが許す限り何種類でも技を使って良いルールだ。なのでもしバトルに詳しくない人が今のサカキの発言を聞けば「別にいいんじゃないか」と思うかもしれない。

 しかし、最前線より一歩引いた視点から状況を俯瞰し、ポケモンの視点からでは不可能な「的確な指示」を与えることが役目のトレーナーとポケモンの連携は、それを受けられないポケモンとの間にバトルにおける絶対的な格差を生じさせる。

 つまり、「指示」はバトルの勝利に絶対に不可欠な要素でなのである。なのにトレーナーがその役割を最初から放棄するというのは、流石にゲームバランスが崩壊しすぎている。

 では、何故サカキはそんなあり得ない程不利なハンデを自分達に課したのか。

 

 それはつまり――どこまでも俺とピカチュウを舐め腐ってくれているということだろう。どこかの誰かが言っていた『至極真っ当な“驕り”』と言う奴だろうか。

 もちろん、俺達がそれを聞いて怒り(闘志)を萎えさせるかと言えば、そんなことはない。2人揃って益々怒りを滾らせるだけだ。ぜっっったいに許さねえ。

 

「フッ。最強のジムリーダーと称される力、その一端を教えてやろう。小僧共」

 

「ギャギャギャギャギャッ!」

 

 

 

 こっちこそ目にもの見せてやるぜクソ野郎。お前の大事なロケット団を叩き潰す前哨戦だ、今度は俺とピカチュウがお前等を泥に塗れさせてやるよぉ!

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 場所はレストランから場を移しトキワジムのバトルコート。

 どうやら既にバトルコートの準備を整えさせていたらしく、いつでもバトルが始められるようになっていた。しかも準備を済ませていたのがなんとあのロケット団幹部のラムダとランスだった。先程のサカキ登場程ではないが、ちょっとビックリ。

 更に、そのままこいつらが審判を務めるらしい。が、ラムダとランスはスポーツマンシップの欠片も見えない、審判にあるまじき表情を俺たちに対して向けてきていた。どうやらボス同様に俺とピカチュウを舐め腐ってくれているらしい。

 良いだろう、今からお前等を纏めて絶望のどん底に突き落としてやる。今日の夜は震えて眠るが良いわ。

 

 そして対面にはそんなクソヤロー共のボスであるサカキとニドキングが既にスタンバイ済だ。ニドキングは変わらずニヤニヤとしたイヤらしい笑いを隠そうともせず、サカキもニドキングほど露骨では無いが同じような顔をしていた。勝ちを確信しきっているのだろう。

 良い年した大人だろうに、なんと大人げないのだろうか。まあ悪の組織のボスなんてやってるヤツに、格下に対する大人気なんてあるわけないのか。

 

 『レッドーっ! ピカチュウーっ! 頑張んなさい、気持ちで負けるんじゃないわよー!!』

 

 『可哀そうに。いくら小学生の大会で優勝できたからって、あの歳でジムリーダーに、それもサカキさんと戦うなんてねぇ……。結果なんてわかり切ってるのに』

 

『しょうがないさ。あの年頃は誰でも思い切りが良いものだろう? 温かく見守ってあげようじゃないか』

 

『にしてもなぁ、いくら何でも調子に乗り過ぎだろう。ま、これを良い薬にして来年から励んでくれたら御の字ってところか』

 

 バトルコートに入った俺達へ、観客席の観衆から様々な声がかけられる。

 彼らが俺とピカチュウに向ける表情は、若干数の応援もあるが、大半は弱冠ながらジムリーダーに挑む俺達に対する同情、あるいは無謀な挑戦に対する苦笑、嘲笑だ。そしてそれらいずれもが、サカキ達と同様に俺とピカチュウの敗北を決定的なものと決めつけていた。

 無理もない。俺だって彼等と同じ立場になれば同じような表情を浮かべていただろう。なにせこちらは低レベルのピカチュウ、対するは最強のジムリーダーが鍛えたニドキングだ。普通に考えれば何をどうしたところでレベル差の暴力により一瞬でねじ伏せられるのが目に見えている。

 

「さあ、どう攻めますかねぇ」

 

 もちろん、俺は負けてやるつもりなどない。雪辱に燃えている相棒を必ず勝たせてやるつもりだ。

 とはいえこのまま無策で挑んでも観客の予想通りにレベル差で秒殺コースなので、さっき皆へとぶち上げたように作戦を考える。

 即ち、「どう凌ぐか」、「どう攻めるか」だ。

 

 まずどう凌ぐかだが、例えば、ピカチュウは“リフレクター(物理半減防壁)”と“ひかりのかべ(特殊半減防壁)”の両壁を習得する。

 これらは受けに回る場合に極めて有効な防御技であり、俺のピカチュウも両方習得済みだ。しかし、もしこの状況でそれらを張ったところで2倍弱点の“マッドショット”や“じしん”どころか、極めて低威力のうえ等倍の“どくばり”ですら一発喰らっただけでも高確率でお陀仏にされるだろう。それだけレベル差というのは高い壁なのである。

 

 では他に防御手段は無いのかと言われると、一応習得していることはしている。相手の攻撃を完全に無効化する“まもる”と“みきり”だ。

 が、この2つの技は連続で使用し続けると失敗する確率が高くなり続ける欠点がある。なのでこれらを使って受け戦法を採り粘ろうとしても、結局しばらくしたら攻撃を確定で喰らって粘るどころか一撃敗北の為、やはり却下。

 

 つまり現状、ピカチュウは受けに回ったとしてどうやってもニドキングのたった一発すら耐える手段がない。故に防御策は下策、という結論になる。

 

 まあ我が相棒は以前あのニドキングの攻撃を才能と根性で凌ぎ切った実績があるようだが、それを計算に入れて受けに回り続けたところで、今、俺達が持っている手札ではどうやってもある一定の時点で限界に達し敗北するだろう。

 「やれ」と言ったらやってくれるだろうが、トレーナーである俺が勝ち筋の薄い手段に縋って不要なリスクをポケモンに押し付けるわけにはいかない。

 

 ではどうするか――簡単な話だ。徹底したヒットアンドアウェイ戦法を採るしかない。故に基本戦法は先の大会と同じように「徹底して避けて避けて避けまくって隙を作り、必中のタイミングで必殺の一撃を」だ。一撃貰えば確殺される状況で受けに回るなどという選択肢は最初から無い。

 

 じゃあ相手からの攻撃を避けまくって凌ぐ戦法を採ったとして、次に問題となるのが「どう攻めるか」となる。

 そもそもピカチュウは【でんき】タイプであり、【どく・じめん】タイプのニドキングに対してメインウェポンである電気技が一切通じない。

 かと言って下手な攻撃では一矢報いることすら難しいだろう。ただでさえレベルが離れているのに等倍以下の攻撃を当てたところで勝ち筋には繋がらない。

 

 が、ピカチュウはここ数ヶ月間の修行を経て、工夫次第であのニドキングに届きうる新たな矛を得ていた。即ちニドキングに対して2倍弱点を突ける水技の“なみのり”と地面技の“あなをほる”である。

 

 ではどちらを選べばより有効打に繋がるのかが次に重要になってくるが、ここで基準となるのが「あのニドキングの【防御(B)】【特防(D)】はどちらが低いか」と「2つの技がそれぞれ【攻撃(A)】【特攻(C)】どちらに属するのか」の2つになる。

 

 まず、ニドキングの【体力(H)】を除く2つの耐久種族値はそれぞれ【防御】が「77」、【特防】が「75」だ。大して違いは無いが、一応、【特防】の方が僅かに低いのがわかるだろう。

 そしてあのニドキングは、さっきのピカチュウとのやり取りや、以前ピカチュウから聞いたトキワの森襲撃事件の様子を聞く限りどうも「やんちゃな性格(【攻撃】+、【特防】-)」だった。なので少しでも強力なダメージを与えたい俺達は【特攻】、特殊攻撃で攻めるのが正解となる。

 そして“なみのり”は特殊攻撃、“あなをほる”は物理攻撃にそれぞれ属する。つまり“なみのり”の方が同じ2倍弱点技でもより有効ということになるので、俺達が採る攻撃手段は“なみのり”一択だ。

 尤も、素のままの“なみのり”を当てたところで精々6~7分ほどしかニドキングの体力を削ることは叶わないので、さっき言ったようにいくらか工夫して当ててやる必要はあるが。

 

 ――ここまでを纏めると、俺達が勝つには「ニドキングの一撃必殺級の攻撃を避け続けて隙を作り、“なみのり”をより強く、より鋭く当てる」ことができれば良い。そしてピカチュウが作ってくれるだろうその隙に合わせ勝機を生み出すのが俺であり、俺にはそれが可能な筈だ。

 その理由は、先程イヤと言う程思い知らされた、この世界で恐らく俺だけが誰よりも正確に知っている、俺だけが持つアドバンテージ――そう、前世で数多くの廃人と呼ばれる人達が磨き上げた英知、その一端とすら言えない一欠片だが――を俺が身に着けていることである。

 

 

 ……よし、作戦は決まった。

 

 

「――ピカチュウ。()()()()でぶちかますぞ」

 

「! ピカッチュ!」

 

 サカキ達に悟られることを防ぐため、ピカチュウへとあえて言葉を濁して作戦を伝える。

 そして頼りになる我が相棒は俺の言葉の意味を違わず受け取り、威勢の良い返事をしてくれた。

 最後に互いに頷きを一つし、それぞれバトルコート内へ歩を進める。俺はトレーナーゾーンへ、ピカチュウはバトルゾーンの選手開始位置へ。

 

「スゥー……っ、――ハァアアアア」

 

 深呼吸を一つ。先程感じていた疲労感は、今は何故かキレイサッパリ消え去っていた。逆に、今までで一番の強敵と相対することで昂る心を鎮める。そうすることで脳内が澄み渡り、視界は隅々まで晴れる。逆に体には未だかつて感じたことがないような力が漲る。

 

 行くぞ。大丈夫、今のような時の為にピカチュウと一緒に毎日励んできた。そんな頼りになる相棒はいつも以上にやる気だ。今この世界のトレーナーは持たない、俺達だけの手札で作戦も組み立てた。そして何より、遥かに格上である相手が油断しきっている。

 付け入る隙はいくらでもある。無いなら作る。そう、勝ち筋は既に見えている!

 

「両者、準備はよろしいっすねぇ。それではぁ……バトルスタートぉ!」

 

 ラムダが両サイドの様子を確認し、バトル開始の合図を発した。

 

 

 

 ――さあ、バトルスタートだ!

 

 

 

「“ねこだまし”!」

 

「チャアッ!」

 

「グワゥ!?」

 

 まずは一発。油断しきっているニドキングの懐へと素早く潜り込んだピカチュウがそのまま瞬足で跳び上がり、ニドキングの顔面前で勢いよく両掌を打ち合わせる。

 大したダメージにはならないが、この技は「初手にしか使えない代わりに確定で相手を怯ませる」ことができる。刻一刻と状況が変化し続けるこの世界のポケモンバトルにおいて極めて有効な初手からのアドバンテージを確定でもぎ取れるのだ。

 

「“とぎすます”!」

 

「チャアアアアアアアアアアア……ッ!」

 

 地面に着地したピカチュウが四肢を踏ん張り、怯むニドキングを睨み上げながら“ねこだまし”で得た間隙を存分に使って体中の神経を研ぎ澄ませる。

 ちなみにこの“とぎすます”という技は「次に自分が繰り出す攻撃が確定で急所に当たる(技威力1.5倍)」という技だ。その仕様から原作では「2ターン使って1.5倍なら連続で同じ技使った方が強いじゃねーか」と敬遠されてしまったなんとも不遇な技なのだが、何度も言うように向こうが弱攻撃を1回決めただけで敗北が決してしまう俺達には2発も3発も攻撃を当てるような時間は許されていないので関係無い。

 

 そう、俺はピカチュウが未だLv10と低レベルであるのにも拘わらず、それより遥かに高レベルのニドキングに対し、一撃だけで勝負を決させるつもりなのである。

 「ジムリーダーの使うポケモン相手に一撃勝利なんて無理だ」というのが普通? そんなことはない、可能である。今の状況と俺とピカチュウの力が合わさればな!

 

「ニドキング、何を無様な姿を晒している」

 

「グゥゥ……グガァアアアアアアアアッ!」

 

 怯みから立ち直ったニドキングがサカキの叱咤を受け、生意気な小物に対する怒りをそのままに“メガトンパンチ”を繰り出す。

 しかしそんな大雑把な拳撃が瞬足自慢の我が相棒に掠りすらする筈もなく、余裕で避けたピカチュウはそのままバトルコートを縦横無尽に駆け回り始めた。

 さあ、ここからが肝心だ。

 

「いいぞ、そのまま()()()()()!」

 

 俺の指示を受けたピカチュウのスピードが更に上がり、かつ無数に増え続け始める。先のトーナメントでも使用した、この数ヶ月間でピカチュウに仕込んだ“こうそくいどう”と“かげぶんしん”の同時使用戦法である。俺がさっき与えた作戦を実行し始めたのだ。

 ついでに教えておくと「一気に行け」が修行中(事前)にピカチュウと決めておいた作戦開始の合図である。

 ニドキングはピカチュウのスピードに翻弄され、本体を捉えることが出来ない様子だ。

 そして、きっとこのバトルが一瞬で終わると思っていたに違いない観衆達からも、まさかここまで俺達が健闘するとは思っていなかったのか、ピカチュウがニドキングの一撃を華麗に躱したうえで高速分身戦法を披露したあたりから少しずつ俺達に対する歓声が上がり始めた。

 

「フン、撹乱戦法か。勝ち筋も無いだろうに涙ぐましいことだ」

 

 普通なら周囲には聞こえない程度の小声の嘲弄が聴こえた為サカキを見るが、無数のピカチュウに対し困惑し滅多矢鱈な攻撃を繰り出すニドキングへ特に指示を与える様子はない。どうやら悪の組織のボスの癖に律儀に約束を守るつもりらしい。それともただ単なる油断の表れか。

 まあ、どちらでも構いはしない。こちらの良いようにさせ続けてくれるなら、このまま一気に盤面を整えるだけだ。

 

「ヂャアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 ここでピカチュウが雄叫びを上げる。

 その顔には壮絶な悪相が浮かび、しかも無数のピカチュウが同様の表情をしている為に迫力が凄まじい。普段ピカチュウをただ愛らしい生き物とだけ認識している人が見れば思わず叫んでしまいそうである。

 その正体は“わるだくみ”。「1度に自分の【特攻】ランクを2段階上げる(【特攻】2倍強化)」技である。小学生大会では相手選手達の実力が低過ぎた為に逆に活かしきれなかった“こうそくいどう”と“かげぶんしん”に続く同時発動コンボだ。【特攻】を強化する(積む)ことで格上の肉体を貫く矛を作るのである。

 

 尤も、準備はもうこれだけじゃあないけどな! さあ、どんどん回していくぞ!

 

「グワアアアアアアアアアアオッ!」

 

 そのまま暫く状況が膠着しピカチュウが限界まで【特攻】を積んだ(Cランクを6段階+した)タイミングで、流石に業を煮やしたのかニドキングが右足を強く地面に叩き付け衝撃波を繰り出した。“じしん”である。

 そのバトルゾーン全体に広がる凄まじい威力によって、ピカチュウの“かげぶんしん”が一瞬で消え去ってしまう。本体は咄嗟に跳び上がり躱すも、これで撹乱戦法は打ち崩されてしまった。

 小癪な小動物がようやく見せた隙にニドキングがニヤリと笑い、ピカチュウが地面へと着地するまでの僅かの間に高レベル故のスピードでピカチュウに駆け寄る。

 そして、“かげぶんしん”に苛立たされた鬱憤を晴らすかのように拳を振り抜こうとして――ピタリとその拳を止めた。

 

「んん? どうしたニドキング……なに?」

 

 ようやく勝負を決めるかとニドキングに対し笑みの表情を向けたサカキが、何故か途中でトドメの一撃を止めたニドキングにその理由を尋ねる。しかしそのサカキもまたニドキングと同様に動きを止めてしまった。

 いったい何が起こったというのか。その答えは、ニドキングの攻撃を目前にしたピカチュウの様子にあった。

 

 そう――ピカチュウが、突然泣き始めていたのだ。

 迫る拳に対し尻餅をつき、体は震え、そのつぶらな瞳からは雫が零れ続ける。先程までの勇猛ぶりが嘘のように、あまりに唐突に脆弱な様を晒していた。

 

「ハ、ハハハハハハハッ! まさか“じしん”一発でそこまで怯えるようになってしまっているとはな! あの時の勇猛ぶりが見る影も無いなぁピカチュウ! 人間の町で可愛がられてすっかり牙を無くしたか?」

 

「グギャギャギャギャギャギャギャッ!」

 

 ジムの内部にサカキ、そして状況を理解したニドキングの笑い声が響く。思わぬ善戦を成していた俺達に応援の声を強くし始めていた観衆達も応援を止めてしまう。

 嫌な笑い声と沈黙が同時にジム内に満ちる中、ニドキングはイヤらしく笑い続けた。そしてそのまますぐにトドメを刺せるだろうに、ピカチュウへと手を出しては引っ込めて、顔を近づけてはまた引っ込めてと遊び始める。

 トレーナーであるサカキはそんなニドキングを叱ることもなく、「指示を出さないと約束したから」とでも言うつもりなのかむしろ同じようにニヤニヤと笑うだけだ。

 

 まあもちろんこれも作戦の内なんだけどな!

 そう、ピカチュウはただ泣いているわけではない。これは“うそなき”という技なのだ。

 その効果は噓泣きによって相手の困惑ないし油断を誘い、それによって「1度に相手の【特防】ランクを2段階下げる(【特防】2分の1弱化)」というもの。素のステータス差では貫けない【特防】をたった1回で「ガクッと下げる」優れモノである。

 この技によって、ピカチュウが泣き始めてからずっと油断しきって本当ならすぐ勝てる筈の勝負をダラダラと引き延ばしているニドキングは、【特防】が限界まで下がり切った(Dランクが6段階-された)ことだろう。

 

 ちなみに、この“わるだくみ”と“うそなき”の同時使用までが先ほど俺がピカチュウに言葉を濁して伝えた作戦である。「全力全開」とは「特殊攻撃力を限界まで高めて攻撃するから下準備を頼む」と言う意味の、ピカチュウと2人で決めた隠語なのだ。

 

 そしてここまでして、やっと、最高の一撃をぶちかます為の全ての準備が整った。

 「『【特防】種族値75』+『やんちゃな性格(【攻撃】+、【特防】-)』」のニドキングに対し、ピカチュウが「『“とぎすます”(次ターン確定急所補正付与)』+『“わるだくみ”×3(ピカチュウ【特攻】ランク6段階上昇)』+『“うそなき”×3(ニドキング【特防】ランク6段階下降)』」を仕掛ける。

 ここまですることにより、素のままでは2倍弱点だとしてもニドキングのHPを精々6~7分しか削れないだろう今のピカチュウの実力から放たれる“なみのり”は、乱数によりその威力を多少前後させるものの、なんと――2倍弱点から更に24倍その威力を増した超火力へ達するのだ!

 

 ところで実はこうして可能な限り火力を高める作戦こそが、先の大会用に練り上げた戦術の全貌だったりする。まあ、実際にここまでする必要はあの大会では残念ながら無く、わざわざ使ったとしても精々“わるだくみ”が1回だったのだが。

 逆にそんな小細工をする暇もない程追い詰められるパターンこそ本命だと予想していたのだけど、現実はそんな俺の厳しい予想を余裕で下回ってしまっていた。故にこの作戦は、二重の意味で本来日の目を見る筈が無かったのである。

 

 その為、先の大会におけるあらゆる意味での無念、そしてここまでの試合運びが極めてスムーズに進んだことが合わさった結果、今俺はかなりハイになっていた。

 受けてみて、“なみのり(ディバインバスター)”のバリエーション! これが私達の全力全開!(裏声)

 

 俺は昂る心のままニヤリ、と笑みを浮かべ――ピカチュウへと仕上げの指示を出した。

 

()()()()ぞピカチュウ! 行けぇッ!」

 

「ッ! ピッカァ!」

 

「!?」

 

 ピカチュウは俺の指示を聞くと瞬時に“うそなき”を止め、そのまま姿勢を整えると一瞬でトップスピードに達してニドキングの背面、死角に回り込んだ。

 バカ笑いをしていたニドキングはピカチュウのそのスピードに咄嗟に着いていけず、ピカチュウを見失ってしまう。

 

「ッ! ニドキング、後ろだ!」

 

 サカキが叫ぶ。どうやら再びのピカチュウの様子の激変に思考が追いつけず、つい指示を出してしまったようだ。

 そしてニドキングがそんな主の焦った声に慌てて後ろを振り向くが、もう遅い。

 

 さあ、決めろ! 相棒!!!

 

「“なみのり”ぃっ!」

 

「ビッガアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 俺の声に応え、ピカチュウが天へ向かって烈昂の雄叫びを上げ足元にサーフボードを出現させる。すると足元からバトルゾーン全てを覆い隠すような凄まじい大波が発生し――勢いそのままにピカチュウをニドキングへと突貫させた。

 

「なっ、ピカチュウが“なみのり”だと!? それになんだ、低レベルの癖にこのふざけた威力は!?」

 

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

 サカキが驚きの声を上げるが、もう1度言ってやろう。もう遅い。

 ニドキングも流石にジムリーダーの手持ちと言うべきか、すぐさま防御姿勢をとろうとするも“なみのり”の勢いの方が早くとても間に合わず、ピカチュウを乗せた大波が勢いよく、無防備なニドキングの体に真正面からぶち当たった。

 

 

「ヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

 

 ピカチュウは叫ぶ。いつかの屈辱を晴らさんと、相棒(レッド)に出会ってから今日までの修行の日々の全てを込めて。かつて自分を泥に塗れさせた仇敵をぶちのめす為に。自分の故郷を無意味に荒らした仇敵に鉄槌を下す為に。自分の家族を無駄に傷つけた仇敵へ思い知らせてやる為に。

 無念、鬱憤、屈辱。ピカチュウがこの数ヶ月の間に貯め込み続け、何をやっても、レッドと一緒にどれだけ強くなっても発散し切れなかったありとあらゆる感情を乗せてニドキングの体へと激突したその一撃は、レッドの思惑通り、ニドキングの急所へと正確に、深々と突き刺さった。

 

 

 そしてそのまま大波の凄まじい勢いに乗ってバトルゾーンの壁に激突し、ようやく“なみのり”によって発生した波が引いていく。

 波が引いた後にバトルゾーンに降り立ったピカチュウは肩で息をしており、ダメージを受けてはいないはずだがそれでも満身創痍と言った様子だ。渾身の力を今の“なみのり”に注ぎ込み切ったらしい。

 そして、ニドキングは――ピカチュウのすぐ足元で、その体を地面に伏せていた。動く様子は、無い。

 

 ……さて。計算上では最低乱数を引いてもギリギリ確定で10割削り切ってくれるはずだが、もしも、あのニドキングの【特防】にある程度努力値が振られてしまっていたらまだ立ち上がってくるだろう。そしたらこちらの負けだ。

 尤も、努力値などというシステムはこの世界では恐らく知られていない筈の概念である為、効果的に努力値が振られていることなどまず無いとは思うが、どうなったか……。

 

『……お、おい、あれ! あれ見ろ!』

 

『まさか、こんなことって……』

 

『うそ……』

 

 遅れて観客席からも、ピカチュウとニドキングの状態にやっと理解が追いついたのか観衆の驚きの声が聞こえてくる。

 果たして、俺の予想通りに特防にはそこまで努力値が振られていなかったのか、それともピカチュウの叫びが本当に天へと届いたのか。

 定かではないものの、水の中から姿を現したニドキングは少し待っても、その体を地面に伏せ続けていた。そして、そのまままったく動かない。

 

「こんな、こんなことが! おいニドキング、起きろ! ニドキング!」

 

 サカキがニドキングへ怒声を浴びせかけるが、それでもニドキングはピクリとも動かない。完全に、ピカチュウの全力全開の一撃によってノックアウトされていた。

 そしてしばらく声をかけ続けるも、流石に最早無意味だと理解したのか。サカキは「信じられない」という感情を顔に貼り付けると、ゆっくりと歯軋りし、拳を固く握り締め、体を震わせながら俯いてしまった。

 

「――っ、ふぅ、はぁああ……っ!」

 

 ニドキングが完全に意識を失ったことが確認できた瞬間、俺の中で今まで張り詰め続けていた糸が千切れる。

 凄まじい疲労が体を襲い始めるが、まだ終わっていない。俺は、審判を務めていたラムダとランスへ、最後の締めを行わせるべく声をかけた。

 

「審判のおじさん達」

 

「え、あ、え?」

 

 ラムダだけが俺の声に反応し狼狽えた様子を見せる。ランスはと言うとピカチュウが立ち、ニドキングは伏せているバトルゾーンを無言で凝視しながら立ち尽くしていた。

 何か間違いが起きていないか必死で粗でも探そうとしているのか、それとも単純に言葉も無いのか。どっちでもいっか。

 

「え、じゃなくてさ。ホラ」

 

「あ、う……さ、サカキ様……」

 

 俺は2人の様子など意に介さず、改めて俺の声に反応できているラムダの方に審判の勤めを果たすよう促す。

 そんな俺の言葉に対し、こんな結果はまったく予想していなかったのだろうラムダは困り果てた様子でサカキに伺いを立てた。

 その声に顔を上げたサカキはそんなラムダをギロリと睨みつけ――しかしその後、改めてニドキングが倒れ伏す様子を確認し――現実を受け入れたのか、そのままラムダの方を見ず、再び俯きながら返事をした。

 

「…………構わん、ラムダ。言え」

 

「し、しかし」

 

「この俺にこれ以上恥の上塗りをさせる気か! 言え!!!!!」

 

「ヒィイイイイッ! しょ、勝者! マサラタウンのレッドぉ!!!」

 

 そして、サカキの怒声に怯えたラムダが、やっと判定を下し――遂に、長いようで短かったこの勝負が決着した。

 

 

 

 ――勝った。ジムリーダーに。最強のジムリーダー、サカキに。

 

 

 

「勝った、勝ったぞ。勝ったんだ。俺達が勝ったんだ。――勝ったぞ、ピカチュウ!」

 

 何度も何度も「勝った」と呟き、そうしてやっと勝利の実感が体を満たした。思わず雄叫びを上げる。喜びの感情が体中で爆発しているかのようだ。

 少し遅れてバトルを見守っていた観衆も状況がやっと飲み込めたのか、観客席が大爆発したかのような歓声がジム中に轟いた。幼馴染達が観客席からバトルコートへ降り立ち、駆け寄ってくる。

 

「レッド……おめでとう! 凄かったよ、ホントにカッコよかった!」

「信っじられない! けどレッド、アンタってヤツは、ホントに、ホントに! ほら、グリーンも!」

「ああ、言ってやるよ、言やいいんだろ! ……さっすが俺様のライバルだ! この、この!」

 

 もみくちゃにしてくる幼馴染達を相手しながら、未だバトルゾーンで突っ立ったままの相棒を労うべく声をかける。しかしいくら声をかけてもどうしたことか、こちらに背中を向けたまま、まったく動かない。

 もしかして、何かダメージを負わされていたのかと心配になったその瞬間、やっとピカチュウがゆっくりと頭を動かし、自身の足元で伏せるニドキングをじっと見つめた。

 また少しその姿勢で固まり、その後、今度こそ俺の声に応え、またゆっくりとこちらへ振り返る。

 

 

 

 そして、勢いよく俺の胸元へと跳び付いてきたきたピカチュウは――観衆達の大歓声に負けない声量で、今日一番の雄叫びを、さっきの嘘泣きとは違う本当の涙と共に轟かせた。




 何故か、まだ旅立ってすらいないのに最強のジムリーダー(自称)を倒してしまったレッド君。(初見殺し感満載ですが)
 そして漢ピカチュウ、ご主人様の力を借り弱冠Lv10ながらLv45のニドキングへとリベンジ達成。
 ピカチュウは Lvが 14に 上がった!(たぶんこのぐらい上がった)


 ちなみに当初レッド君とピカチュウには負けてもらう予定だったのですが、諸々の条件を整理したうえで“なみのり(超強化48倍バ火力)(スターライトブレイカー)”の威力をダメージ計算機にかけたところ「あれ、これ急所入ったらギリギリだけど確定で落ちるな……」となったのでジャイアントキリングを達成してもらいました。

 まあサカキに負けるレッドっていうのもどうかみたいなとこあるしね、仕方ないね。サカキのニドキングがやんちゃ君だったのがいけなかったね。



 サカキが「『最強のジムリーダー』とか自称して弱いトレーナーを相手にしないサボり気味のジムリーダー」というのは作劇上の都合であり、作者の勝手な想像です。お気を付けください。
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