お隣の天使様:真昼視点   作:和泉将樹

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天使様のカレンダー

 まだ2月のカレンダーを、一気に九枚めくる。

 その十一月のカレンダーのある日を、真昼はペンで大きく囲った。

 

 十一月八日。

 周の十七歳の誕生日である。

 まだ九カ月も先だというのに、今からその時が楽しみだった。

 誕生日を知ったこと自体が嬉しいとすら思えた。

 ふと、先ほどの会話を思い出す。

 誕生日を教えてもらっていなかったことに不平を言ったが、彼の言い分はもっともだった。

 

「まあ、確かに去年はまだ、祝うとか……考えなかった、ですよね……」

 

 その頃がはまだ、タッパーで食事を渡す程度の関係だった。

 そんな頃にそんなことを言われたら、むしろ警戒して距離を置いていたかもしれない。

 

 実際自分だって誕生日を言ってなかったのだから文句は言えないが――それでもあの時は不満に思ってしまった。

 彼と過ごすようになってまだ三カ月と少し。

 このように打ち解け始めたのは、あの誕生日プレゼントをもらった以降からか。

 だというのに、なぜだか最初からこの距離感だったような錯覚すらある。

 だから思わず、文句を言ってしまったのだ。

 

「ずっと先、か……」

 

 初詣の時の穏やかな日々がずっと続くように、という願い。

 あの時は意識していなかったが、あれは、間違いなく周が一緒にいてくれる日々を願っていた。

 今ならそれがわかる。

 それくらい、彼と知り合ってからの日常は真昼にとって、それまでとは比較にならないほどに穏やかで心休まる日々なのだ。

 

 だから、迷わず次の彼の誕生日――九か月後も、今の関係が続いているのを疑いもしなかった。

 周に指摘されて照れ隠しにクッションで叩いてしまったが、『他意はない』というのは――嘘だろう。

 あっさり納得されたのに対して自分が感じた感情を、いい加減真昼も自覚していた。

 

(……多分私は、彼と一緒にいたいんだ)

 

 高校生になってもうすぐ一年。

 しかし、周と出会ってからの思い出は、それまでの空虚な椎名真昼の全てを上書きした。

 彼がいるから、今は毎日が楽しい。

 その感情の名前を、真昼はもう分かっていた。

 

(多分私は、周くんが好き)

 

 とたん、頬が紅潮する。

 言葉にせず、思い浮かべただけだというのにこれである。

 生まれて初めてのこの感情は、まるで制御できないで暴走しているかのように、真昼の中で暴れまわる。

 確証はない。

 ただ、そう思った時の恥ずかしさと、同時に感じる幸福感は、それが間違ってない、と言っている気がした。

 

 ただ。

 

(彼には……迷惑でしょうね)

 

 周は『天使様』には興味がない。

 そして、椎名真昼とは、友人であっても恋愛対象としては見ていない。

 見ていたら、この関係はそもそも成立していないだろう。

 そして真昼も、この関係を壊してまでその先に進みたいか、といわれると、そこまでの覚悟はないと思えた。

 

 大切な友人だと思っているのは間違いないだろう。

 なんなら、お互い最も信頼している人物の一人ではあると思っている。

 ただそれは、恋愛感情抜きで成立した友情であって、そこに恋愛感情を混ぜてしまうと多分おかしくなる。

 

(だから、多分このままでいい)

 

 このまま、春の陽だまりのような穏やかな日々が続くのは、真昼としても望ましい。

 その先に進むだけの情熱があるのか、と問われたら、真昼自身まだ分からない。

 ならば今はこのままでいいだろう。

 結果、今年の彼の誕生日を祝う。

 ただ、それだけのことだ。

 

 もう一度カレンダーをめくって、十一月を見る。

 その、大きく印がついた日を見て、初詣で願った穏やかな日々がこの時まで続くことを、もう一度祈るのだった。

 

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