お隣の天使様:真昼視点   作:和泉将樹

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天使様の手当

 ガチャ、と鍵が回る音がして、玄関の扉が開いた。

 

「ただいま……って、真昼、もういるのか?」

 

 周の声が玄関から聞こえてくる。

 いるのに気付いたのは、靴があるからだろう。

 やや意外そうな声だが、それも当然か。

 普段であれば、夕食を作るために真昼が来るのは早くても十七時過ぎだ。

 少なくとも周が帰ってくる時点ですでにいるのは稀な事である。

 が。

 

「お帰りなさい、周くん」

「どうした、今日はずいぶん早いが……」

「とりあえず、手洗いうがいをどうぞ」

 

 少し厳しい印象を与える声音になっているのは自覚しているが、それは仕方ない。

 周も何か気配を感じつつも、とりあえず洗面所へ行って、それから自室に戻り――しばらくするといつものスウェットにジャージ、という姿で部屋から出てきた。

 

「その、なんか……あったか?」

 

 ただならぬ気配に周がむしろおびえた様子になる。

 が、そんなことはこの際関係ない、と言わんばかりに――。

 

「じゃ、上着脱いで打ったところ見せてください」

「は?」

「今日転んで、結構強く打ちましたよね?」

 

 今日の授業の体育。

 バスケットボールをやっていたが、女子のところに勢いのあるボールが飛んだのを、周がかろうじて弾いた。

 ただその際に、ほとんど受け身も取れずに倒れたのだ。

 真昼の目の前で。

 なので、真昼は周がどこを打ち付けたかも大体わかっている。

 

「いや、だから大したことはないって……」

「嘘ですね。さっきから体動かすたびに、顔が少しひきつってます」

 

 ほんの僅かだが、いつも周を見ている真昼にはわかる。

 実際、かなり盛大に背中側から床に落ちてしまっていた。

 運悪く、男女のエリアの境になっていたネットの、結び目の上に落ちてたから、少なくともどこか一か所にかなりの圧力がかかったはずだ。

 逆に言えばそれ以外の箇所はネットがクッションになってダメージはなかったかもだが、その一か所は相当に痛めたはずである。

 周は学校では平気な振りをしていたが、何度か顔をしかめてたのを見逃す真昼ではない。

 

「まあ、その、そんな痛みはひどくないから、後で自分で見るよ」

「無理でしょう。背中ですよ?」

 

 自分の背中というのは、鏡でも見るのが難しい。

 おそらく痛みはあるだろうから、場所は大体わかるとしても、どうなってるのかを見るのはなかなかに難しいはずだ。

 

「いや、だとしても……」

「私たちを庇おうとして怪我してしまってるのですから、手当くらいさせてください。もし思ったよりひどかったらちゃんとお医者さんに診てもらう必要だってあるんですから」

「いやだからな……」

 

 なおも抵抗しようとする周に、これはもう埒が明かない、と判断して強硬手段に出ることにした。

 

「こうなったら強行します!」

 

 いきなり周に掴みかかる。

 

「ちょ?! 真昼!?」

 

 上着の裾を掴むと、一気にたくし上げた。

 さすがに袖は抜けないので、そのままたくし上げた部分が反転して、周の顔を隠してしまう。

 

「もご、ちょ、待て、真昼……」

「じっとしててください。今……ああ、やっぱり打ち身になってます。ひどい内出血まではしてないと思いますが……」

 

 脇腹よりやや背中側にあざができている。触れてみると、わずかだが熱を持ってるのがわかった。

 用意していた救急箱からアイシング用のパッドを取り出す

 そこまでひどくはないだろうから、冷やしておいて、痛みが継続するようなら医者に行ってもらうしかない。

 手早くパッドを貼り付けると、その冷たさに周が「うひゃあ」と声を上げるが、それを無視してテープで固定する。

 

「はい、とりあえずこれで。そこまでひどくはないと思いますけど、安静にしててください。ぬるくなったり、あるいは感覚がなくなってきたら外してください。明日も痛むようなら、ちゃんと病院行かないとダメですよ」

 

 ようやく真昼の手から解放された周は、スウェットとシャツを下ろしてぐったりとしている。

 

「周くん大丈夫ですか? 痛み酷くなったりは?」

「……いや、それは大丈夫……なんだが。真昼、前に自分の前で着替えようとするなと言ってた割に、脱がせるのは平気なんだな」

「!?」

 

 指摘されるまで気づかなかった。

 考えてみたら、無理やり男性の上着を脱がせて、しかも素肌――決してやましい気持ちは全くなかったのだが――に触れるという行為は、改めて振り返ると――。

 

「ち、治療のためです!!」

 

 自分でも顔が真っ赤になっているのはわかる。

 それも、これまでにないほどに。

 これ以上周の顔を見ていたら、本当に頭が茹で上がるのではないか、というほどに顔が熱くなっていた。

 

「い、いやまあ、俺を心配してくれたのだろうから、それはありがたいんだが、もう少しやり方を……」

「し、知りません!! 夕食作ります!!」

 

 自分でも言ってることが支離滅裂なのはわかっていたが、どうにもならなかった。

 

 

 その日の夕食は、これまでで一番言葉少ない夕食だったが、真昼の顔はずっと赤かった。

 




有無を言わさず手当てする真昼さん。
原作にあったやつですね。
まあ実際背中とか打った場合の治療って自分でやるのは大変ですから、診てくれる人はいると助かりますよね。
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