「ただいま……もう来てるのか」
解錠され扉が開いた直後、周の声が聞こえた。
今日はあらかじめ約束してあったので、真昼は休日にも関わらず午前中から来ている。
最近でもお昼ご飯からは一緒にいることが多いが、今日は特別だった。
「おかえりなさい、周くん」
出迎えた真昼に、周は戦利品を見せる。
近所で評判のパティスリーの休日限定スイーツ。
朝の開店と同時に行っても手に入るかどうか、という限定エクレアだ。
「別にそこまでしなくてもよかったのですが」
「うん、まあタイミングがあったからな。一応『美味しいスイーツ』ってのが要求だったし」
過日、周と、樹、千歳、優太らとやったボウリング。
そこで一番スコアを稼いだ周が誰か――結局ビリだった真昼にだが――になんでも要求できる、というゲームをやった結果、周は逆にその権利を『真昼が要求すること』というのにしてしまい、結果、真昼は『美味しいスイーツを購入して一緒にボウリングゲームをする』ということにした。
ボウリングゲームは、何でもジャイロセンサー内臓のコントローラーで実際のボールを投げるアクションを行うとその動きに応じたボールが投じられるという、体感ゲームらしい。
前にアクション要素のあるゲームは壊滅的という判断が下された真昼だが、これならば、というのはある。
実際先のボウリングは初めてやったにも関わらず全員に褒められるほどの点を取れた。
ただ、周は段違いに上手だったので、教えてもらうために、というわけで今日の予定となったのだ。
本音を言えば、実際のボウリングで教えてもらいたいが、さすがに二人で行って教えてもらうというのは、現状ハードルが高い。
「じゃあそれはとりあえず冷蔵庫に入れて……お昼までまだ時間ありますし、始めますか?」
「了解。……つか、なんかやたら楽しみにしてるな」
「ええ。アクションゲームは……まあどうも私は駄目みたいですが、レースゲームは行けましたし、その、自分で動くゲームというのがどういうのものなのかも興味がありますので」
ゲームセンターでも何やら踊ってるような人がいたのを思い出す。
あれはゲームセンターのような大規模な機械があるからこそだと思っていたが、家でも似たようなゲームができるというのは真昼にとっては新鮮なのだ。
とりあえず周がゲーム機を起動する。
ややあってソフト選択画面が出て、周がそのうちの一つを選んだ。
「しかし、いつの間に購入したのです?」
「いや、俺が買ったわけじゃなくて母さんから送られてきたんだ」
真昼の頭に疑問符が浮かぶ。
「このゲーム機、人にゲームを送ることもできるんだよ。今時ゲームってソフト買う以外にダウンロードも普通だろ? それで、母さんが……その、みんなでやるゲームがあれば真昼とも出来るだろって」
「なるほど」
ぽん、と手を叩く。
周にしては少し珍しいチョイスだと思ったが、志保子からだとすれば納得だ。
そうしている間にゲームが起動し――競技の選択画面が出る。
「ボウリング以外にも……あ、テニスもあるんですね。テニスなら私、得意ですよ」
「実際のと大分違うと思うぞ……まあいいか。どれからやる?」
「とりあえずボウリングからでお願いします」
「了解」
とりあえず練習モードが起動された。
周が真昼にコントローラーを渡す。
「……小さいですね。どう使うのです?」
「こんな感じ。ストラップを手首に通してこうやって持つ」
言われたとおりにしてみると、形がきれいに手になじむ。
「で……このボタン押しながらこうやると……」
画面のキャラクター――アバターというらしい――が周の腕の動きに合わせるように動く。
ボールが投げられ、ピンが倒れていったが、ストライクにはならなかった。
「こんな感じ。とりあえずやってみたほうが早いかな」
「はい」
言われたとおりにやると……ボールを離さずに手を振り回している。
「??」
「……すまん。ボールを投げるタイミングでボタンを離してくれ」
言われた通りやると――ガン、とアバターの目の前にボールが落ちた。
転がる様子がない。
「???」
「その、投げるタイミング、つまりボウリングで実際に手を放すタイミングでボタンも離すんだ」
その後。
十回ほどやって、ようやくボールが前に投げられるようになった。
「む、難しいですね」
「いや、ホントはそんな難しいはずはないんだが……真昼って、普通と違う動きをするものに、徹底的に弱いな」
「そんなことありません」
「いや、あると思うぞ……アクションゲームが苦手なのもそうだし……水泳ができないのも、体の使い方が普段と違うから、とか」
「そ……それはその、浮かないだけですっ」
我ながら情けない言い訳だとは自覚しているが、小学校の頃からどれだけ努力してもなぜか水泳だけはできなかったのでどうしようもない。
ともかく、投げられるようになったので何回か続けているうちに、コツがわかってきた。
「慣れると簡単ですね、これ。ボタン押す以外は普通と同じ感じですし、すごいですね」
「まあ、それがウリのゲームだしな」
「そういえば、周くんはこの間ボールを曲げてましたが、このゲームでもそれはできるのですか?」
「ああ、一応できるぞ。こんな感じで……」
周が実演して見せる。
周のアバターが画面内でボールを転がすと、ぐぐっと曲がってピンを弾き飛ばしていた。
「投げる前に手首をひねる感じですか?」
「ああ。まあ、やってみた方が早いな」
言われて、とりあえずやってみたが――ガン、とまた目の前にボールが落ちる。
「……すみません、ボタン離し損ねました」
以下、三回ほど同じ光景が続く。
「もしかして真昼、同時に処理するのが苦手……?」
「そ、そんなことは……」
ないとは言えない気がしてきた。
手首をひねる、という事をやろうとするのとボタンを離すという事をやろうとするのを同時にやろうとしても、なじみのない動作だからか、同時にできない。
「アクションゲームが苦手な理由が分かってきた……」
「……う、うるさいです。人には得手不得手があるんです。あ、じゃあ周くんが手を添えてください」
「は?」
「そうすれば、私はボタンを離す動作に集中できるし、ボタン離しつつ手首をひねる感覚もわかります」
「いや、それは……」
「お願いします。なんかこのままできないのは悔しいです」
周はしばらく逡巡していたようだが、あきらめたように真昼の右手に自分の右手を添えた。
ほとんど後ろから抱き着いたような状態になり――あらためて考えるととても気恥ずかしいが、同時に嬉しい。
「じゃ、ボタン操作は任せるぞ」
周の言葉にうなずいて、ボタンを押しつつ手を引く。
そしてボタンを離しつつ手を前に回すと――周の手からの力で、少しだけひねられた。
結果、きれいに投じられたボールは、大きく曲がってピンを倒していく。
「で、できました、周くん」
「ああ、そうだな……」
なぜか顔を伏せがちになっている。
が、先ほどまではために見たらどうなっていたかを思い出すと……真昼も実は恥ずかしかった。
単にそれ以上に一緒にできることが嬉しいのだ。
その後何回か手伝ってもらい、やり方が分かったところで実際にゲームをしてみたが、やはり難しかった。
ちなみに周もそこまでスコアがいいわけではなく、実際と感覚が違う、というのはその通りらしい。
その後、折角だし、と他の競技もプレイしたが、やはりセンスの差というべきか――。
真昼は得意なはずのテニスでもあまり活躍できず、周はそれなりだった。
「む……実際だったらこうはいかないのに」
「まあ、疑似的な奴だから仕方ない。これで体動かした気分になるってだけだしな」
「でも、意外に……運動にはなってますね。結構汗かいてきましたし。というか、そろそろお昼……!?」
実はかなり集中していたから、久しぶりに周の顔を見た。
周も結構汗をかいていて――前髪が額に張り付いて、いつもは隠されている顔が露わになっている。
流れる汗が妙な色気すら漂わせている気がした。
「い、一回休みましょう。お昼ごはん作らないと、ですし」
「ああ、わかった。けど、疲れてないか。真昼の方がやたら頑張ってたし。何なら俺が作るぞ?」
「い、いえ、いいです。材料もう冷蔵庫にあるから、手早く作りますから」
ほとんど逃げるようにキッチンへ行く。
「周くんは、汗拭いておいてください。今日は少し涼しいですから、身体冷やすとよくないですし」
とにかくあの状態を解消してほしい。
「それ言ったら、真昼もだろう。まず汗を拭かないと」
そういうと、周がタオルを持ってキッチンに来た。
「あ、う、は、はい」
「……大丈夫か? 実は相当疲れたか? 無理はするなよ、真昼」
「だ、大丈夫です。周くん、も、汗を、拭いてください」
渡されたタオルを奪うように受け取ると、手早く顔を覆う。
赤くなってるのが見られてるのではないかと思うが、幸い気付いた様子はなかった。
「じゃあご飯作りますから、周くんは待っててください」
周がタオルを持って去ってくれて、ようやく一息付けた。
(本当……自分の魅力を理解していない……こういう時、本当に困る)
ああいう無自覚の攻撃は本当に心臓に悪い。
少しは自覚してほしいものだ。
火照った顔は、まだ熱が抜ける様子がない。
(周くんの、ばか)
お昼は本当はラーメンの予定だったのだが――急遽冷やしラーメンに切り替えたのは内緒である。
自分で作ったネタから急遽増えた話です(笑)
作中のゲームがなんであるかは……わかりますよね(w
いや、周の家、ピンクの丸いあれのゲームがあるのは確実なので、ということは持ってるゲーム機は……というわけで。
(原作者もあのイカゲームのガチプレイヤーっぽいですし)