沈んでいた意識がゆっくりと覚醒していくのを真昼は感じた。
寝る前まで、朦朧として何かあやふやだった感覚が、元に戻っていく。
体の隅々までちゃんと神経が行き渡っているような――そんな感じ。
目を開けた時、見慣れているような、しかし違うとわかる天井が見えた。
そして、右手に感じるわずかな温もり。
ゆっくりと首を動かして天井から視線を移すと、周の手が真昼の手を優しく握っていた。
(ずっと握ってくれていたんだ……)
周本人は眠ってしまっているようだ。
真昼がベッドを占領してしまい、寝慣れないソファで眠ったから疲れたのだろうか。
昨夜、気配を感じた気もするから、もしかしたら様子を見てくれていたのかもしれない。
だとすれば、結構寝不足なはずで、寝てしまっても仕方ない。
顔を動かして時計を見てみると、十二時を少し回ったくらいだった。
カーテンの隙間から太陽の光が見えるから、真夜中まで寝てしまった、というわけではないようだ。
最後に見た時計は九時前くらいだったから、三時間あまり寝たことになる。
昨夜から汗は何回か拭いているが、さすがにべたべたする気がした。
汗臭くないだろうか、と気にしてみるが、まだ本調子ではないのか、においはよくわからない。
ただ、本当にゆっくり眠れたな、と改めて思う。
ここで眠るのは、あの年明け早々に眠ってしまった時以来か。
ゆっくりと深呼吸する。
もう慣れた、周の家のにおいだ。
真昼にとって、周の家は本当に安心できる場所になっていた。
もしかしたら、今の自分の家以上に。
だとすれば――それは彼のおかげだろう。
今眠りこけている、周の顔を見る。
その距離は、恐ろしく近い。
ふと、風邪を伝染《うち》してしまうのでは、と考えたが、今更だ、と開き直る。
それに、軽く頭を振ってみたところ――おそらく熱は下がっている。
なら、大丈夫だろう。
もう一度、周の顔を見る。
目が覚める様子もなく、すやすやと眠りこけている。
いつもの、少し険のあるような表情も、今はない。
(いっつも私が寝顔見られてしまっているのですから、これでやっと一つ返せましたね)
体を右側に倒して、左腕を伸ばす。
起きるかな、と思ったが、よく寝ているらしい。
髪に触れると、意外とふわふわなことに驚いた。
(こうしてみると、ほんとに……)
眠っている顔を見ると、あどけなさと男らしさが同居したような表情に思えた。
ふわふわの髪をもふもふと触ると、とても手触りがいい。
結構無造作にしているのに、髪質は真昼のそれと比べてもそれほど遜色ない気がする。
結構ずるい、と思えてきた。
肌もシミなどはなく、きれいなものだ。
頬に触れてみると、思った以上に柔らかい。
(ぷにぷにだ……)
男性の頬は硬い、となぜか固定観念で思っていたが、予想以上に柔らかかった。
女性のようにすべすべもちもち、とまではいかないが、これはこれで十分に楽しい。
「む……」
起こしてしまったか、と思ったが、どうやら違うらしい。
わずかに寝返りを打つと、また規則正しい寝息が聞こえる。
角度が変わって、顔にかかっていた前髪が少しずれていた。
ふと思って、前髪をさらにずらすと――周の閉じた目が露わになる。
(眠っている時は――可愛いですね)
本人に言うと不満げな顔になるだろうが、そう思った。
かっこいいと可愛いの、ちょうど間、というのが正しいか。
どちらとも取れるその顔に、真昼は思わず顔を綻ばせる。
一度、深く呼吸をする。
体調はもう問題なさそうだ。
彼がいてくれてよかった、と思った。
体調を崩した時に一人だと、どうしても孤独感に苛まれる。
子供の頃、風邪で体調を崩すと小雪が看病してくれていたが、それでも彼女は時間になると帰る。
一人、誰もいない家の大きなベッドで震えていると、このまま死んでしまうのではないか、という恐怖に怯えたこともあった。
だが今は、彼が隣にいてくれる。
そのことが、とても嬉しい。
自分が一人ではない、と実感できるのだ。
(私がどんなに感謝してるか、周くんはきっと
真昼はもう一度つながった手に力を籠める。
その手は、とても暖かく感じた。
同タイトルの、真昼がいつの間にか起きてた下り、その覚醒シーンですね。
というか実は起きてませんが(ぇ
前回から半月ほど飛んでるのでかなり心境は変化してる感じ。