満開の桜の美しい薄紅色が、河川敷を彩っていた。
そんな中を周と歩く、その時間が何よりも嬉しくて、愛おしい。
繋いだ手から感じられる温もりが、とても優しく感じられた。
誰よりも愛しい人。
多分自分は、もう彼以外を選ぶことはできない、と確信できる。
見渡す限り広がる美しい薄紅色に彩られた河川敷が、本当に美しい。
かつては好きではなかった春。そしてそれを象徴する桜。
その桜が少し好きになった、というのは嘘ではない。
かつては一人であることを否応なしに痛感させられる春の象徴だから、好きではなかった。
しかし今の真昼にとって、桜は、春は新たな意味を持ったのだ。
(周くんが、私を受け入れてくれたから)
周は真昼を真昼として見て、支えてくれると、捕まえていてくれると約束してくれた。
それが、どうしようもなく嬉しい。
そしてそれは、彼が好きだという気持ちを抑えるのを不可能にさせていた。
もう、自分を偽るのをやめる。
人を本当に好きになって、前に進むことを決意することができた季節。
だから、今の真昼にとって春は特別な季節になった。
「真昼?」
少し呆けていたらしい。
声をかけられて、振り返る。
少し見上げたところに、周の顔があった。
顔が少し熱くなるのを自覚するが、どうしようもない。
幸い、今は夕方で空が赤く染まっているので、きっと誤魔化せるだろうと期待する。
「なんでも、ないです」
本当に、何でもない。
おそらく世間一般の女性からすれば、珍しくもないことなのだろう。
誰かを、こんなにも好きになる、というのは。
ただ、自分が今更恋をする、とは思っていなかった。
両親に愛されず、誰からも距離をとっていた自分は、誰かに踏み込もうとするなど考えてもいなかった。
天使《いい子》として周りに認識され、期待されるように振舞っていた自分。
いつも人の目を気にして、失点をしないよう、人から良く思われよう、とそれだけを考えていた自分。
そうやって作られた殻《天使》の内側は、臆病で自分勝手で、可愛げがなく、性格も悪い、どうしようもない自分。
だから誰からも、両親からすらも愛されないし、誰かを愛すことはできない――そう、思っていた。
(でも、周くんがそれでいい、と言ってくれたから)
普段周が自身を卑下するのはどうかと思っていた真昼だが、実は真昼も負けないくらい自己否定が強かった。
だが、もうそれはしなくていいんだ、と。
ありのままの自分を受け入れてくれるといった彼の言葉が、どうしようもなく嬉しい。
その喜びは、踏み込むことを恐れて封じようとしていた気持ちを、一瞬で溢れさせてしまった。
だから、もう迷わない。
我慢することはやめる。
自分の気持ちに見て見ぬふりはもうできない。
この気持ちを抑えることはもう絶対にできないし、したくない。
そんなことをしたら、今度は彼の前で別の殻を被ることになるだけだ。
もちろんすぐに関係が変わるのは難しいだろう。
そもそもまず、彼が異性として興味を持ってくれなければどうしようもない。
四カ月あまりで構築した、恋愛感情なしの友人としての信頼関係。
友人として好意を持ってくれているのは疑っていないが、その先となると確信が持てない。
簡単な事ではないだろう。
真昼にとっても今までに体験したことがない関係を、これから築かなければならない。
いったい何をどうすればいいのか、見当もつかないが――諦めるつもりは、全くない。
そしてその未来を思い描くことが、楽しい。
(この人が、好きだから)
立ち止まることはしない。
彼が歩む道を、一緒に歩きたい。
今が、始まり。
一際強い風が吹いて、桜の花びらが散り、視界を一瞬染め上げる。
「周くん、大好きです」
風になびく髪を抑えつつ、ささやくように真昼はそう口にした。
風で聞こえないだろうと分かっていてのその告白は、やはり周には聞こえていなくて。
「今、なんか言った?」
と問う周に、夕日の中、おそらく真っ赤な顔をしてるだろうと自覚しつつ。
ただ「独り言ですよ」とだけ答えるのだった。
超短編ですが、この一連のどこかは描きたくて。
この辺りの流れはアニメと原作だとちょっと違うんですよね。
アニメだと一気に流れますが、原作だと数日に分けていますし。
まあどちらにもあった桜の場面です。
あのシーンの続き的な感じですね。
『天使様~』というタイトルは似つかわしくないのでパターン変えてます
この後から、まひるんのターンが始まるわけですね(笑)
……このシリーズ、これで終わってもいい終わり方な気がしなくもないけど、まあ最後はあれなので続きます(笑)
しかしこう書いててなんですが、この時点で周くんも完全に落ちてるんだよね……やっぱまひるんも鈍感だと思う(笑)