原点にして頂点「アルセウス様ありがとうございます。でもいつか一発殴らせてください」 作:ゴーイングマイペース
クチバジム戦、後編です
※今回、前書きと後書きにかなり伏せ字がありますが、中身を確認する際には、十分な心の準備をしてからお願いいたします。
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ランスが主導したというカントー17番道路沿いでの一斉捕獲作戦により、これまで未知の領域であった「集団生息地(巣)」から根こそぎ捕獲されたという約300匹のイーブイ。
ランスが捕獲したこの個体群は、血縁関係の濃い均一な集団生息地のサンプルであり、素材としては極上品だ。遺伝子的な個体差が少ないため、実験データのブレを最小限に抑えられる。
なのでオレはランスとの交渉の末、彼が捕獲した内の『半数』にあたる約150匹のイーブイの管理権を、このオレの元へと融通してもらうよう働きかけた。
ヤツは最初なかなか渋ったが、結局は組織とボスの為になると判断したのか、最終的には首を縦に振った。全く、融通の利かん面倒なヤツだ。
……尤も、それも新参者のオレなどより遥かに強い、組織への忠誠とボスへの崇拝ゆえだろう。オーレで全てを失ったオレを拾い、最高の研究環境をくれたボスへの恩義に報いようと動いている身としては、ヤツのその実直さだけは評価してやってもよい。
ともかく、必要な材料は揃った。
融通された150匹を被験体とし、更なるRDポケモン研究の礎――「
目的は、かつてロケット団に所属していたというフジ博士なる男が残していった、『ミュウツー作成計画』の遺産――保管庫に眠っていた最上位秘匿サンプル「M-01(ミュウ)」の塩基配列をイーブイのゲノムへ組み込み、進化の石のエネルギーをトリガーとした「戦闘中における複数タイプへの可逆的変異」を可能にする、完全自律型変異兵器の創造、及びそのRDポケモン化だ。
明日より、第一次検体群への「M-01」遺伝子注入および定着実験を開始する。
ボルグファイルE2
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5月○*日 10歳 クチバシティ クチバジム
『VSクチバジム! ジムリーダーマチス、イナズマ アメリカン! 後編』
「よっし、よくやったぞゾンタ!」
「グァウッ!!」
「リターン、
「ああ、それは――ゾンタ!」
「ガウ」
マチスの疑問に答えるため、ゾンタに持たせていたアイテムを回収する。――そう、実は今回のジム戦から【初心者救済措置】が無くなると分かっていたので、マチスだけじゃなく俺も試しにポケモンにアイテムを持たせ、初のレベル調整が無いジム戦に備えていたのである。
そして、反対側のトレーナーゾーンに立っているマチスへと見えるように掲げれば――更に愉快そうに笑い出した。
「『
「そうですね。……まあ、無くてもあのままなら決まっていたでしょうけど。と、戻れ、ゾンタ」
努力値を振り切ったことによるパワーとスピードを持つゾンタが先発戦で苦戦するとは正直考えていなかったので、正直今回のゾンタの「せんせいのつめ」はお守りのようなものだった。
まあ結果的には最高の場面でその効果を発動したわけだが。ハハハ、運も実力の内っていうしなあ! それで勝てたならそれで良かろうなのだ!
「ハッハー、そのビッグマウス、イイネ! だけど、次はそうイージーにいくかナ? ――GO!
「イージーかはともかく、次も続けて俺達がいただきますよ! ――いけ、
「ジジッ、ジジジッ!」
「ガ、ガルッ!」
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レッド◓◓◓ VS マチス◓◓◓
バーチ:Lv23 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
コイル:Lv25
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「ジジジジッ!」
「ガッ、グルアアッ!?」
コイルは場に出てきたのとほぼ同時に動き、威力こそ低いが
対して元来気の弱いバーチは“でんきショック”にビビってしまい、いきなりその電撃を喰らってしまう。
ちっ、流石、でんきタイプのジムだけあってどいつもこいつも速攻してくるように育てられてんな!
――――――――――――――――――――――――
バーチ:Lv23 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
コイル:Lv25
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「バーチ、怯むな。落ち着けば迎撃できる! 次は“ひのこ”で迎え撃て!」
「ジジジィッ!」
「ガ、ガ――バギャアッ!」
相手に先手を譲ってしまったことで怯んだ様子を見せていたバーチだが、ビビりながらも俺の指示は届いていたようで、今度はコイルの“でんきショック”へと迎撃の“ひのこ”が間に合った。
「よし、いいぞバーチ! その調子でいけ!」
「グ、グルァアッ!」
2回目の攻防を乗り切ったことで少し自信が付いたのか、バーチが少しだけ自信の色を見せた。肩の余計な力が抜け、目に見えて臆病な挙動が収まっていく。
……まあ実際はビビっていたせいで反応が一瞬遅れ、かなりギリギリ至近距離での迎撃だったのだが、そのあたりはこれから改善していこう。
よし、ここから攻め立てていくぞ!
「ハハハ、さっきの子と比べて随分と臆病ですネ! そんな気の弱いリザードで大丈夫ですカ!? ――コイル、“
「ジジジジッ!」
コイルの体が磁力の力で浮き上がる。ここで“でんじふゆう”……そうか、さっきゾンタが使った“あなをほる”を、同じリザードのバーチも使ってくるだろうって警戒したわけか。
口ではこっちを侮ってるようなことを言って、同時にコイルにとって4倍弱点の
だが、このバーチはゾンタとは長所が違う。物理攻撃ではなく特殊攻撃に秀でた才能を持つリザードだ。“あなをほる”なんか使わずとも勝てる――それを今から見せてやるぜ!
「大丈夫だバーチ、お前ならやれる! よし、そのまま一定の距離を保って相手の動きに注意しろ! 特にコイルはデバフ技に長けてる。“でんじは”や“ちょうおんぱ”、“あやしいひかり”に注意し続けろ。常に動き続けて、何が来ても対応できる距離を保つんだ!」
「ガウッ!」
激励の言葉を混ぜつつ、こちらもコイルの厄介な搦め手を封じる為に注意を促す。ヒット・アンド・アウェイの陣形だ。そしてもちろんバーチもSへと努力値を振り切っているので、そうそうコイルはバーチを捉えられない筈だ。
だが、俺の指示を聞いたマチスは不敵に口の端を吊り上げ――俺が全く予想していなかった指示を繰り出した。
「相手が何をしてきても対応できる、一定の距離……ネ。ハッハー! じゃあ距離が関係無い、ミー達の『スペシャルなアプローチ』はどうすル? コイル、“
「ジジリリリリッ!!」
「なっ!?」
コイルが不快な金属音を響かせながら、これ見よがしにバーチを小馬鹿にするような奇怪な動きを見せる。
そしてその瞬間、バーチの頭がガクガクと揺れ、目が泳ぎ始めた。凄まじい怒りと混乱の波にバーチの精神が掻き乱されてしまい、【混乱状態】へと陥ってしまったのだ。
というか“いばる”……“いばる”だって!?
なぜマチスが“いばる”を知っている!? この技はこれまでこの世界で度々目にしてきたような、「傍目にはポケモンのバトルとは関係ないただの動作にしか見えない」という形式のせいで、この世界では未だ効果があまり知られていない類に属する変化技の筈だ。
勿論たまたまマチスが知っていた、というのもありえるが……自称最強のジムリーダーである
などとバーチだけじゃなく俺まで一瞬混乱しそうになったが、そんな俺を見たマチスは俺が“いばる”を知らないと勘違いしたようで、ニヤリ、と楽しそうに笑って語りかけてきた。
「驚いたかイ、ボーイ。実はネ、1年前にユーにルーズしたサカキが『こういった類の、一見では技だと分かりにくい技をポケモンが使うことがある』とリーグ関係者にデータを共有してくれたのサ。それもあって近頃はこういう『一見ポケモンの技だとわかりにくい技』が少しずつ発見されていル。これもその1つサ!」
「!? ……!!!!!?」
マチスの言葉に聞いて、俺の背筋を冷たいものが駆け抜けた。
そしてそれは、自分だけが持つ情報アドバンテージが急速に無くなりつつあるようだから……なんてショボい理由じゃない。もっと差し迫った、重大な脅威に対してだ。
(あ、あの野郎……! あのバトルの後から、ジムリーダーの立場を使ってリーグ関係者っていう表の『バトルの専門家たち』のネットワークに情報を共有して、“いばる”、それにあの時の“わるだくみ”や“うそなき”みたいな『パット見じゃただの“動作”にしか見えない、人間には分かりにくい技』の情報を集めてやがるのか……!)
確かにヤツのジムリーダーっつう表の立場なら、こういうことをしても誰も不自然に思わない。
そして裏では、マフィアのボスっていう力を存分に利用して勢力を拡大して、RDポケモンなんてもんまで作っている……!
……ていうか、そうか! やっと腑に落ちた!
――だからあのダークマタドガスが、ダークわざ版の“ちょうはつ”なんて使えたのか!
クソッ、表と裏の二面性を上手く使うなんていう厄介な動きをしやがって! この分だと、これからロケット団が何をしてくるか……!
分かっていたことだが、改めて危険過ぎる男だ。……せめてサント・アンヌ号でラムダを捕まえられれば、芋づる式で国際警察がサカキへと一気に近付けたのに。俺のバカ野郎……ッ!
「――ヘイ、驚きで固まるのは勝手だけどサ、ミー達にはそれに付き合う義理なんてないって忘れてないかイ?」
「ジリリリリッ!」
「ハッ、しまった! ――バーチ!」
ヤバいヤバい、今はサカキのヤローのことなんて考えてる場合じゃなかった! 切り替えろ、俺!
クソ、流石
「ハッハー、遅いヨ! やっちまいナ、コイル!」
「ジリジリジリッ!」
マチスの指示と共に、せっかく上手く空けるように指示していたコイルとバーチの距離が一気に詰まっていく。
くっ、バーチは……!?
「ガルル……ガウッ!」
「――よし、よく
俺がちょうどバーチに意識を向け直したその瞬間、バーチは丁度事前に持たせておいた、ある「きのみ」を食べてくれていたところだった。た、助かった……!
「ホワッツ!? 【混乱状態】を治す『きのみ』を持たせていただっテ!? ということは……まさか『
だが俺が失態を取り戻したと安堵したのと反対に、マチスは俺達の様子を見てこの日1番の驚愕の声を上げた。棚ぼたとはいえ、絶好のチャンスを得たと思っていたのだろう。
「俺の実家、きのみ農園をやってるんですよ! だからこういう『きのみ』はいくらでも手に入るんです!」
俺はニヤリと笑って言ってやった。
へっへっへ、でんきタイプジムってことで【麻痺状態】を警戒して、特に臆病かつ気も弱いバーチは初の公式戦で上手く立ち回れないかも、と思って念の為「ラムのみ」を持たせておいて良かったぜ。
……いや本当に良かった。マジで、うん。
「――Very shit! コイル、不味いヨ! 離れテ!」
「ジ、ジジッ!」
上手いこと得たと思っていたアドバンテージが幻だったと知ったマチスが、慌ててコイルに距離を取らせようとする。俺達へと隙を見せてしまうような動きだが、それでも距離を空ける方が優先順位が高いと判断したのだろう。
そして指示通りに距離を取ろうとするコイルは、流石ジムリーダーのポケモンということで一気に後退してみせるが――そんな隙だらけの状態で、逃がすかよ!
「見せてやれ、バーチ! ――“はじけるかえんほうしゃ”!!
「ガウウウウウウ――バグァアアアアッ!」
完全に【混乱状態】から立ち直ったバーチが口へと一瞬で炎のエネルギーを充填し、そして“かえんほうしゃ”が放たれた。
火炎はそのまま、バトルフィールドを一気に後退するコイルへ――ではなく。
「? どこをスナイプして――って、ホワイ!? な、なんだこれハ!?」
マチスがまたも驚愕の声を発する。
まあ当然だろう。なにせ――バーチが発した火炎はバトルフィールドの一点に着弾すると、そこを起点として爆発的に弾け、周囲一帯を面で焼き尽くしたからだ。
見たか、これがバーチがその天賦の才を以て、見事俺のリクエストに応えて習得した
「ジ、ジジッ、――ジッ」
「ノーッ! コイル!」
後退を優先していた為に咄嗟に反応できず、至近距離で弾けた巨大な爆炎に包まれたコイルの金属ボディが苦手なほのおタイプの効果で真っ赤に染まる。
そしてそのまま――浮遊する力を失い、地面へと墜落した。
「そこまで! コイル、戦闘不能!」
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レッド◓◓◓ VS マチス◓◓◓
バーチ:Lv23
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
コイル:Lv25
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
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「リターン、コイル! ―――ハッハッハ、2匹続けてルーズしてしまうとはネ! 『ラムのみ』によるカウンターは予想外でしタ! そして“はじけるかえんほうしゃ”と言ったかナ? いくら期待のルーキーとはいエ、まさかまだバッジを2つしか持っていない程度のトレーナー歴で、手持ちにそんな『
素直に2回の負けを認めつつ、俺達を称賛してくるマチス。が、そのスポーツマンシップに則った爽やかなセリフとは裏腹に顔へと浮かんでいるのは、1人のポケモントレーナーとしてのワクワクを隠しきれない獰猛な笑みだった。その様子は、後1匹まで追い詰められたなど微塵も感じられない、ジムリーダーの格に相応しい圧倒的な自信を俺へと感じさせてきた。
――いいな、そうこなくっちゃ!
「だけどボーイ、たかが2匹分リードしたくらいで、ミー達を追い詰めたなんて思ったら大間違いサ! さあ、ラストの1匹――ミーとポケモン達が戦場で培った、エレクトリックなトリックを見せてあげまース! ――GO!
「ライチュウ……それなら! いけっ、ピカチュウ!」
「ラララーイッ!」
「ピッカァッ!」
――――――――――――――――――――――――
レッド◓◓◓ VS マチス◓◓◓
ピカチュウ:Lv30 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「って、は!? レベル40!?」
おいおい、いきなりレベルが上がり過ぎだろ! アリで良いのかこれ!?
「ハッハッハー! 『大丈夫なのか』と言いたげなフェイスですネ! ですがこのライチュウは、ミーがカントーへとやって来てから育てたポケモン、本来の主力には未だ及びませーん! それに、ユー達なら大丈夫でしょう? そう、ユーと、そのピカチュウならネ! ――“
「ッ! “ハートスタンプ”!」
ああクソ、ジムリーダーが良いって言ってるなら良いんだろ分かったよ! いつもと同じだ、この程度、笑って乗り越えて行ってやる!
「ラァアア、ライッ!」
「ピィッカ、チュウッ!」
ずっしりとした重量感ある体から繰り出されるライチュウの拳撃と、“ハートスタンプ”本来の可愛らしさなど欠片も無いピカチュウの蹴撃が、バトルフィールドの丁度中央で凄まじい衝撃音を発しながら激突。
一見すれば圧倒的にライチュウの方が優勢に見えるこの形から、クチバジム最後のバトルはスタートした。
ここで一定数の人達が疑問に思うだろう、「ライチュウとの真っ向勝負で、進化前のピカチュウが勝てるのか?」と。
確かに技本来の威力はライチュウの方が上であり、しかも向こうはピカチュウの進化系だ。
しかしピカチュウの相棒ポケモンとしての天賦のステータス、そしてピカチュウが持つ「でんきだま」の攻撃力倍化の効果、更にダークマタドガス戦で学んだ「相手の技のタイプに対し、有利なタイプの技を繰り出す」が合わされば、
「ピィイイイッ――カァッ!」
「ラッ、イイッ!」
「よっし! 良いぞピカチュウ、まず一手目はこっちの勝ちだ!」
このように、10レベルも離れた進化系との攻防も制することができる!
よし、まずは一本! ライチュウも結構な勢いで後退させられてるし、あの様子なら結構なダメージが――
――――――――――――――――――――――――
ピカチュウ:Lv30 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「な、たった2割ぽっちか!?」
なんでだ。あの様子なら、ある程度相殺されたとしても3割は持っていけたと思ったのに!?
「ハッハー! 驚いたかイ? ユーはここまで2匹のリザードに『せんせいのつめ』や『ラムのみ』を持たせてスキルフリーに戦ってきたネ。ならバ、切り札であるそのピカチュウにも何かしらスペシャルなアイテムを持たせていると踏むのは当然サ!」
ニヤリと笑って俺の意図を見透かしたマチスは、そのまま得意げに言葉を続ける。
「ボーイ、ユーは自分が色んな人間に注目されているスーパールーキーだという自覚を、もう少し持った方が良いネ。もうとっくに察しているだろうガ、ミーはユーがこのクチバジムにやって来る前から、タケシやカスミから、そして先日のサント・アンヌ号事件の関係者からもユーのことについてよーく聞いていル。特に『常識外れなピカチュウ』のことはみんな話していたヨ。――そう、ユーのピカチュウ……間違いなく、あのスーパーレアアイテム『
「――くっ!」
まさか、ここまでのバトルの流れと他のジムリーダーからの情報でピカチュウの持ち物を予測してくるとは。
……ていうか待って、確かにここまでのジム戦でやたら期待の言葉をかけられたりしたけど、俺とピカチュウのことって今そんなにリーグ関係者に浸透してるの!? やめてくれよ、このジムを攻略してもまだ後5ヶ所もジムを攻略しないのいけないのに!?
「そして当然、ミーはエレクトリックポケモンのスペシャリストとして『でんきだま』の事も知っていル。だから事前にライチュウへと注意はしておいたのサ!」
「……て、ことは、そうか。“ハートスタンプ”の威力に押し負けると判断した時点で自分から後ろへ身を引いて、受けるダメージを殺したのか。……やっぱ、ジムリーダーの切り札っていうのはどいつもこいつも凄いなピカチュウ」
「ピッカ、ピカチュウ!」
「ララララーイ!」
俺とピカチュウの言葉を聞いて、ライチュウが胸を張った。
うっ、可愛い。……って違うそうじゃないだろ!
「よし、それならスピードで撹乱して隙を作るぞ! 行け、ピカチュウ!」
「ピカァッ!」
「迎え撃ちなさイ、ライチュウ!」
「ライッ!」
俺の指示を受け、いつもの“こうそくいどう”と“かげぶんしん”の同時発動をしながらライチュウへと突貫する。対してライチュウだが、なんと同じように“こうそくいどう”と“かげぶんしん”の同時発動をしながらピカチュウを真っ向から迎え撃つ構えを見せた。
流石、ジムリーダーに育てられてるだけあってこれぐらいは平気でこなすか。だけどな、俺のピカチュウの真価はこんなもんじゃないぞ!
「「「「「「「ピカピカピカァッ!」」」」」」」
「「「「「ラ、ライッ!?」」」」」
「――フム、分かっていたつもりでしたガ、流石にこれは驚きましタ。まさかピカチュウが、それもレベルで10も下回る個体がライチュウのスピードを上回るとハ」
マチスが静かに、だが強く驚きの声を上げた。
何故かと言えば、それは目の前の光景が原因だろう。そう、なんと俺のピカチュウは進化系のライチュウのスピードを上回り、更にそのスピードで以て“かげぶんしん”もライチュウより多く作り出して、オマケにライチュウの“かげぶんしん”を減らす余裕まで見せるという凄まじい挙動を見せたのだ。
流石俺の相棒、レベルが10程度離れてるだけの進化系相手なら物ともしないぜ! よし、このまま一気に畳み掛けるぞ!
「とはいエ、この程度なら対処可能ですネ。――ライチュウ、“
「「「「「! ラーイッ!」」」」」
「は? “じゅうでん”で……足止め?」
どういう意味の指示だそれは、と俺が考える前に、マチスの指示を受けたライチュウとその“かげぶんしん”達が「あ、それ良いんだ!」と一斉に返事をして“じゅうでん”を発動。
「「「「「ラーイ……チュウッ!」」」」」
「「「「「「「ピ……ピカッ?」」」」」」」
突然の予想外な“わざ”。それも“かげぶんしん”を利用してるせいで咄嗟に本物を見抜けなかったピカチュウを置き去りに、ライチュウが続けて発動し、その手に発現させたのは……
「“エレキネット”? なんで“じゅうでん”後に……どうせ使うなら、もっと威力が高い技で――って」
と、そこまで考えてやっとピンと来た。――
「ピカチュウッ、その“エレキネット”に絶対に触れるな! 恐らくそいつは、
でんき技の威力を倍にする“じゅうでん”の後に、わざわざ攻撃技としてはかなり低威力の部類に入る“エレキネット”を使う、なんてことを
「おや、よく気付きましたネ。流石、制限アリとはいえ本気のタケシ&カスミとバトルしただけのことはあるようですネ! ついでにティーチしておくと、ライチュウには『
「「「「「ラーイッ!」」」」」
「「ピ、ピカッ!?」」
「……って、デッカ!? でんき技なら威力だけじゃなく効果も倍増させられる、だけじゃなくて、こういう風にも出来んのかよ!?」
マチスの声を受けたライチュウは、その手に待機させていたエネルギーを解き放ち、上空からバトルフィールドに降り被せるようにして特大の“エレキネット”を発動させた。野郎、俺が“エレキネット”の仕様に気付いたと知るや否や、速攻で狙いをピカチュウ本体から“かげぶんしん”を消す方へと切り替えたな!
「「ピカ……!」」
「くっ!」
くそ! なんとか本体は逃れたけど、それでもバトルフィールドの殆どを覆うように発動されたから、せっかく増やした“かげぶんしん”が殆ど消された!
「――そこでス! ライチュウ――“
「ラーイッ!」
「ピ、ピカァッ!?」
「ッ!? しまった、ピカチュウ!」
――――――――――――――――――――――――
ピカチュウ:Lv30 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
ピカチュウがライチュウの攻撃を喰らった。――とうとうジム戦で初のダメージを負い、電光掲示板に表示されているピカチュウのHPバーが減ってしまった。
更に攻撃の際ライチュウから発されていた電撃により、僅かにピカチュウの直近に残っていた“かげぶんしん”も全て消されてしまったのである。
くっ、“エレキネット”で移動範囲を制限されたその瞬間を狙って攻撃してくるとは! しかもピカチュウに攻撃を当てるまでの流れのスムーズさ……そうか、最初からここまで繋げるつもりだったのか。“エレキネット”を使った時点でライチュウの立ち位置も調整してたな今の!
正直言って侮っていた。このライチュウ、今の一連の動きといい、最初の攻防で“ハートスタンプ”の動きを殺した時といい……確かにステータスは同レベルの進化系でありながら相棒種であるピカチュウより低いかもしれないけど、それを補って余りあるほど……
(ていうか……なんだ今の“クイックボルト”って!? “でんこうせっか”みたいな先制攻撃技に見えたけど、“スパーク*2”みたいな電撃も纏っていた。――っ!?)
そうか、それが答えじゃんか! 今の“クイックボルト”の正体。それは、
「“スパーク”と“でんこうせっか”の、融合技……!」
「ハッハー、自分で融合技を作っているだけあって察しが良いですネ! イヤ、たしかカスミのスターミーとバトルしたと聞いているのでそれもですカ!」
不味い、まさか改造技に加えて融合技も使ってくるとは。しかもただの“でんこうせっか”と違ってタイプ一致補正が付いて、更に「じしゃく」の効果も乗っかるでんきタイプの先制攻撃技だ。
――くそ、正直俺も考えたことはあったけど、こうしてスピードに長けたでんきポケモンがタイプ一致の先制攻撃技も使うって、かなり驚異的だな。*3 ああもう、ジムリーダーって本当にこんなんばっかりだな!
「レッドボーイ、どうやらユーのピカチュウは随分と桁外れなセンスが溢れてるらしイ。特にスピードが自慢みたいだけど……覚えておくと良いヨ! この世界、ただシンプルなスピードだけでやっていけるほど甘くないってネ! さあ、詰めますヨ、ライチュウ!」
「ライッ!」
「くっ、迎撃しろピカチュウ!」
「ピカッ!」
俺の指示を聞いたピカチュウが、再び“クイックボルト”で迫ってくるライチュウを真っ向から迎え撃つ”はやてがえし”の構えを取る。
よし、ここでお返しのカウンターを決めてやる!
……いや待て。ついさっきこれ見よがしに使ってきた先制技を、またすぐに使ってくる?
「――しまった、違う! そこから逃げろピカチュウ!」
「ピ――!?」
せっかく構えを取った直後に真逆の指示をされたピカチュウだが、それでも普段の修行の成果かすぐさま指示通りにその場から退避しようとする。
が、俺達の対処は致命的に遅かった。ライチュウはピカチュウが俺の指示を飲み込み切る前に、ピカチュウの直前で“クイックボルト”を急停止させ――なんとそのままとんでもない足運びを以て、突進の勢いを殺さずにピカチュウの背後へと回り込んでみせたのだ。
「――
「――ライッ!!!!! ラララァイッ!!!!!」
「ビ、ガァアアアッ!?」
「ピカチュウ!!!!!?」」
そして、そのままライチュウはピカチュウへと、まるで最初の攻防のやり直しだとでも言うように“かわらわり”の打ち下ろしを脳天に喰らわせてフィールドの床へ叩きつけ、更にそのまま流れるように綺麗な動きで繋がった“メガトンキック”により、ピカチュウを凄まじい勢いで蹴り飛してしまった。
――――――――――――――――――――――――
ピカチュウ:Lv30 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「大丈夫か、ピカチュウ!?」
「……ビ、ピィッカ……」
バトルフィールドの端まで吹っ飛ばされたピカチュウだったが、なんとか立ち上がってくれた。が、その四肢は明らかにさっきまでの精彩を欠いている。
――またやられた。まさか最初の“クイックボルト”で俺達に与えた強い印象を釣り餌にして「また同じ技で攻撃してくる」と思わせて、実際にはただの移動・撹乱の為に使い、そのまま本命の技に繋げてくるだなんて!
「オヤ、今ので仕留められたと思いましたがまだ立ち上がってくるとハ。どうやらそのピカチュウは、スタミナもエクセレントなようですネ。――ですが、そのコンディションではもう限界でしょウ」
「くっ……!」
どうする。確かにマチスの言う通り、今ピカチュウはHPが一割残ったことが奇跡的なほどボロボロだ。
対して、ライチュウは今の“メガトンキック”で「トレーナーからの直接指示によって使える技数は4つまで」に達したものの*4、未だ体力を多く残している。ここは一旦ピカチュウを戻すか……!?
「ピカ……チュウッ!」
「! ピカチュウ……」
今日までの付き合いで俺の考えを察したのか、ピカチュウが「まだボクはやれるぞ!」と言いながら立ち上がり、しかも一瞬こちらを振り向いてウインクまでしてみせた。
ハハ、なんだよ。普段そんなキザな仕草しないくせに強がって。……わかった。お前がその気なら、俺もお前の相棒として最後まで……いや、ちょっと待てよ。
(普段絶対やらないウインク……ウインク……目? ――! そうか……ピカチュウ、そういうことか!)
――“つぶらなひとみ”!*5
コイツ、やっぱり最高だ! ライチュウの迎撃こそ間に合っていなかったが、それでもまさかあの一瞬で、先制変化技を使ってライチュウの【攻撃】ランクを下げていたとは! だからマチスが今言ったように戦闘不能にまではされなかったのか!
よし、これは大チャンスだ。マチスとライチュウはまだ自分達の攻撃力が下げられたことに気付いていない。なら――攻撃力が下がっていることを利用して、「あと一撃だけで終わるだろう」と考えているライチュウを真っ向から迎え撃って、今度こそ打ち破り――続けざまの二撃目で、一気にトドメを刺して逆転する!
「さあ、ラストですヨ! ライチュウ、今度こそ攻撃でス――“
「分かってるな、この一撃に残っている全てを賭けろピカチュウ! ――いっけえええええええッ!」
「ラララアーイッ!!!!!」
「ピ――ビッガアアアアッ!!!!!」
具体的なことは口にしない。だが、流石相棒。ピカチュウは俺の言葉からその真意と作戦をしっかり汲み取ってくれたようで、ライチュウへと向かって真っ向から激突しにいった。
そしてそれぞれトレーナーの指示を受けた2匹が、今度こそ真っ向正面から相手へ向かって疾駆する。ライチュウは電撃を纏い、対してピカチュウは電撃こそ纏っていないものの全身の力を振り絞り、今もってライチュウを僅かに上回るスピードだ。
いいぞ、いけピカチュウ! そのまま、ライチュウをの攻撃を――打ち破れえッ!
「ビカッ、ヂュウウウウウ!」
「ライッ――ラ、ライイッ!?」
――――――――――――――――――――――――
ピカチュウ:Lv30 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
――――――――――――――――――――――――
「よし、押し返した!」
最初の攻防を思い出させる“でんこうせっか”と“クイックボルト”の激突。その結果は、俺の作戦を見事形にしてくれたピカチュウの勝利だった。
しかし、やはりジムリーダーのエースというべきか。激突の一瞬で自分に起きている異変に気付いたのか、またも後退して“でんこうせっか”の威力を殺したようで、そのダメージは期待値の半分程度だ。
――だがそれでも、残り6割まで押し込んだぞ! いける、このまま一気に!
「――! ライチュウ! 何かおかしい、一旦下がりなさイ!」
「! ライッ!」
「ッ!」
「!? な……っ!」
が、ピカチュウが追撃をする前にライチュウの異変に気付いたらしいマチスが、なんとこの場面でピカチュウへとトドメを刺すことを放棄し、一旦距離を取ることを選択した。嘘だろ、普通、この後一歩で勝利って盤面を自分から手放せるか!?
マズイ。こうして「何かがライチュウに起きている」と気付かれた今、また距離を取って仕切り直されたら。そうしたら残った全てを今この瞬間に賭けていたピカチュウには、もうライチュウに勝つ余力はその時には残ってない!
どうする、どうすれば――!
「ピカッ、チュウッ!」
「……!」
ハッとしてピカチュウを見直せば、その背からは、まだ諦めの感情などほんの欠片も感じ取れなかった。
……そうだよな、こういう極限の時にこそ、
ああ、分かってるよピカチュウ。いざって時に、お前が距離を取られるなんて――たかだか10レベル離れてる程度の進化系にスピードで負けるなんて、そんなこと、絶対に――ありえねえ!!!!!
「決めろっ! ピカチュウゥウウウウウウッ!」
「ビッガァアアアアアアアッ!」
俺の雄叫びを背に受けたピカチュウが、ここぞという時に見せる烈昂の雄叫びを上げ、思い切り地面を踏み込む。
――そして、その瞬間――ピカチュウが踏みしめた地点で、爆発したかのように空気が弾けた。
「なっ――!?」
「ライ――!?」
マチスが、そしてまさにその瞬間、退避の為に“クイックボルト”を使って後退しかけていたライチュウが、一瞬という言葉すら生温い、まさに
そして、その口からまだ出るだろう、僅かな音すら置き去りにして――
「ヂャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」
「ラ゛、イ゛イイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!?」
――激突。そして、バトルフィールドどころかクチバジムの外にすら届いたのではないかという轟音。
光の弾丸かと見紛うようなそれは、“でんこうせっか”よりも更に上。まさにスピードの神に愛されし者のみが至る、スピードの極致。
――“しんそく”だった。
「――そこまでッ! ライチュウ、戦闘不能! よって勝者――チャレンジャー、マサラタウンのレッド!」
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レッド◓◓◓ VS マチス◓◓◓
ピカチュウ:Lv30 ▣
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VS
ライチュウ:Lv40 ▣
[▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬]
WINNER マサラタウンのレッド!
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「い……いよっしゃああああああああああッ! やったぜピカチュウウウウウウウッ!」
「――ハ、ハハ……オー、ノー……」
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【実験レポート 01】初期フェーズ:遺伝子注入と生存個体の確定
【実験体】:被験体「コード:E」(計150匹 全て同一の巣の血縁個体)
【経過報告】:
05/×φ 09:00:
全150匹への「M-01」塩基配列の注入処理を開始した。
05/×φ 15:00:
全体の8割にあたる120匹のバイタルが急激に悪化。ゲノムの拒絶反応による体細胞の融解を確認。
一方、30匹の個体のみ変異の兆候を見せず安定。
……ただ、この生き残った30匹(複数の♂♀混合)のバイタルデータを個別に入念に精査したところ、その中に1匹だけ、妙な数値を記録している♀個体が混ざっていることに気づいた。
他の個体が安定しつつも拒絶反応による劇烈な過負荷と苦痛の数値を叩き出しているのに対し、その♀個体も同様に過負荷と苦痛のサインこそ確認されているものの、その深刻さは他のそれよりも遥かに低く抑え込まれているのだ。まるで自身の強靭なスタミナでエネルギーの暴走を自発的に制御・同化させようと足掻いているかのような、異質な適応力を示している。
ただ耐えているというより、底知れない生命力で苦痛をねじ伏せにいっているそのバイタル。この群れの中に1匹だけ、何か性質の異なる妙な個体が紛れ込んでいる。
特に不可解な点は、初期のスクリーニング段階で、この個体の『基礎筋質量』『心肺容積』『細胞のエネルギー伝導率』などのデータで、同レベル帯の野生イーブイの平均数値を約1.2倍〜1.3倍近く凌駕する、規格外の数値を最初から叩き出している点だ。念の為3回同じデータを取り直してみたが、結果は一緒だった。
低レベルながらまるで歴戦の個体である。あるいは、何らかの秘密を持つ個体なのだろうか。
05/×φ 18:00:
細胞崩壊を起こした120匹の死亡を確認。順次廃棄処分。
残った30匹の遺伝子を詳細にスクリーニングしたところ、この30匹は150匹の群れの中でも、特に血のつながりが近い『同一のつがいから生まれた親兄弟』であることが判明した。近似の遺伝子配列を持つほぼ等質な個体群がこれだけ綺麗に絞り込めたことは、実験データの正確性を担保する上で極めて好都合だ。
なお、前日にオレが目をつけた例の妙な♀個体には、正式に「個体番号:E-150」の識別コードを付与し、重点観察対象とする。
05/×χ 10:00:
初期注入を生き延びたE-150とその親兄弟計30匹に対し、複数タイプへの可変適性検査を開始した。
裏ルートで大量に調達した「みず/かみなり/ほのおのいし」を各ケージの全周囲に敷き詰め、石から放たれる膨大な進化エネルギーを直接、強制的に吸引・被曝させ、各進化形態への強制的な変身を行わせる。
05/〇Ω 04:00:
実験開始から18時間。E-150を除く、当該個体の実の親兄弟であった29匹の肉体が、大量の「進化の石」から放射される過剰な進化エネルギーに拒絶反応を起こし、バイタルが急激に低下。
05/×Ω 23:00:
E-150を除く29匹全てが肉体の変異負荷に耐えきれず、次々と死亡。順次廃棄処分。
E-150も一時的に40度を超える高熱を出すが、数時間で細胞がそのエネルギーと完全に同化。30匹の親兄弟の中で、この被験体が唯一の生存体となる。
【総括】
生存率0.6%。そして全150匹の中で唯一残ったE-150だが、同ケージ内で親兄弟にあたる全個体が細胞崩壊を起こしていく光景を凝視していた。その時の脳波データおよび四肢の持続的な痙攣から、E-150がこの一連の実験に際して、極限のストレスおよび恐怖反応を示している事実は明白である。だが逆に言うと、このE-150は精神的外傷程度の代償だけでこの実験を乗り越えてみせたとも言えるのである。
ここで特に興味深いのは、呼吸不全を伴う激しい震えを記録しつつも、こちらを凝視するその瞳の奥からは、ストレス数値を強引に押さえつけるほどの、極めて高い攻撃衝動を孕んだ敵意と憎悪が観測された点だ。大勢の同族、そして親兄弟全てを目の前で失う、という極限の恐怖と高ストレス環境下に短期間で置かれたにも関わらず陰りを見せないこの強靭な意志力は、驚嘆に値するだろう。
……さらに不可解なのは、初期の遺伝子注入の段階で、この♀個体だけは拒絶反応を起こすどころか、注入された強大なエネルギーを、自身の細胞がまるで『元から自身の一部であったかのように』自発的に融和して完全に内包してみせ、各進化形態への可変実験後に、イーブイの姿へと何の負荷も無く戻った点だ。
この驚異的な融和性と生存力の源泉は、全てのポケモンの祖たるミュウの遺伝子が、通常の限界を超えてこのE-150の全細胞へ完璧に適合したため――と考えるのが妥当だろう。……と、本来なら結論付けるのだが。
しかし、そもそも注入前の初期計測の時点で、このE-150は同レベル帯の同族の枠を逸脱した基礎数値を叩き出していた。あるいはこのE-150には、「M-01」の影響以前に、このE-150そのものが生まれ持っていた『未確認の別因』が存在しているのではないか。
単なる野生個体とは思えぬ、未知の生命力を感じる。
ボルグファイルE3
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後書き
レッドはオレンジバッジ(
相棒ピカチュウは“
というわけでクチバジム戦でした。書いた後に気付きましたが、何気に相棒ピカチュウ初の本格的な肉弾戦でした。ここまでを読了した読者の皆様へも、相棒ポケモンの強靭さが伝わっていると嬉しいです。
あと劇中で描けなかったのでここで追加しておくと、今回のジム戦でライチュウが使った“じゅうでん”は、でんきタイプなら攻撃技だけでなく変化技の効果も倍にします。怖いっすね()
そして何より、表でも裏でもレッドを苦しめるサカキ。レッドの現状を知れば多分、大層愉快そうに笑うことでしょう。
では次回はクチバシティ最終回、そして11番道路編となります。皆様、またお気を長くしてお待ち頂けますと幸いです。
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