嘗て、全宇宙の征服を目論んだ宇宙帝国『ザンギャック』。だが、そんな悪虐非道な者たちをある六人の宇宙海賊が討ち滅ぼした。
宇宙最大のお宝を探す海賊にして、35番目のスーパー戦隊。
彼等の名は、"海賊戦隊ゴーカイジャー"!!
地球にて、残党ザンギャックの新司令官バッカス・ギルを36番目のスーパー戦隊である"特命戦隊ゴーバスターズ"と共に撃破した彼らは、地球の平和を彼らに託し、ゴーカイガレオンに乗って、以前より地球を護り続けてきた先輩方にその力の源とも言えるレンジャーキーと大いなる力の返却に勤しもうとしていた。
そして、彼らは現在、
「ちっ…くそ…っ、いってぇ…っ!」
光が覗き青く茂る森の中、赤いロングジャケットを着こなした男が、未だズキズキと痛む頭を抑えながら、如何にも不機嫌そうなしかめ面をして天を仰いでいた。
「おい、お前ら生きてるか?」
男が周りに声を掛けると、何人かの呻き声と共に、聴き慣れた低い男の声が返ってくる。
「ああ…、そっちは…?」
ガサゴソと薮から立ち上がった青い革ジャンを纏い長髪を後ろに一つにまとめた長身の男が、頭を抑えながら座り込んでいた先程の赤のロングジャケットの男に手を差し伸べる。
「ちと頭はまだ痛むが、どこも折れてはねえみてぇだ」
その手を男が手に取り立ち上がると、辺り一面木々と草花だらけの森の中、同じく見慣れた二人の女性─────茶髪のミディアムヘアに黄色いジャケットを着こなした勝ち気な女性と、ピンク色のドレス風のコートを身にまとい、後ろに一つにまとめた艶やかな黒髪の上にティアラを模したヘアバンドを着用した清楚な女性が、互いに肩で支えながら、二人の男性の元に歩み寄る。
「こっちもなんとかね。しっかし、随分と辺境なところまで飛ばされたものね」
「はい…、おかげでゴーカイガレオンの行方も…それに鎧さんとナビィも無事かどうか…」
「鎧の奴もあのトリもそう簡単にくたばりはしねぇよ。ったく、それよりあの"女"。俺たちをこんな
赤いジャケットの男───キャプテン・マーベラスは、不敵な笑みを溢しながら、尚且つ口元に怒りを滲ませながら、陰り一つない異星の晴天を見上げた。
────────
遡ること一時間前、
「主舵いっぱい!」
宇宙の大海原にて、レジェンド戦隊たちが暮らす地球へと向かうゴーカイガレオン。しかしその最中、偶然ザンギャックの残党とみられる宇宙戦艦と遭遇。有無を言わさず交戦を開始したマーベラス達は、ゴーカイガレオンをすぐさま変形、戦闘形態のゴーカイオーへと合体させ、艦隊間を縦横無尽に飛び回る。
「取り舵いっぱい!」
海賊モチーフの赤い戦闘スーツを身にまとったマーベラス──ゴーカイレッドが中央の主舵を操り、レッドの声に呼応するように、横に連なる青、黄、緑、桃色の船員達もまた、各々の前方にある舵を回転させる。
ゴーカイオーが両手に持つ二本の『ゴーカイケン』を豪快に振り回し、しかし的確に敵戦艦に致命打を与え、瞬く間に爆散。ほんの数分で残党艦隊を掃討してしまった。
「お疲れ様です!みなさん!」
戦闘を終え、船内のリビングに戻ってきたマーベラスたちに労いの言葉をかける、白黒のスカーフの下に銀色のジャケットを着た青年。ゴーカイジャー唯一の地球人にして、六人目の戦士、ゴーカイシルバーこと伊狩鎧。彼の専用ビークルである豪獣ドリルは現在31世紀の未来にあるため、先程の戦闘にさ参加出来なかった。そのため手持ち無沙汰だった彼は、宝箱いっぱいに詰まった歴代のレンジャーキーを一つずつ取り出し、丁寧に磨いていた。
「それにしても、どうしてレジェンド戦隊とゴーバスターズの世界が分裂したんだろう」
溜め息混じりに呟く気弱そうな薄茶の天パの青年。ゴーカイグリーンことドン・ドッゴイヤーが画面に映るレーダーを弄りながら疑問を口に出す。
「確かに…、そのせいで戦隊のみなさまに未だレンジャーキーを返せていませんし、由々しき事態ではあります」
眉を落としながら、ゴーカイピンクことアイム・ド・ファミーユが行儀よくソファに腰を下ろすと、それと対照的にドッサリとゴーカイイエローことルカ・ミルフィが不機嫌さを現にアイムの隣に座る。
ゴーバスターズと共にバッカス・ギルを倒した後、突如として世界が分裂。原因不明の災異により元々一つだったスーパー戦隊の地球は、レジェンド戦隊とゴーバスターズの地球に分かれてしまったのだ。
「原因も分からず仕舞いだし、なんだか分かんないけどヤな感じ!!」
「ゴーバスターズが戦っているバグラスとかいう奴らが原因か、それとも別のナニかの影響か、まぁ…、アイツはないだろうが…どうする?船長?」
ゴーカイブルーことジョー・ギブケンの頭に一瞬某破壊者が過るが、すぐにそれはないと切り捨て、船長椅子でふんぞり返る
「決まってんだろ」
鼻を鳴らし、太々しく、図々しく、見る人によれば、その傲慢な態度を不愉快に思う者もいるだろう。しかし、ずっとマーベラスという人間を側で見てきた仲間たちは、それが己の過信から来る自信でないことを知っている。
現に、彼らはそうやって様々な困難を切り抜けてきたのだ。
「俺たちは俺たちのやり方で、俺たちの道を行く。それが海賊ってもんだろ」
マーベラスの不敵な言葉に、面々は笑みを浮かべた。
───────
「それよりハカセ、メシだ」
「だから言ったじゃーん!もう船にある食料は調味料だけだって!」
ドヤ顔をキメたかと思えば、二言目には食事の催促をしてくるマーベラスに一同は慣れたものだが、今回ばかりは事情が異なり、普段料理担当のハカセことドンが叫ぶ。
「今思えば私たち、昨日から何も食べてないのよねぇ」
「この航路の周辺にある星たち、僕たちが地球にいた間に、ザンギャックにあらかた攻め滅ぼされちゃったらしいからね。買い出しに行きたくても、その星に人が居なきゃ、碌に買える物も買えないよ」
「でも仕方ないですよドンさん。このルートがレジェンドの先輩方が暮らす地球への最短ルートだったんですから」
「これに関しては、どっかの食い意地の張った船長の責任だろ」
「ヤーイ!ヤーイ!マーベラスのイヤシンボ!!」
「うるせぇトリ!」
「ギャン!!」
オウム型ロボットのナビィがマーベラスを煽るが、苛ついた彼にド突かれたのち、壁にぶつかり撃沈した。
「過ぎたもんは仕方ねぇ。ハカセ、付近の惑星をもう一度レーダーで探索しろ。さっきのザンギャックの艦隊。ただ宇宙を放浪していたとは考えられねぇ。近くに休憩地点でも作っててもおかしくない筈だ」
「確かに!地球に来た艦隊も月に中継地点を作ってましたし!」
「だがマーベラス。見つけたとして、まさかザンギャックに食事を恵んでもらう気か?」
「そんな訳ないでしょ、ジョー。ここは私がささっと掻っ払ってきてやるわ!」
「もし襲いかかってきたら?」
「決まってんだろ。そん時は、ぶっ潰す」
「物騒だなぁ…。まあそれが僕たちなんだけど」
マーベラスたちのやりとりに呆れながら、ドンが大きな画面に映ったレーダーで付近の星を探索していると、
「あれは……みなさん!」
先程から無言で窓の外を眺めていたアイムが何かを見つけたのか、小さく驚く声を漏らしながら、会話を続けるマーベラスたちを呼び止めた。
「どうしたんですか?アイムさん」
窓から覗き込む面々がアイムの指さす方を見ると、地球に類似した緑豊かな美しい青い星を発見する。
「地球……じゃないよね?」
「はい…、僕の住む地球とは似ていますが、あの見た事のない大陸の形からして、全く別の星のようです」
「それに、鎧達の地球はまだずっと先だからな」
「ねえみんな!これ見て!」
続いてレーダーで探索していたハカセが、窓から眺めていたアイムたちを呼び戻す。
「アイムが見つけた星から、人の反応があったよ!しかもたくさん!きっとあの星には……!」
「だったら話は早い」
ハカセの言葉を遮り、意気揚々とした船長の声が船内に響く。
「お前ら
上陸だ!」
───────
「まあ、なんて美しい星でしょう」
「わぁー!でっかいお城がありますよ!」
「いかにもラストダンジョンって感じのお城もあるのねぇ。海賊の腕が鳴るってもんよ!」
「おいルカ、俺たちは買い出しに来たんだぞ。余計な事に首を突っ込むな」
「はいはい」
「ジョー、まずはメシだ!」
「モウ、相変わらずマーベラスはマーベラスダネェ」
各々はすっかり観光気分で未知の惑星の景観を楽しむ。いつになっても、未知なる世界への探究心は変わらない。それが宇宙をまたに掛ける海賊であれば尚更。
さてそんな中、ハカセも窓の外を眺めていると、ふと遠方に大きなコウモリが飛んでいるのに気付く。この星のコウモリは昼行性で大きいなー、なんて何気なく呑気に観察していると、
「へっ?」
彼は目撃する。否、見てしまった。
「ふふふ…♡」
その人並みサイズのコウモリの顔が、目をニンマリとさせた魅惑的な美人顔をしていたことに。そして此方に気付いたコウモリ?が、まるで獲物を見つけたような目つきをしていた事に。
「わ、わわわ、で、出たーー!!人面コウモリだぁぁぁーー!!」
あまりの衝撃に腰を抜かして仰け反るハカセ。それを心配した鎧たちが駆け寄ると、当のハカセは必死に見たものを誇張なしに説明する。
「ほぅ…面白れぇ。とっ捕まえてやる」
ハカセの言葉を聞き、笑みを浮かべたマーベラスを筆頭に、他のメンバーも見張り台に登ったりなどして窓の外を探す。が、ハカセの言っていたコウモリはおろか、小鳥などの飛行物の姿さえ見当たらない。
「おい、どこにもいねぇじゃねえか」
「そんな…!確かにいたんだけどなぁ…」
「ハカセの見間違いじゃないのか?」
「うーん…そんな筈はないと思うんだけど…」
「まあまあみなさん、ここは落ち着いて紅茶でも飲みませんか?」
ハカセが困り顔で首を傾げていると、ティーポットと人数分のティーカップをお盆に乗せた鎧が、マーベラスたちを宥めながらキッチンから出てきた。
「古い茶葉を処分するならと作っておいたやつ、ちょうど良い具合ですし」
「それは良いですね。マーベラスさんも詰め寄らないで、はい」
「……ちっ、しょうがねえな」
アイムが鎧のお盆から紅茶の入ったティーカップを二つ取ると、その内の一つをマーベラスに手渡し、受け取ったマーベラスも渋々引き下がる。その様子を見てハカセがホッと胸を撫で下ろし、立ち上がったハカセも用意された自分のティーカップを取ろうとした。
その時、
ドガァァァァン!!
突然ガレオンに大きな轟音を伴った衝撃が襲いかかり、船内に伝わる振動で一同は転倒まではいかないものの、足をよろけるなどしてバランスを崩す。
「もう!一体なんなのよ!!」
「大変ダ大変ダ!窓の外を見て!」
ナビィに促されるまま窓の外を見ると、ついさっきまでの見渡す限りの景色が一転、突如として発生した雷雲と暴雨によって灰一色に塗りつぶされており、美しい星と称した緑の面影すら無くなっていた。
「なんで急に雷雲が…さっきまでレーダーにも何の反応もなかったのに」
「所謂ゲリラですかね?」
「それでもレーダーに映らないことなんてある?」
「だがこの程度で落ちるほど、ガレオンはヤワじゃねぇ。この雲抜けたら、とりあえず近くの町に降りるぞ」
そう総括してマーベラスが一口で紅茶を飲み干すと、テーブルに置かれたお盆の上に置く。
「僕も飲んどかなきゃ」
呆気に取られたハカセも、改めて自分に注がれた分を飲もうとテーブルに置かれたお盆に手を伸ばす。が、
「あれ?」
再びハカセが首を傾げる。
モダンなテーブルに置かれた木製のお盆には、マーベラスが飲んだ空のティーカップしか見当たらない。一瞬、またマーベラスが自分の分の紅茶を飲んだのかと思い、眉を顰めて振り返るが、当のマーベラスは脱いでいた赤いロングジャケットを着ている最中でティーカップと思われるものは見当たらない。
ならばと他のメンバーを見渡しても、それぞれが一人一つ割り当てられたカップを使っており、なんならナビィですら小さなマイカップを使っている。
「?」
ハカセが頭に疑問符を浮かべていると、肩をちょんちょんと軽く叩かれる。肩を叩いたその手の主の方にハカセが何の疑問も抱かず振り向くと、
「なかなか良い茶葉を使ってるのね。仄かで甘美な味わいだったわ」
そこには先刻ハカセが窓の外で見た人面コウモリ─────もといソファに座り紅茶を嗜む人の形をした絶世の美妖女がいた。
つづく