「ばか。周くんの、ばか」
ベッドの上で真昼は、もやもやとした気持ちを吐露していた。
手には彼にもらったくまのぬいぐるみが抱きしめられている。
かなり過剰に力が込められてぎゅうぎゅうに締められているため、やや歪んだ顔が不満げに――は、真昼からは見えてない。
『これからも毎日作ってもらうんだから――』
わかってる。
周は本当に他意なくああいう発言をしている。
わかってはいる、が――。
「私がどう思ってるかなんて、絶対、絶対気付いてない――」
ぽすぽす、とぬいぐるみで枕を叩いて、気持ちのやり場をにしてしまう。
もはや日常と化している、周の家での食事。
最近では休日すら当たり前に一緒に過ごし、食事を共にしていることが多い。
会わないことの方が少ないし、真昼としてはむしろ目的は周と同じ場所にいることで、食事は手段になっている自覚がある。
周もおそらくこの日常が普通になっているから、毎日作ってもらう、という発言も別にその日常が続くという意味でしかない……のだが。
定番のプロポーズのセリフに、『毎朝君の味噌汁が食べたい』というのがあるが、意味がほとんど同じだと彼は気付いているのか。
「気付いてない、でしょうね……」
本当に無自覚が過ぎる。
そしてそれが、周が真昼を意識していない、という事実を突きつけられている気がしてくる。
いくら何でも、少しは意識していたら、あんなセリフは普通……。
「……言いそうですね……」
希望的観測かも知れない。
全く意識してないから言った、とすると本当に現時点で全く脈なしになってしまうが、周はナチュラルにそういうセリフを言う。
婉曲的な言い回しに対して、真昼が勝手に意味をとってしまっているが、周は多分文字通りの意味で言っている気がする。
周は人をほめることに躊躇がなく、感じたままの言葉をそのままいうことが多い。
ともすればとても普通は正面から言えないようなことでも、素直に口にするのだ。
無論、気心が知れた相手に限るのだが、それでも、ある種歯の浮くようなセリフですら、平然という事がある。
これも彼の父修斗の薫陶の賜物なのだろうか。
正直、もっと社交的で、かつ身だしなみにあと少しだけ気を付けるような人物であれば、おそらく樹と同じくらいの人気者になっていた気がする。
周がそういうキャラクターであれば、あるいは『天使様』と釣り合うキャラクターであった可能性もある。
そうなれば今のような苦労もなかったのかもしれない。
ただ……。
「それは、なんか嫌ですね」
周のあのかっこよくて優しくて、素敵な面を知ってるのは、今のところ自分と、あとはごく一部の友人たちだけだ。
それを他の人に知られるのは、なんとなく嫌だった。
それに、周がそのような人物だったら、おそらくこういう風な関係になっていない。
仮になっていたとしても、自分が警戒を解いていたかは怪しい気がする。
それに何より、他の女子が周を放っておかなかったと思う。
「……うん、きっと周くんは、あれでいいんです」
あの、とっつきにくく、他者を遠ざけようとすらしているのに、優しさと誠実さが同居した周だから、今これだけ好きになっている。
そこにこそ、真昼は惹かれたのだから。
彼が隣人であったことは、本当に一つの奇跡だ。
そして多くの、奇跡のような偶然の積み重ねで、今の周との生活がある。
何か一つでもボタンの掛け違いがあれば、多分今の状態はないだろう。
だから、ここまでの軌跡も、今このようにやきもきすることも、きっと必要なのだと思う。
「大好きです、周くん」
たったこれだけのことが、簡単には言えない。
友人としての好意に疑いはないが、異性として、恋人として見てくれるかはまだ未知数だ。
ただ、自分がそうであったように、周が同じ気持ちを、少なくとも全く抱いていないとは思ってない。
だから。
(ずっと一緒にいてほしいから)
諦めない。
自分がここまで毎回心をかき乱されるのだ。
このまま劣勢でいいはずはない。
もっともっと、周をドキドキさせて、自分に振り向かせてみせる。
そして、いつか彼とそうなった時、自分がどれだけヤキモキさせられたかを教えたい。
文句の一つも言わないと、不公平だ。
「周くんの、ばか」
きっといつか言える日を信じて。
真昼はゆっくりと目を閉じていた。
ほとんど内容がない話(・・)
真昼のデレポイントは分かりやすいですくて可愛いですね。
素でああいうことを言う周くんは実際どうかと思いますが(笑)
サブタイは適当です。実は一番困った……。