特に何もすることのない正月ということで、真昼も周も外に出て――もちろん別々に――軽く運動する以外は、ほとんど周の家にいた。
一緒にいるから、といって、無理に関わるわけではない。
冬休みの課題自体は二人ともとっくに終わってるので、新学期からの範囲の確認をやったり、雑誌を読んだり。
スマホのゲームや普通にテレビゲームもやったり、あるいは正月ならではのテレビ番組を見たり、といった具合である。
別に無理に話す必要があるわけでもなく、かといって気になったことがあって話しかければ、ちゃんと答えが返ってくる。
お互い、気を張らずにのんびりできる、というのは、真昼にとってもとても居心地がよかった。
ふと見てみると、周はテレビで正月の特別番組を見ていた。
正月限定で放送される人気番組で、色々なお題に対して、それが高級品か、安物か、というのを当てるクイズ形式の番組だ。
お題は食事だったり音楽だったり、あるいは絵やワインなどである。
「真昼はこういうの、得意そうだよな」
真昼がテレビに注目したのに気付いたらしい。
「そうですね……さすがに盆栽とか、あとワインは絶対わかりませんが……」
未成年である以上、ワインの良し悪しがわかるはずもない。
ただ、音楽は子供の頃習い事をやっていたし、楽器の良し悪しはある程度分かる。
踊りなどはちょっと厳しい気はするが。
「でも、周くんも味なら行けるんじゃないですか? 結構、味に敏感ですよね」
「そうか?」
「ええ。前に、ちょっとした隠し味、当てたことあるでしょう?」
確か、卵の甘味付けに入れたハチミツを、看破していたと後で聞いた。
ほんの少し甘みを足すために入れただけなのに、その甘みが砂糖ではなくハチミツだとわかるのは、かなりのものだ。
「まあ、そうかもだが……真昼の料理が、わずかな隠し味でもそれがちゃんと美味しく引き立つようになってるからじゃないかな」
一瞬言葉に詰まる。
どうしてこう――不意打ちをしてくるのか。
こういう、何の飾りもない称賛を自然に言えるのは彼の美点だが、同時にダメなとこだと思う。
頬が緩みそうになるのを、真昼は必死にこらえて、テレビに目を向ける。
ちょうど、正解が発表され、解答者の歓喜と悲鳴が響いていた。
「そ、そろそろご飯にしましょうね」
うっかり何か言う前に、真昼はエプロンを付けてキッチンに立つ。
今日のメニューは残っているおせちと、あとは汁物。
正月も二日目で、おせちはもう半分以下になっていて、それだけではさすがに足りないので、今日は唐揚げを仕込んでいる。
午前中のうちにジッパーの袋に入れて漬け込んであった鶏肉を冷蔵庫から取り出すと、周が気付いてやってきた。
「お。今日は唐揚げか」
「ええ。あと、ブロッコリーとエリンギも、です」
おせちだけでは野菜が微妙なのを考慮した結果だ。
普通に生野菜でもいいが、唐揚げと同じ衣をまとわせたブロッコリーやエリンギの揚げ物は、結構美味しいのである。
ちょっとだけ塩をつけて食べると味が変わっていいし、栄養バランスもいい。
カロリーは少し気になるが、その分運動することにする。
油の温度を確認すると、次々に鶏肉を投入する。
パチパチ、と鍋の中で唐揚げがあがっていく。
次々に網とキッチンペーパーが敷かれたバットに上げられている様を、周も興味深そうに見ていた。
「テレビはいいのですか?」
「いや、なんかこういう制作過程って、面白いからさ」
気持ちは分かる――が。
そうやってまじまじと見られると、恥ずかしい。
「じゃあ、配膳の準備お願いします。あと、おせちも出してください」
「あいよ」
真昼の言葉を受けて、周が冷蔵庫に行く。
以前は配膳すらおぼつかなかったが、今は任せても問題ない、と言い切れるので、本当に成長したな、と思う。
そうしているうちに、次々と唐揚げが出来上がり、さらにブロッコリーとエリンギの揚げ物も完成した。
出来上がった唐揚げやブロッコリー、エリンギが乗ったバットから、周がキッチンペーパーを敷いた大皿に移していく。
前ならキッチンペーパーを敷かずにやっていただろうに、こういうところでも成長を感じた。
こうやって、彼も少しずつできることが増えていくのだろう。
(でも、まだまだ、ですよね?)
先日、片付けの手際を見て、いつか自分がいなくても周が生活できるようなるのでは、とは思ったが、まだまだそれは先だと思う。
ただ、彼自身の意識は変わってるようで、真昼がいない時に料理に挑戦するようになっているようだ。
時々、夜に来ると昼に何か頑張ろうとした形跡を見つけることができる。
その彼の成長を促しているのが自分だ、と思うと、ちょっとだけ嬉しくも思う。
いつか、彼が一人立ちできる――なんかこの言い方も不思議な感じだが――時、果たして自分はどうなっているのか。
彼の変化はわずか二カ月でこれほどだ。
あるいは来年の正月はもう、彼は一人で大抵のことができるようになっているかもしれない。
それを寂しい、と感じるのを、真昼はもう否定できなかった。
(でも、お隣さんですし、きっと、交流くらいはありますよね)
どちらかが事情があって引っ越さない限り、少なくとも高校生の間は、お隣さん、という関係だけは変わらないだろう。
ならば、食費の効率を考えれば、やはり今の状態は――彼が料理をできるようになったとしても――続ける方が、お互いメリットがあるはずだ。
その計算は、周にだってできるはず――と考えて、クリスマスに樹が言った言葉を思い出した。
『ほぼ通い妻じゃん』
あの時は一瞬で否定したが、客観的に見てそう取られても仕方がない、というのは否定できない。
あの時からほんの一週間ちょっとしか経ってないが、今同じことを言われたら、果たしてあれほど一瞬で否定できるだろうか。
通い妻というのはともかく、周に対してすべて打算や損得だけでで行動しているわけではない、というのは、真昼もすでに自覚していた。
それだけ、彼の傍が居心地がいいのだ。
「真昼、どうした?」
一瞬動きが止まっていたらしい。
不思議そうにのぞき込む周の顔を見て、真昼は一瞬固まってしまった。
おそらく食べ物に髪が落ちないようにするためだろう。
普段隠れている顔が、ほぼ見えてる状態だったのだ。
「あ、いえ、別、に、なんで、も、ない、です」
しどろもどろになっているのは自覚したが、どうしようもなかった。
「大丈夫か? 年末からこっち、ずっと俺の食事を面倒見てくれてるけど、疲れているなら、ちゃんと休めよ?」
そういうと、ナチュラルに手を額に当ててくる。
避ける暇もなかった。
「……熱は、ないみたいだけど。……あ、す、すまん」
だからそういう不意打ちはやめてほしい。
謝るくらいなら最初から……と言いたいが、周の手が気持ちよかったので、それは言わないことにした。
ただ、もう一度はやめてほしい。
今もう一度触れられたら、今度は顔が熱を持っていることに気付かれてしまう気がする。
「だ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてしまっていたので。それより、冷める前に食べましょう、周くん」
「ああ、そうだな。せっかく美味しそうにあがってるしな」
そういうと、二人向かい合ってダイニングテーブルに座る。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
正月はもうすぐ終わる。
冬休みはさらに数日あるが、その間、こうやって食事できることに、真昼はどこか嬉しさを感じる自分を自覚していた。
お正月のお話。
これも原作には全くないやつなので、純粋な二次創作ですね。
作中の番組はまあみんなわかりますよね(笑)