ガラガラ、と音を立てて盛大に白いピンが倒れていく。
「お~。さすが優太。いきなりかよ」
視線の先、『王子様』とも呼ばれる門脇優太が小さくガッツポーズをしているその向こう、二十メートルほど離れた壁で、『STRIKE』の文字がモニターに踊っていた。
ここは駅前から少し移動したところにあるボウリング場だ。
定期考査が無事終わり、その場で集まった面子でテスト打ち上げと称して遊びに来た。
メンバーは真昼、千歳、それに男子が周、樹、優太である。
みんなでファーストフードで食事を済ませた後、発起人である千歳が勉強ばかりしてたから身体を動かしたい、と言い出し、ボウリングをやることになったのだ。
周は面倒くさそうにしていたが、真昼が今までやったことがない、と言ったところ千歳が大変乗り気になり――その勢いを周が止められるはずもなく、開催の運びとなった。
そして、二つレーンを借りてゲームを始めたところで、最初の一投でいきなり優太がストライクを出したのだ。
「……すごいですね。全部倒しちゃいました」
「ゆーちゃんこういうのも得意だからねぇ。お。周が投げるよ」
見ると、周がボールを構えてゆっくりと加速していくところだった。
(フォームがなんかきれいですね)
あまり見たことがあるわけではないが、とても様になってる――と思った直後。
先ほどと同じような音が響いて、すべてのピンが倒れていた。
「うわ、周もストライク!?」
「す、すごいです」
「つか、今さらっと曲がってたよね。プロみたいな軌道だったような」
その、見事なストライクを取った本人は涼しい顔で戻ってきた。
「周くん、すごいですね」
「って、周、前全然下手そうだったじゃねぇか」
「そうなのか? 今のフォーム見る限りすごく堂に入っているというか、かなり上手いと思うけど……」
「去年、クラスの企画でボウリング大会やった時は、そんなんじゃなかったぞ」
樹によると、ストライクはほぼ出ず、クラスの真ん中よりやや下くらいのスコアだったらしい。
「……ああ、まあ、ボウリングは結構母さんに仕込まれたから」
「志保子さんに?」
なんとなく分かる気がする。
「ゲームの類は一通りな。ボウリングもそのうちの一つだ」
「てことは何か。前の時は手を抜いていたと」
「……まあ、その何だ。あまり目立ちたくはなかったからな」
暗に普通にやったら目立つほどのスコアを出せると言っている。
「ボウリングって体を使うものだとは思うんですが、周くんは運動得意じゃないと言いながら、遊び要素が入るととたんに変わりますよね。ホントにすごいです」
クレーンゲームなどが得意なのは知っていたが、本当にあの両親……というより志保子に仕込まれているというか。
周は、真昼の素直な称賛が恥ずかしいのか、照れたように顔を背けている。
「よーし、上等だ。周、勝負だ。負けた方は勝った方のいう事聞くってことで」
「は?」
「いいね、面白そうだ。俺も乗る」
「えー。じゃああたしもあたしも。まひるんは?」
「え、えと……この場合、勝つのが一人だけ……?」
「そうだなぁ。まあ優勝者が誰か一人だけに命令できるってことで」
ビリに、とか言われるとどうしようかと思ったが、それならあまり問題はない。
真昼は生まれて初めてボウリングをやるので、正直まともにスコアを稼げるとは思えないが、これならば実質条件はタイだ。
というか多分優勝争いは見たところ周か優太に――。
「よっしゃあ、スペア!! まだいけるぜ!!」
樹が一フレーム目をスペア――二回の投球ですべてを倒しているスコア――でおさめている。
こうなると男子三人の争いに……。
ガラガラっ。
「えっ……」
「うわーい、私もストライク。ふっふっふ。この千歳さまを甘く見てはいけないよ」
「……あの、皆さん上手すぎません……?」
「さ、次はまひるんだよ。どうぞどうぞ」
「は、はい」
投げ方は分かる。
周のように曲げるやり方は、方法はともかくどういう力加減でやれば上手くいくかは全く分からないので、この場合とにかく真ん中にまっすぐ投げるしかない。
運動は苦手ではないので、多分何とかなると思いたい。
レーンの上をボールが滑るように転がり――
きれいに真ん中の先頭にボールが当たる。
それほど強い勢いで投げられてないボールだが、それでもボウリングのピンはガラガラと倒れ――。
「あ!?」
両サイドの一番奥二つが残った。
「え……これ、次どうすれば……」
ボウリングは一フレームで二回投げて得点を競う。
十本全部倒せば得点の数え方が変わるらしいが、そこは後で教えてもらうとしても、これはどうやっても両方倒すのは不可能だ。
「うわー、いきなりスプリットとは……まひるん、真ん中にきれいに当て過ぎたねぇ」
「え? 真ん中だとダメなんですか……?」
物理法則を考えれば、均等に当てて放射状に衝撃が広がれば全部倒れると思ったのだが。
とりあえずさらに一本だけ何とか倒すことができたが、一フレーム目の時点で真昼は九点。他のメンバーの点数がまだ出ていないのは、十本倒した場合の特殊な点のつけ方になるからなのだろう。
「うん、まあ見ててもらえば分かるけど、あのボールって結構勢いついててね。真ん中きれいに当てると、そのまま通り抜けて……ああなることが多いの」
言われてから見てみると、優太が二フレーム目の一投目を投じるところだったが……確かに、真ん中より少しずらしている。
ちなみに九本倒れた。
そして続く一投で、そつなく残る一本も倒している。
「……いっくんも結構上手いんだけど、ゆーちゃんにはちょっと勝てそうにないなぁ」
「というか、上手過ぎません?」
「そうだねぇ。お、周の二フレーム目……?!」
ガラガラ。
モニターには『DOUBLE』の文字が躍る。
「ストライクじゃないんですか?」
「あー。ストライクが二つ続くと『ダブル』って言うの。ちなみに三つ続くと『ターキー』」
「なぜ七面鳥……?」
「さあ……そう呼ばれてるからとしか」
あとで調べてみたくなる。
それはともかく、二連続ストライクに男性陣は沸いていた。
「おま、ホントに容赦ないな」
「つか、お前らが勝つとろくなことにならない気がするから、ぜってー負けねえ」
「大人げないですわよ、この人」
「いいじゃないか。藤宮がこういうので本気出すって珍しい気がするし。俺もエンジンかけていこう」
「……俺も負けてらんねぇ」
ちなみに借りたレーンは、女性陣と男性陣に分かれている。
なにやら別の世界になりつつあった。
「こういう勝負ごとになると、男の子ってムキになるよねぇ」
「そうですね……なんかでも、可愛いです」
また違う周の面を見れた気がして、ちょっと嬉しい。
ボウリング場に入る時に同じ学校の生徒がいないかを気にしていた周だが、幸いいなかったようで、彼も過剰に警戒をしなくてすんでいるようだ。
本音を言えば周にちゃんと教えてもらいたかったが、さすがにみんなのいる前ではそれは気恥ずかしい。
そのうち二人だけで来て教えてもらおうと思いつつ、真昼は自分の番に――ちなみに千歳は真昼同様スプリットになって地団太を踏んでいた――なったので、レーンに向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くそう、結局周の勝ちか」
「粘ったんだけどなぁ。さすがに合計四回もターキーやられたら無理だなぁ」
結果は周が二ゲーム平均で二百点を超えた。
優太は二百点にわずかに及ばず。
樹は百七十点だった。
千歳は百五十点にわずかに届かず。
真昼は……何回かストライクも出たりしたが、百二十点ほどだ。
とはいえ、初めてにしてはすごい、と全員に称賛された。
「いや、初めてでその点はすごいよ、まひるん。っていうか、今度周に教えてもらえば? 実際周はちょっと悔しいくらいに上手だし」
「え、えっと……それは、じゃあそのうちに」
「ちょ、それは待て……」
「いいじゃん。家でとか。ほら、周の家にあるゲームでもできるでしょう?」
「あー。そういえばあったが……」
「そんなゲームあるのです?」
「あー、うん。最近出たやつな。ボウリングをジャイロセンサー付きのコントローラーでプレイするやつで、本物みたいに投げる動作をやるんだ。でも、やってみたが本物とは感覚違うぞ?」
「それでも、やってみたいです」
何よりそれなら、周囲の目を気にせずに周と遊ぶことができる。
「さて、まあそれじゃあゲームは周の勝ちだし、やはりここは定番としてはトップがビリに要求だよな」
「「え」」
「そだねー。もう遅いし私らそろそろ帰らないとだしね」
樹、千歳、優太はここから駅に行って電車で帰る。
真昼と周は徒歩で駅とは逆方向なので、店の前で分かれることになる。
「お前ら……」
「おう、ちゃんと勝者の権利は行使しろよ。じゃあなー」
「まひるんまたねー」
「じゃ、またね。藤宮、椎名さん」
周が何か言う前に、さっさと三人は去っていく。
あとには真昼と周だけが残された。
時刻は十七時過ぎ。
今から帰れば、夕食の準備にちょうどいいタイミングだ。
「……帰るか」
「はい」
この時間であれば、通学路からも大きく外れた道で帰るのもあり、同じ学校の生徒に見られる可能性は低い。
仮にみられても、あの五人で遊びに行ったことは知られているから、途中まで道が同じだといえば一緒に歩くのは――多少のやっかみはあるにせよ――不自然ではないだろう。
そして周が普段の態度と裏腹に面倒見がいいとはクラスでも認識されてきているから、真昼に歩調を合わせて一緒に歩いていたとしても、さほど気にされることはない。
(少しずつ、外でも近づけてますよ、ね?)
手をつないで帰りたい、という欲求がないといえば嘘だが、今はこれで十分、と思うことにする。
「あ、そういえば」
「ん?」
「いえ、先ほどの勝者の権利、どうされます?」
「いや、あれは別にただの遊びだから」
明らかに周が狼狽している。
それがとても可愛く見えた。
「いえ、遊びだからこそ、ちゃんとルールは守らないとです。さあ、どうぞ」
降ってわいた話だが、ここぞとばかりになんでもどうぞ、と胸を張る。
もっとも、往来でもあるのでそんな無茶は言われないだろう、というのもあるが――。
「……わかった。じゃあ、真昼がなんか考えて俺に要求してくれ」
「え」
「何でもいいんだろ? じゃあそれで」
「ちょ、それ何の意味が!?」
周が「な? 困るだろ、こういうの」と笑っていた。
「……わかりました。帰るまでに考えますっ」
ぷい、と。
ちょっと不機嫌そうに顔を背けたが、結局それがポーズであるとは見抜かれているようで。
その暖かい空気は、家に戻るまで変わらなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なお。
真昼の要求は結局『美味しいスイーツを買ってきて一緒にボウリングゲームをする』という事で落ち着いた。
その際にまたバタバタすることになるがそれはまた別の話である。
真昼は絶対初でしょうが、一方周は確実に志保子にしこまれてるだろうな、と。
ちなみに私の最高得点は180点くらい。普段は150前後です。
初めてやった時(高一)は67点でしたが(。。)
なおSwitchSportsではパーフェクトがあります(ぉ