原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」 作:ゴーイングマイペース
思った以上に長くなってしまいました。
※更新・修正履歴
2025/10/02
加筆修正。
2025/10/03
加筆修正。
5月○×日 5ページ目 10歳 クチバシティ サント・アンヌ号
『黒 ――心を閉ざす影――』
最下層の船倉で、クチバで話を聞いた行方不明者達を思いがけず見つけてしまい、救助することになり、そうしたらハンサムさんのドジでロケット団に見つかったせいで強行突破をしなければいけなくなり……と、どんどん激動ぶりを増していく渦中。
救助した行方不明もとい誘拐被害者達を守りつつも船倉に現れた大量のロケット団の下っ端をなんとかかんとかしばき倒し、「よしさっさと脱出しよう」とワープパネルを使おうとすれば遠隔で電源を落とされ、ならばとフーディンの“テレポート”で脱出しようとすれば、そもそもサント・アンヌ号のセキュリティ機能により封じられていると知り……ファック!
以上の理由から、結局船倉から上層へ登っていく道中でも強行突破を余儀なくされて、、延々とバトルを続けさせられ――やっとの思いで最下層から脱出した俺達を待ち受けていたのは……更なる修羅場だった。
「行けぇドガースども! “じばく”ッ! このクソ生意気なガキ共に痛い目を見せてやれ! ――おい、副船長様のマタドガスはもう借りられねえのかよ!?」
「モックリ」
「モックリ……」
「モックリィィィィィッ!」
「クロバット“あやしいひかり”! バタフリー“かぜおこし”! ドガース達の勢いを殺げ! ピカチュウ、勢いを失くした順でドガースを爆発前に打ち返せぇッ! 副船長さん達に指一本触れさせるな!」
「キィィッ!」
「フリィィィッ!」
「ピカピカピカピカァッ!」
「こっちからも“じばく”だ、どんどん行け! これ以上コイツ等を上層に近付けるな! ――デッキでもバトルが始まったとかなんとかでもう回してくれねえってよ! こうなったら“だいばくはつ”はもう使えねえし、とにかく“じばく”で攻めまくるぞ! 下手な鉄砲なんとかだ!」
「モックリモックリ」
「……モックリ」
「モックリ? モックリィィィィィッ!?」
「くっそ、俺達に敵わないと見るやボンボンドカドカと“じばく”ばっかり使い始めやがっていい加減にしろよ、船を沈める気かコイツ等! ていうかさっきのマタドガスといいコイツ等といい、一体何匹ドガースを連れてきてんだよ!? ああもう、ラッタ! “つるぎのまい”は積み終わったな!? よし、“じばく”の出鼻で纏めて薙ぎ払え、“でんこうせっか”でこれ以上ヤツ等に何もさせるな! そんでリザードとサンドパンはとにかくドガース達の妨害だ、奴らを自由に動かせるな! そうすりゃ後はラッタが爆発前に纏めてブッ飛ばしてくれる!」
「ヂュウウッ!」
「バギュアアアアッ!」
「ピッキィィィッ!」
「いやあ、分かっていたことだが、君達は本当に強いな! 実に頼り甲斐があるよ!」
「「言ってる場合かアンタも指示出せや!」」
「わ、わかっているさ! 援護、援護……グレッグル! ゼニガメ! “おどろかす”に、えーと“ハイドロポンプ”……なんて使えないから“みずてっぽう”!」
「……グレレ」
「……ゼニィ…」
具体的には見ての通り聞いての通りの有様だ。
まず最下層から脱出し、喫水線より上、中層あたりまで登ってきた俺達にかまされたのは、なんとマタドガスによる“だいばくはつ”だった。
コイツ等どうも船倉内でのバトルで多勢は俺達に通用しないと判断したらしく(どうにもバトルの腕はヘッポコらしいハンサムさん除く)、次手でいきなり纏めて吹っ飛ばしにきやがったのである。まあ俺とピカチュウで爆発直前にかっ飛ばしてやったので、俺達は無傷なんだが。
「うん……そうだよ、やっぱこういう時って人命第一で動くべきだからさ。『みんな怪我無く済みましたバンザーイ』って感じでほら、こう……ね?」
「……ピッカ」
「なんだよそんな目で見るんじゃねえよお前だって同罪だろうが俺の波導キックと一緒に思いっ切り“アイアンテール”でマタドガスをブッ飛ばしてただろうが!?」
――が、ヤツ等はどうもサント・アンヌへの被害はまったく考慮していないらしく、マタドガスをかっ飛ばした先の船腹には、“だいばくはつ”によって大穴が開いてしまっていた。
そしてその後ヤツ等が現在進行形で仕掛けてきている、ドガース軍団による連続“じばく”特攻を凌いででここまで登ってきたサント・アンヌ号の現状は……まあ、察して欲しい。あえて言うなら「潮風って気持ち良いよね」って感じかな! ハハッ!
……しょうがねえじゃん、アジトとしてこの船を使ってるロケット団があんなに思い切り“だいばくはつ”を仕掛けてくるから「ああ、この船ってやっぱり豪華客船なだけあって結構丈夫なんだろうな」って思うじゃん!? 自分達の身を守る為に波導を込めて思い切りキックで蹴り飛ばすのも当然の判断じゃん!!? まさか普通に蹴飛ばした先の船腹に大穴が開くとは思わねえじゃん!!!?
……許せねえ、ああ許せねえよロケット団! こんな、こんなことしやがって! なあピカチュウ! なあ!!
「現実逃避してる場合かアホレッド! ちゃんと前見て集中しろアホ、今ので一旦増援は止まったみてーだけどいつ新手が来るか分かんねえだろうが!」
「しょうがねーだろあの綺麗な豪華客船があんなに風通し良くなっちまって、現実逃避したくもなるわ!」
「悪いのはどう考えてもロケット団なんだから、俺達が責められるわけねーだろ! ……なあ副船長のオッサン、あれ俺達に請求とか来ねーよな? 今ドガースの“じばく”で吹っ飛んでるトコとかもさ! な!?」
「さ、流石に大丈夫だろう。後で私からも経緯を説明させてもらうから……うん、たぶん……」
「おおおおいちょっと自信なさそうなのやめろマジで! こんなバカでっかい船の弁償とか俺等絶対無理だからな!? ああもうオッサン、こそこそ寄生してたようなもんとは言っても、この船って仮にもヤツ等のアジトなんじゃねーのかよ!? ヤツ等やりたい放題じゃねーか!」
「……あれ? 確かマタドガスって平均だいたい10kg……大きめの個体だと16㎏ぐらいあったような? ……それをポケモンと一緒にとはいえ、人間がキックで? 大丈夫なんですか?」
余りに被害がデカいせいか、自信なさげな答える副船長に狼狽えるグリーン。やめてくださいよもしそんなことになったらロケット団を叩き潰すだけじゃなくて有り金まで余さず絞り取り切らなきゃいけなくなるじゃないですか(錯乱)。
あとクチバのジョーイさん、ご心配くださってありがとうございます。……心配っすよね? なんかドン引きしてるような顔に見えますけど俺の気のせいですよね? 他の大勢の誘拐被害者の皆さんもなんか同じ表情しているように見えますけど、違いますよね? ね?
「え、ええとだね……何故、奴等が船への損害を省みずここまで暴れるかと言えば、それは私、つまり国際警察に見つかった以上、もう
「だとしたら雑過ぎるだろ! こんなデカい船でここまで派手な騒ぎ起こしたら、周りだって黙って見てるままな訳ない……って、そうだ! さっきアンタが連絡取ろうとしてた警察仲間ってのがいるだろ! その人ら何してんの!? もうこの船に入ってロケット団と戦ってるんだよな!?」
「それが……さっき改めて連絡を取ったが、どうもサント・アンヌ号の避難客が一斉に港にワープで脱出して来ていて、その対応に追われてしまい暫く手が離せなくなったと言われた。……おそらく、ワープパネルの緊急避難機能を利用して大量の乗客を港へ集中させるよう逃がすことで、外にいる私の仲間達に対応を余儀なくさせることで、その間の少しの時間だけでも突入を遅らせようというロケット団の策だろう。そして我々には大量の団員を嗾け、上層へ登って来るのを妨害……。ここまでで考えるに、何故かは知らんが連中にすぐに損切りして逃げるつもりは無く、時間稼ぎが狙いのようだ。なんらかの手段で挽回ないし損害の補填を狙っているのかもしれない。……ズル賢い指揮官がいるようだな」
「そう言われてみれば……ここに来るまでロケット団以外人っ子一人いませんでしたね。――あっ、マジで船の内部ほぼ全て……デッキ以外からに乗客っぽい普通の人の
何故デッキにだけ乗客の波導を感じ取れるのかはわからないが、同じデッキからロケット団らしい波導が大量に感じとれる時点でロクな事じゃないだろう。何か乗客たちに悪さをしているに違いない。
「……リーフ達もまだデッキにいるな。――! 波導の感じからして、戦ってる……! デッキにロケット団の本命があるのか?」
「なに、デッキで戦いが? なるほど、私達をこうも躍起になって邪魔する理由はそれか。ヤツ等はデッキで“何か”の達成を狙っているというわけだ」
俺からの情報も加味し状況の整理がついたのか、得心いったという風に頷くハンサムさん。この人、ホントにデキる時とダメな時の温度差が凄いな。凄すぎて風邪引きそう。
……しかし、俺達には下っ端の大量投入による妨害。そして外にいるハンサムさんの仲間には、どんな状況だろうが警察である限り決して無視できない、被災船からの大量の乗客一斉避難っつう妨害か。
「……この作戦を考えたヤツがどんなヤツかは分かんないですけど、確かに“ズル賢い”って感じですね。相当人への嫌がらせが得意そうだ」
どんなヤツかは知らないが、「正義の味方は辛いねぇ」とでも言っていそうだ。きっとかなりやらしい顔をしているに違いない。
「感心してる場合か、つまり助けは期待できないってことじゃねえか!? チンピラ集団の癖に悪知恵働かせやがってチクショウが!」
「わかってる、グズグズしてる場合じゃない。急がないと……!」
だが言うは易く行うは難しだ。このままさっきまでのように行く手に立ち塞がるロケット団を倒すのに時間を掛けていたら埒が明かない。しかしグリーンが言うように、外からの迅速な助けも期待できない。
どうする? リーフとイエローが戦っているということはつまり、2人、あと船長さんの身に危険が及んでいるということだ。だからこれ以上グズグズしている訳にはいかない。2人ともそんじょそこらのトレーナーにやられる程ヤワじゃないのは知っているが、それでも絶対じゃない。何か予想外の事態が起きてしまえば、やられるということも十分あり得るだろう。
くそ、何か、何かないか。ロケット団を一気に突破して、いや丸ごと無視して上層まで行ける、それこそショートカットでも出来るような何かは……!?
「テメエ等、俺達を目の前にしておしゃべりとは良い度胸「うるせえ、今取り込み中なんだよ!」ブボォッ!?」
「……あ、やっべ」
「ちょ、ちょっとレッド君! 反撃の結果ならともかく、君が率先して船を壊してどうするんだ!?」
「おい気を付けろよレッド! 弁償がいよいよ現実味を帯びてきちまうだろ!」
この事態の打開策を考えようとしていたところ、いつの間にか来ていたらしい新手のロケット団がちょっかいをかけてきたせいで、つい
やっちまった、まさかこの程度で壊れるとは。さっきの“だいばくはつ”より弱い程度の威力しか出してない筈なのに、それでもこんな簡単に穴が開いちゃうとは本当に脆いんだなこの穴。気を付けないと。
「す、すみませ……ん? 待てよ? ……簡単に、壁に、穴が、開く……?」
俺のやらかしを見て焦りと怒りの声をかけてきたハンサムさんとグリーンに謝ったその時、俺の脳裏に一筋の電流が走った。
……こうして改めて見てみると……思っていたより遥かに脆いみたいだな、この船。豪華客船なんて代物だから、勝手に「物凄く頑丈なんだろうなー」とか思ってたけど、全然そんなことないらしい。
なんて、我ながら冷静さを欠き過ぎている思考をしながら傍らに視線を向けると、そこには俺と同じように、俺の波導砲パンチで穴が開いた壁をジッと見詰める我が相棒ピカチュウの姿が。
すると程なくピカチュウもこちらを向き、視線が交わる。
視線だけでなく、思考が、心が、交わり、重なる。
……。
…………。
……………………よし。
やるか。
「合わせろピカチュウ、天井に向かって“10まんボルト”! ブチかませぇッ! ッォオオオオオオッ!!! ぶち抜けぇええええええええッ!!!!!」
「ピッカァアアアアアア、チュウウウウウウウウウッ!!!!!」
「って謝った傍から何をやっているんだぁレッド君!?」
「うわあああああああ!? サント・アンヌがあああああッ!? ……うっ」
「ああ、副船長さん!? 副船長さんしっかり!?」
そうして俺とピカチュウの“波導砲パンチ with 10まんボルト”が収まったその跡には、人が何人かいっぺんに通り抜けられる程度の大きさの穴が綺麗に開いた天井が。
よしよし、さっすが我が生涯の相棒。いつでもどこでも息ぴったりの以心伝心! ハイターッチ! イェイ! ピッピカチュウ!(裏声)
「……おいレッド、お前、まさか」
「あれぇ? おいグリーン、天井に穴が開いてるぞ! きっとロケット団の仕業だぜ、酷いことするよなアイツ等! あ、でもこれで一気に進めるな! 急ぐぜ!」
「やっぱりかこのアホォオオオッ! なんだその棒読みセリフはナメてんのか!?」
「安心しろ、一気に外までぶち抜くのは流石に不味いことぐらいわかってるから、天井1枚だけ撃ち抜く程度の威力に留めてある! さあ、俺がガンガン天井をぶち抜いていくから、新手が集まり始める前に行くぞ!」
「何を今更小声でコッソリ感出そうとしてんだそういうこと言ってんじゃねえんだよお前さっき自分が何で現実逃避してたか忘れたのか見ろ副船長のオッサン気絶しちまっただろうが!?」
早口で一気に捲し立ててくるグリーンを他所に、波導で上層の気配を探る。……よし、誰も居ないな。
「よし、出てこいフーディン!」
「ディン」
「良いかフーディン、あの天井の穴を通って先に上に行ってくれ。で、俺が皆を順番に投げてくから“ねんりき”で受け止めるんだ。頼んだぞ!」
「ディン」
「あのだねレッド君「ちくしょうここまでするなんてロケット団許せねえ!」あの「まったく大した悪党だぜ!」いやだから「急ぎましょうハンサムさんこれ以上ロケット団が船を壊すより早くみんなを安全な所まで連れて行ってあげないと!」……ああ、うん、そうだね。全部ロケット団がやったことだもんね……」
「いやそれで良いのかよあんたケーサツだろ!? ……ああいや、もう良い分かったからそんな目で俺を見るな。このアホが
何やらグリーンが項垂れ、そしてそんな主人にラッタ達が同情の眼差しを向けている。
ふむ、何でそんな顔しているのかはサッパリ分からないけど、これで障害は無くなったな! スピードアップ、ヨシ!(すっとぼけ)
待ってろよ、リーフ、イエロー! あと船長も! すぐに駆け付けるからな!
――――――――――――――――――――――――
場面は移り、再びサント・アンヌ号のデッキにて。
先ほど戦場と化したこの場は、ロケット団と彼等を率いるニセ副船長によって、多勢に無勢のリーフ&イエローの2人は、あっと言う間に蹂躙……されてはいなかった。
否、そもそも彼女達は今、2人で戦っていなかった。
「チュチュ、そっちのズバットに“でんきショック”! あっ! ピーすけ、そっちのガーディとウインディを“ふきとばし”助けてあげて。で、ついでに“ねむりごな”と“ちょうおんぱ”! コリンダはそのまま“こなゆき”をバラ撒きながら“うそなき”で皆さんの援護を!」
「おお、済まないお嬢さん!」
「助かるよ!」
「ありがとうございます!」
「いえ、こっちこそ一緒に戦ってくれてありがとうございます! リーフちゃんはあっちのニセ副船長さんと戦わなきゃで、ボクは1人でこんなに大勢と戦わなきゃいけないと思ってたので、本当に助かりました!」
「いやいや、お礼などいらないよお嬢さん!」
「そうとも、なにせ相手は天下の悪党ロケット団。遠慮などいらない分、こちらも思う存分力を発揮できるからね!」
「うむ、先程は君達のようなまだ小さい女の子2人に全てを任せようとしてしまい、申し訳ありませんでした。……まったく、我ながら紳士の風上にも置けぬ振る舞い! お詫びとして、どうか我々も最後まで共に戦わせていただきたい!」
「何が『最後まで共に』だチクショウ、さっきまで俺らにビビってたくせに!」
「クッソ、大した腕も無い癖に、数を頼みに寄って集って邪魔しやがってバ金持ち共が!」
「あああ、ガキ1人誘拐する為の時間稼ぎついでに、まだデッキに残ってた乗客から
そう、まだ10歳程度の女の子であるにも関わらず、それでもニセ副船長と戦うリーフ、そして1人で大勢のロケット団の下っ端へと果敢に立ち向かわんとするイエローを見たからだろうか。先程までロケット団に怯えて荷物を無理やり奪われそうになっていたサント・アンヌ号の乗客たちの内、荷物はともかくまだモンスターボールを奪われていなかった乗客の一部が「自分も共に戦う」と名乗りを上げてくれたのである。
結果、今この場では「リーフ VS ニセ副船長」「イエロー&勇気ある|乗客集団 VS ロケット団の下っ端」という構図の戦場となっていた。
そうして生み出されてた光景は、共に戦う
この光景を見て、ついさっきまでは『大量の悪漢に立ち向かわんとする、たった2人の少女達』という絶望しか予感させない光景がその場にあったと、一体誰が信じるだろうか。
「くそ、冗談じゃねえぞ……! なんだあのガキは、ただのトキワ人じゃねえのか!?」
少なくとも、この戦いを仕掛けたニセ副船長は信じない。というか信じたくない気持ちで一杯であった。何故か?
つまり今このデッキでは、先程までこの男が描いていた未来予想図――無秩序の暴力で全てを奪い、
こういうことである。
「スコットさん、ガーディの回復終わりました! 次、パーカーさんのポニータもすぐ回復させるので少し待っててください! ――みなさーん! ポケモンの体力が危なそうだったら、すぐにモンスターボールに戻してあげてボクに渡してくださいね! すぐに治してあげますから!」
「ああっ、アイツまた乗客どものポケモンを回復してやがる! 人がせっかく苦労してダメージを与えてたのに人の心とか無いのか!?」
「いくらルール無用の野良バトルだからって無限回復とかインチキも大概にしろクソが! リーグ公式に怒られちまえ!」
「副船長様これじゃあどうやっても勝てません、ダメージを喰らわせた端から回復されて無限ループ地獄です! この調子じゃこっちが『キズぐすり』使ったって数が足りるか分かりませんし……ていうかマジでもうあんまり残ってねえぞ!? ダメですやっぱりもう逃げましょう!」
「バカ野郎、国際警察に見つかって誘拐していたヤツ等を奪還されたなんて大ポカ晒しておいて、その上、何の成果も無いまま尻尾を巻いてトンズラなんてやってみろ! ボスからどんな罰を受けるかわからねえだろうが! もちっと踏ん張れ! ってああおい待てよ、ちょっとタンマ!」
「……ヤドン、“ねんりき”」
「ヤァン」
「モ゛ッ!?」
「……これで2匹。……タンマなんて、してあげるわけないでしょ」
「だああこっちもこっちで思ったより
「……モックリ」
「……貴方、ドガースしか持ってないの?」
――【癒しの力】による、自陣営のポケモンの回復。それが男の思惑を壊した原因であった。
しかも、モンスターボールを手に取って数瞬で済むというお手軽さ。こんな簡単な動作だけで無限に……少なくともこの戦いが始まってから無限にである。
レッドとリーフとの1ヶ月程度の旅で花開き始めたイエローの才能……ポケモンバトル、特にこのようなルール無用の戦いにおいては余りに凶悪な力が、その是非はともかくとしてとうとう日の目を浴びていた。
そう、正に文字通り、イエローの
「……しかしよお。おい、お嬢ちゃん。
「……私の将来の
「そういうこと聞いてんじゃねえって分かってて言ってやがるなコンチクショウめ!」
(ちっ、そりゃ教えねえよな。……なんにせよ……インチキにも程があるだろ! もし俺がポケモンリーグの人間だったらあのイエローとかいうガキは公式試合永久出禁だぜクソッタレ! グハハハハ!)
ニセ副船長としては最早笑うしかない状況であった。目の前で自分に掛かりきりのリーフはともかく、イエローと乗客達の方はこのままでは最早手が付けられないのだから。
もちろん相手が回復するならこっちも『キズぐすり』の類でという手もあるにはあるが、そのように部下が言ったような千日手の持久戦を仕掛けるには、レッド、もしくは港にいる国際警察が時間稼ぎを突破してこの場への突入してくるという
(しっかしあのイエローとかいうガキ……この目で何度見せられてもまだ信じられねえ。ポケモンをただボールに戻してまた繰り出すまでの数瞬だけで、ポケモンの体力を回復させやがる。しかも、
正直に本音を言えば、ニセ副船長は「やっぱりやめた!」と損切りしてトンズラしたい気持ちで一杯であった。が、これもまた先程自分で部下に言ったように、ボスからの仕置きを思えば決して許されない選択である。しかしその恐怖で引き時を見誤って捕まるのもまた不味い。
(さあてどうする。まだ張るか、それとも逃げるか。……正直逃げてえ、超逃げてえ。こんな強くてイカレたガキども、もう相手にしたくねえ。――と、普通なら思ってるトコなんだが……今回は当てはまらねえ)
予想外のピンチ、そして迫る
しかし……ニセ副船長が視線を向けたのは、自分と相対しているリーフではなく、イエロー。
やはりここまでして今更損切りを選ぶには、イエローがここまでに見せた力はロケット団にとって余りに魅力的に過ぎたのだったのだ。
(……俺はここ最近の仕事でトキワ人……【癒しの力】についてそこそこ詳しくなったつもりだったが、それでもこんな強力な力を持ったトキワ人のガキなんて見たことも聞いたことも無え。少なくとも、俺の担当区域の【癒しの力】持ちリストの中で特別にピックアップされたヤツ等の中には含まれちゃいなかった。でも間違いなく、このガキはトキワ人として別格中の別格だ。コイツさえ攫えちまえば、このクチバでの大失態も帳消しにしてなお釣りが来るどころか、逆に手柄にさえなりうる程の! ……そして…。――よし、やっぱりここは張り時だ!)
故に、ニセ副船長が選択したのは作戦の続行。イエロー誘拐の達成であった。
さて。ここまでを見てきた者ならば、きっと疑問に思うことだろう。
自分のポケモンは3体*1やられ、部下達も押されておりやられるのは時間の問題。そして何よりタイムアップも迫りつつある。主観的にも客観的にも大ピンチ。
――いくら自分達のボスが恐いとはいえ、こんな状況でまだ粘るのは本当に正しいのか? 本当に、ただイエローの力が魅力的だからというだけでここまで出来るのか? と。
「おいそこのお前、
「え、あれって……あのポケモンですか!? そんな、確かアイツは例の技術の解析が進んでない所為で、まだ調整が不十分だって」
「つべこべ言ってねえで早くしやがれ、すぐそこだろうが! ボスの前に俺から罰を貰いてえか!?」
「ひ、は、はいすぐに!」
「……何をするつもり?」
「なーに、ちょっと待ってろよお嬢ちゃん。すぐ済むからよ」
(……状況が分かっていない筈ない。なのに……この人のこの余裕は何? ……この状況を引っ繰り返せる手段がまだあるっていうの?)
3匹目のドガースを相手取りながらも、訝しさを込めた視線をニセ副船長へ向けるリーフ。
今の彼女にとって、イエローを攫うどころか、逆に自分達が追い詰められつつあるというのにそれでもほとんど余裕を崩さないニセ副船長はとても不気味に映っていた。
そう、ニセ副船長にはまだ余裕がある。つまり――先の問いの答えは「否」である。ニセ副船長には、ここまで追い詰められてもまだ強気でいられる理由があるのだ。
では、その余裕の根拠とは?
「――副船長様、持ってきました!」
「お、よしよし。……さて、お嬢ちゃん達。ここまでよく頑張ったな。だけどここまでだ……コイツは凄いぜえ? グハハハハ! ――戻れ、ドガース!」
――ニセ副船長にはまだ、勝算があったのである。この状況でもまだ自信を失わせないだけの“切り札”。――イエローの力を超えていると確信できる力が。
それは、ニセ副船長の命令を受けてすっ飛んで行き、また猛スピードで戻ってきた下っ端が持ってきた“あるモノ”であった。
「……モンスターボール? ……高レベルのポケモンか何か? でも、いくらポケモンが強くったって、トレーナーが大したことないなら……」
「恐くないってか? なるほどなるほど、確かにその通りだ。そんでお前の思っている通り、正直俺はポケモンバトルの腕は大したことねえ。……だがな、コイツにはそういう理屈は関係ねえ。誰が使っても同じように強いのさ。なにせコイツは……『兵器』だからな! ――いけえ!」
そう言って繰り出されたのは、リーフにとっては、正直、拍子抜けするポケモンであった。
「……マタドガス? ……確かに進化前のドガースと比べたらレベルも高くて強いだろうけど、だからってそこまで……」
大見得を切って繰り出したのが、まさかの自分がヤドンで2タテし、3匹目もあと一歩まで追い詰めていたドガースの進化系であるマタドガス。
リーフの言った通り、確かにドガースよりは進化系である分強力でこそあるものの、まだ手持ち6匹全て健在であるリーフからすれば、大した脅威には感じられなかった。
そして恐らく、彼女でなくても多くの人間は同じことを思うだろう。「本当にこのポケモンが切り札なのか?」と。
で、あるからか――この場で誰よりも最初にこのポケモンの脅威を認識したのはやはり、この場で……いや、この世の殆どの人間よりも特異な存在であろう、彼女であった。
「――リーフちゃん、ダメぇッ!!!!!」
「!? ……どうしたの、イエロー?」
「……へえ、まさかこのポケモンがどういうモンか見て分かんのか? 何で見抜けるのかわかんねえが、いよいよとんでもねえな。……だけど遅えッ!」
「ッ! ……ヤドン! “ねんりき”!」
下っ端達との戦いに専念していた筈のイエローが、何故こっちを向いていきなり大きな悲鳴を上げたのか。その理由を聞きたいリーフであったが、そんな隙を与えず襲い掛かって来る男のポケモンに、リーフはすかさず対応し――。
「フ、シィ……」
「……そん、な……」
――そうして僅か数分後。
つい先程までの快調さがまるで嘘であったかのように……リーフの手持ちポケモンは、全滅していた。
「……」
「……あ、ああ……リーフちゃん……」
「お、お嬢さん、しっかりしたまえ! お嬢さん!」
友達が無言で膝から頽れてしまったというのに、イエローは何の動きも見せない。共に戦っていた紳士の1人がすぐ傍で声を掛け気を引こうとしているが、それでもイエローは微動だにしなかった。
何故なら、彼女の全神経は今、たった1つの存在に全て集中していたからだ。
「いったい……なんなの、あのポケモン……!?」
そう、彼女の視線を引き付ける――
後書き
レッド君はお金の心配より愛を優先したんだよ! 愛は人を
なんて戯言はさておき、とうとうサント・アンヌ号編も佳境に差し掛かりました。
ニセ副船長の正体とは? そして彼の余裕と自信の源である、謎のマタドガスは一体どんなポケモンなのか!? 次回、明らかに!(もうだいぶ明らかとか言ってはいけません)
では皆様、またお気を長くしてお待ち頂けますと幸いです。ご感想もお待ちしております。
*1
――ヲツカイナサイ……
①曖昧身真陰様
②蜜柑25963様
③Baldr様
クチバシティに見え隠れするロケット団の影。今回の事件に関わっているロケット団のネームドキャラは誰?
-
サカキ
-
アポロ
-
アテナ
-
ラムダ
-
ランス
-
上記5人の誰でもない
-
ネームドキャラは関わっていない